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まさにお手本!ビックカメラの健康経営の進め方

コジマ、ソフマップというグループ企業を合わせると、約14,000もの従業員がいるビックカメラ
。そんな大企業が、いかに健康経営を推し進めていったのでしょうか。まず誰かがやりたい
と声をあげ、専門家や社内各部署の協力を仰ぎながら進めていく姿は、まさに健康経営推
進の理想型。今回は推進の中核を担った『いきいき働く推進チーム』のリーダーを務める
根本さんにお聞きしました。(インタビュアー:株式会社セルメスタ 代表 熊倉 利和)

1.健康経営は採用でも強力なアピールに

――ビックカメラのことを知らない人はいないと思いますが、改めて会社や事業について教え
ていただけますか?

根本さん:はい。一般的には家電を中心とした小売業というイメージが強いと思います。しかし、お客様に喜んで頂く為に、私たちが目指しているのは専門店の集合体なんです。例えば、テレビ、医薬品、化粧品、お酒、メガネ・コンタクト、スポーツ用品、美容などのそれぞれの専門店が集まり、生活に必要なものはここで何でも揃うという場所にしたい。そのために、取扱商品やサービスを増やしています。

――なるほど。実は、コジマ、ソフマップもビックカメラのグループ企業なんですよね。

根本さん:ええ。ビックカメラは都市の駅近くに店舗が多く、一方でコジマは郊外に店舗が多い。また、ソフマップはデジタル家電などの買取業務や中古商品販売のほか、パソコンなどのサポート業務などが強い。3社それぞれの特徴を活かし、補いあって事業を展開しています。さらに、ユニクロ様とのビックロ、楽天様との楽天ビックなど他社とのコラボも積極的に行っています。

――とても幅広く展開なさっているのですね。今、店舗数、従業員数はどれくらいですか?

根本さん:ビックカメラ、コジマ、ソフマップを合わせると全体で200を超える店舗数となります。社員数は、ビックカメラだけで7.000人弱で、コジマ、ソフマップと合わせると全体で14,000人くらいになります。

――ビックカメラは、健康経営優良法人2019(ホワイト500)に認定されました。取り組むきっかけについてご紹介いただけませんか?

根本さん:もともと健康への意識は高い会社ではあったと思います。と言うのも、私はずっと店舗で働いていたのですが、人事部に配属になった時にまず感じたのが、社長をはじめとした経営層が、従業員の健康を非常に気にかけているということ。

また、今後従業員の平均年齢も高くなって行く事も考えますと今後更に、従業員の健康をいかに守り、元気に働いてもらうかが今後の大きなテーマになっていくと思っています。従業員が更にいきいきと働く事が出来れば、自然と生産性も高まり、今以上にお客様にも喜んで頂く事が出来る為健康経営を本格的に推進していこうとなったんです。

――なるほど。もともと経営層が従業員の健康を気にかけていたところに、平均年齢も上がり、より健康経営に取り組む必要性が高まっていったということですね。

根本さん:おっしゃる通りです。それと採用面もあります。人事で採用の仕事をしていますと、最近の学生さんの会社選びのポイントが変わってきたなと肌で感じています。「自分が長く働ける環境があるかどうか」ということを見極めて会社選びをされているようです。

そこで、ビックカメラとしても、健康経営にしっかり取り組み、安心してずっと働いていける会社なんだということを、特に学生の皆さん知っていただきたいと思っています。

――根本さんご自身も、人事部内の「いきいき働く推進チーム」のリーダーを務めておられますが、ダイバーシティ推進室の立ち上げにも携わったとお聞きしています。

根本さん: はい。店舗から人事部に異動をして、まずは女性の活躍推進に着手を致しました。女性が働きやすい職場は男性にも働きやすい職場であると考え、まずは子育てをしながらでも働きやすい環境を整える事に着手を致しました。結果、2018年に「プラチナくるみん」も取得することができました。

また、保育園開園に携わるタイミングでダイバーシティ推進室を立ち上げています。
ダイバーシティ推進室は、女性だけでなく、多様性を重視し生かす事で企業や個人の成長に繋げていく為の部署です。

さらに労働組合でもダイバーシティ委員会が設置されていた為、会社や労働組合双方でダイバーシティを推進しているというメッセージが伝わりやすいと考えております。

2.専門家の協力でスムーズに申請

――具体的には何年前くらいから、ホワイト500認定の準備を進めてきましたか?

根本さん:2016年、2017年の頃には、心の中で密かに「ぜひとも取得したい!!」と思っておりました。ただ、具体的にはどうすればいいか、イメージできない部分がありました。それに、健康経営は健康保険組合との協働体制も必要となりますし、ハードルもいくつかありそうで、一朝一夕にはできないなとも思っていました。

そんな状況の中、推進の一番大きなきっかけとなったのが、毎年実施するストレスチェックを㈱FiNC Technologies様にお願いしたこと。先方とストレスチェックの話をしている中で、健康経営にとても詳しい企業様であることがわかり、「じゃあ、相談に乗っていただけませんか」と、ご相談をさせて頂きました。そして、ストレスチェックと健康経営の打ち合わせを両軸で行うようになりました。

㈱FiNC Technologiesに健康経営についてのご相談をしていくうち、ホワイト500の認定が現実に見えてきました。途中で疑問点が出てきても、その都度㈱FiNC Technologiesにわかりやすく教えていただけたので、比較的スムーズに申請までたどり着く事が出来ました。

――ホワイト500の申請をする、つまり、健康経営を推し進めていくことを社内にどうやって伝えていきましたか?

根本さん:各組織や部署の長全員が参加する、ストレスチェックの報告会で、
「ホワイト500の認定を狙います。健康宣言します!」と発表をしました
。自信を持ってそう言えたのも、認定が受けられそうだという手応えがあったこと。そして、「この時期までに、これとこれをクリアしておく必要がある」といったスケジュール感が明確に見えていたことが大きかったです。

――ホワイト500の認定を受けるには、クリアしなければならないいくつかの項目がありますね。最初の段階ではどれくらいクリアしていましたか?

根本さん:ある程度できていましたが、㈱FiNC Technologies様から専門的な目で見てもらうと、やはり不足している点が出てきました。そこから、健康診断管理システムを導入したり、社内保健師も新たに雇用したんです。

私は休職者の復職支援なども担当しており、店舗で働いている人たちから様々な相談を受けるのですが、私自身、専門的な知識が不足していて、その都度、産業医の先生に確認をとる必要がありました。そこに保健師の方に入ってもらうことによって、きめ細やかなケアをタイムリーにできるようになりました。それに加え、保健師の方を新たに雇用したのは、健康診断の結果も以前より踏み込んでチェックし、データを活用していきたいという狙いもありました。

3.家族と楽しめる健康イベントを開催

――では、健康経営で具体的にどんなことをされているのかを教えていただけますか。

根本さん:社員に対して、給与とは別に健康増進活動に充ててもらうことを目的にした「健康支援手当」を支給しました。例えば、禁煙外来の費用に当ててもいいですし、フィットネス関連商品や運動器具の購入をするのでも、用途は自由です。特に指定はせず、社員の健康増進のために使ってもらっています。この手当がきっかけで、ウェアラブルウォッチやフィットネスグッズを購入する社員も多く、効果があった取り組みのひとつです。

また、従業員が自由に参加できる『いきいきイベント』も最近始めました。従業員には、ヨガやストレッチ、従業員のお子様には体操教室やストラックアウトなどのメニューを用意して、家族で楽しめるイベントにしています。
ビックカメラは、ソフトボールを始め、スポーツのチームを持っているので、選手たちも参加してくれています。関連部署のひとつ、ドラッグ事業部も協力してくれて、健康に良いお菓子などを、イベント参加者へのお土産として薬剤師に持ってきてもらったりもしています。お祭りの屋台みたいなイメージで輪投げなどもありますし、大人も子供も楽しめるイベントになっています。労働組合が主催するバレーボール、バスケットなどのスポーツイベントも、年に数回開かれています。

――楽しみながら運動ができるイベントが盛り沢山ですね。店舗では何か工夫をされていますか?

根本さん:総務の担当者を中心に休憩スペースの充実にも力を入れています。リクライニングチェアを置いたり、個室ブースや仮眠スペースを作ったりした店舗もあります。店舗それぞれに工夫を凝らし、従業員が休憩時間にゆったりと過ごせる環境を整えています。

また、健康に関する知識が豊富な薬剤師などが講師となり、睡眠など健康に関する勉強会も一番大きな店舗を会場にして開いています。

先に申し上げた健康イベントも同様ですが、従業員満足度の向上や健康増進に関しては人事部だけでなく、部署を越えて連携して行う事も多いです。
関連する専門部署の知恵や力を合わせ、取り組みを具体化しています。

――そこまでされているんですね。今後、どんなことに取り組んでいく予定ですか?

根本さん:今、社内の薬剤師の方からの提案で食事についての取り組みも始めています。薬剤師さんの所属するドラッグ事業部では、塩分、カロリー控えめでコストも抑えた電子レンジで温めてすぐに食べられるカレーやご飯を販売していますが、それを自社の食堂(一部店舗にて実施)にも置くというもの。

ビックカメラは男性従業員が多いので、食事も塩分や油分の多いものを選びがち。ラーメンなどが人気メニューとなっていますが、それよりもっとヘルシーなものを食べてほしいという点が狙いです。多くの店舗には食堂が併設されていますが、ない店舗もありますので、ヘルシーなお弁当の導入も考えています。

4.データ活用でリスクの高い人に早期介入

――先ほども少し出ましたが、データ活用についてもう少し詳しくお聞きできますか?

根本さん:健康診断のデータ管理システムの導入を致しました。今も健康診断の後、再検査の促しはおこなっているのですが、特に若手社員などは再検査になってもなかなか受診しない人がいます。実際、病気になった従業員が、要再検査となっているのに実は受診していなかったというケースがあって、その反省も込めて、取り組んでいるところです。

今の健康診断でも管理は行っておりましたが、今迄よりも更に細かく把握し、それぞれの項目ごとにもっとしっかり精査できるようにしたい。特にリスクの高めの人に素早くアプローチして、保健師の方との面談を受けてもらうようにしていきたい。それによって予防できることもたくさんあると思っています。

5.一丸となって壁を乗り越えていく

――健康経営を推進していく上で課題や壁にぶつかることはありませんか?

根本さん:そうですね。今、毎月22日はスワンスワン(吸わん吸わん)ということで、ワンデー禁煙日にしています。本当は1日だけでなく、もう少し増やしていきたい思いもあるのですが、簡単には進まない点もございます。

ただ、一緒になって健康経営を進めている労働組合がとても協力的。その中のメンバーの一人が、「じゃあ、自分がお手本となって禁煙します」と言ってくれ、ヘビースモーカーだったのですが、すっぱりと止めました。禁煙日記も書いてくれ、ホームページや社内報にも禁煙成功者として登場してもらっています。

――それは素晴らしい。禁煙も今後、浸透していきそうですね。

根本さん:はい。ビックカメラの禁煙で特徴的なのは、健康経営宣言をした直後くらいに、ビックカメラの大多数が所属している営業担当のリーダー達がこぞって止めたこと。まず部署の長が止めると、店長たちも止めて、店舗のスタッフも止めるメンバーが増えたという流れができました。当社の事業は店舗が要。従業員の多くが営業です。ですから、全社的にも大きな影響が出ました。今年の6月に実態調査したところ、喫煙者数は約20%でした。禁煙の観点でも、健康増進の為に進めて参ります。

――健康経営を推進してみてどのような変化が現れましたか?

