【シリーズ:IKIGAI経営と地域連携】地域を幸せにし、地域に愛され続ける企業を目指す〔三幸土木〕

自治体や大学、NPOなど地域社会の人たちとともに、企業が地域課題の解決に向けて行動を起こす地域連携。建設業を営む三幸土木は、地域を支えることで、社員が誇りを持って働ける環境を実現するための独自の取り組みを行っています。「社員が子どもに胸を張れる会社でありたい」という木下社長の強い思い。地域連携がどのように社員の誇りへとつながっていくのか、取材しました。

〔三幸土木株式会社〕

木下力哉(三幸土木株式会社 代表取締役社長)

宮路浩貴(三幸土木株式会社 企画業務部)

〔インタビュアー〕

川北眞紀子(南山大学 経営学部 教授)

澤端智良(茨城キリスト教大学 経営学部 准教授)

熊倉利和(健康経営の広場 編集長)

1.社員が子どもに胸を張れる会社でありたい

熊倉:私たちは慶応ビジネススクールでともにマーケティングを学び、今もときどき集まっては、それぞれの研究課題を話し合う20年来の仲間です。そんな我々の最近のもっとも熱い話題が地域連携とコミュニティであり、ぜひ、三幸土木さんに取材をしたいと、3人そろってやってきました。

川北さん:日本では、地域連携やコミュニティの分野の研究が遅れています。また、地域連携が成功している企業も少ない。そう私が話したところ、熊倉さんが「そんなことはない。すごい会社があるよ」と教えてくれたのです。

熊倉:三幸土木さんは、地域連携における重要性が、経営理念や社訓にも、しっかりと組み込まれています。そのあたりからお話をお聞きかせいただけますか。

木下社長:ありがとうございます。我々は、地域密着型の建設業です。経営理念のいちばん最初に、「1.地域社会のみなさまと共に喜び幸せを願う。」と掲げています。そして、「2.顧客のみなさまと共に喜び幸せを願う。」「3.社員とその家族すべての人と共に喜び幸せを分かち合いたい。」と続きます。こちらが三幸土木の「3つの幸せ」となります。

この経営理念のもと、「和を重んじ 信頼される人間形成に努め 社会に貢献できる会社を築こう」という社訓を、およそ30年前、先代の父が社長のとき、私が中心になってつくりました。それに先立ち、「会社って、なんのためにあるのだろう」と時間をかけてじっくりと考えました。そして、「社員が家族に誇れる会社」でありたいと心から願ったのです。その思いが、わが社が取り組んでいる地域連携につながっています。

熊倉:「家族に誇れる会社」とは、社員の方々が「お父さんは、三幸土木で働いているんだよ」とわが子に胸を張って伝えられ、子どもは友達に「ぼくのお父さんはすごいんだ」と誇れるということですね。

木下社長:そうです。そのためには地域の人たちに「三幸土木がこの地域にあってよかった」「三幸土木がここにあるから安心だ」と頼りにされる会社であることが重要です。地域に貢献し、感謝されることが、社員たちの誇りや働きがいのベースとなる。こういうコンセプトで経営を行っています。この経営理念と社訓は、毎日、社員たちと唱和しています。

2.社屋が復興拠点になる

澤端さん:「地域のため、社会のため」と多くの会社さんがいいますが、「どこまで本気でやっているのだろう」と思うことがあります。三幸土木さんでは、実際にどのような形で地域連携を行っていますか?

木下社長:まず、一つの地域連携の形が、今、みなさんがいらっしゃるこの建物です。レジリエンスセンターと名づけたこの社屋は、2022年5月に竣工しました。レジリエンスには「回復力」「復元力」「再起力」という意味があります。ここは三幸土木の社屋ですが、地域の復興拠点とすべく建設しました。建設業は、災害時に被災者になってはいけません。我々が被災者になっては、復興が遅れます。そこで、レジリエンスセンターでは、水、食料、ガス、電気というインフラを、災害時に途絶えないようしっかり整えています。

宮路さん:たとえば水は、井戸水と浄水器を用いることで、飲み水もトイレの水も確保できます。この地域には都市ガスが通っているのですが、都市ガスは災害時にもっとも途絶えやすく、復旧にも時間がかかる。そこで、値段は高いのですが、平時からプロパンガスも利用しています。こうすることで、災害時に炊き出しができます。さらに重要なのが、電気です。当社では、水素で走る燃料電池自動車を2台保有しています。上手に使えば、2台で10日から12日間は、レジリエンスセンターに給電できます。そして1階は、被災した地域の方々を受け入れられるよう、広いホールになっています。

防災倉庫には、食料品や水の他に、スコップやハンマー、チェーンソー、ブルーシート、大型の土嚢などもストックしています。こういったものがあると、被災した場所にすみやかに出かけていけます。もっとも大事なのは、災害時、すぐに復興活動に動ける体制を整えることです。

川北さん:素晴らしいですね。レジリエンスセンターがこれほどの設備を備えていることを近隣住民の方々はご存じなのですか?

