データヘルス見本市 主催者セミナー:今後どうなる?健康増進についてとヘルスケア事業展開のヒント

1.健康増進についての経緯

これまで、健康増進については長年にわたり様々な取組が行われてきました。健康増進の今まで、これからについて知っていただくことで、今後皆様が行うべき様々な事業のヒントになれば、と思っています。

昭和53年から、健診を充実させることを目標として第1次国民健康づくりをスタートさせました。その後、昭和63年に第2次、平成12年からは第3次、平成25年からの現在は第4次の取組が行われています。

第1次の「健診」では市町村との連携が欠かせず、第2次では「運動」にポイント、第3次では整備を整える「環境」に重点が置かれました。さらに、「目標」を設定し考え始めたのは第3次の頃で、数値に対してエビデンスを求めて、PDCAサイクルを回して改善していこう、という流れができました。

また、これまではプロジェクトとして行っていた予防についての取組を、今後はもっと自然に予防につなげることはできないかと検討している段階です。

健診は2次予防ということになりますが、平成12年から取組んでいるのは1次予防と呼ばれる健診を受ける前の段階、さらに予防の予防ということで最近では0次予防と呼ばれる早期発見・早期対応という考え方が主流となっています。

平成17年には、メタボリックシンドロームについて打ち出しましたが、メタボやメタボ健診などの言葉が一般的になっていることは皆様ご存知かと思います。

平成20年には特定健診と特定保健指導がスタート、平成23年からはスマート・ライフ・プロジェクトが始まり、その表彰式が昨日に行われました。当初は3000社を見込んでいましたが反響が非常に多く、今後は規模を拡大していく予定です。

今回は、予防に特化した住友生命のバイタリティという商品が受賞しました。アウトカムで考える業者が多いとは思いますが、予防という観点から結果を出せているかが評点となっていますので、今後の事業では「予防」、さらに「予防の予防」に重点においていただければと思います。

平成30年以降、第4次の取組の中間結果が出ている段階ですが成果が出ている項目と出ていない項目があります。改善していない項目としては、メタボや肥満が挙げられ、今後もこれらの対策に関する事業は必要不可欠である、と武井氏は説明しました。

2.健康日本21<第二次>について

平成25年以降から取組んでいる「健康日本21<第二次>」についてお話しさせていただきます。大きく分けて5つの取組があります。

①健康寿命の延伸と健康格差の縮小について、日本はご存知の通り世界的な長寿大国ですが、健康な期間をできるだけ長く保つための取組が始まっています。また、寿命の都道府県格差については、例えば山梨県は長寿に対するデータが非常に良いので、この良い例を共有することで全体的な数値を上げたいと考えています。

②生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底、③社会生活を営むために必要な機能の維持及び向上、④健康を支え、守るための社会環境の整備、とあります。

皆様が実際に直接取り組んでいるのは、次の⑤栄養・食生活、身体活動・運動、休養、飲酒、喫煙、歯・口腔の健康に関する生活習慣の改善及び生活環境の改善、ではないでしょうか。これらの項目が益々注目されていくことが予想できます。

この中でも喫煙対策は一番の課題です。また、日本人はアルコールに寛容なほうですが、諸外国ではタバコと同様に、しっかりとした対策を取っていることが多いです。

休養の項目については、睡眠時間の短さが問題になっています。原因は長時間労働や家事で40代の睡眠時間が少なくなっていることが挙げられます。ストレス管理のひとつとして、今後の対策が急がれます。

現在行われている健康日本21<第二次>は、平成34年(元号は変更予定)まで続けられますが、その次は早期発見・早期対応の先にあるものが課題となってきます。現在、有識者からの意見をうかがっているところですが、ソーシャルデータを利用した社会的な要因を活用した健康づくりが重要では、と言われています。

また、2020年のオリンピックとパラリンピックを見据えて、タバコ、アルコール対策の見直し、改善を行っていくことも、受動喫煙についての意識を変えるために大切な取組になると予想されます。