根本さん:メンバーの体調が優れない時などは、店長や組織長から、私たち『いきいき働く推進室チーム』にすぐに相談が来るようになりました。私たちからも、体調不良などで休職する人が出た場合、復職までの流れをどうやってサポートしていくかといったことを、会議などで店舗の人たちに話す機会を増やしています。

ストレスチェックに関しては、組織分析の結果を各事業所で精査してもらい、安全衛生委員会で原因と対策を話し合ってもらっています。私たちもできるだけ参加し、「ストレスの原因となっているものは何か?」などについて一緒に考えるとともに、本部への要望があれば、それを各部署に伝え改善のお願いをする流れにしています。

それもあってか、ストレスチェックの結果も改善され、少しホッとしているところです。ですが、予防に対する意識はまだ十分とは言えず、そこは課題。私たちも店舗のメンバーの声を吸い上げ、働き易い職場環境にする為に必要な事があれば、それを各部署に伝え改善の打診を行っています。ただ、従業員のストレスを取り除くために各部署を動かし、問題を解決していくのには一朝一夕にいかない事もあります。でも、愚直に取り組んでいきたいですね。

――健保、労組との密な協力体制が築けているところも素晴らしいですね。

根本さん:ありがとうございます。健保とは普段から頻繁に顔を合わせていますし、「健診の受診率をどう上げていくか」「特定保健指導をどうしていくか」といった基本的なことについては、2ヶ月に1回くらいの割合で打ち合わせの場を設けています。

労組とは、まさに二人三脚で健康経営やダイバーシティ推進に取り組んでいます。月1回、私たち『いきいき働く推進チーム』、労組、ソフトボールなどの選手たちが所属するスポーツコミュニティ室、ドラッグ事業部にも加わってもらってミーティングを開いています。そこでは、「これまで取り組んでいなかったことにチャレンジしよう!」とアイデア出しをおこない、いきいきイベント、女性活躍のセミナーの内容なども決めていきます。

――コジマ、ソフマップといったグループ企業との連携はどうですか?

根本さん:はい。グループ会社とも連携が強化されています。ソフマップとはもともと健保組合が同じである為、一緒に進めて参りました。
また、コジマも女性活躍推進や健康促進を積極的に行う為の部署を立ち上げており、協働で実施可能な取り組みは一体となって進めています。
直近では、今後定期開催予定の女性管理職向け研修をグループ3社で実施したり、労働組合との協働体制で行っている各種セミナーもグループ会社も参加したり、運営側で協力していただいています。
健康経営の観点では、先に申し上げた健康診断後のフォローは保健師の方中心にグループ3社で行っています。
また、健康増進イベントに関しましてもコジマと一緒に実施を致しました。

ビックカメラグループは、多くの組織、企業がございます。
1人、また人事部単体では中々実現が困難な事であっても、同じ目的に向かって、部署やグループ会社、組合と会社等々、様々な枠を越え、皆で協力し合えば実現可能である事を学んで来ました。
今後におきましても、多くの方達と力を合わせ、賛同していただける方々に感謝をしながら進め、従業員がいきいき働く会社を維持して参ります。

【インタビュー後記】
健康経営優良法人2019(ホワイト500)の認定を受けるなど、健康経営を積極的に推進するビックカメラ。今回は、『いきいき働く推進室チーム』の根本さんにご登場いただき、具体的にどうやって推進していったかを聞ける大変貴重なインタビューとなりました。

働く人たちの年齢が高くなるにつれて、病気になる人も増えていく。そういう状況の中、従業員に元気に働いてもらうことで生産性も高まる。健康で長く働ける会社であることをアピールすることで採用面でのメリットも期待できると始まった健康経営。これはまさに多くの日本企業が直面する課題でもあります。

その中で、専門家の力を借りながら、家族ぐるみで楽しく健康になれるイベントであったり、店舗での休憩室や食事のサポートも重視。ストレスチェックでも、現場で働く人の声を直接吸い上げ、問題解決のために真摯に取り組んでいる姿勢に感銘を受けました。さらに、データヘルスを導入し、病気のリスクの高い人に早めにアプローチすることにも着手しようとしています。健保はもちろん、労働組合、スポーツコミュニティ室、ドラッグ事業部など立場の違う人たちが一致協力している姿も素晴らしい。まさに、健康経営のお手本のような取り組みをされています。

<企業データ>

会社名:株式会社ビックカメラ
事業内容:カメラ、ビジュアル製品、オーディオ製品、パソコン、OA機器、携帯電話、家電製品、時計、ゲーム、メガネ・コンタクト、医薬品、玩具、スポーツ用品、寝具、酒類等の販売
本社所在地:東京都豊島区高田3-23-23
従業員数:約14,000名(グループ全体)

「健康こそが大事なんだ」。創業者の熱い想いを継承し、攻めの姿勢で健康経営を実践

カー用品の販売を中心に全国展開する株式会社オートバックスセブン。創業当時から、社員の健康づくりが経営の大きな柱となってきました。特に近年はその取り組みが加速。2018年には二度目の「健康経営宣言」を行うなど、社員一人ひとりの“こころ”と“からだ”の健康に対する意識を高め、力強く健康経営を推進しています。今回は人事・総務部長の古田寛之さん、人事戦略グループの林寿彦さんにお話を伺いました。(インタビュアー:株式会社セルメスタ 代表 熊倉 利和)

1.創業時から健康作りが経営の柱に

――まずはオートバックスセブンさんの会社の歩み、事業内容について教えていただけますか?

古田さん:はい。創業は戦後間もない1947年。自動車部品の卸売から事業をスタートさせました。「オートバックス」が始まったのは1974年で、大阪の大東市に1号店ができました。翌年には早くもフランチャイズビジネスをスタートさせ、2号店は北海道で、3号店は長野でチェーン店がオープンしています。

カー用品全般を扱ってきましたが、近年は車検、車の買取り、新車・中古車や保険の販売、さらには板金・塗装など修理もおこない、トータルにカーライフをサポートする企業に進化しています。店舗数は、現在約600で、そのうちの約400店がフランチャイズです。従業員の数は、フランチャイズも含めると約1万3千人。オートバックセブンだけですとアルバイトを含めておよそ1,400人が働いています。

――なるほど。「クルマのことならオートバックス」というフレーズでもお馴染みですし、みんなが良く知っている会社さんですね。「健康経営優良法人2019 ~ホワイト500~」の認定も受けられましたが、健康経営にはいつ頃から取り組んでいるんですか?

古田さん:実は、創業当初から健康管理が企業経営の柱の一つとしてあったんです。というのも、創業者の住野利男は胃が弱かったんですね。それが、西式健康法の創始者である西勝造先生と出会い、健康を取り戻すことができたんです。住野は社員はもちろん、フランチャイズに加盟されている方々のことも家族同然と考え、「健康こそが大事なんだ」「みんなに健康になってほしい」という熱い想いを強烈に持っていました。それで1号店の横に「オートバックス大阪健康センター」という道場を開き、全国から社員やフランチャイズ店で働いている人を呼んで健康法を指導していたんです。

創業者が作った健康道場

――それはスゴイですね。その創業者の熱い想いが引き継がれているんですね。

古田さん:はい。近年も、それまでは各事業所、健康保険組合、労働組合が別々におこなっていた健康づくりを一緒にやりましょうと健康増進協議会を2011年に発足させています。健診データとレセプトデータも集約させ、組織が一体となり、健康施策を推進する体制を整えました。

――企業と健保組合が一緒に取り組みをするというのはけっこう聞きますが、労働組合も一緒になってというのは珍しいですね。

林さん:当社の共済会は、ウォーキングキャンペーンなど健康イベントにも積極的に取り組んでいましたし、健保組合も『健康寿命をのばそうアワード』で賞をいただくなど、もともと健康づくりへの意識が高い。だから、「一緒に健康のことを考えましょう」となった時も、スムーズにまとまることができました。

古田さん:健康増進協議会は、今は健康経営推進委員会と名前を変え、外部のコンサルの方も入っていただきながら、より力を入れて従業員の健康増進に取り組んでいます。
そんな私たちが今までやってきたことを世間の方にも知ってもらいたいと思って、「健康経営優良法人 ~ホワイト500~」の認定と、「DBJ健康経営格付」の獲得に乗り出したんです。そのことで企業としてのステータスも上がると考えています。

――ホワイト500と、日本政策投資銀行が開発した『DBJ健康経営格付』に違いを感じていますか?

古田さん:社内的にはホワイト500の方が知名度が高いので、絶対落とせないというプレッシャーがありましたが、DBJ健康経営格付は実際に調査やヒアリングに来られますし、エビデンスを用意しておかないといけないので作業負荷や難易度ではコチラの方が高いですね。

2.守りの健康経営から攻めの健康経営へ

――健康経営を推し進める上でのポイントになることは何かありますか?

古田さん:やはり経営陣の理解を得られるかどうかという点は大きいですね。そういう意味でも、ホワイト500もDBJ健康経営格付に取り組む際も、経営陣からすぐにゴーサインをもらえましたので、すんなりと進めていくことができました。それに、社長が煙草を吸わなければ喫煙率も自然に低くなるでしょうし、健康経営では経営者の存在が大事ですね。

――そうですよね。やはり、健康経営がうまく全社に浸透していくかどうかは、トップ次第という部分が少なくないですね。

古田さん:おっしゃる通りです。当社では、2014年には社長自らが「健康宣言」を打ち出し、健康経営に取り組む意向を全従業員に向けて宣言しました。そして、昨年、内容を刷新して「健康経営宣言」を出したんです。

――健康宣言をし直す、いわば「新健康宣言」をされた会社さんに初めてお会いしました。二度目の宣言を出そうと思った理由はなんですか?

古田さん:一番大きいのは経営者が変わったことだと思います。創業者は自分で西式健康法を取り入れましたし、2代目社長は同族ということもあり、創業者のやり方をそのまま引き継ぐという形でした。現在の社長である小林は、創業者のDNAを継承しながら新しい取り組みも行なっています。

たとえば、先ほども話題に出ましたが、健康保険組合、労働組合、共済とも一体となり、従業員だけでなく、従業員の家族も含め、みんなの健康のことを考えよう、絆をより強くしていこうというメッセージを強く打ち出しています。

――それは素晴らしいですね。健康経営宣言の文言の作成にも小林社長が深く関わっているのですか?

古田さん:はい。その通りです。社長と担当の取締役が深くコミットしていますし、健保組合の人たちとも一緒になって文言を考えていきました。健康は、普遍なものもありますが、時代によって移り変わっていく部分も多い。昔は病気の人をできるだけ出さないようにする守りの姿勢でしたが、今は「より元気になろう!」という攻めの姿勢を打ち出しています。

――「守りの健康経営から攻めの健康経営へ」にですか。名言が出ちゃいましたね(笑)。

古田さん:はははっ。そうですね。「健診のこの数字が悪いぞ。ダメじゃないか」という感じだと、言われる方もあまり気分が良くない。それより、同じ健康づくりでも、もっと楽しく、ポジティブに取り組んだ方がいい。

たとえば、24時間リレーマラソンは、フランチャイズチェーンの方も含め、400人以上が参加していますし、スポーツフェス「ザ・コーポレートゲームズ東京」にも、オートバックスセブンの関東エリアから約150名の社員が参加しています。「楽しく運動して健康になろう!」という機運が盛り上がってきています。

リレーマラソンの参加者

3.産業医の協力を仰ぎ、二次検診の受診率100%を目指す

――御社の健康経営で今、課題やテーマになっていることはありますか?

古田さん:はい。一つは、健康診断の二次検診の受診率の向上です。もともとは50%くらいだったのですが、今は70%くらい。二次検診の案内も、部門長や役員の名前を書くなどして重みを出し、100%にしたいと考えています。

林さん:過去、一次検診の受診率を100%にすることが大変でしたが、今はそこはクリアして二次健診の受診率を高めているところです。健康診断では、毎年同じ項目でひっかかるという人がどうしても出てきてしまいます。そうなると、本人も後ろめたさがあるし、「ダメじゃないか」と病院の先生に叱られると思い、二次検診に行かなくなってしまう恐れがある。そういうことをまずは無くしていきたいですね。

そして二次検診の効果も高めていきたい。産業医の先生に一次検診の結果をしっかりチェックいただき、「この人の場合は、この項目についてしっかり診てほしい」といったメッセージを書いてもらい、それを持って従業員に二次検診に行ってもらう仕組みに変えている途中です。

――それは素晴らしいですね。産業医の先生はどれくらいの頻度で来ていただいているのですか?

林さん:本社の場合は週に1日。社員との面談や、健診結果の確認などをしていただいていますし、安全衛生委員会にも3ヶ月に一度くらい出ていただいています。

――生活習慣病などの予防対策は何かされていますか?

