【IKIGAI企業インタビュー】お客様目線で社員を見る。愛に満ちた教育と健康経営で社員を輝かす(津軽警備保障株式会社)

津軽警備保障株式会社は1973年創業の青森県弘前市に本社を置く警備専門会社です。2021年から4年連続でブライト500企業*1に認定され、健康経営にも力を入れています。昨年8月、山口道子さんが会長に退き、吉田勇太さんが新社長に就任。今回は、社員の働きがいを高め、会社と社員を輝かせるための取り組みについて山口会長と吉田社長にお話を伺いました。 (インタビュアー:健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表取締役  熊倉 利和)

〔津軽警備保障株式会社〕

山口道子さん(代表取締役会長)

吉田勇太さん(代表取締役社長)

1.社員を守るため、専業主婦から代表取締社長へ

――では、津軽警備保障さんについてお聞かせください。

山口会長:はい、弊社は弘前、青森市を拠点とした警備専門の会社です。具体的には機械警備・ホームセキュリティ、施設警備、イベント警備など警備に関する業務を幅広く行っています。今年(2024年)、創業51周年を迎え、社員は100名になりました。

――創業50周年の昨年、山口さんが会長に退かれ、新社長に吉田さんが就任されたそうですね。
山口会長:はい、昨年8月に吉田が4代目社長に就任しました。私はこれまで、社員教育や健康経営に力を入れ、社員1人ひとりを大切に想うことで会社の土台を作ってきましたが、今はそれだけでは足りません。これからの時代、警備会社にはAIやDXの導入が必要になると思いますし、吉田がその分野を成長させてくれると期待しています。社長交代にはいくつか理由がありますが、それが大きな理由のひとつです。

――山口さんが社長に就任したのは平成8年でしたね。就任前は、何をされていましたか?
山口会長:実は、専業主婦だったんです。津軽警備は、私の父が昭和48年に創業したのですが、創業後数年で他界し、母が会社を引き継ぎました。しかし、平成5年頃に母もくも膜下出血を起こし、寝たきりになってしまいます。寝たきりの母、父が残した借金、社員を抱えた状態で会社を廃業にする選択はなかった。ただ、最初は会社を手伝っても軌道に乗ればすぐに辞めるつもりだったので、寝たきりの母を数年は社長にしたままでした。しかし、入社した段階で実質経営を担っていたのは私でしたので、腹をくくり、平成8年に会社を継ぐ決意をしたという感じです。

2.社員教育を重視した経営戦略とコミュニケーション

――大変な経験をされましたね。山口さんの社長時代は、特に社員教育に力を入れていたと伺いました。元専業主婦だからこその目線があったのでしょうか?

山口会長:そうですね。元々専業主婦でしたし、なんの資格も持っていません。だからこそ、利用者、一般の方から見て弊社の警備員がどのような印象を受けるかという点を意識し、社員教育に尽力することにしました。

――具体的にどのような教育を取り入れたのでしょうか?

山口会長:社長に就任した頃、私のなかで警備員はだらしないイメージが正直、強かった。それを払拭すべく、まずは挨拶から始めました。本当に基本的なことですが、服装を整え、言葉遣いや遅刻に対する指導まで行いました。

――吉田さんが入社したのが平成12年ですよね。その頃の会社はどんな雰囲気だったのでしょう?
吉田社長:当時は、社員に高齢者の方が多く、事情あって定年前に仕事を辞めた人が再就職するような会社だという印象を受けていました。今でも覚えているのが、「この会社はあなたみたいな若い人が来る場所じゃないよ。悪いこと言わないから早く辞めなさい」と入社後すぐに社員に言われたことです。

山口会長:あの頃は、借金もあり苦しい時期でしたが、みんなが頑張ってくれたおかげで業績も向上し、若い世代の社員も増えています。

――専業主婦から社長になられ、覚悟をもって教育・指導にあたられたと思います。それに対して不満を持ったり、反抗するような社員はいなかったですか?