今以上に、喫煙やアルコール対策、睡眠、早期発見の先にあるもの、予防の予防などがキーワードとなりますので今後のヒントとしてご活用いただければと思います。

3.健康に関する状況報告

10年かけて行われている第4次の健康増進に関する取組については、ちょうど半分が経過し、中間報告が行われています。その結果を見てみると改善している項目とそうでない項目があることが分かります。

健康寿命に関しては男性が70年から72年へ、女性は73年から74年へと伸びが見られました。都道府県格差についても男女とも3年近く差があったものが、特に男性では2年へ大幅に改善が見られました。

また、糖尿病のコントロールという観点では、糖尿病とその予備軍に関して上昇が鈍化しています。これは、糖尿病対策の成果が少しずつ出始めていることをあらわしています。自殺者数については経済状況と関連していると言われていますが、リーマンショック後は継続的に減少傾向で目標値を達成しています。

反対に、改善されていない項目として挙げられるのは、メタボリックシンドローム該当者とその予備軍と肥満傾向の子どもの割合です。子どもの肥満の増加は世界的な傾向でもあります。

そのほか、生活習慣病の項目で改善している点は、75歳未満のがんの死亡率、がん検診受診率、高血圧などが挙げられます。小児10万人あたりの小児科医の割合の増加、地域つながり強化といった点でも改善が見られます。

反対に、改善していない項目としてはCOPD認知度向上のほか、栄養については適正体重を維持している者の増加傾向は変わらないという結果があり、メタボや肥満に関してはなかなか達成が難しいということを改めてあらわしています。

これら、達成ができていない項目に関しては、残りの5年間でどこまで改善できるかということが課題となっています。今後も、メタボと肥満対策やCOPD認知度アップについては、新しいアイディアを駆使した事業展開や参入を期待しています。

4.健康寿命の延伸についての対策

健康寿命については昨今、大きな話題になっています。平成28年のデータにおいて、男性は80.98歳の寿命に対して健康寿命は72.14歳(8.84年の差)、女性は87.14歳の寿命に対して健康寿命は74.79歳(12.35年の差)となっています。

男女平均すると、10年ほど健康ではない期間があるということになります。この差をどのようにして縮めていくかということが課題です。ただ、今のところ、健康寿命についてはやや改善傾向にあるという状態です。

健康寿命を延ばすためには、これまで主に行政が健康についての取組を行っていましたが、企業や各種団体にも参加していただき表彰することで知っていただくための機会を増やしていくことを目的に、スマート・ライフ・プロジェクトがスタートしていることは先ほどもお話しました。

その他、運動に対する取組としてスマートウォークと名付けられたプロジェクトでは1日10分間の運動習慣を目指し、栄養では適切な食生活ということで主食、主菜、副菜のバランスの良い食事を目指しています。具体的には塩分はマイナス2g、プラス1皿の野菜を目安にしています。

さらに、スマートライフフェスタとして、ナイトヨガを明治神宮球場で開催しています。世界的に有名なインストラクターを招き、1000人規模でヨガを行っています。このナイトヨガは、女性の参加者が多いことが特色です。

運動習慣に関するアンケート結果で、良い結果を出しているのは高齢者がほとんどです。反対に、20代の若い女性は運動の機会をうまく確保できていないという結果になっていますが、このナイトヨガは7割ほどが若い女性で占められており、良い成果をもたらしています。

運動・栄養はこれまでにも重要なキーワードでしたが、肥満を解消するための栄養、また、運動習慣がない人へのアプローチという観点で、ヘルスケア産業を今後も盛り上げて欲しいと思います。

5.健康増進について2040年に向けての展望

高齢社会対策として2040年に向けて、①雇用・年金制度改革②健康寿命延伸③医療・福祉サービス改革、以上3つの取組を推進しています。主に②健康寿命の延伸について掘り下げてみたいと思います。