林さん:リクスの高い人、要治療領域の人、メタボ予備群、問題のない人といった風に、健康リスクを4段階に分けています。リスクの高い人たちが通院や薬を飲むことを止めたりしていないかといったチェックもしています。

古田さん:それと、今は創業者が作った健康道場(オートバックス大阪健康センター)はなくなってしまったんですが、その想い、志を引き継ぎながら、「健康マネジメント研修」を年に15回開催しています。これも産業医の先生と相談しながらメニューを決めています。40代以上でメタボの人は特定保健指導を受けるので、予備群の中でメタボでない人や、20代、30代の社員が「健康マネジメント研修」に参加します。

――今、せっかく特定保健指導が功を奏した場合も、しばらくしたらリバウンドなどをしてまた指導を受ける人が多いことが各保険組合でも、問題になっています。メタボ予備軍のうちから手を打つというのは先進的な取り組みですね。

古田さん:ありがとうございます。今年からは、フィットネスクラブのルネサンスさんに運動の指導もお願いしています。同じ指導をするにしても専門のスポーツインストラクターの方にやってもらったほうが、受ける方もより真剣に取り組むようになりますからね。

4.メンタルヘルスと卒煙にも力を注ぐ

――メンタルヘルスについては何か取り組みをされていますか?

古田さん:ストレスチェックの結果を分析し、管理職を対象にインターネット上で勉強会を行っています。ストレスチェックの結果は部門別に分析できますから、「この部署は元気な人が多いけれど、この部署は疲れている人が多い」ということも分かります。結果が思わしくない部署の場合、管理職に仕事のやり方やマネジメント方法の見直しを検討してもらうという狙いもあります。

――なるほど。メンタルヘルスには、管理職が職場環境の改善を行なったり、部下の個別指導や相談に応じたりするラインケアと、自分で自分の健康を守るセルフケアがあります。今おっしゃったのはラインケアの方ですね。セルフケアについてはどうでしょう?

林さん:セルフケアは、ランチタイムセミナーとして、臨床心理士の先生を招いて月に1回30分の講義をしていただいています。これはテレビ会議システムを使って、大阪でも受講できるようになっています。去年は1年間で13回実施しましたが、eラーニング化していつでも学べるようにしたいと考えているところです。

ランチタイムセミナーの様子

――それはいいですね。喫煙の状況についてはどうですか?

古田さん:経営陣も昔はよく吸っていたんですが、今はほぼいないという状況。従業員に関しては、2014年に健康宣言を出した時点で40%以上だったのが、今は37%。ちょっとずつは下がってきているのですが、まだ相当高いですね。

林さん:就業時間内は煙草を吸ってはダメというルールを設け、ここでは9時から12時。13時から17時50分までを禁煙タイムにしました。ですが、就業時間内だけはなんとか我慢して、12時や17時50分になった途端、急いで喫煙室に飛び込んでいく人も少なくなかった。会社としては、これをきっかけに煙草を止めて欲しい、健康になってほしい、という想いから始めたのですが、本当の意味での禁煙には繋がりませんでした。

古田さん:それで、「チャレンジャーとサポーター」という企画を今年から始めました。これは、卒煙にチャレンジしたい人を卒煙に成功したサポーターが応援するというものです。

――へえ!そういう取り組みは初めて聞きました。それはユニークでとても良いアイデアですね。

古田さん:今後、禁煙に成功した経営陣に卒煙の体験ストーリーを語ってもらい、みんなに共有する予定です。「禁煙しなさい」と頭ごなしに言うより、「止めたらこんなにいいことがあるよ」という内容にし、社員の自主性を大切にしながら卒煙を促していきたい。

林さん:プロの方にインタビューをお願いし、今、記事としてまとめていただいているところなんです。

5.理想のモデルを本部で構築し、FCに波及させていく

――そのほかにも力を入れていきたいことはありますか?

古田さん:2018年に「健康経営宣言」をした時から、がん対策と女性の健康増進も大きなテーマにしています。

林さん:がん対策は、今年の4月に発足した禁煙推進企業コンソーシアム(日本対がん協会と東京都医師会が連携して設立準備を進めてきたもので、東京に本社や事業所を置く企業を中心にした企業・団体が参加)にも参加しています。私たちとしてもまずは知識を得ることが大事になりますから、日本対がん協会さんのeラーニングを活用させていただいています。女性の健康増進についても、参考になる情報を探したり、保健師さんともこれからの取り組みについて話し合っているところです。

――これから人事・総務部としてはどんな役割を果たしていきますか?

古田さん:まずはオートバックスセブンで健康づくりのノウハウをしっかりと築いていきたい。喫煙者がほとんどいなくなる。二次検診の受診率も100%になる。従業員が心身ともに最良の状態で働ける仕組み作りをし、それを子会社やフランチャイズチェーンにも波及していきたい。それが私たち本部の使命だと思っています。

【インタビュー後記】

今回は、東京都江東区豊洲にあるオートバックスセブンさんの本部でお話を伺いました。フランチャイズビジネスに早くから取り組んでいたことにも驚かされましたが、それ以上に驚いたのは、創業時から健康経営に取り組んでいたこと。

フランチャイズビジネスは、ビジネスの仕組みや商品をチェーン店に提供しますが、それだけでなく、健康になるための方法も同時に広めていたのです。その根源となっているのが、創業者・住野利男の「社員や地域の人みんなに健康になってもらいたい」という想い。実際、健康道場(オートバックス大阪健康センター)を開いた当時は、社員だけでなく、取引先、さらには一般の方たちにも開放していたとのこと。当時は、道場に一週間くらい滞在し、断食を行うなど厳しい内容のものだったそうですが、今はしっかりとしたエビデンスに基づいた健康づくりに変わっています。

しかし、「みんなに健康になってもらいたい」という創業者の想い、遺伝子は今も脈々と受け継がれています。特に2018年に「健康経営宣言」を出した後は、健康経営が飛躍的に加速。これからどんな取り組みをしていくのか楽しみでなりません。

<企業データ>

会社名:株式会社オートバックスセブン
事業内容:オートバックスグループ店舗のフランチャイズ本部としてカー用品の卸売および小売、車検・整備、車両買取・販売、板金・塗装等
所在地:東京都江東区豊洲五丁目6番52号(NBF豊洲キャナルフロント)
従業員数:4,171人(連結/2019年3月31日現在)

「企業は人なり」。長い歴史の中で培われた精神で健康経営を自然に実践する老舗印刷会社

「健康経営優良法人2019 ~ホワイト500~」に認定された共同印刷株式会社。長い歴史の中で培われてきた「企業は人なり」「優秀なる製品は健康なる技師の手になる」といった精神、広い敷地や建物などの自社の強みを存分に活かしながら、人事部・健保組合・診療所が三位一体となり、健康づくりに力を入れています。今回は、そんな共同印刷の人事部 木村健二さん、下地仁さんにお話を伺いました。(インタビュアー:株式会社セルメスタ 代表 熊倉 利和)

1.健診や予防接種は会社の敷地内で実施

――まずは御社の歴史や事業内容について教えていただけますか?

木村さん:はい。わかりました。創業が1897年(明治30年)ですから、2017年で120周年を迎えることができました。

まず博文館という出版社があり、その印刷工場として博文館印刷工場を創設したのが始まりですね。スタートは書籍や雑誌の印刷なのですが、やがて、紙だけではなく、布、金属、チューブなどにも印字する総合印刷へと事業を拡大していきました。たとえば、紙とチューブ用の印刷機は全く違うものですし、その都度新しい事業を手がけるイメージだったのだと思います。

――なるほど。常に新しいことにチャレンジされているのですね。現在も印刷だけでなく、ITを駆使したマルチメディア展開などにも積極的に取り組んでいらっしゃいますものね。それにしても、この小石川の本社は敷地がとても広い。今、共同印刷グループで何人くらいの方が働いていらっしゃるのでしょうか?

木村さん:派遣の方なども含めると3600人くらいです。この小石川の本社だけでも1500人くらいはいると思います。診療所があって産業医もいてくれますし、健康診断などもこの敷地内にある厚生会館でおこなっています。

――えっ、社内で健康診断を受けることができるのですか? 

下地さん:はい。厚生会館の2階が体育館くらいの広さがあるホールになっていますから、そこに心電図などの機材を運び込み、おこなっています。また、厚生会館では健康診断だけでなく、インフルエンザの予防接種も受けることができます。今では費用も全額会社負担になったので「タダなら受けておこうかな」という人もいて、希望者も増えていますね。

――健康診断は巡回バス健診が来たりするとこもありますが、普通は病院に行ってというところが多いですから、従業員の方にとっては手間がかからず、メリットが大きいですね。健診関係で他に何かしていることはありますか?

木村さん:はい。私たちは仕事柄、長時間パソコンを使っているので、VDT健診(職場でコンピューターを使用する人などを対象にする健康診断)もおこなっています。健康保険組合が主体ですが、婦人科検診や人間ドックもメニューを充実させて実施しています。また健康診断ではありませんが、メンタルヘルスも月に一度、専門の先生に来ていただいています。

下地さん:それに、40歳以上を対象とした特定保健指導の項目も、当社では35歳から同じ検査を受けていただいています。

木村さん:健診関係以外では、食にも力を入れています。社員食堂で出される食事にはカロリーや塩分を表示していますし、白米を雑穀米にすることもできます。

下地さん:毎日小鉢も選べて、「鉄分を多くとりたい人のための小鉢」「目が疲れた人向けの小鉢」などもメニューに入れています。

カロリーや塩分が表示されたメニュー

食堂の案内板

2.人事部・健保組合・診療所が三位一体となる

――素晴らしい取り組みをされていますね。それができるのも、敷地が広く、建物や設備が充実しているだけでなく、健保組合や診療所との連携がうまくいっているからですね。

木村さん:おっしゃる通りです。ただ、以前は、正直うまく連携が取れていない部分もありました。でも、会社で健保組合や診療所を持っていることが共同印刷の大きな強みだよね、という話が出てきて、それならば連携を強化しよう。人事部・診療所・健保組合が三位一体となり、社員の健康づくりを推進していこうとなったんです。

下地さん:担当者レベルでしっかりと連携できるようになったのは、この2、3年ですかね。今は月に一回、打ち合わせをおこない、診療所に常駐している看護師さんにも入っていただいて、従業員の健康づくりについて話し合っています。

木村さん:たとえば、「二次検診の受診率を上げよう」「じゃあ、二次検診の受診率を上げるために何をすればいいか」と具体的な課題を挙げて、率直に意見を交換しています。時には健保組合や診療所の方から「人事部ももっと積極的に動いてください」とお叱りを受けることもあるんです(笑)。

下地さん:健康診断(一次健診)の結果は健診機関から人事部に届きます。それを診療所に渡し、二次健診や治療が必要な人はもちろん、食習慣の指導が必要な人もリストアップしています。それを元に人事部が対象者に案内を出すといった流れです。特定保健指導でも、健保組合が主体となり、同じようにおこなわれます。

木村さん:会社内でも連携しており、通常の健康診断(一次健診)でも受けていない人がいたら、「そちらの部署は7人受けるはずなのに、まだ5人しか受けていませんよ」とその部署の担当者にメールがいくようになっています。

3.優秀なる製品は健康なる技師の手になる

――いや、驚きました。徹底されているんですね。なぜそこまでできるのでしょうか?

木村さん:社長の藤森もよく「企業は人なり」と言っていますが、もともと会社全体に人を大切にするという意識が浸透しているんですね。というのも、共同印刷は昔から品質に強いこだわりを持っていますが、その大前提として「心身ともに健康でないと良いものは作れない」という考え方が根付いているからなんです。

昔の社内報には、「優秀なる製品は健康な技師の手になる」という文章が載っています。技師というのは、今でいう印刷のオペレーターなどの作業者。そういう人たちが心身ともに元気でないと良い製品は生まれないという意味です。
その言葉は健康経営宣言にも使われています。今も私たちにしっかりと受け継がれているんです。

――さすがです。現在、健康経営で特に力を入れていることはありますか?

木村さん:はい。一つは、先ほども話に出た健康診断の二次検診受診率の向上です。そして、もう一つが卒煙(禁煙)です。なぜ卒煙かというと、ホワイト500を申請するに当たりデータを集めたのですが、共同印刷全体の喫煙率が35.5%もあったんです。

下地さん:その後、喫煙率は下がる傾向にありますが、それは社屋の建て替えで煙草を吸える場所が減ったことが一因だと思います。各フロアにあった喫煙所が職場から離れた場所にしかないという状態になりました。ヘビースモーカーでない人は煙草を吸える場所を探し回ってまでは吸いませんからね。

木村さん:実際、本社に限って言えば、喫煙率は20%台に抑えられています。ところが、工場だと40%を超えるところもあるんです。さすがにこのままではいけないと対策を採り始めました。

――そういう、いわば健康についての無関心層には、具体的にどうやってアプローチしていきますか?

