【IKIGAI企業インタビュー】社員の幸福なくして企業の発展なし! 健康経営を土台に目指せ100年企業
働く人の健康が、企業の未来を支える——。この考えのもと、マエダハウジングは、社員が長く働き続けられる職場づくりに力を注いできました。健康診断の受診率100%、ストレスチェックの導入、男性の育休取得100%など、すべてが「社員の健康と幸福を守る」ための取り組みです。企業が本気で健康経営に向き合うと、職場はどうなるのか。100年企業を目指すマエダハウジングの歩みをひも解きます。(インタビュアー:健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表取締役 熊倉 利和)
〔株式会社マエダハウジング〕
高野由美子(経営本部 総務経理室 主任)
1.すべてはお客様の声から
――まずは、マエダハウジングさんについて簡単に教えてください。
高野さん:私たちは、住宅のリフォーム、新築、不動産、そしてリユースまで、住まいに関するすべてを手掛ける建設会社です。住まいのことなら何でも任せていただけるよう、一貫したサービス体制を整えています。
――つまり、住まいのことを一貫対応する“ワンストップ経営”をされているのですね。
高野さん:はい。ビルの建設以外なら、住まいに関することはすべて対応します。たとえば、中古物件を購入してリフォームをしたいお客様がいらっしゃったとしましょう。その場合、まず、不動産スタッフが物件探しをサポートし、リフォームの専門スタッフが同行して、物件の状態を細かくチェックします。「この家はリフォームに適しているか」「どこをどう変えられるのか」「リフォーム費用はどのくらいかかるのか」といった具体的なプランを、物件選びの段階から一緒に考えていきます。

――すごいですね! 物件を購入した後に「リフォーム費用が足りない」なんて心配がなくなりますね。
高野さん:そうなのです。お客様の予算に合わせて、住宅購入とリフォーム計画を同時進行できるので、無理のない資金計画が立てられます。また、買取専門店も5店舗経営しています。リフォームしたり家を建てたりするお客様は、実は捨てるものがたくさん出るんですよ。みなさん、困り顔で「引き取ってくれる業者を紹介してくれませんか?」とご相談くださるのです。捨ててしまう物にはまだまだ使える物も多い。そこで、買取のお手伝いをしようと、その専門店をつくりました。
――お客様の声から、新たな事業が生まれたのですか。
高野さん:ええ。マエダハウジングの事業は、すべてお客様の声に応えることで発展してきました。たとえば、水漏れを見てほしいという声から修繕チームができたり、「土地を売りたいのだけれど、いい不動産屋を知らないか」という声から不動産事業が立ち上がったり……。イタチなどの駆除から網戸の張替え、家具の移動、電球の取り換えなどをサポートするチームもあります。
――それはすごい! 地域の方々にとって、これほど心強いことはないはずです。
高野さん:当社は、創業のきっかけもお客様の声でした。社長の前田政登己は、もともと大企業に勤めていたのですが、あるリフォーム会社に転職。その会社が、前田が27歳のとき、倒産してしまったのです。ですが、担当のお客様が「このまま前田さんにお願いしたい」といってくださり、前田はリフォームを継続するために創業しました。これが、マエダハウジング誕生のきっかけなのです。
2.「潰れない会社をつくる!」
――健康経営に関する取り組みは、どのようにスタートしたのですか?
高野さん:社長が初めて「健康経営」という言葉を聞いたのは、2012年頃だったそうです。社員の心身の健康が何より大切と考え、スポーツ大会やバーベキュー大会、社員旅行などの行事を増やしていくなかで、「健康経営に本格的に取り組むべきではないか」という思いが強まっていったようです。
そして2018年、社長がストレスチェックのチラシを持ってきて、「これをやろう!」とトップダウンで指示を出しました。そこから、ストレスチェックと健康経営の取り組みが本格的に始まりました。
――高ストレス者が出たためですか?
高野さん:そうではないのです。社長は、ただ純粋に社員のメンタルの状態が気になっていたようです。実際、ストレスチェックの結果に対して、産業医の先生にはいつも「いうべきことは何もないのですが、あえてアドバイスするならば……」という結果説明をいただいています。

