健康経営の取組み事例:大塚製薬株式会社(前編)

健康経営の取組み事例:大塚製薬株式会社(前編)

2017年2月に、「健康経営優良法人~ホワイト500~」に認定された、大塚製薬株式会社。人事部 部長補佐で健康管理室室長の田中 静江さんにお話を伺いました。 インタビュアー:株式会社セルメスタ 代表 熊倉 利和


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1.社内外に発信し続けてきた、健康に対する意識

─ 御社は古くから健康に関する意識を社内外に発信していらっしゃいますね。健康経営の取り組みはどのような経緯で行われたのでしょうか。

田中 静江さん(以下、田中さん):当社は企業理念そのものが健康に関することなので、健康経営をしっかりやっていく必要があると考えていました。当時はまだ健康経営という表現はありませんでしたが、古くから社外の人に向けて発信していたことを、社員に対しても実践していこうということが、一つのきっかけになったと思っています。

─ 御社は「ポカリスエット」や「オロナミンC」など、健康に関する商品を多く販売されています。いずれも、私が子どもの頃からある商品です。長い歴史を持つ御社ですが、健康経営の社内の展開はいつ頃から行われていたのでしょうか。

田中さん:社外に対する販促活動から始まり、「健康ってこんなに大切なんだ」といったことを改めて社員に対してもアプローチし始めたのは、2006年頃です。とはいえもともと取り組みはありましたので、この時期に具体的な活動がスタートしたということです。

─ その社外に対する販促活動とは、具体的にどのようなことでしょうか。

田中さん:いわゆるスポ根のような時代は、部活動中に水を飲んではいけないといった風潮がありました。しかし、身体にとってどれだけ水分が大切かということを説くために、ポカリスエットを持って高校の部活動にお邪魔したり、学校全体に対してアプローチしたりという活動を熱中症という言葉にまだ馴染みがない1991年頃から行っていました。その後は、学校だけでなくスポーツ施設、工場や建設現場といった職場などにもお伺いして、熱中症対策に水分が大切だとアピールする活動をずっと続けています。

─ そういった社外でのマーケティングが、社内に対する啓蒙活動にも使われるようになったんですね。

田中さん:健康を考えることに対して、当然ですが社員は抵抗感がありません。お客様の健康を考える上で、そもそも社員が健康でなければいけませんから。社員も自分たちが健康であるからこそ、説得力をもってお客様にお話しできるという認識は強いと思います。

2.健康管理室と健康保険組合

─ 今までお伺いした取り組みのあと、2017年1月に健康宣言を出されました。

田中さん:健康宣言は、企業理念の内容と大きく変わりません。お客様に対して、あるいは企業理念として掲げていたことを、経営トップ自らの発信として宣言しました。

─ 健康宣言を出し、いざ健康経営というところで、ベースになったのが健康管理室ですか?

田中さん:そうですね。健康管理室は2014年にできています。社員の健康に関して責任を持って取り組む部署を明確にするという目的で設置され、私は人事部部長補佐と健康管理室室長を兼任しています。弊社は東京と徳島が大きな二つの拠点なので、今まで工場、研究所は徳島のやり方、本社以外の営業拠点は本社主導とそれぞれ独立してやっていた部分もありましたが、そこを統一して進めるようにしました。あとはグループ会社の方が進んでいる部分もあったり、逆にこちらが進んでいる部分もあったりするので、随時共有できるようグループ会議を継続して行っています。

─ 健康経営という旗印のもとに健康管理室が、本社、徳島、グループ会社に向けて旗振りをしているというかたちになっているんですね。ちなみに御社は単一の健康保険組合を持っていますよね?

田中さん:はい。健保は徳島にあります。ですので、徳島の健康管理室のメンバーが健保とうまく連携を取っています。単一健保なので、とてもやりやすいです。

─ ちなみに、徳島にも産業医や保健師がいらっしゃる?

田中さん:はい。健康管理室に所属しています。今後もっと広く深く活動していければと思っています。

─ 東京と徳島それぞれの健康管理室メンバーと、健保も含めた定期的な会議などは行っていますか?

田中さん:大塚製薬と大塚製薬工場と大鵬薬品で行っており、全社を対象にした内容を検討してきました。今は新しい試みとして、徳島エリアを重点的に行っています。そこだけで6,000人くらいグループ社員がいるので、その方たちを対象に、もう少し踏み込んだ活動をやりましょう、といった話をしています。そこでは3社だけでなく他のグループ会社や健保、自社の事業部も含めて進めています。

3.社内外の変化について

─ なるほどよくわかりました。このような流れで健康宣言をしてから、健康経営の部分でやりやすくなったところなどはありますか?

田中さん:やはり「世界の人々の健康に貢献する 革新的な製品を創造する」という企業理念があるので、我が社は健康に対する知見を持っている背景もあるし、社員の健康についても深く考えているだろうと、社員自身も漠然と思っていました。その中で改めてこういう宣言を出すことによって、さらに会社の姿勢をしっかり認識したという社員もいるし、「アルコールに関するアプローチをもうちょっと深めてやりませんか」といった提案をしてくれる部署もでるなど、やはり全体として健康に対する意識がより高くなったと感じています。

─ ホワイト500の認定を受けてからはいかがですか?

