「企業は人なり」。長い歴史の中で培われた精神で健康経営を自然に実践する老舗印刷会社

1.健診や予防接種は会社の敷地内で実施

――まずは御社の歴史や事業内容について教えていただけますか?

木村さん:はい。わかりました。創業が1897年(明治30年)ですから、2017年で120周年を迎えることができました。

まず博文館という出版社があり、その印刷工場として博文館印刷工場を創設したのが始まりですね。スタートは書籍や雑誌の印刷なのですが、やがて、紙だけではなく、布、金属、チューブなどにも印字する総合印刷へと事業を拡大していきました。たとえば、紙とチューブ用の印刷機は全く違うものですし、その都度新しい事業を手がけるイメージだったのだと思います。

――なるほど。常に新しいことにチャレンジされているのですね。現在も印刷だけでなく、ITを駆使したマルチメディア展開などにも積極的に取り組んでいらっしゃいますものね。それにしても、この小石川の本社は敷地がとても広い。今、共同印刷グループで何人くらいの方が働いていらっしゃるのでしょうか?

木村さん:派遣の方なども含めると3600人くらいです。この小石川の本社だけでも1500人くらいはいると思います。診療所があって産業医もいてくれますし、健康診断などもこの敷地内にある厚生会館でおこなっています。

――えっ、社内で健康診断を受けることができるのですか?

下地さん:はい。厚生会館の2階が体育館くらいの広さがあるホールになっていますから、そこに心電図などの機材を運び込み、おこなっています。また、厚生会館では健康診断だけでなく、インフルエンザの予防接種も受けることができます。今では費用も全額会社負担になったので「タダなら受けておこうかな」という人もいて、希望者も増えていますね。

――健康診断は巡回バス健診が来たりするとこもありますが、普通は病院に行ってというところが多いですから、従業員の方にとっては手間がかからず、メリットが大きいですね。健診関係で他に何かしていることはありますか?

木村さん:はい。私たちは仕事柄、長時間パソコンを使っているので、VDT健診(職場でコンピューターを使用する人などを対象にする健康診断)もおこなっています。健康保険組合が主体ですが、婦人科検診や人間ドックもメニューを充実させて実施しています。また健康診断ではありませんが、メンタルヘルスも月に一度、専門の先生に来ていただいています。

下地さん:それに、40歳以上を対象とした特定保健指導の項目も、当社では35歳から同じ検査を受けていただいています。

木村さん:健診関係以外では、食にも力を入れています。社員食堂で出される食事にはカロリーや塩分を表示していますし、白米を雑穀米にすることもできます。

下地さん:毎日小鉢も選べて、「鉄分を多くとりたい人のための小鉢」「目が疲れた人向けの小鉢」などもメニューに入れています。

カロリーや塩分が表示されたメニュー

食堂の案内板

2.人事部・健保組合・診療所が三位一体となる

――素晴らしい取り組みをされていますね。それができるのも、敷地が広く、建物や設備が充実しているだけでなく、健保組合や診療所との連携がうまくいっているからですね。

木村さん:おっしゃる通りです。ただ、以前は、正直うまく連携が取れていない部分もありました。でも、会社で健保組合や診療所を持っていることが共同印刷の大きな強みだよね、という話が出てきて、それならば連携を強化しよう。人事部・診療所・健保組合が三位一体となり、社員の健康づくりを推進していこうとなったんです。

下地さん:担当者レベルでしっかりと連携できるようになったのは、この2、3年ですかね。今は月に一回、打ち合わせをおこない、診療所に常駐している看護師さんにも入っていただいて、従業員の健康づくりについて話し合っています。

木村さん:たとえば、「二次検診の受診率を上げよう」「じゃあ、二次検診の受診率を上げるために何をすればいいか」と具体的な課題を挙げて、率直に意見を交換しています。時には健保組合や診療所の方から「人事部ももっと積極的に動いてください」とお叱りを受けることもあるんです(笑)。

下地さん:健康診断(一次健診)の結果は健診機関から人事部に届きます。それを診療所に渡し、二次健診や治療が必要な人はもちろん、食習慣の指導が必要な人もリストアップしています。それを元に人事部が対象者に案内を出すといった流れです。特定保健指導でも、健保組合が主体となり、同じようにおこなわれます。

木村さん:会社内でも連携しており、通常の健康診断(一次健診)でも受けていない人がいたら、「そちらの部署は7人受けるはずなのに、まだ5人しか受けていませんよ」とその部署の担当者にメールがいくようになっています。

3.優秀なる製品は健康なる技師の手になる

――いや、驚きました。徹底されているんですね。なぜそこまでできるのでしょうか?