木下社長:ええ。開所式には、地域住民の方々をお呼びし、見学してもらいました。避難施設になることを事前に周知してこそ、災害時に有効活用していただけます。

澤端さん:社員の方々だけでなく、地域住民のことまで考えて新社屋を築かれたとは、木下社長の覚悟はすごいですね。なぜ、これほどのことをやろうと決意されたのですか。

木下社長:いちばん大きなきっかけは、東日本大震災です。当時、社会は「コンクリートから人へ」といい、建設業は自信をなくしていた時期でした。我々は、建物の土台や高速道路の橋脚などの土木事業を専門に行っていますが、「公共事業はムダ」ともいわれていた。そうした中で、「自分たちは社会に必要のない仕事をしているのか」「この仕事は、家族に誇れるのか」と悩んでしまっていたのです。

2011年3月11日、東日本大震災が起こりました。我々は3日後には仙台空港に入り、4カ月間、交代で復旧工事に取り組みました。災害という非常に困難な状況下、「建設業とは、たくさんの人を助けられる仕事だ」という誇りを胸に、社員たちが帰ってきたのです。もちろん、災害はつらく悲しいことですが、そこでの自分たちの役割に気づかされた。建設業の自分たちでなければできない仕事がある、という誇りをよみがえらせることができたのです。社屋に「レジリエンスセンター」と名づけたのは、このときの思いからも来ています。

熊倉:すごいお話ですね。建設業は被災者になってはいけない、災害時には地域の人たちのためにいち早く復興活動を始めることが自分たちの役割だという言葉の重みが、心にスーッと入ってきました。地域の方々も社員の方々も、この素晴らしいレジリエンスセンターの開所式で、木下社長の思いを体感されたことでしょう。

3.ゴミ拾いから地域課題が見えてくる

澤端さん:地域連携の形は、さまざまにあります。1回、2回だけなら行うことはできても、会社として継続していくのは大変なことです。そのうえ、木下社長が話されるように、社員の方々のやりがいや誇りへと、地域活動をつなげていかれているのは、本当に素晴らしいと思います。

木下社長:そんなに特別なことではないのですよ。地域の人たちに喜んでもらえることで、自分たちにできることはやらせてもらう、というスタンスです。経営戦略などではなく、自分たちが得意なことで地域の方々の助けになっていくのが、当社らしい地域連携のあり方ともいえるでしょう。

澤端さん:具体的には、どのような活動をされているのですか。

宮路さん:たとえば、愛知県では、地域住民と企業、行政が一緒になって、道路の清掃活動を行っています。我が社は、レジリエンスセンターの前の県道の一定の区間が担当になっていて、ここの清掃活動を社員みんなで行っています。

熊倉:何年前くらいから行っているのですか?

宮路さん:5年ほど前からです。地域の方々と清掃活動をしていると、いろいろと気づくことが出てきます。たとえば、この建物の横には、市が所有する歩道があります。その歩道が整備の必要な状態でした。しかし、市が工事を行うとなると、予算取りから始めなければいけない。そこで、ここは私たちの会社でやらせてもらえないかとお願いをし、除草をし、土を入れるなどの整備もやらせてもらっています。

また、この道は、地元の高校や大学から駅へと続く道で、人通りは多いのに、電灯がありませんでした。そこで、歩行者の方々が夜道で怖い思いをしないよう、道にLEDを設置し、ライトアップをしています。

さらに、日進市には、白山宮という神社があります。この神社には提灯がたくさん飾られているのですが、宮司の方が「地球環境を考えて、電球からLEDに変えたい」とずっと考えていたそうです。しかし、数が多すぎてどうしたものかと相談され、「それならば」と社長がすぐに動き、提灯のLED化を行いました。

木下社長:こんなこともありました。夏の盆踊り大会が台風で中止になってしまったのです。コロナ禍が明け、ようやく盆踊り大会が再開されるとあって、子どもたちはだいぶ前から一生懸命に練習していました。そこで、規模は縮小しても開催したいという声を聞いて、照明はうちの会社が担当しましょうと協賛しました。

川北さん:そうした地域活動に、社員の方々はボランティアとして参加するのですか? それとも勤務時間中に行うのですか?

宮路さん:仕事であり、基本的には勤務時間中に行います。ただ、外部の行事に参加するときには、夕方から集まることもあります。その場合は有志で行うのですが、「これも、れっきとした仕事」と社長がいって、残業代を出してくれています。

川北さん:ゴミ拾いはやりたくない、という社員さんはいないのですか?

宮路さん:強制はしていませんが、うちの社員にはいないですね。もともとわが社では、建設現場にゴミが落ちていれば、自発的にみんなでゴミを拾っています。ゴミ拾いは社内で当たり前のことになっているので、地域活動を一致団結して行いやすいところはあります。

澤端さん:地域活動は、総務部や企画業務部など、担当部署が決まっているのですか?