木村さん:やはり効果的なのは、トップからのメッセージだと思っています。より効果を高めるために、「煙草にはこういう害があります」というデメリットを強調するのではなく、「煙草を止めたらこういうメリットがありますよ」というポジティブな情報とともに発信したいと思っています。ただ、いきなりそうしたメッセージを届けても、気持ちに響かない部分があるでしょうから、今はまず土台作りとして、工場などに「禁煙」「卒煙」のポスターを張ったり、冊子を置いたりしています。そうやってある程度、意識を浸透させてから、オリジナルツールを作成し、発信していきたいです。

――それはうまい方法ですね。工場などの環境面でも何か工夫をしていきますか?

木村さん:私はもともと工場で働いていましたが、休憩時間になると、煙草を吸う人が吸わない人を、「一息入れに行こう」と喫煙所に誘うシーンを目にします。そうなると、せっかく煙草を止めた人がまた吸い始めるきっかけにもなってしまう。なぜそういうことが起きるかというと、「喫煙スペース=休憩スペース」になっているから。こうした喫煙のきっかけになる要素を消すなど、環境面からもいろいろ工夫していきたいと思っています。

――禁煙外来とかニコチンパッチなどの費用を補助するといったことは考えていませんか?

木村さん:それも考えています。ですが、まずはお金をかけずどこまでできるかやってみよう、と。なぜかというと、喫煙者にだけ費用をかけるとなると、もともと吸わない人にとって不公平感が生まれてしまう。まずはお金をかけずに対策を打ってみる。それでも止められない人は依存症の可能性もあります。そうなると、病気だから治療が必要だねと納得感が出て、禁煙外来やニコチンパッチといったことまで踏み込む必要への理解も得やすいのではと考えています。

4.ホワイト500申請のきっかけと社内外の変化

――健康経営優良法人(ホワイト500)に申請したきっかけを教えていただけますか?

木村さん:人事部として、社員の健康づくりにこれからどう取り組もうかと模索していた時、健保組合のほうから健康経営優良法人認定制度の存在を教えてもらいました。申請するため、まず上層部へ健康経営優良法人認定制度、ホワイト500とはこういうものですよ、という説明から始める必要がありましたが、チェック項目については、それまでに共同印刷や健保組合、診療所が実際にやっていることを整理したら、自然に埋まっていきました。

――それは大変素晴らしいです。人を大切にするという企業風土の中で知らないうちに健康経営に取り組んでいたということですものね。認定を受けた後、変化はありましたか?

木村さん:採用担当にも聞いてみましたが、正直まだ表立った大きな変化はないですね。それというのも、2018年7月に健康経営宣言を出して、認定を受けたのが2019年の2月。ですから、就活をしている学生さんにはまだ情報が届いていない状態なんです。

ただ、ホームページでもホワイト500の認定を受け、健康経営に取り組んでいることをアピールしていますので、これから採用面でも良い影響が出てくると思います。むしろちょっと心配なのが、社内にあまり浸透していないこと。実は、この『健康経営の広場』のインタビューをお受けした理由の一つに、社内へのアピールということがあるんです。

――確かに、健診やインフルエンザ予防接種が社内で受けられること一つとっても、当たり前のことじゃないですからね。そういうことが社員の方々に伝わると、意識も変わり、受診率もさらに高まるかもしれません。

木村さん:そうなんです。健康経営に対する認知度が高まり、今までは健康に無関心だった人から「じゃあ、煙草止めてみようかな」という声が聞こえてくることが、推進する側の私たちの何よりものモチベーションになります。

――2019年度のホワイト500に認定されたわけですが、今後も続けられますか?

木村さん:もちろんです。ただ、健康優良法人認定の制度に変更があり、今のままの取り組みでは上位500社に入り、ホワイト500に認定されるかどうかわからない。ですから、よりブラッシュアップしていく必要があります

5.働き方改革、高齢化社会など時代の潮流に対応

――健康経営に限らず、人事部としてこれから取り組んでいきたいことはありますか?

木村さん:はい。働き方改革もテーマの一つです。今、働き方改革推進室がメインとなって残業時間を減らす取り組みなどをしていますが、健康経営とも重なる部分が出てきますので、人事部としても健康経営と絡めて働き方改革にも取り組んでいかなければと思っています。

通信技術も進化し、テレワークも浸透してきています。ただ、印刷などは専門の機械を使ってしかできないので、やはり工場に来て働く必要があります。とはいえ、私も工場出身。工場で働いている人の気持ち、勤務実態もわかるので、それを活かして施策をおこなっていきたいですね。

下地さん:実際、工場の中でも総務などデスクワークをしている人もいますし、そういう人たちからはフレックスをやりたいという声が届くようになっています。より働きやすい環境を整備していくことに、さらに力を入れていきたいですね。

――確かに、今、健康経営、働き方改革、女性の活躍推進に象徴されるようにワークスタイル、ライフスタイルに対する意識も大きく変わろうとしていますね。

木村さん:おっしゃる通りです。産休・育児休暇についてはホワイト500に申請する前から力を入れており、たとえば、時短勤務もお子さんが小学校3年生になるまで制度を利用することができます。

また、介護休暇の取得も推進しています。いざ親御さんなどの介護が必要になってから慌てないよう、事前に制度についても知っておいてもらうため、従業員向けに、毎年介護セミナーを実施しています。介護に直面する可能性の高い人に向けたものと、すぐにではないけれど将来を見据えて介護について知っておきたいという人に向けたもの。会社としてこんな支援をしています、こんな働き方ができますといったことを伝えるセミナーです。

――御社も創業120周年を機に、新コーポレートブランド「TOMOWEL(トモウェル)」も生まれましたし、ますます人を大切にする企業になっていきそうですね。

木村さん:ありがとうございます。私たちの想いは、TOMOWELと、コーポレートメッセージ「共にある、未来へ」に凝縮されています。社員だけでなく、取引先や地域の方々も含め、関わるすべての人とともに良い関係を築き、未来を創りあげていきたい。その実現には、「健康」が欠かせません。さらに社員の健康づくりに力を入れていきたいと思っています。

【インタビュー後記】

今回は東京・小石川にある共同印刷さんの本社で取材をさせていただきました。特に感銘を受けたのが、広々とした敷地内に診療所や健保組合あり、密な連携を取りながら社員の健康づくりに取り組む姿勢。健診やインフルエンザ予防接種などが自社の敷地内でおこなえたり、社員食堂にはヘルシーなメニューが並んでいたりとまさに至れり尽くせり。

興味深く感じたのが、人事部を始めとした共同印刷の皆さんが、これらをごく当たり前なことであり、特別であると思っていないこと。それは「企業は人なり」「優秀なる製品は健康な技師の手になる」という精神が今もしっかり継承されている何よりもの証拠です。ホワイト500の認定を機に、2019年度を「健康経営推進元年」と位置付け、さらに取り組みを一層強化していくとのこと。日本の印刷技術や出版文化をリードしてきた共同印刷さんが、健康経営においても、私たちのお手本となり、時代の先を行く取り組みをされていくことは間違いないでしょう。

<企業データ>

会社名:共同印刷株式会社
事業内容:印刷事業を中核とし、幅広い製品やサービスを提供
所在地:東京都文京区小石川4丁目14番12号
従業員数:2,027名(契約社員含まず。2019年4月1日)

ホワイト500認定企業:大塚製薬株式会社 事例紹介(後編)

2017年2月に、「健康経営優良法人~ホワイト500~」に認定された、大塚製薬株式会社。人事部 部長補佐で健康管理室室長の田中 静江さんにお話を伺いました。
インタビュアー:株式会社セルメスタ 代表 熊倉 利和

前編では、健康管理室や特徴的な施策などについてお伺いしました。後編となる本記事では、大塚製薬ならではの健康イベントや自社製品の取り入れなどについてお話しいただきます。

5.健康イベント「ポカリフレッシュ」「徳島健康プロジェクト」

─ ホワイト500に認定されてからも継続されている施策や、新たに取り組まれた施策などはありますか?

田中さん:継続している施策は、2007年に始めた「ポカリフレッシュ」です。これは、オフィスでできる運動をたった8分間だけ行うというもの。健康意識が高い人は、自分でウォーキングをしたり、スポーツクラブに通ったりしますが、健康意識がそこまで高くない人にどう運動してもらうか、という課題から立ち上げた施策です。体を動かすことは気持ちのいいことだということをわかってもらいたくて、10年前から続けています。毎週木曜日だけですが、社員にとっていい運動機会の提供になっていると思います。

─ このポカリフレッシュは、東京と徳島でやっているんですか?

田中さん:あと大阪でもやっています。他の地域まではできていないのですが。各オフィスにインストラクターが訪ねてきて、就業時間中に体を動かします。例えば東京だと、14時~15時半の間ですね。今までパソコンに向かっていた人が、インストラクターが来ると同時にスッと立ち上がって運動をする感じです。たった8分なので、やりたい人はすぐやれる。あまり気が乗らない人は、そのまま仕事を続けられる。

─ これはいいですね。気軽に参加できるので、やる人も多いのでは?

田中さん:はい。ポカリフレッシュを始めたばかりの頃に社員アンケートを実施したのですが、「今後も続けてほしい」という回答が8割ありました。また、ポカリフレッシュで年に1回特別イベントも行っています。オフィス内の一つの部屋に希望者に集まってもらって、さまざまなメニューのなかから自分に合った運動を選んでもらうかたちです。ここで実施したアンケートでは「当イベントを通じて運動をしよう、続けようと思った人」が96%でした。やはり特別イベントの場合は運動をしたいと思っている方が集まっているので、高い評価をいただいています。

─ 一般的に運動習慣がある人は全体の1割といわれていますが、御社ではどうでしょう?

田中さん:弊社の健康診断問診票の結果によると、「30分以上の運動習慣がある人」が2割強、「身体活動を1日1時間以上している人」が3割強、「歩行速度が同性同年齢比較で速い人」が4割強でした。

─ やはり、数値が高いですね! どこの企業も、運動無関心層にどうアプローチするか悩んでいます。健康ポイントの導入以外でも、こういうやり方があるといういい事例だと思います。すばらしいですね。

田中さん:ありがとうございます。まだ支店まで手が回らないというところが改善点だと思っています。ただ、支店は支店独自で地域のスポーツ大会に参加する率がとても高いようです。マラソン大会や駅伝、新人テニス大会やゴルフ大会まで、さまざまです。

─ さすが、引き出しが多いですね。

田中さん:やはり企業として、健康というものが根付いているんだと思います。社員の健康に対する意識が高いですね。

─ 徳島で9月から始められているという、「徳島健康プロジェクト」についてはどうですか?