木村さん:社長の藤森もよく「企業は人なり」と言っていますが、もともと会社全体に人を大切にするという意識が浸透しているんですね。というのも、共同印刷は昔から品質に強いこだわりを持っていますが、その大前提として「心身ともに健康でないと良いものは作れない」という考え方が根付いているからなんです。

昔の社内報には、「優秀なる製品は健康な技師の手になる」という文章が載っています。技師というのは、今でいう印刷のオペレーターなどの作業者。そういう人たちが心身ともに元気でないと良い製品は生まれないという意味です。
その言葉は健康経営宣言にも使われています。今も私たちにしっかりと受け継がれているんです。

――さすがです。現在、健康経営で特に力を入れていることはありますか?

木村さん:はい。一つは、先ほども話に出た健康診断の二次検診受診率の向上です。そして、もう一つが卒煙(禁煙)です。なぜ卒煙かというと、ホワイト500を申請するに当たりデータを集めたのですが、共同印刷全体の喫煙率が35.5%もあったんです。

下地さん:その後、喫煙率は下がる傾向にありますが、それは社屋の建て替えで煙草を吸える場所が減ったことが一因だと思います。各フロアにあった喫煙所が職場から離れた場所にしかないという状態になりました。ヘビースモーカーでない人は煙草を吸える場所を探し回ってまでは吸いませんからね。

木村さん:実際、本社に限って言えば、喫煙率は20%台に抑えられています。ところが、工場だと40%を超えるところもあるんです。さすがにこのままではいけないと対策を採り始めました。

――そういう、いわば健康についての無関心層には、具体的にどうやってアプローチしていきますか?

木村さん:やはり効果的なのは、トップからのメッセージだと思っています。より効果を高めるために、「煙草にはこういう害があります」というデメリットを強調するのではなく、「煙草を止めたらこういうメリットがありますよ」というポジティブな情報とともに発信したいと思っています。ただ、いきなりそうしたメッセージを届けても、気持ちに響かない部分があるでしょうから、今はまず土台作りとして、工場などに「禁煙」「卒煙」のポスターを張ったり、冊子を置いたりしています。そうやってある程度、意識を浸透させてから、オリジナルツールを作成し、発信していきたいです。

――それはうまい方法ですね。工場などの環境面でも何か工夫をしていきますか?

木村さん:私はもともと工場で働いていましたが、休憩時間になると、煙草を吸う人が吸わない人を、「一息入れに行こう」と喫煙所に誘うシーンを目にします。そうなると、せっかく煙草を止めた人がまた吸い始めるきっかけにもなってしまう。なぜそういうことが起きるかというと、「喫煙スペース=休憩スペース」になっているから。こうした喫煙のきっかけになる要素を消すなど、環境面からもいろいろ工夫していきたいと思っています。

――禁煙外来とかニコチンパッチなどの費用を補助するといったことは考えていませんか?

木村さん:それも考えています。ですが、まずはお金をかけずどこまでできるかやってみよう、と。なぜかというと、喫煙者にだけ費用をかけるとなると、もともと吸わない人にとって不公平感が生まれてしまう。まずはお金をかけずに対策を打ってみる。それでも止められない人は依存症の可能性もあります。そうなると、病気だから治療が必要だねと納得感が出て、禁煙外来やニコチンパッチといったことまで踏み込む必要への理解も得やすいのではと考えています。

4.ホワイト500申請のきっかけと社内外の変化

――健康経営優良法人(ホワイト500)に申請したきっかけを教えていただけますか?

木村さん:人事部として、社員の健康づくりにこれからどう取り組もうかと模索していた時、健保組合のほうから健康経営優良法人認定制度の存在を教えてもらいました。申請するため、まず上層部へ健康経営優良法人認定制度、ホワイト500とはこういうものですよ、という説明から始める必要がありましたが、チェック項目については、それまでに共同印刷や健保組合、診療所が実際にやっていることを整理したら、自然に埋まっていきました。

――それは大変素晴らしいです。人を大切にするという企業風土の中で知らないうちに健康経営に取り組んでいたということですものね。認定を受けた後、変化はありましたか?