宮路さん:とくに専属は決めていません。誰が何をやるという決まりはなく、みんなで助け合いながら流動的に行っています。

川北さん:地域課題に対して「お金を寄付して終わり」という企業もあるなか、地域の人たちと積極的につながり、経験を共有されている三幸土木さんの地域連携のあり方は、私の想定を超えるパワフルさで、圧倒されます。

木下社長:現代は、何か困ったことがあると、すぐに行政になんとかしてもらおうと考える人が多くなりました。しかし、道にゴミが落ちているなら拾い、草が生えているなら抜く。近くに困っている人がいるなら助ける。これは、当たり前のことです。行政に自分たちがしてもらうという感覚ではなく、地域のために自分たちに何ができるかという感覚をベースに、会社も人もあるべきだろうと考えています。

4.「和を重んじる心」が社員を一つにする

川北さん:このレジリエンスセンターができたことは、社員の方々にも大きな転機だったのではないですか。

宮路さん:そうですね。社長はいつも「建設業という仕事に誇りを持ってほしい」と私たちに伝えてくれています。建設業というと、プレハブで社員が仕事をする会社さんもあります。それがよいとか悪いという話ではなく、その会社が何をもっとも大切にしているかの違いだと思います。当社は、社長が「社員の誇りと働きがい」をいちばんに考えてくれる会社です。私たちは、レジリエンスセンターのような近代的で開放的な建物で仕事ができ、家族に「お父さんはここで働いているんだよ」と家族に胸を張って伝えられています。

澤端さん:木下社長が、社員の方々の誇りをこれほどまでに重んじるのには、何か理由があるのですか?

木下社長:話せば長くなってしまうのですが、簡単には、建設業を営む父の背中を私自身が見て育った経験が大きいといえます。建設業は、社会に貢献している職種でありながら、日本の時代背景の中で、社会的に低く扱われ、自分たち自身もどこか胸を張れていないところがありました。

それは今も続いていて、就職活動のための媒体が、建設業を「底辺の仕事」と表現した記事を読んだこともあります。こんな記事を読むと、カチンともきますし、悲しくもなります。そもそも、社会に必要とされている仕事に、上下の差などないはずです。

人はなんのために仕事をするのでしょうか。もちろん、お金を稼ぐことも大切です。しかし、それ以上に重要なのは、自分の人生が社会の役に立ち、そこに働きがいを感じ、自分の仕事を家族に胸を張って伝えられること。では、自分の仕事が社会の役に立っていると、どこで意識できるでしょうか。「三幸土木がここにあってよかった」と地域の方々から認められ、感謝されることです。つまり、私たちが地域を支えていくことで、地域の方々からも支えられてもらっているのです。

熊倉:多くの会社では、地域活動には参加する人としない人がはっきりわかれていたりします。ところが、御社の場合、強制ではないのに、声をかけるとみんなが参加をする。これはどうしてなのでしょうか。

木下社長:そうですね。当社が和を重んじる社風だからでしょうか。同調圧力などということではなく、社会人として和を大切にしなさいということは、常に厳しく伝えています。「和を重んじる」とは、先ほどもお話ししたように、社訓にもなっています。

熊倉:なるほど。安全第一で仕事をされている建設現場では、和こそ重要ですよね。そうでないと、命にかかわる問題にもなってきます。

木下社長:それもあります。そして日常的なところでも、和を乱す人がいると、周りが嫌な思いをする。ルールを守り、和を大切にすることは、社会生活を送るうえで欠かせないことです。それに、和をもって我々が得意なことを当たり前にやることで、「三幸土木って、いい会社だね」と地域の方々に褒められたら嬉しいじゃないですか(笑)。

熊倉:木下社長や宮路さんのお話を聞いていると、三幸土木さんには、「顧客」や「地域」という区別がないことを感じます。地域の人たちの幸せのために積極的につながり、地域課題を解決していくことで、住みやすい町ができる。町に人が集まってくれば、地域に根差す企業もともに発展していける。そんな町づくりを、三幸土木さんは地域連携を通して自然と行っているのですね。だからこそ、愛知県日進市という地元で愛される企業であり続けているのだと、地域連携の重要さに改めて気づかされました。本日は貴重なお話をありがとうございました!

【編集後記】

健康経営の広場にたびたび登場いただいている三幸土木さん。健康経営の施策は40以上あり、唯一無二の取り組みを行いながらも「社員のためには当たり前」と軽々とお答えになる木下社長。地域連携の取り組みも、ここでは紹介しきれないほどたくさんありましたが、「当たり前のことを一つずつやっているだけです」という社長に、「ぜんぜん当たり前のことじゃないですよ!」とインタビュアーの3人で突っ込みを入れる場面もありました。世のため社員のためならば、即行動する木下社長のストレートな思いが、社員の方々の誇りと働きがいを大きく育み、会社全体を一つの目標に向かって動かす原動力になっていると実感。これからも三幸土木さんの取り組みから目が離せません。

〈企業データ〉

会社名:三幸土木株式会社

事業内容:土木建築一式工事/建築資材の販売/砕石、砂利の採取及び販売/産業廃棄物収集運搬業/前各号に付帯関連する一切の業務

所在地:(日進本店)〒470-0103 愛知県日進市北新町北鶯91-5

資本金:3千万円

社員数:103名

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