【セミナーレポート】利他心と自律心がエンゲイジメントを高め、企業の未来を築き上げる
目次
【セミナーレポート】利他心と自律心がエンゲイジメントを高め、企業の未来を築き上げる
2020年10月5日に開催された『日経電子版オンラインセミナー 健康経営大会議 supported by アクサ生命』。プロボクシング世界チャンピオンの村田選手。働く場所・時間を自らが決める制度を導入し、成果をあげているユニリーバ・ジャパンの島田氏。健康経営を推進する企業のサポートを行っているアクサ生命保険の樋口氏を迎えてディスカッションが開かれました。
[参加者]
■村田 諒太氏(WBA 世界ミドル級王者 ロンドン五輪ボクシングミドル級金メダリスト)
■島田 由香氏(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長)
■樋口 功氏(アクサ生命保険株式会社 HPM事業開発部 シニアビジネスディベロップメントエキスパート)
■モデレーター:藤井 省吾氏(日経BP総合研究所 副所長 兼 メディカル・ヘルスラボ 所長)
1.ウェルビーング向上が成長のカギ(島田氏プレゼン)
パネラーの自己紹介の後、まずは島田由香氏(ユニリーバ・ジャパン)のプレゼンテーションがスタート。
ユニリーバ・ジャパンの取り組みとして注目を集めているのが「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」。場所と時間を従業員が自由に選べるという新しい働き方です。
「WAAを行っている大きな理由は、ウェルビーング(心身ともに健康で社会的によい状態)の向上がビジネス成長のカギになると考えているからです」と言う島田氏。
WAAの考えの元となっているのが、マーティン・セリグマン博士による研究。それによると、ウェルビーングな状態にある人は、免疫力が高く、健康で長寿。素晴らしい人間関係を築き、社会へも積極的に参加。レジリエンス(復元力・弾力性)も高いということがわかっていると言います。
「ですから、生産性を上げろというのではなく、ウェルビーイングを整えようということが当社では合言葉のようになっています」と島田氏。
ウェルビーングを高める5つの要素として『PERMA』があると言います。
Positive Emotion(ポジティブ感情)
Engagement(主体的に関わる)
Positive Relationship(よい人間関係)
Meaning(意義・意味)
Accomplishment:(達成・熟練)
働く場所・時間を従業員自身で選ぶということは、誰かに言われて仕事をするのではなく、自分で主体的に考えて動くことになり、まさにPERMAを促すことに繋がると言います。
「WAA導入後、7割の従業員が仕事に対してポジティブな気持ちになり、生産性も3割高まっています」と島田氏。
2.大切なのは未来への展望と利他心(樋口氏プレゼン)
続いて、樋口功氏(アクサ生命保険)によるプレゼンテーション。
日本の生産年齢人口が減っていく中、企業が永続的に発展するためにはどうすればいいのでしょうか。
1.労働力確保のために働き方を多様化する
2.国内需要の減少に対応するためにイノベーションを創出する の二つが必要であると樋口氏は言います。
「この二つを実現するためのキーワードとなるのが、健康と個人の生産性。そして、健康経営が目指すものこそが、健康と個人の生産性の向上です」と樋口氏。
アンケートで日頃から健康的な生活をしている人に理由を尋ねたところ、「将来の目標を実現するため・家族のため・子供の将来のため」と回答した人が一番多かったとのこと。
また、生産性が高い人というのは、「仕事に誇りを感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得て活き活きしている状態」にある人であり、つまりワーク・エンゲイジメントの高い人ということになると言います。
「健康行動とワーク・エンゲイジメントに共通するのが、未来に対する明るい希望を抱いていること。そして、利他的であることです」と樋口氏はイソップ物語『3人の石工の話』を例に指摘します。
3.利他心が起点となり、自分のために動く(村田氏×藤井氏)
藤井(モデレーター):今日は、健康経営やワーク・エンゲイジメントといったことがテーマになっていますが、村田さんもプロボクサーになる前は、東洋大学で職員として働いていました。
村田:はい。仕事を最優先にしていました。ただ、僕の場合、就職した時点では、北京オリンピックの代表を逃していましたし、エクセル、ワードも何もできないただの新人でした。最初はそれが辛かったのですが、学生と接するうち、頑張っている人がたくさんいることを知りました。そんな学生のために、自分が何をしてあげられるかということを考え始めることで、仕事に前向きになれたんです。
藤井:そして、在職中にご自身もボクシング選手として現役に復帰されました。
村田:そうです。ボクシング部の学生が試合に出ることを禁止されてしまった時期があったのですが、学生は出場禁止でも、職員の自分なら試合に出てもいい。ならば大学やボクシング部の名誉回復のためにと現役に復帰しました。
ですが、復帰してから、それは自分のためでもあったと気づかされます。というのも、オリンピック出場を逃していましたし、モヤモヤとした気持ちがどこかに残っていました。現役復帰は利他的な気持ちから始めたことですが、実は自分自身のためにやっているんだなと後に気づいたんです。
4.パネルディスカッション
藤井:これまでのお話で自律、利他心、健康などのキーワードが出てきています。中小企業においても似たような事例はありますか?