――それはすごい。それならばなぜ、社長さんはストレスチェックに興味を持たれたのでしょう。
高野さん:当社の経営理念は、「私たちは、住宅事業を通し、お客様の満足、社員の幸福、地域への貢献を同時に実現します」です。「従業員の健康と幸福が、お客様を満足、ひいては地域貢献につながる」という強い信念を社長が持っているからこそ、ストレスチェックに興味を持ったのだと思います。従業員数が増えれば増えるほど、価値観や考え方はバラバラになりやすい。そのため当社では、全従業員の心を1つにするため、この経営理念の浸透をもっとも重視しています。それを実現していくため、社長自ら、従業員の健康と幸福のためになることは何でも挑戦する、という方針なのです。
――従業員の方々への愛情が強いのですね。
高野さん:強すぎるくらいです(笑)。健康経営は、初めてのストレスチェックのときに産業医に勧められてスタートしました。そして、翌年の2019年、健康経営優良法人の認定を受けました。
――初めての申請は大変でしたか?
高野さん:それはもう! 初めてなので申請の仕方がわかりませんし、面倒なこともたくさん。それでも、ストレッチをしているみんなの写真を貼ったりして、手作り感いっぱいの資料をつくって申請しました。
――「どんなに大変なことも、従業員のためならばチャレンジする」という社長の思いはどこにあるのでしょう。
高野さん:社長の目標は「潰れない会社をつくること」です。それは、社長自身の過去の経験が大きいのだと思います。会社が倒産することほど、従業員にとっても、お客様にとっても、地域にとっても不幸なことはありません。だからこそ、社長は100年企業を目指し、常に先を見据えた経営を行っています。健康経営はその一環なのです。
3.愛を持って伝え続けたい「健康を守る意識」
――高野さんのように、自分の思いを深く理解してくれる社員がいてくれて、社長さんは幸せですね。起業当初から二人三脚でがんばってこられたのですか?
高野さん:よくそういわれるのですが、実は、私が転職してきたのは、12年前なんです。その前は、警備会社の総務部にいました。今思うと、49歳という年齢で入社できたのは幸運でした。当時はまだ40名ほどの会社で、のんびり働けると思っていたら、この10年であっという間に会社が大きくなり、現在は全グループで150人を超えています。
――どんどん従業員数が増えていくなかでの健康経営は大変だと思いますが、何か工夫したことはありますか?
高野さん: 現在、社内で最年長は61歳の私です。社長は1歳下。平均年齢は約38歳と、若い社員が多い会社です。そのぶん、「まだ健康だから大丈夫」と考えがちで、健康診断を後回しにする人も少なくありませんでした。そこで、まずは健康診断を確実に受けてもらうため、希望の日時を入力できるエクセル表を作成し、私が病院の予約を代行していました。

現在は従業員が100名を超えたため、各自で病院の予約を取ってもらっています。ただし、入力の締め切りを設定し、エクセル表を全員で共有することで、受診の進捗を見える化しました。なかなか予約を入れない社員には「いつなら行ける?」と声をかけ、サポートを続けています。
こうした工夫の積み重ねにより、私が転職してきた当時は7~8割だった受診率が、今では100%になりました。
――再検査のサポートはどうですか?
高野さん:当初は、再検査まで会社が踏み込むべきか迷いがありました。でも、再検査の通知は、毎年同じ人に来ることが多い。従業員の健康を守るためには、再検査までサポートしていこうと方向転換し、私たち総務が、当人の希望の日時を聞いたうえで、再検査と特定保健指導の予約を入れています。おかげさまで、再検査も特定保健指導も100%の受診率になりました。
――そこまでサポートする会社さんは、なかなかないですね。
高野さん:みんなには「うるさいおばちゃんだな」と思われているかもしれませんね(笑)。でも、従業員を守れるなら、それでいいんです。
私は2018年に両立支援コーディネーターの資格を取得しました。これは、従業員が治療・育児・介護などのライフイベントと仕事を両立できるよう支援する専門家の資格です。この勉強を通じて、従業員が病気になってから対応するのではなく、予防が何より大切だと実感しました。それが、私自身が健康経営に情熱を注ぐようになった大きなきっかけです。
――さすがだなぁ。従業員の健康を何より大切に思い、一人ひとりに寄り添う温かい想いが、マエダハウジングの健康経営を支えていることがよくわかりました。
4.「一人ひとりが輝ける職場」へ
高野さん:他にも、従業員の健康のために必要と思うことは、積極的に取り入れています。
たとえば、全女性従業員には婦人科検診を受けてもらい、費用も会社が負担しています。もちろん、全館禁煙です。唾液でがんリスクを調べる検査の費用も半分負担していました。家族手当の値上げ、ワークライフバランスの充実化、チームがん対策広島への参加なども行っています。
――すばらしいですね! では、従業員の働き方に関して、何か行われていますか?
高野さん:当社では、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しています。具体的には、現場に360度カメラを導入しました。これまで、現場監督やインテリアコーディネーターは、たとえ遠方の現場であっても何度も足を運ぶ必要がありました。しかし、360度カメラを活用することで、事務所にいながら進捗や仕上がりを確認でき、負担を大幅に軽減。残業時間も減り、生産性の向上につながっています。
また、当社は育休の取得率にも力を入れています。女性だけでなく男性も100%の取得率を達成。男性の場合は最長2か月間の育休が可能です。たとえ2か月間でも、子育ての大変さを経験することで、夫婦の相互理解が深まり、より思いやりのある関係を築けるはずです。

