2024年10月11日、社会的健康戦略研究所が主催する『社会的健康ピッチコンペティション』最終報告会が行われました。健康経営を通じて企業の様々な課題を解決するために各大学のゼミ生が学生らしい熱のこもったプレゼンを展開。そんな中、都築電気株式会社部門で1位を受賞したのは九州産業大学、続いて小樽商科大学、専修大学が同率2位という結果になりました。今回は1位に輝いた九州産業大学の『eスポーツを活用する』という新しい世代ならではの提案を紹介します。

〔参加企業〕

都築電気株式会社　奥野洋子（総務人事統括部人事部人事厚生課長）

〔参加学生ゼミ〕

九州産業大学　藤井ゼミ　山元崇誠　増田怜愛　下高原樟　伊藤七海　長戸未久　竹島莉香　梅津彩香　冨田麗那

専修大学　大崎ゼミ　和光大学　大野ゼミ　小樽産業大学　鈴木ゼミ　

〔審査〕

山崎牧子（経済産業省ヘルスケア産業課）

〔司会進行〕

熊倉利和（健康経営の広場編集長/IKIGAI WORKS代表取締役）

１.“メディアはメッセージである”という定義

都築電気株式会社からの課題は『健康経営を社会に広げる戦略ストーリー』。これまで取り組んできた健康経営を就職希望者にもアピールし、さらには社内だけでなく、顧客や社会に広げていく戦略を考えてほしいというものです。

それに対し、九州産業大学藤井ゼミの2年生8名がプレゼンを行いました。チームはまずこの提案の理論的背景を説明。

「“The Medium is the Message.　メディアはメッセージである。”というマクルーハンの定義があります。これは『私たちの行動はメッセージの内容よりも形式に影響されることが多い』というものです。

アイスクリームを例に考えてみます。安価なアイスクリームと高級アイスクリームを想像してください。この場合のメディアはアイスのカップ、メッセージは中のアイスです。もし、安価なアイスの中身が高級アイスのカップに入っていたらどうでしょう。そちらのほうが中身がより美味しく感じられる現象が起こります。私たちはこの定義を元に、“形式”に着目した提案を行います」

２.情報にリーチしやすいホームページ改善

ゼミ生が1つ目の提案について話します。

「都築電気さんからの課題を聞いて、私たちは『健康経営？』『都築電気さんってどんな会社？』とすぐにスマホで検索し、ホームページを拝見しました。多くの場合、最初にアクセスするのはホームページですから、その第一印象はとても大事です。そこで、私たちならではのホームページの提案をします。

都築電気さんのホームページについて、私たちが問題点だと考えたのは『文字が多い』『読みたいページにすぐ届かない』『情報が埋もれている?!』の3つです。そこで『見やすさ』『まとめ方』『伝わりやすさ』に着目した改善点を提案します。

私たちが参考にしたのがサイバーエージェントという会社です。はじめに都築電気さんとサイバーエージェントさんのホームページを比較して感じたのは、『文字の量』『情報の伝わりやすさ』『画像からのイメージ』の３つの違いです。

サイバーエージェントさんのページは、都築電気さんのページより“文字の量が少なく、一度で情報が把握できる”と感じました。画像からのイメージを比べると、都築電気さんは硬派なイメージ、サイバーエージェントさんはシンプルなイメージです。

ここから考えた“見やすいホームページ”の要素は『文字の見やすさ』『一目で見える情報のまとめ方』『情報へのリーチ』です」

続いてデザインのポイントを説明します。

「ここでは、都築電気さんの実際のページに掲載されている画像を使用させていただき、デザインをアレンジしています。

『トピックス』は、本の帯のようなデザインの中に、強調したい言葉と写真をまとめ、読んでもらいやすくしました。また『リンク』の入口を、中央部分に大きく設定したため、情報にリーチしやすくなっています。

ページの下方にはSNSのリンクを掲載しました。現在は多くの企業が、ホームページ上に公式SNSのリンクを作っています。今後、都築電気さんも公式アカウントを作って運用することがあればと設置しました。さらに学生がよく利用するInstagramやYouTubeなどのリンクも載せています」

