【SANYO-CYP】パーパスと健康経営で最大の危機を脱却。「定年退職時、ここで働いていて良かったと思える会社」に

SANYO-CYPは大阪市中央区に本社を置く印刷会社。使用していた洗浄剤が原因となった従業員の職業性胆管がん問題という大きな危機を、パーパスや健康経営によって乗り越えていきます。その経緯を山村社長と健康経営リーダーの新谷さんに伺いました。(インタビュアー:健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表取締役  熊倉 利和) 

〔株式会社SANYO-CYP〕

山村健司さん(代表取締役社長)

新谷幸一さん(健康経営リーダー) 

1.胆管がん問題から生まれたパーパス

――まずは御社のことについて教えてください

新谷さん:はい。SANYO-CYPは大阪市中央区に本社を置く印刷会社です。製版から色校正までを一元管理し、お客様のニーズにきめ細やかにお応えしています。

――御社はパーパスをとても大事にしているとお聞きしています。

新谷さん:おっしゃる通りです。当社のパーパスは『社員が退職する時にこの会社で働いてきて良かった、さらに自分の子供や孫にもこの会社で働いてもらいたい』。そのパーパスを達成するために『わたしたちは彩りのプロフェッショナル集団として豊かな生活を創造します』という経営理念があり、具現化するための行動指針が『わたしたちは「行動のひとつひとつがGIFTとして届いているか?」問い続けます』。

この場合のGIFTとは、感謝の気持ちがあってこそ生まれるものです。お客様は私たちを信頼して仕事を依頼してくれる。私たちはそのことに感謝しながら、心を込めて製品をつくる。その製品がお客様や社会の役に立つ。そのようなGIFTを贈り続けることで、人々の笑顔や豊かな生活を実現させることが私たちの使命です。GIFTを贈るのは、社員同士、社員の家族に対しても同じです。

――御社がそのようなパーパスや経営理念、行動指針を掲げるようになったきっかけはありますか?

山村社長:はい。2012年の職業性胆管がん問題が契機となりました。原因としては、印刷機のインクを拭き取るために使っていた洗浄剤に含まれる1,2-ジクロロプロパンという化学物質が強く疑われ、報道でも多く取り上げられました。当時、私は35歳。経営者ではなく営業担当でしたが、前面に立って問題の解決に取り組んでいく中で、このパーパスが生まれていきました。

――経営者ではなく、営業担当だった山村さんが矢面に立つことになったのはなぜですか?

山村さん:一つには、大学時代に私自身がその現場でアルバイトとして働いていたことがあります。つまり洗浄剤を暴露していましたので、胆管がんになる可能性があり、今も定期的に胆管がん検診を受けています。また、当時、現場で一緒に働いていた正社員の皆さんのこともよく知っていました。

私自身、真実を知りたいし、一緒に働いていた人たちのことも何とかして守りたい。そういう想いで必死に動いていると、情報も入ってきますし、助けてくれる専門家の先生とも出会い、気がつくと最終責任は私が負うという気持ちでこの問題に取り組んでいました。

2.負け戦でも逃げなかった社員たち

――報道(厚生労働省の研究班による調査結果)によると、洗浄剤に含まれる1,2-ジクロロプロパンでの毒性試験では、発生頻度・発生数に有意な変化が認められなかった。との報道でしたが、古い洗浄剤が残っていないため、原因は特定できなかったとのこと。当時、社員の皆さんのお気持ちはどうでしたか?

新谷さん:原因がまだ特定できていない段階にも関わらず、大手新聞社はSANYO-CYPが全部悪いという印象を受ける記事を書いていました。それはフェアではないですし、悔しさでいっぱいになりました。

山村社長:会社が今後どうなるかわからない状況の中で、正直、私も心が折れかけていました。それにも関わらず、「健司さんと一緒に最後まで会社に残る」とみんなが言ってくれ、社員の8割は会社に残ってくれました。それが涙が出るほど嬉しかった。今、思えば一緒に戦っていくという気持ちでみんなの心が一つになっていたのだと思います。

新谷さん:そうですね。本人も言うように、当時の健司さんはボロボロになっていました。

熊倉:山村社長のことは、健司さんと呼んでいるのですね?