田中さん:はい、こちらは徳島の大塚製薬を中心に、大塚製薬工場や大塚食品など、トータルで6,000名ほどの社員を対象としています。大きく「改善アプローチ」と「エリアアプローチ」の二つに分けて活動しています。前者は、徳島地域において、メタボあるいは予備軍の人に対して改善を促すもの。後者はエリアの人すべてに対して、健康意識の向上を試みるものです。運動会やウォーキング大会はもちろん、グループのサッカーチーム「徳島ヴォルティス」のコーチを招いて、親子サッカー教室を開いています。ほかにも、ウォーキングにちょっと負荷を高めたスロージョギングなど、さまざまなイベントを用意して、興味があるものに参加できるというかたちです。

─ 週末に家族と一緒に参加できるイベントがあると、被扶養者の特定保健指導などの数字を上げるきっかけにもなりそうですね。

田中さん:そうですね。健保としても、イベントには家族も含めて参加してくださいと勧めていますので。被扶養者の特定保健指導について、弊社はまだ低いと思いますので、そこを上げていくためにいい機会であると考えています。参加率が上がり、全体的な意識が上がっていけば、PDCAを回して理想的なかたちになると思っています。今は徳島エリア限定になっていますが、全国に広げたいと考えています。

6.自社製品の取り入れ

─ 御社は、「賢者の食卓 ダブルサポート」という、Wトクホの製品を販売されています。ホワイト500や健康経営の注目度が上がってきている今、これらの食品を自社で取り入れて、さらに水平展開し、ビジネスに繋げる……といったビジョンも描けると思うのですが。

田中さん:実は2014年9月から、有料ではありますが、社員食堂に賢者の食卓を置くようにしています。健康経営と自社製品を結びつけるという活動の一環です。あと、低GI食品として弊社では「SOYJOY」も出しています。

─ いいですね。甘いものをつまむ代わりに、SOYJOYをいただくと。血糖値も急激に上がらないし、食後に眠くなりにくいし。

田中さん:はい。産業医の先生もSOYJOYを勧められていました。自社製品を他の事業部を含め社員自身によく知ってもらうことは大切なので、新製品が出たときは、社内でパンフレットと共にサンプルを配って紹介することもあります。

7.これからの目標、およびホワイト500認定を目指す企業へアドバイス

─ ホワイト500に認定された企業として、これからの目標を教えてください。

田中さん:やはり社外にやっているように、社員にももっと啓発していかなければならないということが1番ですね。今は広報部と連携して進めているかたちです。広報部は、社外にも社内にもさまざまな情報を発信しているので。やはり地道にコツコツやっていくしかない部分が多いですが、広報を通じてうまく対応してもらっています。

─ 社内報でも積極的に情報提供されているそうですね。健康経営を社員に広げるために、社内報がしっかり役割を果たしているというのは、御社のすごい強みだと思います。

田中さん:広報部から活動の推進や情報提供を急かされてしまうこともたくさんあります(笑)。社内報はもちろん、リリースであったり、Webサイトであったり、さまざまな媒体で活動を発信していきたいと考えています。社内に発信する情報はたくさんあるので、社内報が活動記録の一部にもなるわけです。

─ では最後に、これからホワイト500の認定を目指す企業にアドバイスをお願いします。

田中さん:アドバイスといえるほどのことではないのですが、ホワイト500の認定をいただいたことは、とても意味のあることだったと振り返っています。今まで自社でやってきた取り組みが、ホワイト500というかたちで認められるということは、会社に対するロイヤリティはもちろん、我々担当者にとってもありがたいことですし、社員にとっても健康への意識が高まるきっかけになると思います。ですから、ぜひホワイト500の認定を取得するための施策を始めていただきたいです。また、就職活動中の学生さんからも質問をいただくこともあるので、世間からの注目度も高いのではと考えています。

─ ブラック企業に対して、ホワイト500ですからね。ネーミングのインパクトが違います。

田中さん:はい。学生さんから、働き方についての大きな枠での質問は多かったです。会社としては、ホワイト500という言葉を出すことで、健康経営にしっかり取り組んでいることを説明しやすくなりました。また、認定されたからにはしっかり継続していかなければならない、といういい意味でのプレッシャーにもなります。

─ これからも、先陣を切ってさまざまな健康施策を進めてください。本日はありがとうございました。

<企業データ>

会社名:大塚製薬株式会社
事業内容:医薬品・臨床検査・医療機器・食料品・化粧品の製造、製造販売、販売、輸出ならびに輸入
本社所在地:〒101-8535 東京都千代田区神田司町2-9
資本金:200億円
従業員数:5,634名(2017年12月31日現在)

健康経営の取組み事例:大塚製薬株式会社(前編)

2017年2月に、「健康経営優良法人~ホワイト500~」に認定された、大塚製薬株式会社。人事部 部長補佐で健康管理室室長の田中 静江さんにお話を伺いました。
インタビュアー:株式会社セルメスタ 代表 熊倉 利和

1.社内外に発信し続けてきた、健康に対する意識

─ 御社は古くから健康に関する意識を社内外に発信していらっしゃいますね。健康経営の取り組みはどのような経緯で行われたのでしょうか。

田中 静江さん(以下、田中さん):当社は企業理念そのものが健康に関することなので、健康経営をしっかりやっていく必要があると考えていました。当時はまだ健康経営という表現はありませんでしたが、古くから社外の人に向けて発信していたことを、社員に対しても実践していこうということが、一つのきっかけになったと思っています。

─ 御社は「ポカリスエット」や「オロナミンC」など、健康に関する商品を多く販売されています。いずれも、私が子どもの頃からある商品です。長い歴史を持つ御社ですが、健康経営の社内の展開はいつ頃から行われていたのでしょうか。

田中さん:社外に対する販促活動から始まり、「健康ってこんなに大切なんだ」といったことを改めて社員に対してもアプローチし始めたのは、2006年頃です。とはいえもともと取り組みはありましたので、この時期に具体的な活動がスタートしたということです。

─ その社外に対する販促活動とは、具体的にどのようなことでしょうか。

田中さん:いわゆるスポ根のような時代は、部活動中に水を飲んではいけないといった風潮がありました。しかし、身体にとってどれだけ水分が大切かということを説くために、ポカリスエットを持って高校の部活動にお邪魔したり、学校全体に対してアプローチしたりという活動を熱中症という言葉にまだ馴染みがない1991年頃から行っていました。その後は、学校だけでなくスポーツ施設、工場や建設現場といった職場などにもお伺いして、熱中症対策に水分が大切だとアピールする活動をずっと続けています。

─ そういった社外でのマーケティングが、社内に対する啓蒙活動にも使われるようになったんですね。

田中さん:健康を考えることに対して、当然ですが社員は抵抗感がありません。お客様の健康を考える上で、そもそも社員が健康でなければいけませんから。社員も自分たちが健康であるからこそ、説得力をもってお客様にお話しできるという認識は強いと思います。

2.健康管理室と健康保険組合

─ 今までお伺いした取り組みのあと、2017年1月に健康宣言を出されました。

田中さん:健康宣言は、企業理念の内容と大きく変わりません。お客様に対して、あるいは企業理念として掲げていたことを、経営トップ自らの発信として宣言しました。

─ 健康宣言を出し、いざ健康経営というところで、ベースになったのが健康管理室ですか?

田中さん:そうですね。健康管理室は2014年にできています。社員の健康に関して責任を持って取り組む部署を明確にするという目的で設置され、私は人事部部長補佐と健康管理室室長を兼任しています。弊社は東京と徳島が大きな二つの拠点なので、今まで工場、研究所は徳島のやり方、本社以外の営業拠点は本社主導とそれぞれ独立してやっていた部分もありましたが、そこを統一して進めるようにしました。あとはグループ会社の方が進んでいる部分もあったり、逆にこちらが進んでいる部分もあったりするので、随時共有できるようグループ会議を継続して行っています。

─ 健康経営という旗印のもとに健康管理室が、本社、徳島、グループ会社に向けて旗振りをしているというかたちになっているんですね。ちなみに御社は単一の健康保険組合を持っていますよね?

田中さん:はい。健保は徳島にあります。ですので、徳島の健康管理室のメンバーが健保とうまく連携を取っています。単一健保なので、とてもやりやすいです。

─ ちなみに、徳島にも産業医や保健師がいらっしゃる?

田中さん:はい。健康管理室に所属しています。今後もっと広く深く活動していければと思っています。

─ 東京と徳島それぞれの健康管理室メンバーと、健保も含めた定期的な会議などは行っていますか?

田中さん:大塚製薬と大塚製薬工場と大鵬薬品で行っており、全社を対象にした内容を検討してきました。今は新しい試みとして、徳島エリアを重点的に行っています。そこだけで6,000人くらいグループ社員がいるので、その方たちを対象に、もう少し踏み込んだ活動をやりましょう、といった話をしています。そこでは3社だけでなく他のグループ会社や健保、自社の事業部も含めて進めています。

3.社内外の変化について

─ なるほどよくわかりました。このような流れで健康宣言をしてから、健康経営の部分でやりやすくなったところなどはありますか?

田中さん:やはり「世界の人々の健康に貢献する 革新的な製品を創造する」という企業理念があるので、我が社は健康に対する知見を持っている背景もあるし、社員の健康についても深く考えているだろうと、社員自身も漠然と思っていました。その中で改めてこういう宣言を出すことによって、さらに会社の姿勢をしっかり認識したという社員もいるし、「アルコールに関するアプローチをもうちょっと深めてやりませんか」といった提案をしてくれる部署もでるなど、やはり全体として健康に対する意識がより高くなったと感じています。

─ ホワイト500の認定を受けてからはいかがですか?

田中さん:会社でやっていることが外部の機関に認められたという意味では、社員が取り組みを認知して納得してくれたという実感があります。営業的にも、特にニュートラルシューティカルズ関連製品(人々の日々の健康維持に有用である科学的根拠をもつ食品・飲料)を扱う社員は、お客様とお話をするにあたって意識が高くなったとも聞いています。また、名刺に入れているホワイト500のロゴをきっかけに、あるいはそれ以外のところでもお客様から「ホワイト500に認定されたんですね」と話題になるなど、社外からの反応も大きいですね。弊社の取り組みをお取引先からご紹介していただいたり、「うちと共同でこういったこともできますね」といったご提案をいただいたりすることもあるようです。社員も社外からの期待に沿えるよう、恥ずかしくない対応をしなければと姿勢を正すきっかけにもなっているようです。このあたりは、ボトムアップ的に気持ちが盛り上がればいいなと思っています。

4.特徴的な施策について

─ では、御社の健康経営において、特徴的な施策を教えてください。

田中さん:実は2008年の話なのですが、「大塚ウェルネスプログラム」をやっていた頃、大塚製薬の約6,000名中600名以上の社員が一般的なメタボ基準に入っていました。

─ 1割ですね。割合だけ見ると、少ない数字ではありますが。

田中さん:そうですか、でも弊社では多いと判断し、その600名に対して、痩せるためのプログラムを大掛かりに実施しました。食事内容を見直し、さらに歩くこと+筋トレも。集合研修を開いて産業医の先生から話をしてもらい、しっかりレクチャーをしていただいた上で、プログラムの前後で血液検査まで行いました。その結果、600名トータルで2トン痩せることができました。各々自由な方法で取り組むのではなく、ある程度会社がしっかり決めた方法で実施しました。

─ 大掛かりな施策ですね。健康管理室ができる以前のことだと思いますが、人事主導でやられたのでしょうか?

田中さん:はい。担当役員が、しっかり取り組みなさいと先導してくれました。同時期、2008年に禁煙施策も行いました。肺がんで大切な社員を亡くしたという経験もあり、敷地内全面禁煙に一気に踏み込んだんです。弊社は「ものまねをしない」という精神がありますので、このような施策に関しても他社に先んじてやってきたという自負があります。

─ なるほど、他がやっているからやるのではなく、まだどこもやっていないことを先駆けてやるという精神なんですね。

田中さん:はい。禁煙施策は「禁煙100」と名付け、保健師が禁煙のフォローをしました。そのほか、特徴的な施策というと、2002年にさかのぼりますが、ピロリ菌の検査ですね。弊社は「予防から診断まで」という考え方で、トータルヘルスケアカンパニーと呼称しています。ピロリ菌の診断薬を用いて、希望した社員全員に検査を行いました。

─ 2002年にピロリ菌検査とは、かなり進んでらっしゃいますね。ちまたでは2016年、堀江貴文氏らが発起人となって、胃がんのリスクを高めるピロリ菌の除菌を普及する予防医療普及協会を立ち上げたところです。しかし御社は、もう15年前にピロリ菌に目を付けられている。

田中さん:そうですね。弊社でこの検査薬キットを出したときから行っています。また検査といえば、2007年より、30歳からの人間ドックの受診が可能になりました。受けられる期間が決まっているのですが、その間は6万円まで無償にしていますので、ほとんどの受診者が無償で人間ドックを受けられています。

─ 6万円まで無償というのはすばらしいですね。オプションなども付けていいんですか?

田中さん:はい、もちろん。ただ脳ドックなどを付けてしまうと、おそらく6万円をオーバーするとは思います。

─ 内視鏡やCTなどなら、6万円以内で受けられそうですね。

田中さん:30歳未満でも胃がんと婦人科検診は、通常の定期健康診断に加えられます。一定年齢以上といった定めはありますが、血便、大腸がんの検査、あとはクレアチニン、いくつかのプラスαの項目を追加するなど、通常の定期健康診断であってもある程度充実させるようにしています。

─ 30歳であれば通常は定期健診ですよね。しかし、せっかく6万円も補助があるのだから人間ドックを申し込もうという30代の方はどのくらいの割合ですか?

