健康経営の取組み事例:富士ソフト株式会社(前編)

1.富士ソフトの健康経営の特徴

─ 御社の健康経営の特徴として、健康管理センターによる産業医面談、保健師による保健指導などを挙げられています。まず、この健康管理センターをスタートさせるキッカケについて教えてください。

益満 博子さん(以下、益満さん):弊社は、2004年、桜木町本社ビルの竣工により、同オフィスに在籍する従業員数が1,000人を超えていたため、常駐の産業医を置く必要がありました。その後、桜木町本社と秋葉原オフィスに「健康管理室」を設け、常駐産業医1名、保健師2名をそれぞれ常駐させる体制を整えていきました。健康管理室を運営していくなかで健康管理に関わる業務ノウハウを蓄積し、その適用範囲を拡大していきました。

本社の健康管理室

─ その後、全国のオフィスを網羅するようになったんですね。

益満さん:はい。オフィスは全国に30カ所あるので、テレビ会議や電話を使って、神奈川から西日本エリアに在籍する社員を本社の健康管理室が、東京から東日本エリアを秋葉原の健康管理室が見ることになりました。2010年頃から、それぞれ3,000人ずつ担当しています。その後2014年に、この健康管理室の医療スタッフと人事部スタッフの連携を強化した「健康管理センター」を立ち上げ、対象範囲を富士ソフトグループ会社の社員まで拡大し、統一したサービス提供ができる体制を整えました。

─ 健康管理センターを設置されたきっかけや流れなどを教えてください。

益満さん:まず健康管理室時代に、常駐している産業医に対して、自分が任されているオフィスだけではなく会社全体を見てほしい、とお願いして業務範囲を広げてもらいました。その後さらに富士ソフトだけでなくグループ会社全体も見てほしいというところから、人事部のなかに健康管理センターを設置し、進化していったというかたちになります。最初は本社と秋葉原オフィスだけだったものを、全国的にレベル感を統一できたので、次はグループ会社全体に展開しようと。

─ グループ会社を含めると規模感はどのくらいになるんでしょうか。

益満さん:大きい会社は1,200人くらい、小さいところで150人くらいの規模の会社があります。富士ソフトとしては6,500人ですが、グループ全体では9,500人ほど。やはり小さい会社ですと、健康診断の督促ができていなかったり休職者が発生してもフォローできていなかったりすることがあります。会社の大小に関わらず統一してレベル感を合わせ、富士ソフトの社員ならきめ細やかなフォローができるけど、グループ会社の社員には手が届かない……という差をなくすことが目的でした。

─ 健診事後措置の督促などは保健師の方にお願いしているのでしょうか。

益満さん:人事部の方で対象者をピックアップして、保健師に指導をお願いしています。スケジュール管理がしやすい状況であれば、呼び出しも保健師の方にお願いしています。健康診断の結果や事後措置の進捗、経過などは医療スタッフがいつでも確認できるので、自発的に保健師さんが動いてくれています。

2.ホワイト500に申請した流れについて

─ 2014年に健康管理センターを設置され、御社だけでなくグループ会社全体で動き出したことが、ホワイト500申請のきっかけになったのでしょうか。

益満さん:まずチャレンジしてみようと思いました。ホワイト500のアンケートは、今まで回答したことがないほど詳細な項目があり、数字はもちろん経営方針や働き方改革など、ありとあらゆる側面で回答しなければならないものでしたので、正直、認定されるかわからないという気持ちもありました。

─ ホワイト500に申請される際、御社のトップに対してはどのようなアプローチをされましたか?

益満さん:弊社のトップは働き方改革についての意識が強かったです。わたしたちは、現場でどんなことが起きているか、どんなデータが出ているかを説明したうえで、健康経営として取り組むべき部分をインプットしてきました。今健康に問題を抱えている人に対して、業務に差し支えないようフォローするのが健康管理。一方健康経営は、今の状態をこれ以上悪くしないための取り組みです。健康管理は最低限のラインなので、これからはより一層、健康増進や予防、未病に対する取り組みをプラスしていかなければならないと思っています。

─ ホワイト500に関連する部分として、具体的な成功体験を教えてください。

益満さん:やはり、「会社はきちんとあなたの健康面を見ていますよ」ということを従業員に知らせることができたという部分でしょうか。弊社では以前より、月の時間外労働が3カ月連続80時間を超えた場合、産業医面談を義務化していました。稼働を上げすぎてしまうと面談に呼び出される……というスキームが自然に浸透していたんです。

3.時間外労働の削減とメンタルヘルスについて

─ 現状、月の時間外労働は平均で何時間くらいですか?

益満さん:今は月平均で25時間を切っていますね。昨年(2016年)11月以降で80時間を超える社員がいなくなったので、義務化していた産業医面談は激減しました。

─ 25時間以下というのはすばらしいですね。産業医面談が大きな役割を果たしたということでしょうか。

益満さん:もちろん、産業医面談だけが役割を果たしたわけではありません。働き方改革を進めた経営からのメッセージが、平均残業の数値を引き下げた大きな要因ではあります。産業医面談は、どちらかというと足枷のようなものです。ピーク時は年間1,000件ほど面談をやっていました。裏を返せば、それだけ時間外労働が多かったということですよね。時間外労働が3カ月連続80時間を超えた場合に面談を義務化することで、医療スタッフと社員の距離も近くなりました。とはいえ、働きすぎると面談に行かなければならないというプレッシャーにもなっていたと思います。

─ 時間外労働を削減できたひとつの要因が面談ということですが、根本的に減らすためにどのような取り組みがあったのでしょうか。

益満さん:確かに面談だけで時間外労働を削減することはできません。まず働き方改革の一貫として、時間外労働月80時間を超えさせないために、ワーキンググループを立ち上げました。経営トップ自らが各部門長を集めてみんなで考えようと。「作業を平準化する」「もっと雇用を生む」「お客様に契約交渉を申し入れる」などさまざまなアイデアが出てきて、全員でひとつずつ課題をクリアしていきました。

─ ワーキンググループはいつごろ立ち上げたんですか?

