第4回健康経営ダイアログ:『生きがい組織』を広め、働く人と社会を元気にする!
[参加者]
■中家 良夫(内田洋行健康保険組合 シニア・アドバイザー)
■上野 朋子(一般社団法人統合医療・予防医療ネットワーク 代表理事)
■大門 俊輔(普及プロデューサー)
■千本 英介(株式会社Ninja EX 代表取締役忍者)
■西部沙緒里 (株式会社ライフサカス代表取締役 中小機構人材支援アドバイザー)
■黄 韵奇(メンタルコーチ)
■松尾 隆和(信州大学大学院医学系研究科 スポーツ医科学教室 研究員)
■四方 邦宗(田辺三菱製薬株式会社 人事部健康推進グループマネージャー)
■樋口 功(アクサ生命株式会社 東京法人営業第3グループ長 健康経営アドバイザー)
■星野 克茂(ネオス株式会社 C &C事業部統括部長 兼 ヘルスケアサービスG長)
■加藤 孝文(株式会社タイムワールド 代表取締役)
■西尾 武信(株式会社タイムワールド 取締役)
■吉田 英史(感涙療法士)
(事務局)
■熊倉 利和(株式会社セルメスタ 代表取締役社長)
■橋田 知世(株式会社こいこい 代表取締役)
■須子 善彦(マイプロジェクト株式会社 Founder 兼 代表/NPO法人ブラストビート 理事)
目次
1.なぜ今、『生きがい組織』なのか?
まずは熊倉氏から、改めて『生きがい組織』とは何か? そして、なぜ今、『生きがい組織』が必要なのかということについての説明がありました。
熊倉:この数年、健康経営を実践する企業が急増しています。働く人の身体とメンタルの健康づくりに取り組まれる会社さんが増えているのは、社会全体から見ても大変素晴らしいことです。
ただ、日本の健康経営で足りないものがあります。それは、人と人との繋がりや、社会に参画することで得られる社会的な健康です。WHO(世界保健機関)も、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることを健康と定義づけしています。つまり、健康とは、病気でないとか、弱っていないということだけでなく、社会と建設的でよい関係を築けていなければ、本当の意味で健康とは呼べないということです。
例えば、ご高齢の方が家にひきこもっているより、ボランティアなどで社会に参加するほうが生き生きと暮らすことができます。人は、人と人との繋がりの中、意義のあることに取り組むことで、本当の意味での健康になれます。
学生時代の部活のことを思い出してみても、キツイ練習があったり、試合に負けて悔しい思いをしたりしても、仲間と一緒に目標に向かっていく時間が何よりも楽しかった。当時の仲間とは、何十年後に再会しても、熱い気持ちが蘇ってきます。
一方で、いざ仕事となると、生きがいを感じ、情熱を注いでいくということがなかなかできていない。ライフワークではなく、生活のために仕方なく働くライスワークになってしまうのはとても残念ですし、もったいないことだと私は思っています。
やりがい、生きがいを持って働くことができなければ、自分自身、楽しくないのはもちろん、生産性や創造性も高まりませんから、企業や社会にとっても大きなマイナスではないでしょうか。
ですから、働きがい、生きがいを持って働ける場所や人を増やし、それによって社会を活性化していきたいという想いを強く持っています。
これまでメディアサイト『健康経営の広場』を通じて、健康経営に取り組む企業、あるいは健康経営を推進するためのソリューションを紹介してきましたが、今後は生きがい、働きがいということをテーマに加え、さらに発展させていきたい。
例えば、生きがい組織を実践する企業や人をメディアサイト、冊子などで紹介したり、、アワードやフェスも展開したい。生きがい経営銘柄といったことも可能でしょうし、生きがい組織を実現するためのソリューションを提供する産業も活性化し、新しいビジネスも生まれてくるのではないかと生きがい組織の夢は広がっています。
2.2024年、『生きがい組織』普及までの道筋
熊倉氏が目指すゴール、それは2024年までに、「生きがい組織という概念を普及させ、様々な人が働くことを通して、社会の繋がりや幸せを感じ、身体的・心理的に健康となり、結果的に生産性や創造性の高い働き方を実現している」というもの。そのために、アンバサダー制度を導入したいと言います。