樋口:そうですね。例えば、ある大田区の30名規模の会社。周りにはコンビニしかなく、カップラーメンなどを食べている従業員を見て、「これはいけない」と社長自らがスーパーに買い出しに出て、毎日、従業員のためにお昼を作るようになりました。取引銀行なども含め、周りの人たちは「それって社長の仕事じゃないでしょう」と反対。ですが、バランスの良い手作り料理が健康に良いのはもちろん、食事をしながら色々と相談もできますし、スムーズに仕事が進むようになりました。その結果、会社自体も過去最高の業績を記録したんです。
藤井:最初は社員のためと思ってしたことが、会社経営に役立ったということですね。他にも事例はありますか?
樋口:はい。ある静岡のスーパーマーケットでは60歳の店長を継続雇用することになりました。ただ、仕事は店長ではなく、移動スーパーの運転。高齢者の方がお住まいの山間部などを回っていたのですが、「60歳なんてまだ若い。頑張ってね」などとお客様に励まされたり、感謝されたりしているうちに、活き活きと仕事に取り組むようになりました。それを見た他の従業員も、「この会社は健康で元気ならば、ずっと働けるんだ」と意識や行動が変わっていきました。
島田:特にコロナの時代を迎えて、働く人の意識も変わってきていますね。これまでのように定年まで同じ会社にいて、同じ仕事をするというのでは、せっかくのその人の能力も埋もれてしまいかねませんし、新しい働き方が求められています。大事なのは、働く人が自分自身で考え、行動すること。自立(決まっていることを自分からやる)から、自律(決まってないことを自分からやる)へと従業員の意識が変わっていったことこそが、当社がWAAを実施して得られた最大のベネフィットだと捉えています。
村田:コロナの影響でボクシングの試合も、今までのように大きな会場で1万人、2万人集めて行うというのは難しいかもしれません。ですが、「変えられるものを変える勇気を、変えられないものを受け入れる冷静さを、そして両者を識別する知恵を与えたまえ(ニーバーの祈り)」を肝に銘じ、まずは今、自分にできること、次の試合の準備に集中していきたいと考えています。
【ディスカッションを終えて(樋口氏インタビュー)】
中家良夫(セルメスタ顧問/元内田洋行健康保険組合事務長):大変素晴らしいディスカッションでした。ご自身で振り返ってどうですか?
樋口:これまでは従業員の健康を促進し、生産性を高めようというのが健康経営の目的でしたが、今日はさらに一歩進んでウェルビーングという話も出てきました。やはり従業員の幸せなしに企業の発展はないし、ワーク・エンゲイジメントは社員の幸福の一歩手前にあるものだとも感じました。
樋口:島田さんからアダムグラントのGive&Takeという本の話が一瞬あったのですが、人に与える人Giverは多くの場合損をする役回りなのですが、与えている以上に自分が得ていると考える人は、より幸せ度が高いということです。他人に対しても、自分が施している以上に得ているものがある、と考えることが利他的な考え方ではないか?と感じております。
中家:現在、健康経営をうまく推進できているのは、どのような会社ですか?
樋口:経営者が未来に対してポジティブであるということ。そして、従業員に対して、感謝の気持ちや愛情を持っていること。そういう経営者の元では、従業員同士の繋がりも強くなりますし、自ら創意工夫をしながら仕事をするようにもなりますからね。
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