田中さん:会社でやっていることが外部の機関に認められたという意味では、社員が取り組みを認知して納得してくれたという実感があります。営業的にも、特にニュートラルシューティカルズ関連製品(人々の日々の健康維持に有用である科学的根拠をもつ食品・飲料)を扱う社員は、お客様とお話をするにあたって意識が高くなったとも聞いています。また、名刺に入れているホワイト500のロゴをきっかけに、あるいはそれ以外のところでもお客様から「ホワイト500に認定されたんですね」と話題になるなど、社外からの反応も大きいですね。弊社の取り組みをお取引先からご紹介していただいたり、「うちと共同でこういったこともできますね」といったご提案をいただいたりすることもあるようです。社員も社外からの期待に沿えるよう、恥ずかしくない対応をしなければと姿勢を正すきっかけにもなっているようです。このあたりは、ボトムアップ的に気持ちが盛り上がればいいなと思っています。

4.特徴的な施策について

─ では、御社の健康経営において、特徴的な施策を教えてください。

田中さん:実は2008年の話なのですが、「大塚ウェルネスプログラム」をやっていた頃、大塚製薬の約6,000名中600名以上の社員が一般的なメタボ基準に入っていました。

─ 1割ですね。割合だけ見ると、少ない数字ではありますが。

田中さん:そうですか、でも弊社では多いと判断し、その600名に対して、痩せるためのプログラムを大掛かりに実施しました。食事内容を見直し、さらに歩くこと+筋トレも。集合研修を開いて産業医の先生から話をしてもらい、しっかりレクチャーをしていただいた上で、プログラムの前後で血液検査まで行いました。その結果、600名トータルで2トン痩せることができました。各々自由な方法で取り組むのではなく、ある程度会社がしっかり決めた方法で実施しました。

─ 大掛かりな施策ですね。健康管理室ができる以前のことだと思いますが、人事主導でやられたのでしょうか?

田中さん:はい。担当役員が、しっかり取り組みなさいと先導してくれました。同時期、2008年に禁煙施策も行いました。肺がんで大切な社員を亡くしたという経験もあり、敷地内全面禁煙に一気に踏み込んだんです。弊社は「ものまねをしない」という精神がありますので、このような施策に関しても他社に先んじてやってきたという自負があります。

─ なるほど、他がやっているからやるのではなく、まだどこもやっていないことを先駆けてやるという精神なんですね。

田中さん:はい。禁煙施策は「禁煙100」と名付け、保健師が禁煙のフォローをしました。そのほか、特徴的な施策というと、2002年にさかのぼりますが、ピロリ菌の検査ですね。弊社は「予防から診断まで」という考え方で、トータルヘルスケアカンパニーと呼称しています。ピロリ菌の診断薬を用いて、希望した社員全員に検査を行いました。

─ 2002年にピロリ菌検査とは、かなり進んでらっしゃいますね。ちまたでは2016年、堀江貴文氏らが発起人となって、胃がんのリスクを高めるピロリ菌の除菌を普及する予防医療普及協会を立ち上げたところです。しかし御社は、もう15年前にピロリ菌に目を付けられている。

田中さん:そうですね。弊社でこの検査薬キットを出したときから行っています。また検査といえば、2007年より、30歳からの人間ドックの受診が可能になりました。受けられる期間が決まっているのですが、その間は6万円まで無償にしていますので、ほとんどの受診者が無償で人間ドックを受けられています。

─ 6万円まで無償というのはすばらしいですね。オプションなども付けていいんですか?

田中さん:はい、もちろん。ただ脳ドックなどを付けてしまうと、おそらく6万円をオーバーするとは思います。

─ 内視鏡やCTなどなら、6万円以内で受けられそうですね。

田中さん:30歳未満でも胃がんと婦人科検診は、通常の定期健康診断に加えられます。一定年齢以上といった定めはありますが、血便、大腸がんの検査、あとはクレアチニン、いくつかのプラスαの項目を追加するなど、通常の定期健康診断であってもある程度充実させるようにしています。

─ 30歳であれば通常は定期健診ですよね。しかし、せっかく6万円も補助があるのだから人間ドックを申し込もうという30代の方はどのくらいの割合ですか?

田中さん:30代全体で期間中の予約済みも含め、人間ドック受診率は75%でした。

─ 非常に高い数値ですね! 御社が他社のまねをせず、何ごとも先駆けて取り組まれていることがよくわかりました。

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後編では、大塚製薬ならではの健康イベントや自社製品の取り入れなどについてお話しいただきます。

<企業データ>

会社名:大塚製薬株式会社
事業内容:医薬品・臨床検査・医療機器・食料品・化粧品の製造、製造販売、販売、輸出ならびに輸入
本社所在地:〒101-8535 東京都千代田区神田司町2-9
資本金:200億円
従業員数:5,634名(2017年12月31日現在)

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