熊倉:この『生きがい組織』を広めるため、中心的役割を果たしていただくのが「アンバサダー」と「パートナー」。
アンバサダーは、健康保険組合、事業主、自治体などの生きがい組織の実践者。パートナーは、生きがい組織に健康経営実践のための商品やサービスを提供する企業やプラットフォーマーなどに担っていただきたいと考えています。
まずはアンバサダー、パートナーの方々にインタビューを行い、どのような生きがい組織の取り組みをしているかということはもちろん、事業内容や企業の魅力などを記事としてまとめます。
その記事はメディアサイト『健康経営の広場』に掲載されるとともに、記事を元に冊子や電子書籍といったツールも作成。このツールを、生きがい組織の普及活動に使っていただくとともに、自社PRのためにも活用いただきたいと思っています。
というのも、生きがい組織や健康経営を実践する企業は、求職者にとってとても魅力的です。ですから、アンバサダー(健康経営の実践者)なら、人材募集のツールとなります。また、パートナー(ソリューション提供者)なら、生きがい組織・健康経営を実践する企業に対しての、自社商品やサービスの販促ツールとしても活用できるというわけです。
さらに、パートナーとアンバサダーによる対談などを行えば、より具体的な事例について紹介することができ、PR効果も高まることでしょう。
現段階では、アンバサダーとパートナーに各50名(社)が就任を要請したいと考えております。アンバサダーとパートナーの下に、多数のサポーター層(リアルコミュティ参加者など)、一般層(シンポジウム参加者など)で形成されるイメージです。
まずは、2020年早々、『健康経営の広場』シンポジウムを開催する予定ですので、そこも、『生きがい組織』について皆さんと考え、世の中に広く伝えていく場にしたいと考えています。
3.中家氏による特別レクチャー
続いて、中家良夫氏からの『生きがい組織』の必要性を裏づけるとともに、アンバサダー(健康経営の実践者)とパートナー(ソリューション提供者)の協力関係の事例ともなるレクチャーがありました。
中家:熊倉さんが仰った「やりがい、生きがいを持って働くことができなければ、自分自身、楽しくないのはもちろん、生産性や創造性も高まりませんから、企業や社会にとっても大きなマイナス」はまったく同感です!
又、熊倉さんが提唱する『生きがい組織』は、健康経営の本質を考えた時、必須の要素であり、且つ、最重要な組織だと思います。
私は、働く人は会社の経営理念やビジョンを共有・理解し、会社への信頼や貢献意欲を持つことによって、エンゲージメントの度合が高まり、その結果、仕事への集中力や創造力がアップして生産性が向上すると考えています。
それを実現するには、会社のビジョン・戦略・行動方針と働く人の夢や自己実現したいことがリンクしている関係性が必要です。この関係性が成立していれば、働く人は、生きがい・働きがいを感じて自発的に行動し、自ら主体的にリーダーシップを発揮します。そして、チームに貢献し生産性を向上させるでしょう。又、自己中心ではなく、「利他の心」でチームメンバーと助け合って行動し皆の幸せを願うでしょう。このようなポジィティブでチャレンジングな組織が『生きがい組織』と考えています。しかし、残念ながら、このような考え方は世界的に成功している先進的な企業が持っていて、ほとんどの日本企業が持っていないのが現状です。
『熱意あふれる社員』の調査結果の割合を見て、吃驚しました。なんと、日本は世界の中で最下位レベルです。『熱意あふれる社員』はわずか6%しかいません(※1)。首位のアメリカ/カナダの割合が31%(平均15%)ですから、日本も30%くらいないと恥ずかしいですよね。しかし、これが現実ですから、日本の生産性の低さが新聞紙上などで話題になる訳です。
ポジティブ・シンキングな話に戻します。内閣府が打ち出した『Society 5.0』(※2)では、最新テクノロジーを活用しながら、誰もが「快適」で「活力」に満ちた「質の高い生活」を送ることができ、「幸せ」「生きがい」が感じられる「人間中心の社会」の実現を謳っています。このように国の方向性も、熊倉さんの提唱する『生きがい組織』と合致しています。
VUCAの時代、世界では経営や組織マネジメントの領域で「OODAループ戦略」や「ティール組織」(Teal Organization)などの戦略理論が注目を浴びています。ティール組織は、社長や上司の命令ではなく、社員一人一人が自ら考え、楽しく働き、成果を出すというもの。まさに、『生きがい組織』そのものです。
