【社会的健康ピッチコンペ・最終報告会③】社員のやりがいをサポートする新しいポジションの創設
産学連携プロジェクト『社会的健康ピッチコンペティション』(社会的健康戦略研究所主催)。健康経営による企業の課題解決策をプレゼンする最終報告会は、大学生らしい視点による様々なアイデアが提案されました。『ベイラインエクスプレス株式会社部門』では、1位に神奈川大学、2位に山形大学、3位に九州産業大学という結果に。その中で、日本ではまだあまり聞かれない新しい役職を設けるといったプロのコンサルタント顔負けの神奈川大学 中見ゼミのプレゼンを紹介します。
〔参加企業〕
ベイラインエクスプレス株式会社 森川孝司(代表取締役)
〔参加学生ゼミ〕
神奈川大学 中見ゼミ 新屋 小柴 山崎 礪波 武蔵
九州産業大学 藤井ゼミ
山形大学 兼子ゼミ
〔審査〕
山崎牧子(経済産業省ヘルスケア産業課)
〔司会進行〕
熊倉利和(IKIGAI WORKS株式会社 代表取締役社長)
1.やりがいと従業員満足度をアップする3つの提案
ベイラインエクスプレスからの課題は『バス運行会社は、採用や雇用の維持を考える上で従業員にどのようなキャリア選択やポジションを提供すればよいか』というもの。この解決策について、神奈川大学 中見ゼミの5人が、順々にプレゼンを行いました。最初のプレゼンターがこう切り出します。
「私たちはこの課題に対して『従業員と経営陣の意思交換がうまくできていないのではないか』という仮説を立て、従業員の考えや要望を把握するために、25人の方にアンケートを実施しました」
その結果、『バス運転手以外にやりたいことがあるか』という質問に、過半数を超える約60%が『ある』と回答。具体的にどのようなことをしたいか聞いたところ『運行管理者、車両整備、管理業務、運行に関わるサポート、会社の事業拡大への貢献』などが上がりました。

また『働いている中で、具体的にあったらいいなと思うものは』という問いに、『月に1回の上司とのミーティング』『従業員へのよりよい生活へのサポート』『社長と自分の考えをディレクションできるポジション』『乗務員にも新しいキャリアを提供できる環境』などの声が聞かれました。
「このアンケート結果をもとに、私たちはインターナルマーケティング(※1)に基づいた3つの提案をします」
2.従業員の幸福感を高めるための新しい専門職
「1つ目の提案は『社長とのつながりを具体化する』です。アンケート結果や、森川社長との面談を通して『社長の意見は従業員の方に伝わっている一方、従業員の考えを社長に伝えることができていないのではないか』と考えました。そこで『意見交換のため、社長や上司と月に一回の会議を行うこと』を提案します」

続くプレゼンターが話します。
「『社長とのつながりを具体化する』ためのもう一つの策は、『チーフハピネスオフィサー(※2)の導入』です。これは、まだ日本ではあまり浸透していませんが、アメリカを中心として取り入れられている役職で、主にメンタルヘルスの支援、社内コミュニケーションの活性化などを行い、従業員の幸福度や企業成長に貢献します。
例えば、カウンセラーを社内に配置し、従業員の精神的な健康サポート環境を作ります。そのほか定期的に従業員アンケートを実施して、職業環境や業務の改善点を把握するなど、従業員と上司とのコミュニケーションを円滑にし、全員が同じ方向を向いて働けるようなサポートを行います。

このチーフハピネスオフィサー導入のメリットは『従業員が長期的にモチベーションを保つのに役立つ』ということ。その結果として、顧客ロイヤリティや収益率が上がり、離職率が低くなることが示されています。
実例を挙げれば、Googleでもチーフハピネスオフィサーによって成果をあげています。導入後、仕事のパフォーマンスが約37%向上し、創造性や問題解決の能力を高めると同時に、従業員のウェルビーイングの向上、離職率の低下などの成果が報告されています」
3.昇格制度でドライバーのモチベーションを向上
2つ目の提案『バス運転手の仕事の中でやりがいを作る』について、次のプレゼンターが続けます。
「このための施策が『リーダーの細分化』です。ベイラインエクスプレス様のバス運転手にはリーダーという役職がありますが、それを細分化し、階級を設けることによって、バス運転手のやりがいやモチベーションの向上を図ります。昇格は、顧客へのアンケートによる満足度などで決定し、もちろん給料もアップします。
階級は“スタンダードドライバー”“アドバンスドライバー”“エキスパートドライバー”“プレミアムドライバー”の4段階。それぞれ『顧客満足度スコア』『スコアの継続期間』『リーダーシップや業務改善への貢献』などの基準を満たすことで昇格できます。