同じように健康経営のページについても改善案を発表します。

「こちらも、各項目への入口を作成することで情報へのリーチが速くなり、一段と使いやすくなると考えました。都築電気さんは健康経営について多くの発信をしています。その良い取り組みをより多くの人に知っていただくために、情報の玄関としてリンクを張り、内容はリンク先に書くという構造にすることを提案します」

３.eスポーツで作る、新しいコミュニケーションの形

２つ目の提案は『eスポーツを活用した健康経営』。これはあるチームメンバーの「IT系といえばインドア派なイメージだよね」という呟きから始まりました。

「私たちは、“インドア派”という一言から“ゲーム好き”という言葉を連想し、eスポーツにたどり着きました。このeスポーツという趣味を共有することが、ストレス軽減やメンタルヘルス向上に役立ち、仕事の効率や集中力・判断力の向上に結びつくのではないかと考えたのです。

この提案の目的は『新たなコミュニケーション』『学生と関わる機会を創出』『都築電気の知名度の向上』。都築電気さんの現状の問題点である『リモートワークの比率が高いことによる会話や社員同士のコミュニケーションの減少』、そして『就活生への認知度不足』をeスポーツで解決できるのではないかと考えます」

続いて具体的な施策の説明です。

「まず、都築電気さんの社内にeスポーツ同好会を結成します。主な活動は自宅でオンラインゲームを楽しみながら、社員同士のコミュニケーションをはかること。『自宅から参加できる』『時間が作りやすい』『運動が苦手でも大丈夫』などの利点があるため、リモートワークの若手社員を中心に気軽に同好会に参加できる機会になるのではないでしょうか。

次に同好会の未来設計図です。eスポーツを通じた交流を経て、外部の大会に出場するためのチームを結成します。それにより、学生の認知度アップにも貢献できます。将来的には様々な年齢層の社員が、ボードゲームや家庭用ゲーム機などを用いたオフラインでも交流できるような同好会に結び付けたいです」

最後にゼミ生がまとめます。

「心の健康経営（ストレス軽減・メンタルヘルス向上）の一環としてのeスポーツ同好会が、新しいコミュニケーションを作り出し、オンライン、オフラインの社員の交流を促進する基盤となります。また社員同士のコミュニケーションが円滑になることで、健康経営がさらに促進されると考え『eスポーツを活用した健康経営』を提案しました」

プレゼンを聞き終わった都築電気株式会社の奥野さんは、「最初に理論的背景から入ったのが斬新。こういう発想でこの案件を考えました、という理論的支柱を伝えるのは素晴らしいと思います」と述べました。

さらに「1つ目の『ホームページの提案』ではサイバーエージェント社との比較がとてもわかりやすいです。企業ホームページと健康経営のページ２つについて画像イメージを作って提案いただきありがたいなと感じました。

『eスポーツを活用した健康経営』はとくに大学生らしいなと思いました。当社には、eスポーツのように遠隔地でもつながってコミュニケーションできる同好会はないので、大変参考になりました。大会に参加することで求職者の方ともつながることができるという点も素晴らしいですね」と若い世代ならではの視点による問題解決を高く評価。

経済産業省ヘルスケア産業課の山崎さんは「これまでの発表の中でもひと際、新しい時代のセンスを感じたプレゼンだった。健康経営のページは投資家目線で作られている場合が多く、それが学生さん目線ではわかりにくいと感じると気づかされた。eスポーツ同好会は、まさに新しい世代の目線。健康経営のメンタル部分に着目しているのも若い世代だなと感じ、勉強になった」と絶賛しました。

【取材後記】

見事1位を獲得した九州産業大学の『eスポーツを活用した健康経営』は、新時代のコミュニケーションを実現するユニークな提案で「その発想はなかった！」と現場に驚きと興奮が広がりました。都築電気の奥野さんは学生たちに「今回の企画はみなさんにとってどんな時間になりましたか？」と語りかけ、「ただ単にゼミの課題だからやるのではなく、どんな課題であっても一つ一つクリアし、コツコツ積み上げていくことこそが皆さんの未来につながります」とエールを送りました。産学連携して取り組み生まれたアイデアが、企業にとっても、学生にとっても、未来への一歩になるという期待に胸が熱くなる思いでした。