木村さん:採用担当にも聞いてみましたが、正直まだ表立った大きな変化はないですね。それというのも、2018年7月に健康経営宣言を出して、認定を受けたのが2019年の2月。ですから、就活をしている学生さんにはまだ情報が届いていない状態なんです。

ただ、ホームページでもホワイト500の認定を受け、健康経営に取り組んでいることをアピールしていますので、これから採用面でも良い影響が出てくると思います。むしろちょっと心配なのが、社内にあまり浸透していないこと。実は、この『健康経営の広場』のインタビューをお受けした理由の一つに、社内へのアピールということがあるんです。

――確かに、健診やインフルエンザ予防接種が社内で受けられること一つとっても、当たり前のことじゃないですからね。そういうことが社員の方々に伝わると、意識も変わり、受診率もさらに高まるかもしれません。

木村さん:そうなんです。健康経営に対する認知度が高まり、今までは健康に無関心だった人から「じゃあ、煙草止めてみようかな」という声が聞こえてくることが、推進する側の私たちの何よりものモチベーションになります。

――2019年度のホワイト500に認定されたわけですが、今後も続けられますか?

木村さん:もちろんです。ただ、健康優良法人認定の制度に変更があり、今のままの取り組みでは上位500社に入り、ホワイト500に認定されるかどうかわからない。ですから、よりブラッシュアップしていく必要があります

5.働き方改革、高齢化社会など時代の潮流に対応

――健康経営に限らず、人事部としてこれから取り組んでいきたいことはありますか?

木村さん:はい。働き方改革もテーマの一つです。今、働き方改革推進室がメインとなって残業時間を減らす取り組みなどをしていますが、健康経営とも重なる部分が出てきますので、人事部としても健康経営と絡めて働き方改革にも取り組んでいかなければと思っています。

通信技術も進化し、テレワークも浸透してきています。ただ、印刷などは専門の機械を使ってしかできないので、やはり工場に来て働く必要があります。とはいえ、私も工場出身。工場で働いている人の気持ち、勤務実態もわかるので、それを活かして施策をおこなっていきたいですね。

下地さん:実際、工場の中でも総務などデスクワークをしている人もいますし、そういう人たちからはフレックスをやりたいという声が届くようになっています。より働きやすい環境を整備していくことに、さらに力を入れていきたいですね。

――確かに、今、健康経営、働き方改革、女性の活躍推進に象徴されるようにワークスタイル、ライフスタイルに対する意識も大きく変わろうとしていますね。

木村さん:おっしゃる通りです。産休・育児休暇についてはホワイト500に申請する前から力を入れており、たとえば、時短勤務もお子さんが小学校3年生になるまで制度を利用することができます。

また、介護休暇の取得も推進しています。いざ親御さんなどの介護が必要になってから慌てないよう、事前に制度についても知っておいてもらうため、従業員向けに、毎年介護セミナーを実施しています。介護に直面する可能性の高い人に向けたものと、すぐにではないけれど将来を見据えて介護について知っておきたいという人に向けたもの。会社としてこんな支援をしています、こんな働き方ができますといったことを伝えるセミナーです。

――御社も創業120周年を機に、新コーポレートブランド「TOMOWEL(トモウェル)」も生まれましたし、ますます人を大切にする企業になっていきそうですね。

木村さん:ありがとうございます。私たちの想いは、TOMOWELと、コーポレートメッセージ「共にある、未来へ」に凝縮されています。社員だけでなく、取引先や地域の方々も含め、関わるすべての人とともに良い関係を築き、未来を創りあげていきたい。その実現には、「健康」が欠かせません。さらに社員の健康づくりに力を入れていきたいと思っています。

【インタビュー後記】

今回は東京・小石川にある共同印刷さんの本社で取材をさせていただきました。特に感銘を受けたのが、広々とした敷地内に診療所や健保組合あり、密な連携を取りながら社員の健康づくりに取り組む姿勢。健診やインフルエンザ予防接種などが自社の敷地内でおこなえたり、社員食堂にはヘルシーなメニューが並んでいたりとまさに至れり尽くせり。

興味深く感じたのが、人事部を始めとした共同印刷の皆さんが、これらをごく当たり前なことであり、特別であると思っていないこと。それは「企業は人なり」「優秀なる製品は健康な技師の手になる」という精神が今もしっかり継承されている何よりもの証拠です。ホワイト500の認定を機に、2019年度を「健康経営推進元年」と位置付け、さらに取り組みを一層強化していくとのこと。日本の印刷技術や出版文化をリードしてきた共同印刷さんが、健康経営においても、私たちのお手本となり、時代の先を行く取り組みをされていくことは間違いないでしょう。

<企業データ>

会社名:共同印刷株式会社
事業内容:印刷事業を中核とし、幅広い製品やサービスを提供
所在地:東京都文京区小石川4丁目14番12号
従業員数:2,027名(契約社員含まず。2019年4月1日)

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