山口会長:私の気持ちが伝わったのか、いなかったですね。本当によくついてきてくれたと感謝しています。それと社員とのコミュニケーションを大事にしてきたことがよかったのかもしれません。警備の仕事は、直行直帰の場合も多く、社員と顔を合わせる機会は多くありませんので、1人ひとりに手紙を渡すなど気持ちを伝える工夫をしていました。

――なるほど。コミュニケーションを深めるための取り組みはその他にもありますか?

山口会長:はい。ウォーキング大会や懇親会など親睦を深めるためのイベントを実施しています。ただ、勤務配置の都合で全員では行えないので、数回に分けて開催し、希望者ができる限り参加できるように工夫しています。

3.社員の大病をきっかけに健康経営を強化

――山口さんが社員を人財と呼び、大切にしていることが伝わります。その一つの表れが健康経営だと思いますが、健康経営を始めるきっかけは何でしたか?
山口会長:社員が大病を患ったことがきっかけです。2007年頃、ある社員に潜在結核感染、いわゆる隠れ結核が見つかりました。健康診断は受けていましたが、本人は健診結果をあまり気にしておらず二次検診を受けていなかったのです。

そして、その翌年、別の社員に大腸癌が発覚。1年前の健康診断から“要検査”と指摘されていましたが、すぐに病院に行かず、発見が遅れてしまいました。

――二次検査の重要性に気づかれたのですね。

山口会長:はい。ただ、健康診断は会社の義務で行えますが、二次検査の義務付けはできません。そこで産業医に相談し、二次検査が必要な社員の健診結果にはとにかく大きい丸の印をつけ、危機意識を持ってもらう工夫を取り入れました。それが、2009年頃ですね。

――健康経営という言葉が世の中に出てくる前から、実践されており素晴らしいです。他に実施されていることはありますか?

山口会長:警備員は人と接する仕事ですので、安心して働けるようインフルエンザの予防接種の費用を全額会社で負担したり、健康診断受診時間は就業時間として扱っています。また、禁煙にも取り組んできました。

――会社を挙げての禁煙に取り組んだとお聞きしました。

山口会長:そうなんです。きっかけは、テレビの取材です。弊社の健康経営の取り組みを知ったテレビ局さんから、「禁煙外来に通い、禁煙に取り組む社員をニュース番組内で追う企画」のオファーをいただきました。実際に出演した社員は、その体験を通して本当に禁煙に成功したんです。

吉田社長:青森県は、働き盛りの30代の喫煙率が全国的に高く、当時の社員の喫煙率は6割を超えていました。2009年に取り組みを始め、そこから10年以上かかりましたが、現在は喫煙率0%になっています。

山口会長:それと弊社では教育研修が4回/年あり、研修後レポートを必須にしています。そのレポートに「現在の喫煙状況」を書き込んでもらい、意識付けや禁煙状況の把握をしていました。

現代だと、このような取り組みがパワハラに当たらないかと心配に思うこともあります。でも、私はみんなが健康でいて欲しいと思っているから、愛を持って言っているといつも社員に伝えています。私、すっごく暑苦しいですよね(笑)。

――いえ、そんなことはありません。山口さんの熱い想いが社員に伝わり、喫煙率0%が達成されたのだと思います。

4.オリジナルの「競技大会」で働きがいを生み出したい

――社員の働きがいが少ないのではないかと悩まれたそうですね。

山口会長:はい。弊社の社員は他の警備会社と比べても接遇やマナーなどを適切に行っている自信があります。しかし、警備の仕事はインフラ事業のようにそれを“行えて当たり前”で、怒られることはあっても、褒められることはほとんどないのが実情です。
また、お客様からの感謝の言葉は働きがいのひとつだと思いますが、コロナ禍でその機会も減ってしまいました。

吉田社長:そうなんです。警備の仕事はトラブルがなければルーチンワークになってしまうことも多く、評価を得るために個人がアピールできる場もありません。「ルーチンワーク」「評価されない」ことが若者の離職率を上げているのではないかと懸念していました。

――働きがいを感じてもらうために工夫されたことはありますか?