田中さん:30代全体で期間中の予約済みも含め、人間ドック受診率は75%でした。

─ 非常に高い数値ですね! 御社が他社のまねをせず、何ごとも先駆けて取り組まれていることがよくわかりました。

後編では、大塚製薬ならではの健康イベントや自社製品の取り入れなどについてお話しいただきます。

<企業データ>

会社名:大塚製薬株式会社
事業内容:医薬品・臨床検査・医療機器・食料品・化粧品の製造、製造販売、販売、輸出ならびに輸入
本社所在地:〒101-8535 東京都千代田区神田司町2-9
資本金:200億円
従業員数:5,634名(2017年12月31日現在)

ホワイト500認定企業:富士ソフト株式会社 お取組み事例(後編)

働き方改革はもちろん、以前から健康管理・健康経営にも力を入れている富士ソフト株式会社。人事部 健康管理センター課長の益満 博子さんにお話を伺いました。インタビュアー:株式会社セルメスタ 代表 熊倉 利和

前編では、健康経営の特徴や時間外労働の削減とメンタルヘルスについてお伺いしました。後編となる本記事では、健康保険組合とのコラボヘルスや今後の課題についてお話しいただきます。

4.健康保険組合とのコラボヘルス

─ 御社と健保組合とのコラボヘルスについて教えてください。

益満さん:実は特定保健指導については、健保から弊社に業務委託してもらい、当社の保健師が対応しています。保健師4人で年間1,500件ほど保健指導をしていますね。そもそも特定保健指導の委託を受け始めたのは、健康管理から一歩踏み込み、予防・未病へと進めるため。健保のほうで外注されるのであれば、弊社の保健師に業務委託を……という流れですね。社員に対して保健指導するノウハウを持つことで、保健師の知見をもっと生かせると思いますし、なにより社員が重症化する前に健康を取り戻すためのきっかけにもなります。保健師さんが保健指導を担当するようになってから、実施率が80%まで上がりました。

─ コラボヘルスをやりたいけれどなかなかうまくいかないという企業も多いです。御社は人事サイドが健保組合から積極的に仕事をもらってきているんですね。

益満さん:健保が外注に依頼していた費用が内製化により減少することから、その分サービスを充実させてもらいたいなどの要求範囲が広がりました。健保の運営に関わるものは社員に直結しますし、将来的に保険料が下がれば社員にもメリットがありますからね。実は昔は健保とは距離があったというか、お互いそれぞれ独自に動いていました。健康管理センターを設置してグループ全体に目を向ける際に、連携させてほしいとお声がけしてコラボヘルスをスタートさせたことが、現在の連携を可能にしているのだと思います。

─ 健保組合主導でやってもらっている具体例を教えてください。

益満さん:マイカルテのようなWebサイトをつくってもらっています。具体的には今年の4月から、ジェネリック医薬品の使用を促進するコンテンツや健診結果に基づいた健康年齢を表示するなどの機能を導入していただいています。このサイトを使って、今後もさまざまな情報発信をしようという話になっています。

─ 企業と健保がいい塩梅で関与しあっているんですね。

益満さん:今まではそれぞれが独自にやっていましたから。富士ソフトとしては法令で安全配慮について、健保さんは保険給付事業や特定保健指導などの保健事業について、それぞれ一生懸命取り組んでいたんです。それを大きな観点のアプローチに変えていこうというなかで、うまくはまっていったかなと思っています。ハイリスクも中リスクもローリスクについても、これからはお互いが取り組む必要がありますし。そういう意味で、今、弊社も健保さんも目指すところは同じです。

5.今後の課題について

─ 健康増進や予防、未病の観点以外に今後の課題はありますでしょうか。

益満さん:今までは休職者の9割がメンタルヘルスの問題だったのですが、最近はフィジカルな面も出てくるようになり、今では全体の2割を超えてきています。エラーがある段階で面談や指導を行ってきたのですが、まったく予兆がなかった人が突然長期入院になってしまうことも。健康だから大丈夫という認識を早い段階で変えさせたいと思い、新たな検査の導入などを健保さんと検討しています。

─ 現状既に進めている対策などはありますか?

益満さん:健康増進のかたちで、健診結果で有所見があるターゲットを絞り込んだところ、年齢が若い社員でも平均より悪い数値が出てしまっているんです。弊社はIT企業ということもあり、独身で一人暮らしの男性が多い。ということは、多かれ少なかれ食事内容に問題があることが想定されますよね。外食もしくはスーパーやコンビニで出来合いのものを買って食べる。お酒が好き。想像すると、過剰な塩分や脂質のとりすぎなどが浮かんでくるわけです。このような場合には食事内容の指導が必要になってきますよね。ターゲットに見合った対策を進めていきたいと思っています。

─ フィジカル面での有所見については、予防の観点で知識を上げていきたいということですね。

益満さん:健康増進の面では、スポーツクラブの1日体験プログラムなどの取組みを健保さんがやっています。しかし弊社のほうでうまくそれを活用しきれていない現状もあります。そのようなサービスがあっても、利用する人ってもともと体を動かすことに興味がある人ですよね? 興味がない人を動かすためにどのようなアプローチが適切か、弊社オリジナルの取り組みを模索中です。

6.ホワイト500認定を目指す企業へアドバイス

─ ホワイト500をとろうとしている企業に対してアドバイスをお願いします。

益満さん:まず、自分の会社が世の中でいわれているところのどの位置にいるのか、を意識することが大切です。実際弊社は、特定保健指導の実施率8割以上を目標に進めてきたわけですが、一般的な実施率が30%ということがわかり、結果的に高い評価をいただけました。まず自分たちのレベルを把握しないと、課題も見えてきませんからね。

─ 世間と比べて何が足りていて何が足りないのかを知ることが大切なんですね。

益満さん:いわゆる働きやすい会社ランキングなどで、自社の順位の推移チェックも大きいですね。数年前より順位が下がっているのだとしたら、今のレベル感では足りていない、ということがわかります。みな切磋琢磨していますから、目指す目標を設定していい循環をつくることがポイントです。みんながそこで働きたいという会社にならないと、いい人材もとれませんし、社員も働きがいを覚えません。そうなると結果的に売り上げも伸びません。そんなデフレを逆回転させるためにも、自分たちのレベル感を把握して課題を洗い出し、目標を定めることが大切です。

─ 単純に売り上げだけではなく、社員の働きやすさを目指すことで結果的に売り上げにつなげるという戦略的な考え方はすばらしいですね。今後の御社のさらなる進化も楽しみです。本日はありがとうございました。

<企業データ>

会社名:富士ソフト株式会社(FUJI SOFT INCORPORATED)
事業内容:通信インフラ、社会インフラ、機械制御などの組み込み系ソフトウェア開発のほか、 業務系ソフトウェア開発やネットビジネスソリューションに至るまで幅広くその技術力をご提供いたします。
本社所在地:〒231-8008 神奈川県横浜市中区桜木町1-1
資本金:262億28万円
従業員数:6,427名(2017年9月末現在)

「ホワイト500」認定企業:日本たばこ産業株式会社 お取組み事例(後編)

2017年2月に、「健康経営優良法人〜ホワイト500〜」に認定された、日本たばこ産業株式会社。人事サポート室 次長の平山 剛さん、同 課長代理の横山 剛さん、同 主任の岡田 貢さんにお話を伺いました。インタビュアー:株式会社セルメスタ 代表 熊倉 利和

前編では、ホワイト500申請の経緯や人事サポート室と産業保健スタッフについてお伺いしました。後編となる本記事では、健康経営の取り組みや今後の展開などについてお話しいただきます。

3.健康経営の取り組みについて

─ 御社の主な健康経営の取り組みについて教えてください。

平山さん:主な取り組みとしては2点あります。まずは「健康支援体制の強化」です。弊社の社長が願う「従業員一人ひとりの健康でありたいとの思いと具体的な行動に寄り添うようなサポート」を目指し、人事担当役員を統括責任者とした従業員の健康支援体制を構築しています。先ほど申し上げた内容と重複しますが、人事サポート室の設置はもちろん、全国に多くの産業保健スタッフを配置し、全社員を対象に健康診断結果に関する面談を実施するなどきめ細かに対応しています。

─ 2点目は何でしょうか?

平山さん:「心と体の健康増進に向けた取り組み」です。生活習慣改善に向け、ウォークラリーや内臓脂肪測定会、講話会など、全国の各事業所の健康課題に応じたさまざまな啓発イベントを展開しています。メンタル疾病の予防に向けては、医療専門職スタッフが日常的に受け付けていますし、会社のなかの相談窓口は利用しにくいと考える方には社外の相談窓口に行ってもらうなど、事業場外支援によるケアや連携も行っています。セミナーは主にラインケアについて積極的に行っており、セルフケアについてはストレスチェックの結果を見て本人に認識してもらうことが重要と考えています。今後は、ストレス耐性をいかに高めるかなど、さらに充実させていければと思っています。いずれも、ホワイト500認定のために始めた施策ではなく、弊社の長い歴史のなかで構築された取り組みです。

─ 2点以外でほかに特徴的な取り組みや施策などはありますか?

平山さん:最近の特徴的な取り組みとして、「健康みっけプロジェクト」というものがあります。従業員一人ひとりが、「自分らしい健康って何だろう?」と考えるきっかけを提供するプロジェクトです。与えられたものを義務的にやるのではなく、自分に見合った無理なく続けていけそうな運動を見つけるきっかけになればと全国の事業所にヨガ等のインストラクターを派遣し、オフィス内で従業員にスポーツを楽しんでもらう健康づくり活動「オフィスポ」を導入・展開しています。また、社内イントラに「健康みっけパーク」を設置し、そこで健康にまつわるさまざまな情報を発信しています。

岡田 貢さん(以下、岡田さん):ほかにも、健康診断の結果を入力すると個人のミュージックビデオが自動的に作成されるコンテンツを用意するなど、従業員にとって「わかりやすく・楽しく」をコンセプトに社内コミュニケーションを充実させています。自身の結果を入れることで、自分の健康状態を楽しく把握することができます。

─ これはおもしろい取り組みですね! 多様性という部分で、たくさんの人にきっかけを提供していることが伺えます。

岡田さん:はい、オフィスポについても、初心者でも取り組めるヨガやストレッチだけではなく、激しい運動が好きな人たちのレベルに合わせたものも用意しています。さまざまな人がいるなかで、多様性に合わせたメニューを取り揃えています。

─ オフィスポは、1年で何回くらい開催しているんですか?

平山さん:オフィスポの開催数は飛躍的に伸びていて、今年は10月時点で100回を超えています。実際の企画・実施にあたっては、地域駐在保健担当や事業所の担当者の方々が主体となって取り組んでくれています。

─ 現時点で100回とのことですが、ここまで増やすのに何年くらいかかったんでしょう?

岡田さん:おととしトライアルでやってみて評判がよかったので、去年から本格的に導入しました。去年は年間で30回ほどでした。事業所同士で、「あの事業所がこんなオフィスポをやっていたのでうちでもやってみよう」という動きがあるようです。また、衛生委員会の企画としてオフィスポを実施することもあります。

─ ちなみにトータルでの参加人数はどのくらいですか?

平山さん:現状3,000人ほど参加してもらっています。開催数と合わせて参加人数も上がってきています。

─ 一般的に運動習慣は10人に1人くらいしかないと言われているなかで、オフィスポの参加人数が3,000人とは本当にすごいですね。人気のオフィスポの種目はどんなものですか?

岡田さん:ビズヨガが1番ですね。1番激しいのはキックサイズで、会場は興奮状態になります。

4.ホワイト500認定後、社内外の反応は

─ ホワイト500に認定されてから、社内外で何か反応や変化はありましたか?

平山さん:特段大きな変化は感じていません。目に見えるところとしては、やはり健康支援の取り組みを地道に支えて取り組んできた産業保健スタッフにとっては、これまでの取り組みが評価されたことでモチベーションの向上につながっています。先ほどお話したオフィスポの開催ニーズも飛躍的に高まってきていますし。

5.今後の目標について

─ ホワイト500に認定された企業として、これからどのようなことに力を入れていきたいとお考えですか?