――マエダハウジングさんは、男女の比率はどのくらいですか?
高野さん:女性が約38%です。新卒の社員は女性が増えていますし、リフォームのスタッフも女性が多くなっています。
――建設業というと、まだまだ男性が多いイメージがありますが、御社では女性の活躍も進んでいるのですね。
高野さん:私自身の考えですが、「女性の活躍推進」という言葉に、少し違和感を覚えることがあります。というのも、女性はすでに社会でしっかり活躍しているからです。本当に大切なのは、性別に関係なく、誰もが働きやすく、生きがいを感じられる職場をつくることではないでしょうか。
働き方改革、やりがいのある職場づくり、人的資本経営、そして女性の活躍も、すべてがつながってこそ、理想的な環境が生まれるのだと思います。たとえば、子育ては決して女性だけの問題ではなく、男性や社会全体にとっても大切なテーマですよね。それと同じように、「女性の活躍」を強調しすぎると、かえって男女の違いを意識させてしまい、本来目指すべき多様性とは逆の方向に進んでしまうこともあるのではと感じます。
――確かに、真の意味での多様性とは、性別を問わず誰もが活躍できる環境をつくることですね。
高野さん:当社の従業員は、本当に仲が良いんですよ。私も入社当初、その雰囲気に驚いたほどです。社長が社内行事を大切にし、「みんなで1つのことを楽しむ文化」が根付いていることも、大きな理由の1つだと思います。たとえば、スポーツ大会を開くと、ほぼ100%の参加率です。私のような年配者はケガをしてはいけないので、応援に徹しますが、家族連れで参加する人もいますし、みんながそれぞれの楽しみ方をしながら、心を1つにしています。
また、当社にはノルマがないんです。だから、テレビドラマのような従業員同士の競い合いもなく、みんなで「お客様にとって最高の選択は何か」を考え、協力しながらつくり上げていくことができます。そのためか、温和で優しい社員が多く、お客様とも深い信頼関係が築けていると感じています。
実際、親御さんがマエダハウジングを気に入ってくださり、お子さんに紹介していただくケースが増えています。さらに、「両親が楽しそうに働いているから」と、新卒で入社してくれる子もいて……こんなに嬉しいことはありませんね。
5.「発信すること」が未来を変える
――最後の質問です。マエダハウジングさんの今後の目標を教えてください。
高野さん:健康経営ではブライト500の取得を目指していきます。さまざまな施策にていねいに取り組んでいますが、なかなか認定には至らず、試行錯誤を続けているところです。

――健康経営優良法人を取得する企業が増え、ブライト500の認定も年々狭き門になっています。その中で重要なのは、マエダハウジングさんの取り組みをもっと発信していくことではないでしょうか。
たとえば、多くの企業では、スポーツ大会を開いても参加者がなかなか集まらないことに悩んでいます。ところが、マエダハウジングさんはほぼ100%の参加率だという。どのようにして参加を促しているのか、その方法を知りたい企業は多いはずです。こうした成功事例をどんどん発信していくことが、ブライト500取得への大きな一歩になるかもしれませんね。
高野さん:なるほど。確かに、私たちの取り組みを外に向けて発信する機会は、これまで多くなかったかもしれません。今回、こうして取材していただき、改めてアピールする大切さを実感しました。
すべての社員が楽しく長く働けて、生産性を高められる環境をつくることが、私たちの目標です。これからも健康経営をさらに推進し、社員の健康と働きがいを支えていきます。
【取材後記】

マエダハウジングさんの健康経営は、社員の健康と幸福を何よりも大切にし、それを具体的な行動に落とし込んでいる点が印象的でした。ストレスチェックの導入も、高ストレス者対策ではなく、社員の状態を正しく把握し、よりよい職場環境をつくるための手段として活用されています。また、健康診断や特定保健指導の受診率100%の達成、DXの推進、男性の育休取得100%など、働きやすい環境を整える工夫が随所に感じられました。こうした積み重ねが、社員の安心と企業の成長につながっていくのだと強く実感しました。
<企業データ>
会社名:株式会社マエダハウジング
事業内容:住宅リフォーム、リノベーション・新築の設計・施工・管理、不動産売買仲介、工場・施設の営繕、リフォーム事業、家具家電、備品等のレンタル業務
出版、広告、人材コンサルティング
所在地:広島市中区八丁堀10-14 八丁堀マエダビル3・4F
資本金:1億円
社員数:158名(2022年月時点)