益満さん:2016年の2月に、平均残業を30時間以内に抑え、80時間以上は出さないようにしようと目標を掲げました。実際にどんな課題があるかを話し合うため、2カ月後の4月にワーキンググループをスタートさせました。このワーキンググループは、現場主導で話し合いの場が持たれています。この取り組みがあったからこそ、ホワイト500の認定につながったのではないかと思っています。

─ 面談やワーキンググループで時間外労働が削減できたことがよくわかります。ちなみに面談をすることによって、メンタルの不調を訴える人数に変化はありましたか?

益満さん:減りましたね。ピーク時は、年間でメンタルの不調を訴える社員が100人を超えていましたが、面談を始めてからは、年間で60人ほどまで減った年もありました。ちなみに人事部を介さず、匿名性が保たれたまま産業医や保健師に接触できる健康相談も始めています。ストレスチェックが導入される前から始めていたこともあり、重症化する前に食い止めることができていたのだと思います。

─ ストレスチェックでの高ストレス判定はどのくらいの割合ですか?

益満さん:初年度が4%台。今年の7月は6%台でした。

─ それはとても低い数字ですね! 一般的にIT企業というと、およそ20%といわれています。

益満さん:グループ会社も含めた平均だと6%いかないくらいなのですが、昨年は富士ソフトがダントツに低かったです。これは一般的に低いほうなのですね、知らなかったので驚きです。

─ 高ストレス判定が出た方のなかで、実際にメンタルの病気にかかってしまう人は、10人に1人くらいの割合だそうです。やはり高ストレス判定が出た方が、先ほどご説明いただいた匿名性の健康相談にいかれるのでしょうか。

益満さん:健康相談においては、匿名性や守秘義務があるため、実際我々は把握することができませんが、聞いたところによるとそのような方もいらっしゃるようです。ただ、高ストレス判定が出た場合は、法定通り、産業医面談への案内を行っておりますが、そのうちの約2割が面談を希望しています。先程お話したように、産業医と社員との距離感はもともと近いので、抵抗感は少なかったのではないかと思います。

─ 産業医の先生は、精神疾患のご担当なのですか?

益満さん:はい、2007年から本社にいらっしゃる先生は心療内科が専門です。もともと弊社の傷病休職の9割程度がメンタルの病気でしたので、専門知識のある先生にお願いしました。秋葉原オフィスの先生は精神科の専門ではなかったのですが、当社の産業医を続けているうちにもともとの専門分野であるかのように詳しくなられています。

─ 人事部を介さず直接医療スタッフに相談にいけるということを、どのように啓蒙されていますか?

益満さん:健康相談については、「富士ソフト心と体 相談サポートの扉」というポスターを作成し、社員が一人になって見られる場所ということでトイレなどに貼っています。産業医と保健師の写真を載せて、匿名性や守秘義務が保たれることを記し、気軽に健康相談にきてほしい旨を案内しています。他の会社の方とお話しする機会があった際に、「産業医と社員の距離が近いですね」と驚かれることもあります。当社はどちらかというと、社員と人事部はある程度距離を保っていたほうがいいと考えています。逆に、医療スタッフと社員が近い距離にいることはいいこと。一般的な「産業医の先生に呼ばれる=何か問題がある」というマイナスイメージをなくし、「人事より社員に近い健康管理センターの医療スタッフ」として受け入れられています。

社内に掲示されている健康管理ポスター

─ すばらしいことですね。メンタルヘルスについて予防などはどのようにしていますか?

益満さん:ストレスチェックはもちろんのこと、年に1回、管理者向けと一般社員向けに労務教育やハラスメント教育などを行っています。管理者に対しては、気づきと声がけなどのラインケアを。一般社員に対しては、何か気づくことがあれば相談に来るよう呼びかけてもいますし、自分でできるストレス解消法を見つけることも教えています。もともとそのような教育を行っていて、そこにストレスチェックが加わったというかたちです。昔のように働きすぎてメンタルが不調になるケースはほとんどなくなりましたが、今ではストレスの解消がうまくできずにメンタルに影響してしまうというケースが増えているので、さらなる対処法を検討しています。

後編では、健康保険組合とのコラボヘルスや今後の課題についてお話しいただきます。

<企業データ>

会社名:富士ソフト株式会社(FUJI SOFT INCORPORATED)
事業内容:通信インフラ、社会インフラ、機械制御などの組み込み系ソフトウェア開発のほか、 業務系ソフトウェア開発やネットビジネスソリューションに至るまで幅広くその技術力をご提供いたします。
本社所在地:〒231-8008 神奈川県横浜市中区桜木町1-1
資本金:262億28万円
従業員数:6,427名(2017年9月末現在)

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