顧客満足度スコアはドライバーの必須能力である『1.運転技術』『2.コミュニケーション能力』『3.問題解決能力』『4.時間管理』『5.乗客への配慮』『6.チームワーク』『7.サービス精神』『8.ストレス耐性』で幅広く判定。これによって、頑張っている人が損をしない環境作りと、やりがいを提供することを目的としています」
4.スキルアップしたい思いに応えるサポート体制
次のプレゼンターが3つ目の提案『運転手以外にやりたいことがある人に対してのサポート』について説明します。
「そのための具体策は、多くの人がやりたい仕事に挙げた『運行管理者へのステップアップ支援』。

運行管理者になるには国家資格が必要ですが、実務経験がなくても3日間の講習を受ければ受験可能です。そこで会社で“運行管理者カリキュラム”を用意し、多くの方が受験資格を得られる支援体制を構築します。
同じく長距離運転を行うクロネコヤマトの例を紹介すると、クロネコヤマトでは、社員向けの講座をいくつか用意しており、『集中講座』、『オンライン集中1日コース』、『eラーニング』、『実践講座』など、様々な受講方法で学べるサポートがあります。
運行管理者試験の合格率は全国平均で約30%であるのに対し、この講座を利用しているクロネコヤマトの社員は、50%以上と高い合格率です。こういった支援体制を敷くことで、社内で受験資格を得ることができ、従業員のスキルアップに対して手厚いサポートができると考えます」

最後のプレゼンターが話します。
「さらに従業員アンケートでは『IT化に関する仕事がしたい』という声も聞かれました。そこで提案するのは、バスの運転をIT技術を用いて最適化する役職“デジタルシェアラー”(※3)の導入です。業務内容は、『運行管理システムのクラウド化』『データ活用による運行効率の向上』『顧客向けのデジタルサービスの開発を統括すること』。デジタルシェアラーを活用することにより、スムーズな運行ができるだけでなく、ドライバーの健康管理等も簡単に行えるようになります。

このように、資格取得のサポート体制の構築や、新しい役職を作ることにより、従業員の『会社のためにスキルアップしたい』という思いを具体化することができるのではないでしょうか」
3つの提案を聞いて、ベイラインエクスプレス代表取締役の森川さんは「今回のプレゼンは、まさに当社が取り組んでいることに関連していた。提案を聞きながら『当社の方向性は合っているんだな』と改めて感じられた」とした上で「約2か月間、みなさんの大事な時間を、当社という全く知らない会社に向き合い、当社の課題に対して解決策を考えてくれたことが大変嬉しい。みなさんが費やしてくれた時間を無駄にしないよう、良い会社にしていきたい」と感謝を伝えました。
経済産業省ヘルスケア産業課の山崎さんは「まるで企業経営コンサルタントのような内容で驚いた。まず社員アンケートを取り、そこから見えてきた課題に対して、具体的な組織改革提案がなされていて興味深かった。経営の目を持っている学生さんならではの発想で大変参考になった」と絶賛しました。
【取材後記】

日本ではまだあまり知られていない専門職の導入という先進性と、社内組織を改革するという思い切った提案。神奈川大学のみなさんの大学生らしからぬ分析力と新しい発想に驚かされました。プレゼン後も、ベイラインエクスプレスの森川さんは学生たちにいくつかの質問をし、さらに意見交換を重ねました。企業にとっても、学生にとっても、このプロジェクトの2か月間が本当に有意義な時間であったことを実感する場面でした。神奈川大学 中見ゼミのみなさん、おめでとうございました!
(※1)インターナルマーケティングとは、自社の従業員に向けたマーケティングのこと。従業員満足度を向上することにより、顧客満足や企業の業績向上につなげる手法。
(※2)チーフハピネスオフィサーとは、企業において従業員の幸福度や満足度を高めることを主な役割とし、それによって企業の成長に貢献する専門的な役職。
(※3)デジタルシェアラーとは、バス運行のデータ化や、運行スケジュールの最適化など、デジタル技術を用いてバスの運行の効率化や利用者の利便性向上を目指す役職。
会社名:ベイラインエクスプレス株式会社
事業内容:高速バス・夜行バスの運行/企業送迎バスの運行/人材紹介
所在地:神奈川県川崎市川崎区塩浜2-10-1
資本金:2,000万円
社員数:42名