平山さん:弊社の特徴は、多様性に根ざした健康支援だと思っています。従業員の健康支援についても、人財の多様性という切り口を尊重して、個々人の生活環境や価値観に基づいた、自分に合った自分らしい健康づくりができるよう、引き続き支援をしていきたいです。重点課題である生活習慣病予防、メンタルヘルスの取り組みについても、着実に取り組んでいきたいです。オフィスポについても、自分に見合った運動を見つけて無理なく楽しんで続けられる……という部分が、弊社の多様性に根ざした健康支援という考えに合っていると思います。

6.これからホワイト500を目指す企業にアドバイス

─ これから健康経営の実現やホワイト500の認定を目指す企業にアドバイスをお願いします。

平山さん:弊社の健康支援に派手さはありません。アドバイスと言えるほどの持ち合わせはありませんが、健康経営は一朝一夕でできるものではないと思っています。全社員を対象とした健診結果に基づく保健師の面談など、継続的にこつこつやっていくことが大切なのではないでしょうか。このような取り組みが健康保持、増進、安心感につながりますので。やはり日々の地道な取り組みをしっかり積み重ねていくということが重要だと思っています。

<企業データ>

会社名:日本たばこ産業株式会社
事業内容:たばこ事業、医薬事業、加工食品事業
本社所在地:〒105-8422 東京都港区虎ノ門2-2-1
資本金:1,000億円
連結従業員数:44,667人(2016年12月31日現在)

健康経営の取組み事例:日本たばこ産業株式会社(前編)

2017年2月に、「健康経営優良法人〜ホワイト500〜」に認定された、日本たばこ産業株式会社。人事サポート室 次長の平山 剛さん、同 課長代理の横山 剛さん、同 主任の岡田 貢さんにお話を伺いました。インタビュアー:株式会社セルメスタ 代表 熊倉 利和

1.ホワイト500申請の経緯

─ 御社の考える優良な健康経営について、またホワイト500に申請されることになったきっかけや経緯などを教えてください。

平山 剛さん(以下、平山さん):弊社では、経営理念である「4Sモデル」(お客様を中心として、株主、従業員、社会の4者に対する責任を高い次元でバランスよく果たし、4者の満足度を高めていく)のなかで、従業員を重要なステークホルダーとして位置付けています。これまでも、従業員一人ひとりの心と体が健康であることは、会社の持続的成長の基盤であると考えてきました。健康で安心して働ける職場づくりを重要な経営課題とし、積極的に取り組んできたという歴史があります。そうしたなか、企業の社会的責任の観点からも、弊社の健康経営の取り組みを積極的に社外に発信していく必要性について感じていましたので、今回ホワイト500に申請させていただいたという経緯です。

─ ホワイト500認定のために何かをしたというのではなく、御社の長い歴史のなかで健康経営に取り組まれてきたんですね。

横山 剛さん(以下、横山さん):はい。1988年に会社が行う健康管理の目的を「疾病治療」から「疾病予防」へ転換するとともに、健康管理に係る組織に関しては、事業所の診療所を廃止し、全国10カ所に健康管理センターを設置する体制とするなかで、健康の保持・増進に重点を置いた産業保健活動を推進してきました。また、1999年に健康管理センター業務の見直しを行い、健康診断を完全外注化するとともに、保健部における診察業務を廃止し、保健支援に重点をおいた活動を行うなどこれまで以上に従業員の健康の保持・増進に重点を置いた活動を推進してきました。その後、会社組織体制の変更に伴い、産業保健活動を担当する組織についても改正するなかで現在の体制に至っています。

2.人事サポート室と産業保健スタッフについて

─ みなさんが所属されている人事サポート室は、どのようにしてできあがったのでしょうか。

平山さん:2017年4月の組織改正で誕生しました。本社(健康支援室含む)と全国10カ所のエリア対応を担う地域駐在で構成する組織です。そのなかには、産業保健スタッフ(医師・保健師)も配置しています。全社に関わる安全衛生・産業保健活動の企画立案の機能と、第一線で従業員の心身の健康をサポートしていくという機能、そして、これらに携わる人財が一つの組織を構成するなかで、安心して働ける職場環境の実現、従業員一人ひとりの心と体の健康の保持増進に向けたサポートに向け、日々の業務にあたっています。

─ 安全衛生法絡みの部分だけでなく、産業保健活動すべてをやる部署として人事サポート室に一本化したわけですね。

横山さん:産業保健活動については、本社・健康支援室・地域駐在保健担当が連携するなかで対応をはかっています。

─ 各地域がそれぞれでやっているわけではなく、方向性を統一して全社で進めているんですね。

平山さん:はい。さらに保健部長(医師)だけが集まってやる会議もあります。例えば健康診断の検査項目を精査していくにも専門知識が必要なので、専門家が精査して改善すべきは改善しているといったところです。

─ 健康診断の結果面談などはどうされていますか?

平山さん:健診の結果通知そのものは確実に本人に手渡すようにしています。後日、保健師が日程調整を行い、本人に持参してきてもらった健診結果を元に、所見のあるところなどをアドバイスしています。紹介状を発行した場合も、後々メールでフォローしたり訪問したときのフォローなどもしたりしています。他社の状況はわかり兼ねますが、これだけ丁寧に対応をしているのは珍しいのではと思っています。

─ 40歳以上の特定健診だけでなく、20代・30代の社員の方の定期健診でも保健師さんの面談があるんですか?

平山さん:はい。休職などで物理的に対応できない方を除き、全員に面談を行っています。「○時○分〜○時○分まで」というように丁寧に面談時間を通知しています。地方の場合には、保健師が直接出向いて面談を行っています。

─ 保健師さんは何名ほどいらっしゃるのでしょうか。

平山さん:現在は34名です。

─ その34名で何人の社員の方を担当されていますか?

平山さん:社員については、現在7,900人ほどでしょうか。法定で3/4以下の所定労働時間のパートタイマーの方々にも、本来健診を受ける義務はありませんが、弊社の健診を受けないかとお声がけをしています。

─ ずいぶん進んでいらっしゃいますね。それにしても保健師さんが30名以上いるとは驚きです。

平山さん:また、労働組合も、パートタイマーの健康診断の対象拡大といったことなど会社に対して提起してくれます。「健康」という課題に対しては、労使間において垣根はないと考えているので、会社としても必要性のあるものについては受け入れて対応しています。

─ ちなみに御社は自社の健康保険組合をお持ちですよね。特定保健指導の部分でのコラボヘルスはどうされていますか?

平山さん:望ましい支援法として特定保健指導は面談を3回やることになっているので、先ほど申し上げた保健師による全員の面談が、対象者にとっては特定保健指導の1回目となります。保健師のなかには、離島や僻地まで3回面談を実施するために頑張ってくれている方もいらっしゃいます。

─ 特定保健指導は集団で行ってもいいとされていますが、きちんと個別にやっていらっしゃるんですね。

平山さん:厳密に言えばすべてを追いきれているわけではないと聞きますが、すべてカバーしようという気持ちでやってくれています。実際に面談できなくても、メールなり電話なりでしっかりフォローしています。特定保健指導の実施率は世間では約50%と言われていますが、弊社はかなり高い水準にあると思っています。

後編では、健康経営の取り組みや今後の展開などについてお話しいただきます。

<企業データ>

会社名:日本たばこ産業株式会社
事業内容:たばこ事業、医薬事業、加工食品事業
本社所在地:〒105-8422 東京都港区虎ノ門2-2-1
資本金:1,000億円
連結従業員数:44,667人(2016年12月31日現在)

「ホワイト500」認定企業:田辺三菱製薬株式会社 お取組み事例(後編)

2017年2月に、「健康経営優良法人~ホワイト500~」に認定された、田辺三菱製薬株式会社人事部健康推進グループマネージャーの四方 邦宗さんにお話を伺いました。インタビュアー:株式会社セルメスタ 代表 熊倉 利和

前編では、ホワイト500申請の経緯や注力している施策などについてお伺いしました。後編となる本記事では、ストレスチェックとの連携や今後のコラボヘルスについてお話しいただきます。

4.ストレスチェックとの連携

─ アブセンティズム、プレゼンティズムの話もありましたが、ストレスチェックとの連携はどのようにしていますか?

四方さん:ストレスチェックは以前から行っています。本年からの取り組みですが、ストレスチェックを行った上で、マネジメントサーベイ、モラルサーベイ等の調査と多面的に検証していきたいと思っています。ストレスチェックは、職場のストレスがどうなっているかを見るもの。マネジメントサーベイは、マネジャーのマネジメントがうまくいっているかを見るものですよね。そこで、例えばマネジメントがよくないためにそこの職場のモラルが下がって、結果的に所属している従業員のストレスが溜まる……というような関係性が見えるのではと考えています。従来もそれぞれの単独のサーベイは行っていたのですが、クロス分析はしていませんでした。ストレスの原因は、その組織の上司のマネジメントに因るものでなく、組織のミッション自体が重かったり、組織の置かれた環境のために所属する従業員にストレスがかかったり、はては仕事と全然関係のない従業員個人の家庭の事情や介護に因る負荷が原因だったりと、必ずしも相関性がない場合もあると思いますが。ストレスチェックの結果が悪いからすぐ上司を配置転換させるのではなく、多面的に検証し、効果的な個人や組織の介入が必要だと考えております。i² Healthcareへのストレスチェック等の連動は今後検討していきたいと思います。

─ なるほど。先ほどのi² Healthcareなどでポピュレーションアプローチするための土台ができ、そこで健康推進グループが徹底的に分析してポピュレーションアプローチを含めた健康施策を考えていけるようになったんですね。

四方さん:弊社は製薬企業ということもあり、従業員の方にご理解を得るのに「健康になるからみんなでやりましょう!」という情緒的なアプローチだけでは難しい。やはり、ロジックやファクト、可能な限りの現状の可視化、エビデンスを提示しないと納得してもらえないと思っています。例えば、弊社は今年度から3年かけて社内禁煙を実現するという卒煙プログラム(禁煙施策)を開始したのですが、現場レベルから「健康経営で禁煙はもっともだけど、実際3年で達成は現実的ではない」と苦言を呈されることがありました。そこで、当社の健康経営施策は、ポピュレーションストラテジーに倣い体系的に取り組んでいるということを説明したんですね。「集団介入」はi² Healthcareやウェアラブルデバイス、「教育・啓発」は健康白書や拠点の健康イベント、「規制」は卒煙プログラム、「環境」は健康階段、立ち会議室……という具合に、禁煙! 禁煙! と声高に枝葉の話を言っているのではなく、体系的に網羅的に取り組んでいる。喫煙者の方だけを責めているのではありませんと。このようにロジックや根拠を明確に提示して説明することも、施策浸透の一つと思います。「健康になりましょう!」というムーブメントと、ロジックやエビデンスの合わせ技で初めて納得いただけるのかなと。

本社2階には、330年を超える田辺三菱製薬の歴史と日本の医薬品産業の歩みを紹介する史料館も(入場無料・要予約)

5.今後のコラボヘルスについて

─ 禁煙施策も健保組合とのコラボヘルスの一貫かと思いますが、今後のコラボヘルスの展望について教えてください。

四方さん:おっしゃるとおり、禁煙施策に踏み切ったのも、健保組合が持っていた他社の取り組みデータや実行の準備を進めていたアイデアがきっかけでした。健保組合と会社はそもそも役割が異なります。ですが、お互い「従業員の健康増進のために」という想いは一緒なので、健保組合が行っている保健事業も、会社と共同で行うことで、より従業員への周知がはかれ、実施率を高めることができると考えています。健保組合が独自で取り組んでいる施策に対して、会社施策として人事部長名で発信し連携することもあります。

─ コラボヘルスで強制力が必要なときは、人事部長から従業員に通達がいくということですか。

四方さん:正直、健保組合からの通達は、見逃してしまう従業員も多いのではないかと。既読スルーではないですが、特定保健指導の受診勧奨など、健保組合からの呼びかけだけだとなかなか動かない人もいます。そこで、人事部長や事業部の人事担当などから個人宛てのメールで通達が来ると、みんなドキッとして行くようになるんです。

─ 健保組合は、重症化予防などで特定保健指導を行わなければなりません。現状割合はどのくらいでしょうか。

四方さん:特定保健指導は50%くらいです。まだまだ数字を改善しなければならないので、これも今後の課題と言えますね。健保組合と人事部でタッグを組んで取り組んでいきたいと考えます。

─ 会社と健保組合のコラボヘルスでイベントなどは行っていますか?