吉田社長:仕事を評価されて表彰されるなど、個人がフォーカスされる経験を提供できると働きがいに繋がるのではないかと考えました。そこで、2021年から導入したのが弊社オリジナルの「警備技術競技大会」です。この競技大会は2人1組で出場する仕組みです。2人で競技に参加することで、練習を通じ、社員同士のつながりを深め、お互いが刺激となることも狙っています。

――それは斬新ですね!競技大会を通じて、社員個人がアピールできる場を自社で作り提供しているんですね。

吉田社長:そうですね。社長賞や会長賞、個人賞を作り、表彰しています。努力が結果となって見えたり、警備技術が評価される体験が働きがいに繋がったらいいなと思っています。

5.社員が幸せになる選択をしてほしい

――山口さんの会社への想いをお聞かせください。

山口会長:吉田は、50年の歴史を絶やさないように100年企業にしたい、後世にこの「津軽警備」という名を残したいと言ってくれていますが、私はそんなことにこだわる必要はないと思っています。

私が社長時代の弊社は、たまたま取引先企業が成長し、私たちも一緒に頑張ることで会社を大きくすることができ、幸いにも50年間会社を存続することができました。でも、これは“運”がよかったからだと思っています。この“運”がこれからも続くとは限りません。

会社がどうであろうと、困ったとき、迷ったときは自分の幸せを優先してもらいたい。社員が幸せになる選択をして欲しいと吉田にも伝えてあります。

――では最後に、吉田さんにこれからのビジョンについてお伺いしたいと思います。

吉田社長:私が言うのは手前味噌かもしれませんが、山口はカリスマ性があり、先陣を切って会社を指揮してくれました。その反面社員が受け身となり、自分から動いて会社を盛り上げてくれる人財が育っていないのも事実です。

私は、現場社員一人ひとりがもっとやれるはず、輝けるはずだと思っています。そのために社員がアピールできる場の提供や広報活動に尽力しています。たとえば、新社屋移転先は、弘前城に近く、道路沿いにありますので、若い世代の人たちの注目も集まる場所です。そんな場所で働くことが一種のステータスになればと期待しています。

また、広報の一環としてホームページでの発信にも力を入れています。各社員の活躍を多くの人に届けたいですね。

ただ、時代が変わっても、社員教育や健康経営など山口が築き上げたものは絶対に必要だと思っています。山口から教わった「お客様目線で社員を見る」という言葉を大切にし、お客様の信頼と期待に応え続けていきたいです。

【取材後記】

津軽警備保障さんは、2021年から4年連続でブライト500に輝く優良企業ですが、その陰には、山口さんが愛情を持って行ってきた社員教育と粘り強く続けてきた健康経営があったのだと、今回の取材で知ることができました。

また、吉田さんが新社長に就任し、次世代に向けての新たな挑戦も始まっています。山口さんが“お客様目線で社員を見て”築いてきた土台を継承し、さらに社員を輝かせるための新たな取り組みにも注目していきたいですね。

社員と向き合い続ける真摯な姿勢と熱いビジョンに触れる、大変充実した取材となりました。ありがとうございました。

<企業データ>

会社名:津軽警備保障株式会社
事業内容:警備業務全般(機械警備・ホームセキュリティ、施設警備、イベント警備、交通誘導警備、巡回警備、防犯カメラの販売・施工、無人駐車場管理ほか)、損害保険代理店、機器販売及び工事・保守点検など
所在地:〒036-8332 青森県弘前市亀甲町53-1
資本金:1,000万円
社員数: 100名(2024年 1月現在)

*1:ブライト500について

経済産業省は、健康経営推進のための取り組みに優れている企業を「健康経営優良法人」として認定し、中小規模法人部門の上位層には「ブライト500」の冠を付加しています。参考:ACTION!健康経営

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