今後ますます生産年齢人口が減少していく日本においては、社員が「生きがい」「働きがい」を感じる働きやすい組織・環境を作り、個々のパフォーマンスやワークエゲージメント、生産性の向上を最大限に高めて、プレゼンティーズムの解消を実現することが重要です。
会社(トップマネジメント)と社員が二人三脚で健康経営を実践することで、社員がワークエンゲージメントを高めて生産性が向上します。会社が社員の健康づくりに投資すると働く環境が改善されます。社員は自発的に意識変革&行動変容を実践し、社員が元気で活き活きと仕事ができるようになると、お客様からの信頼と社会からの高い評価を得て、会社の収益が拡大します。そうすることによって、社員の健康づくりに継続的に再投資することが可能となり、健康経営の好循環が生まれます。
当健康保険組合が内田洋行グループの2017年度のストレスチェックの結果分析を行ったところ、高ストレス者の60~80%の社員が肩こり・腰痛・頭痛・目の疲れを訴えていることが分りました。そのために、私たちは最新のツールを取り入れながら、様々な健康増進プログラムに取り組んでいます。その一つが『ポケットセラピスト』です。
これは、前回、コミュニティダイアログにも参加していただいた福谷直人さんが経営する株式会社バックテック(京都大学大学院医学研究科発のスタートアップ)が開発した価値の高い健康経営ソリューションアプリです。
『ポケットセラピスト』は医学的エビデンスをもとに生産性向上の可視化から肩こり・腰痛対策までを一気通貫でサポートするスマホ・アプリです。この肩こり・腰痛予防アプリは、肩こり・腰痛タイプチェックと言う独自アルゴリズムに基づいて最適なサポートを遠隔(オンライン)で気軽に受けることができます。合わせて、メンタル不調も改善できるのでワークエンゲージメントを高め、仕事の生産性を向上させて『生きがい組織』の創出に寄与しています。
これらのツールを積極的に活用しながら、社員の健康、さらに『生きがい組織』の実現に力を入れていきたいと考えています。
(※1)米国ギャラップ社が実施した『熱意あふれる社員』の割合調査(2017年発表)で、日本は調査対象139カ国中132位という結果になった。
(※2)サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心社会(Society)のこと。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱された。
4.共存共栄のためのソリューション
熊倉:中家さん、貴重なお話ありがとうございました。今、株式会社バックテックが提供する健康経営ソリューションアプリ『ポケットセラピスト』のお話が出ました。先程のアンバサダー制度に当てはめると、中家さんがアンバサダー(健康経営の実践者)、バックテックがパートナー(ソリューション提供者)となります。
同じように、酸素カプセルの製造・販売を手がける加藤孝文さん(株式会社タイムワールド 代表取締役)と、今日はお越しいただいていませんが、このコミュニティダイアログではすっかりお馴染みの森川孝司さん(ベイラインエクスプレス株式会社 代表取締役)とのケースもとても参考になるかと思います。
橋田:森川さんにタイムワールドの酸素カプセルをご紹介した方は、前回、コミュニティダイアログにも参加していただいた鍋嶋洋行さん(大橋運輸株式会社 代表取締役)。このリアルコミュティの輪がすでにどんどん広がっていることがとても嬉しいです。加藤さん、ではまず酸素カプセルについて教えていただけますか?
加藤:はい。わかりました。お陰様でこの数年、酸素カプセルの認知度が高まっていますが、20年前は誰も知らなかったんですね。それが、10年くらい前からスポーツ選手が使っているということで急に認知度が高まりました。
その後、スポーツ選手以外にも広がり、特にお医者さんにご利用いただくようになりました。というのも、お医者さんはとてもハードワーク。患者さんとのやり取りなどでストレスもあります。そこで酸素カプセルで疲労回復をされる方が増えていき、やがて評判が一般の方にも広がっていきました。
橋田:なるほど。酸素カプセルはどういう仕組みなんですか?