新谷さん:はい。ウチは役職では呼びません。こういうインタビューの場では社長と言ったほうがいいのでしょうが……。

熊倉:いえ、いえ、そのままで続けてください。

新谷さん:健司さんは自分自身がボロボロになっている。それなのに何ら包み隠さず、状況をありのままに私たちに伝えてくれました。ここまで正直に話してくれるなら、仕事うんぬんというより、人として信頼し、支えていこうと思いました。

――当時、山村社長は営業担当であり、経営者ではありませんでしたね。

新谷さん:私たちからすると、直接、経営者にはモノを言いにくい部分もありました。その点、健司さんは毎日、各部署を回って「今日は暑いねえ」「調子はどう?」と気軽に話しかけてくれ、壁をつくらなかった。本当は自分自身がとても苦しいはずなのに、私たちを気遣ってくれました。話しているうちに健司さんの人間性、人となりがさらにわかってきて信頼感も深まっていきました。

――まるで戦国時代の武将と重臣たちのようですね。織田信長や豊臣秀吉が攻めにくるが、みんな一丸となり、命がけで国を守り抜くというような……。

新谷さん:それくらいの気概は持っていたかもしれません。新聞などの報道で当社が世間の敵にされてしまいました。朝、出勤したら会社の周りにカメラマンやマスコミの人間が大勢いる。そんな状況に置かれて、「なにくそ、負けへんぞ」という気持ちはみんな少なからず持っていたと思います。

3.健康経営で特に力を入れる4項目

――大阪市立大学病院(現大阪公立大学) 久保医師先生のご尽力、小野薬品工業さんのご協力もあり、オプジーボ投与により良い結果が出てきました。健康経営をスタートさせたのはその頃ですか?

山村社長:そうですね。パーパスの策定に着手していた頃、優良法人認定制度が始まることを知り、健康経営に取り組むようになりました。

健康経営の中でも、当社が特に力を入れているのは「管理職・従業員への教育」「適切な働き方の実現に向けた取り組み」「コミュニケ-ションの促進に向けた取り組み」「私病等に関する復職・両立支援の取り組み」の4項目です。

まず「管理職・従業員への教育」ですが、これはビジネスだけでなく、人としての教育もする必要があると考えています。自分のためだけに仕事をしていたら他の人は動いてくれません。例えば、困っている人がいたら何とかして助けてあげたいと人は自然に思うものです。そういう人の情や思いやりがなければ、人への指導はできないし、体調面などの配慮もできない。そのことは「適切な働き方の実現に向けた取り組み」に繋がります。

「コミュニケ-ションの促進に向けた取り組み」についても同じ考えですし、「私病等に関する復職・両立支援の取り組み」も必須条件となります。ただ、これらの取り組みに力を入れることは特別なことではなく、人として、会社としてごく当然なことだと思います。

4.健康経営によって全てが循環していく

――健康経営に取り組んでから社内に変化はありましたか?

山村社長:はい。例えば「管理職・従業員への教育」の一環として、8年前(2014年)から大阪市産業経営協会の次世代アカデミーの研修を社員に受けてもらっています。もちろん費用は会社で負担しますが、その分リターンも求めます。つまり、学んだことを社内に持ち帰り、良い影響をもたらすことを期待します。

例えば、新谷さんなら健康経営というようにそれぞれが担当を持ち、会社が活性化していくことに力を発揮してもらいます。それを続けていると、社外の人からもSANYO-CYPが活気のある会社として捉えてもらえますし、そうなると一度は失ったお客様が戻ってきたり、新規顧客の獲得に繋がっていきました。

――それは素晴らしいですね。

山村社長:ありがとうございます。そういった活動をする際、大切なのは経営者やリーダーが率先して学び、行動しなければいけないということ。リーダーたちがそうすることでやがて社員も自発的に動くようになります。健康経営を取り入れてから、とてもいい循環が生まれるようになりました。