健康寿命についての取組はこれまでに何度も説明しているように誰もが元気で活躍できる社会をつくるために行っているのですが、今後の展望として以下を考えています。

健康無関心層へのアプローチと地域保険者間の格差の解消、特に、次世代を含めたすべての人の健やかな生活習慣形成が重要です。若い人の生活習慣の改善については、現役世代やもっとさかのぼって子どもの頃からの食生活や習慣が、それ以降の健康をつくるという考え方からのアプローチが大切です。

そして、疾病予防と重症化予防も非常に大切です。病気になってから何とかするというのではなく、まずは病気にかからない、それ以上悪くならないように対策を行うことが今後は益々重要になります。今後は、若い世代への対策、予防という分野がさらに注目されます。

また、新たな手法として自然な健康づくり、そのための環境や状態を探っていくという方法があります。例としてイギリスでの面白い取組があります。パンに含まれる食塩を一律で減らすことで減塩の効果が出た、という新しい報告です。これを基に、普段の生活で食塩を減らすことは難しくても、毎日の積み重ねで少しずつ自然に減らすことで、長いスパンで効果がみられるのではないかと思っています。

何事も一人で実践するのは難しいという考えから、居場所づくり、社会参加、地域ぐるみの取組を行い、みんなで対策を行うという方法も検討しています。

また、行動変容についてはノーベル賞を受賞した行動経済学の考え方としてナッジ理論があります。ナッジとは肘でつつくという意味だそうですが、気付かずに行動できる、動きやすくなるための毎日の生活の中でのヒントを探る方法です。「日常生活でできること」というテーマで今後のヘルスケアに関する事業展開を進めていただければと思います。

インセンティブの活用では、モチベーションアップのためにヘルスケアのポイント制度の事業に取り組んでいる会社も多いのではないでしょうか。また、多様な関係者が連携して取り組むということでは、データヘルスと研究開発の両輪で新しい時代を切り開いていくこと、イノベーションを起こしていくことも重要になります。

先ほどお伝えした次世代へのアプローチとしては、野菜を摂取できるスマート・ミールという認証制度を行っています。これは、自然な健康づくりの取組のひとつですが、その例をお伝えします。

「あだちベジタベライフ〜そうだ野菜を食べよう〜」では、ラーメンや焼肉を注文すると必ず野菜を出す取組を行っており、他の区よりも100g少ないと言われている野菜摂取量を自然に調整に取り組んでいます。このような自然な取組が今後求められるので参考にしてほしい、と武井氏は説明しました。

6.受動喫煙対策について

報道などでご存知の方が多いこともあり細かい部分は割愛して、今回は3つポイントをおさえたいと思います。

ポイント1つ目は望まない受動喫煙をなくすということ、2つ目は受動喫煙による健康影響が大きい子ども、患者などに特に配慮すること、3つ目は施設の累計・場所ごとに対策を実施すること、の3つです。

3つ目の施設に対しては、学校・病院・児童福祉施設・行政施設は原則屋内禁煙、ということと、敷地内禁煙や屋外で喫煙所をつくるなどの対策です。

既存のレストランについては出資総額5000万円以下、100平米以下の施設は標記により喫煙も可能といった経過措置を含みないようになっています。したがって、飲食店については、喫煙室を設置する、もしくは小さな規模の飲食店であれば標記で喫煙可能かどうかを選ぶということになります。

受動喫煙対策については、違反があった場合には罰金もありますので早めの対策を周知している段階です。時期的には2018年よりすでに国の施設から一部実行されており、2019年9月ラグビーW杯が行われる頃から学校や病院などの施設、2020年4月からは全面施行ということを予定しています。

健康増進についての状況を知ることで、皆様の今後のヘルスケアに関わる事業展開に対して有意義に活かしていただきたいと思っています。本日はありがとうございました。

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