加藤:実は、酸素カプセルは、気圧を上げることで、天気の良い日と同じ状態を作るものなんです。体と気圧はとても関係が深く、気圧は体調に大きな影響を与えます。例えば、雨の日など気圧が低い日は、気分が落ち込み、体調を崩しやすい。
嵐の日の気圧は950hPa(ヘクトパスカル)、曇りの日は990hPa、晴れの日で1020hPaくらいですが、酸素カプセルでは1300hPaの状態を作り出しますので、疲労回復やストレス解消などの効果をもたらします。また、酸素カプセルを2時間利用すれば、6時間分の睡眠効果がありますから、忙しい方にはぜひ使っていただきたい。カプセル型はもちろん、数人で使える部屋タイプのものもありますから、会社で会議をしながらなど様々な使い方ができます。
熊倉:森川さんも鍋嶋さんも運輸業の経営者として、お客様の安心安全の確保とドライバーの運行後の疲労回復のためにこの酸素カプセルを導入なさいました。この事例も先程のアンバサダー制度に当てはめると、森川さんがアンバサダー(健康経営の実践者)、タイムワールドがパートナー(ソリューション提供者)となります。
5.ルートは違っても登る山は一緒
熊倉:2020年早々に、『健康経営の広場』のサイトリニューアルの発表会を兼ね、シンポジウムを開催予定です。そこでは、各分野の専門家を招き、講演会やパネルディスカッションも行いたい。
大門さんの提唱する『スーツにスニーカーアワード』のこともご紹介し、その後も、採用仲介メディアと共同でイベントを開き、「みんなと同じリクルートスーツではなく、スーツにスニーカーで就活しよう!」といった新たな価値観も提案していきたい。
橋田:現在、事務局の方でもいろいろ考えていますが、まだまだアイデアの段階。ですから、皆さんからのご意見、今日の感想などもフィードバックしていただきながら一緒に作り上げていけたら嬉しいです。では、最後に皆さんから一言ずついただきたいと思います。
西部:社会全体が『生きがい組織』に向かっているなということを今日、実感しましたし、その『生きがい組織』の普及を担う人たちが、この場に集まっていることを頼もしく感じました。
西尾:健康経営が広がっていますが、働く人の健康に対する意識や取り組みはまだ十分とは言えません。元気に生き生きと仕事に取り組める環境づくりのサポートができたらと考えています。
加藤:健康経営は経営にプラスになるものですが、そのことに経営者自身が気づいていない。健康経営の重要性を広めるとともに、推進するためのソリューションを提供していきたいと思っています。
松尾:このリアルコミュニティが『生きがい組織』や健康経営を社会に普及させていくための中核となり、企業や自治体を巻き込みながら、それぞれを繋げる接着剤になるのではないかと感じています。
星野:私たちも6、7年くらい前からヘルスケアサービスに関心を持っていますが、今日は、大変インプットが多く、勉強になりました。これからITの力を使いながら『生きがい組織』の推進に貢献できればと思います。
千本:健康経営の前に、まずは個人の健康管理の重要性を感じています。その中で大門さんのスーツにスニーカーはまさに日常の中でできる健康づくりの入り口になるもの。私も協力して進めていきたいと思っています
黄:私は、働く人のパフォーマンス向上のための指導などを行なっているのですが、特に今日は皆さんの事例が聞けたことがとても良かった。もっともっと事例を知りたいと思っています。
四方:健康経営でも、優良企業法人や銘柄認定を優先する傾向があり、なぜやるのかということが抜け落ちてしまうことが多い。今日は本質的な議論もでき、とても有益でした。
吉田:私は泣けるイベントなどを開いています。涙活は、ストレス解消にも効果がありますから、イベントなどで皆さんとコラボさせていただけたら嬉しいです。
樋口:今日は各分野の方々が集まっていますが、登るルートは違っていても、働く人を元気にしたい、社会を活気づけたいという同じ山頂を目指して登っているんだなということが実感できました。
中家:今回で第4回目ですが、ここまでビジョンが明確になり、具体的に話が進んでいるのはとても素晴らしいこと。VUCA時代、スピード感満点です!2020年に大きなシンポジウムも開催されるとのことで、ますます楽しみです。
上野:今日、それぞれの分野で取り組みをされている方々と出会うことができました。それぞれアプローチの仕方が違っても、最終ゴールは一緒なんだと実感。皆さんと関係性を深めながらゴールを目指したいと思っています。
大門:スーツにスニーカーのアワードをやりたいと以前から考えていましたが、熊倉さんと出会い、リアルコミュニティの皆さんと出会うことでそれが実現できそうなところまできています。来年は大きなスポーツイベントもありますが、建物ではなく、健康というレガシーを残すことに貢献できたらと思っています。
須子:今日、中家さんからティール組織というお話が出てとても嬉しくなりました。というのも、ティール組織は私個人としても以前から関心を持ち、取り組んできたことなんです。これからも、参加者同士のシナジーが生まれ、世の中をより良く変える取り組みを皆さんとご一緒できたらと思っています。
【取材後記】
第4回目となるリアルコミュニティ。毎回、新しい発見があり、新しい提案がなされ、それが次の回では動き出している。そのスピードに驚かされる。
前回のリアルコミュニティで熊倉氏から提案されたばかりの『生きがい組織』。今回は『生きがい組織』をどうやって実現させようかという具体的な道筋が描かれていた。「生きがい組織を実践する企業、ソリューションを提供する企業をはじめ、社会的健康を実現するプレイヤーを増やしていきたい」という熊倉氏の想いに賛同した人たちの協力を得ながら、プロジェクトが大きく動き出しているのだ。
2020年はメディアサイト『健康経営の広場』のリニューアルに合わせ、大規模なシンポジウムの開催も予定されているという。『生きがい組織』という新たなコンセプトが加わり、日本の健康経営が大きく飛躍する年になりそうだ。