――山村社長ご自身も学ぶことを大切にしていますね。

山村社長:はい。私も2012年から2014年にかけてグロービス経営大学院で学び、MBAを取得しました。実は卒業後、当社の洗浄剤による胆管がんへの取り組みをご評価いただき、2019年『グロービス アルムナイ・アワード』の『変革部門』を受賞しました。

当社のこの問題はリーダーシップ開発と倫理価値観という科目名でケーススタディとして教材にもなっており、聞くところによると「あなたはこのような状況に置かれた時、どうしますか?」というテーマで授業が行われているとのことです。

5.働きがいを超え、仕事が生きがいに

――会社としての大きな危機を乗り越えた今、振り返ってみて思うことはありますか?

新谷さん:胆管がんの問題を抱えていたあのどん底の時代に戻りたくないというのが正直な気持ちです。そのために何をすればいいかといえば、お客様にどうやったら喜んでいただけるかを考えることが一番大事。健司さんは常に私たち社員に対して感謝をしてくれています。その気持ちを私たちはお客様に向け、お客様の望むこと、あるいは望むこと以上のことをどうやればできるかと自発的に考えられる社員が多くなったと感じています。

――社員の皆さんは他社でも十分通用する実力を持つほどに成長。転職などを考えることはありますか?

新谷さん:確かに給与だけを見るなら、他にもっといい会社はあるでしょう。ですが、経営者と社員の関係、社員同士の関係も含め、トータルで言えば、ウチの会社よりいい会社はありません。少なくてもそう簡単には見つからないと思います。そんな会社を苦労して見つけることに時間を使うくらいなら、SANYO-CYPでこれから何ができるかを考えるほうが楽しいし、充実しています。

――もしかしたら働きがいをこえ、仕事が生きがいになっているのではありませんか?

新谷さん:そうですね。仕事に熱中し、頑張っている最中にこそ生きがいを感じられるのかもしれません。ただ単に人から言われたことをこなす仕事なら生きがいには繋がらないでしょう。自分で考えて取り組めるからこそ、生きがいを感じることができるのだと思います。

――山村社長は、今後、会社をどのようにしたいと考えていますか?

山村社長:会社としての明確なゴールはないのだと思います。というのも時代によってニーズは変わっていくから。例えば、コロナ禍になり、テレワークを導入するなど働き方、生活様式も変わりました。時代とともに、人も会社も成長し続けないといけません。

その中で私たちが目指し続けるのは、定年退職時にこの会社で働いていて良かったと思ってもらうこと。このパーパスを追いかける過程で会社も変わり、進化と成長を続けることが必要となります。

ありがたいことに、私は今こうして取材を受けたり、講演会をやらせていただいたりしています。順風満帆に見えるかもしれませんが、取材や講演の依頼を受けるようになったのは、たった5年ほど前から。

SANYO-CYPは完成した会社でもありませんし、成功した会社でもありません。成長段階の未熟な会社です。それを今、完成形に向け創り上げていく途中です。みんなで努力を続け、定年退職時にこの会社で働いていて良かったとさらに思ってもらえるようにすることに尽きます。

【取材後記】

何ら包み隠さず、誠実に真実を語る山村社長。その山村社長の人柄を信じ、一緒になって問題に立ち向かっていった新谷さんをはじめとした社員の皆さん。経営者が切実に社員の幸せと健康を考える。社員はその想いを受け止め、安心して仕事に没頭する。こういう信頼関係があるからこそ、大きな危機を乗り越え、健康経営やパーパス経営を成功させることができたのだと思います。なお、山村社長が胆管がん問題に取り組んでいった様子については【シリーズ:私の生きがい組織】で詳しく触れていますので、合わせてお読みください。

<企業データ>

会社名:株式会社 SANYO-CYP

事業内容:印刷に関わる企画・デザイン・データ加工・試作・印刷・加工・サポート/WEB、VR/ARなどデジタルデータの企画・制作・販売/一般写真および商業写真・動画撮影

所在地:〒540-0014 大阪市中央区龍造寺町8番15号

資本金:5,000万円

社員数:108名

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