四方さん:各工場や研究所などで、家族など社外の人も参加できるサマーパーティーを行ったりしています。今まで事業所単位でやってきた健康支援イベントは健保が費用を出し、健保に運営のお手伝いいただきながらイベントを実施していたのですが、健保と人事部で連携し、カロリー抑えめのヘルシーメニューを出したり、i² Healthcareブースを出して同意の呼びかけをしたり、かんたんストレッチ体操をやったり。手伝ってくれた従業員にはオリジナルTシャツを贈呈しています。参加している会社役員にもその場で着てもらっています。今年は4種類のデザインをつくったんですよ。裏面には弊社の健康ポリシーを英文で入れています(禁煙に関する過激なメッセージデザインもあります)。

─ おもしろい取り組みですし、チームの団結力も醸成できそうですね。

四方さん:ちなみに会社が合併してちょうど10周年ということで、DMP(Decade-Milestone Project)が動いており、社内活性化の諸施策が実行されています。プロジェクトのメンバーの発案で、Fitbitのデータを元にチームや個人で日々の活動量を社内で競うという企画で、いわゆる万歩計によるウォーキングキャンペーンに近いものですね。チームや個人で歩数をカウントし、「あなたの一歩がGIFT(贈り物)になる」というもので、歩数に応じて社会貢献団体に募金をします。期末には貢献した上位グループに会社公認キャラの人形をプレゼントするなど、気軽にゆるく続けられるようにしています。次年度は人事部とコラボして、残業時間も含めて結果を出すようにしたいな、と。要は、歩数が上がっていても、「社内を歩き回ってはいるけれど、非効率で残業が多い」ということだと困りますので(笑)。

─ いろいろおもしろい施策を考えていらっしゃいますね。先ほどの大規模サーベイの結果も非常に興味深いです。またぜひお話を聞かせてください。本日はありがとうございました。

<企業データ>

会社名:田辺三菱製薬株式会社
    Mitsubishi Tanabe Pharma Corporation
事業内容:医療用医薬品を中心とする医薬品の製造・販売
本社所在地:〒541-8505 大阪市中央区道修町3-2-10
資本金:500億円
連結従業員数:約8,457人

健康経営の取組み事例:田辺三菱製薬株式会社(前編)

2017年2月に、「健康経営優良法人~ホワイト500~」に認定された、田辺三菱製薬株式会社人事部健康推進グループマネージャーの四方 邦宗さんにお話を伺いました。インタビュアー:株式会社セルメスタ 代表 熊倉 利和

1.ホワイト500申請の経緯

─ まずは、ホワイト500に申請されるまでの経緯を教えてください。

四方 邦宗さん(以下、四方さん):もともと地道な取り組みを続けていましたが、2016年の4月に社長自ら全社グループの健康方針を、全従業員に向けて発信したのが第一歩だと思います。

─ 以前から健康経営に関して取り組まれていたとのことですが、産業医や看護職の方はいつごろからいらっしゃったんでしょうか。

四方さん:旧田辺製薬のころに遡りますと、大規模事業所(研究所・工場・本社機能)に看護職を配置し、拠点の健康管理業務に特化して診療所を設置していたので従業員の福利厚生的な側面から従業員の健康支援を行っていました。その後、診療業務より労働安全衛生法に基づく安全配慮義務遵守を重要視した体制となりましたが、まだ、拠点毎に運用が任されている体制でした。本格的には2011年頃から人事部内にも看護職を配置し、全社施策を展開していましたが、産業保健スタッフ部門は拠点ごと、人事部門は拠点をまたがる組織体制であり、全社施策の浸透には課題がありました。ようやく2014年頃から健康経営を意識した動きとなってきましたが、まだまだ経営層を巻き込んでまでの体制ではありませんでした。そこで、今年の4月から、人事部内に健康推進グループが新設され、企画職事務職と看護職からなる組織がスタートしました。

─ 健康推進グループは何人構成ですか?

四方さん:わたしを含めて9名です。埼玉や横浜にある研究所、東京本社、加島の看護職の方と本社のスタッフで構成しています。定期的に会社と健保組合は情報を共有し、相互の施策を検証し進めています。

─ いままで明確な部署がなかったところに、健康推進グループをつくって横串を指したかたちでしょうか。

四方さん:そうですね。これまで各拠点にいらっしゃる看護職の方は、連携してなにかをするというわけではなく(連携を模索する方もおられましたが)、それぞれが自分の城を守るような位置づけでした。そこで各々拠点を守りつつ横串を指し、全社で進めていく施策については連携できるようにしました。

─ 四方さんがグループ9名を統括されているんですか?

四方さん:はい、主に全社健康施策に関して一緒に取り組んでいます。グループにはわたしのほかにも同じく非医療職の研究部門出身のスタッフがいたり、元看護職の企画スタッフもいたりします。この部署は4月に新設されたばかりですが、4月末に健康経営施策を策定し、経営執行会議にて承認され実行フェーズに移るなど、非常にスピーディーに進みました。

─ ホワイト500の調査票にも、「誰にどれだけ報告をするか」といった項目がありますね。そういった意味で自然とレポートすることが求められるのではないでしょうか。

四方さん:はい。健康経営の推進を目的とした部署を設置し、その上位階層に人事部長や担当執行役員を設定したことで、ホワイト500の評価基準に則ったレポートラインができあがりました。以前から働いている看護職の方にも、4月以降、健康施策に関する社内の意思決定のスピードが上がったと言われています。

2.ホワイト500認定後、社内外の反応は

─ いざホワイト500に認定されてから、社内でどのような反応がありましたか。

四方さん:先ほどもお話したとおり、2016年4月にイントラで健康経営の方針が発信されたときは、良くも悪くも従業員のみなさんは「ふーん」といった反応だったと思います。ただ、今年4月に健康推進グループが立ち上がり、社長に再度メッセージを発信してもらって、従業員向けの健康白書も創刊したり、生活習慣病対策の一環でICTを活用した健康サポートシステムを導入し、希望者にウェアラブルデバイスを配布したりということで、「最近、けっこう力入れていますよね」と従業員の方から言われるようになりました。

─ 健康白書とウェアラブルデバイスについては、後ほど詳しく聞かせてください。では、社外からはなにか反応がありましたか。

四方さん:今年8月に行われた日本ヘルスサポート学会の第12回学術集会・総会にて、実践企業賞をいただきました。日本ヘルスサポート学会が企業と健保組合のコラボヘルスを研究していて、うまくコラボして取り組んでいる企業を表彰しているんです。企業と健保組合の両方の視点から施策を策定している点を評価されました。

─ 御社は健保組合を独自で持っていらっしゃるし、定期的に交流しているとのことなので、コラボヘルスも盛んなのでしょうね。

四方さん:はい。定例会でさまざまな話をしています。この7月には、先ほど述べた健康白書を健保組合と共同でつくって創刊しました。

─ 健康白書の中身を拝見しましたが、健康に関する詳しい知識を持っていない人でもパッとわかる白書に仕上がっていてすばらしいですね。

四方さん:読みやすさや親しみやすさを前面に打ち出しました。デザインもあえてアウトソースしています。弊社のキャラクターの「たなみん」を使うことで、生活習慣や飲酒・喫煙に関する従業員への注意喚起といった、該当者にとって耳の痛い言葉もきちっと届くようにしています。やはり健康が一番ですから、これに目を通すことで少しでも従業員の意識が高まればと願っています。

3.注力している施策について

─ 御社がいま注力している施策を教えてください。

四方さん:まず健康施策における検証(PDCA)について、会社だけでなく従業員自らも自身の健康状態のPDCAができるような取り組みを行っています。人事における健康施策というと、残業時間削減などの働き方改革が主になります。数値目標を打ち上げ花火的に出したものの、「実際、人事施策の効果や影響はどうなの?」という従業員の声もあろうかと思います。それに応えられるようi² Healthcareというシステムを導入し、Fitbit社のウェアラブルデバイスを従業員に配布することにしました。さまざまな製品があるなか、Fitbitを活用した医学的論文の投稿数はFitbitが一番多いらしいんですね。PCのUSBから簡単に充電でき、フル充電2時間で1週間持つので便利です。

─ 全従業員に配布しているんですか?

四方さん:はい。9月からシステムで管理する情報や本施策の趣旨等に同意いただける方に対して配布しています(11月時点で従業員カバー率70%)。i² Healthcareシステムやウェアラブルデバイスに関する説明会も定期的に行っています。従業員の方からは「GPS機能がついていて会社に管理されるのでは?」という不安の声もありますが、実際はこのデバイスにGPS機能はついていません。健康施策を行うのに場所は関係ないので……と説明して誤解を解き、本施策の理解を得るようにしています。

─ ウェアラブルデバイスで具体的にどういった数値がわかるんですか?

四方さん:歩数、距離、消費カロリー、心拍数、睡眠の質などです。摂取カロリーは手入力していただくかたちです。やはり、「会社に心拍数や睡眠まで管理されたくない」という従業員もいますが、看護職や産業医、健保組合が見られる情報は、歩数、距離などだけ。心拍数や睡眠の質などは個人を特定しての閲覧することはできない仕組みにしており、本施策の効果検証のために会社全体のマクロデータとして扱います。

Fitbit社のウェアラブルデバイスとスマートフォン用アプリ

─ 従業員の方はどのように自分の情報を確認するんですか?

四方さん:Fitbitで得られる情報のほかに、会社PCから、i² Healthcareの個人ページにアクセスして閲覧してもらいます。ひとつのクラウドのなかに、デバイスから得られる従業員の活動量と、会社が保有している健康診断のデータや働き方データ(勤怠管理システムから得られる情報)を入れて、従業員一人ひとりのマイページで確認できるようになっています。会社全体だけじゃなく、従業員にも自身の健康状態や、働き方のPDCAを回し、健康経営施策がどう当社の集団に対して効いているのか検証が必要だと考えています。PDCAのCに相当するのが健康診断結果で、これは車で言うところの車検のようなもの。加えてi² Healthcareでは、Fitbitから得られる日々のアクティブデータが記録されます。車で言うと毎日のアイドリングやエンジンの調子がどうかという情報も入ってきて、日々の健康情報が一目で確認できるというしくみです。

─ それだけの情報がi² Healthcareに集まると、アブセンティズムやプレゼンティズムもわかりますね。

四方さん:はい。日常の歩数や睡眠、心拍数、残業時間などが可視化されることで、自分の状態に気づき、意識を変えていただく。会社側から声高に「健康は大事だから日々意識してください!」だけではなく、まず自分で気づいてもらうことで健康に関する行動変容につながると考えています。「あなた、いい人になりなさい!」という道徳論的なアプローチだけでは人の行動は変わりません。日々の健康状態を可視化し普段の生活を意識して過ごすこと、普段の積み重ねが次の年の健康診断結果にどう反映されているかという方が、現実的で取り組みやすいと思います。

─ 健康診断のデータは御社が持っているんですか?

四方さん:はい、定期健康診断のデータは会社が持っています。特定健診については健保組合が持っているので現状では反映されていませんが、いずれ連携を拡大し、特定健診の結果も閲覧できるようコラボヘルスを進めていければと思っています。ウェアラブルデバイスとi² Healthcareというインフラが整ったことで、健康経営施策として古典的なハイリスクアプローチだけでなく、集団全体に対するポピュレーションアプローチもカバーすることが可能になりました。

─ ちなみにこのようなウェアラブルデバイスを使っている企業をほかにご存じですか?

四方さん:わたしが把握している限り、医薬品企業で、部分的なトライアルではなく全社的に導入したのは弊社が初めてではないでしょうか。これはホールディングスグループ全体での取り組みですが、なかでも生命関連企業としてまずは弊社が先行して開始しました。

後編では、ストレスチェックとの連携や今後のコラボヘルスについてお話しいただきます。

<企業データ>

会社名:田辺三菱製薬株式会社
    Mitsubishi Tanabe Pharma Corporation
事業内容:医療用医薬品を中心とする医薬品の製造・販売
本社所在地:〒541-8505 大阪市中央区道修町3-2-10
資本金:500億円
連結従業員数:約8,457人