【ベイラインエクスプレス】コロナ禍を乗り越え、安心安全な移動をプロデュース。人を活かし、地域に貢献する

全国を結ぶ高速路線バスを展開しているベイラインエクスプレス。その事業の性質上、移動が制限されるコロナ禍では少なからず影響を受けました。新事業にもチャレンジしながらピンチを乗り越え、地域や人財の活性化に貢献しようと歩みを続ける代表取締役の森川孝司さんにお話を伺いました。(インタビュアー:健康経営の広場/IKIGAI WORKS代表  熊倉 利和)

1.逆風を乗り越える新事業にチャレンジ

――まずは改めてベイラインエクスプレスさんについて教えていただけますか。

森川さん:はい。当社は首都圏と地方を結ぶ高速路線バス事業をメインにしており、いわばお客様の移動をサポートする会社です。今年で9期目を迎えます。

――お客様の移動のサポートということは、コロナ禍の影響も少なくなかったのではないでしょうか? 

森川さん:まさにその通りで、緊急事態宣言が出されると、県を越えての移動も制限され、私たちの事業そのものが否定されたような気持ちになりました。実際、それまで全国5路線21便を結ぶ高速バスを運行していましたが、大幅に削減せざるを得なくなりました。

ただ、落ち込んでいてばかりいても仕方がありません。何かアクションを起こさないといけないということで、新事業として企業送迎に着手しました。企業送迎とは、企業で働く従業員の方をバスで送迎するもの。当社では、川崎駅と物流倉庫が多くある東扇島間のバス送迎などを担当させていただいています。

――なぜ企業送迎に取り組もうと思ったのですか?

森川さん:一つにはニーズが高まっていたから。このコロナ禍の中で、通勤で市バスなどの公共交通を利用すると不特定多数の人と接触することになります。そのため、従業員の方を感染から守るためにバスをチャーターする企業さんが増えてきていたんです。

また、物流倉庫などは、一般的に駅から離れた交通の不便な場所にあります。そのため、人材採用で苦労している企業さんが少なくありません。募集要項に自社の送迎バスがあるということを謳えば、人材の確保にも繋がります。

それと、高速路線バスの延長線上で取り組めるというメリットもありました。例えば、運転士は夜間、高速路線バスを運転し、朝方、事務所に戻ってきますが、そのまま企業の送迎に向かえば人員的にも時間的にもロスが少なく、効率的に仕事ができます。

――なるほど。それは考えましたね。

森川さん:ありがとうございます。さらに企業送迎だけでなく、人材紹介の仕事もスタートさせています。これは当社の人材募集の面接に来ていただいた際、仕事内容を説明すると「夜行バスの仕事は自分としては難しい」となる方もいます。せっかく足を運んでもらったのにそのまま終わってしまうのも申し訳ない。それで、その方に合った他社さんでのお仕事をご紹介するようになったのが始めるきっかけです。その方にとっても働くチャンスが広がりますし、ある程度の紹介料をいただければ当社のビジネスにもなるかもしれないと考え、スタートさせました。

2.徹底的な健康管理をした上で副業解禁

――素晴らしい取り組みですね。その一方、コロナ禍で便数を減らしたということは、お辞めになった従業員もいたということですか?

森川さん:はい。元々、従業員は71名いましたが、コロナ禍の影響で今は36名になっています。最初の頃は、コロナ収束後に備え、人員は確保しておくべきという考えが業界全体としてありました。ですが、休職してもらっても社会保険料の支払い、退職金の積み立てなどは続けないといけません。私たちのような中小企業にとってはその負担はとても大きく、このままいくと立ち行かなくなることは見えていました。

それで、転籍や出向という形で他の運輸関連の会社で働いてもらえないかなど様々なことを模索し、再就職の斡旋なども行なってきました。同時に当社のバスを利用してもらえるように積極的に営業もかけました。それで実際に仕事が取れ、運転士さんに復帰してもらったら、また緊急事態宣言が出されて休職をお願いせざるを得なくなるということが続きました。

そうなると、運転士さんの中には心が折れてしまったり、「この仕事は好きなので続けたい。でも家族のことを考えると……」と当社を離れていく人も出てきました。そういう人たちに何もしてあげられなかったことが本当に残念でなりません。何が足りなかったのか。もっとできることはなかったのかと色々考え込んでしまいました。

――それは辛いですね。

森川さん:はい。ただ、残された従業員も多いですし、会社としても生き残っていかなければいけません。それで、退職される方には早期退職制度を利用していただくとともに、残った運転士については副業も認めました。

副業を認めている会社さんでも、同業はNGにする場合が多いのですが、当社では全面解禁。運転士は運転することが好きでこの仕事をしている人が多いので、他社のバス会社で働くことも認めています。

――それは運転士さんにとってはありがたいですね。ただ、複数の会社で働くと健康管理が難しくなりそうです。御社は元々、健康経営に大変力を入れ、安全管理を徹底されてこられました。それが他社さんでブラックな働き方をされては台無しになるという心配はありませんでしたか? 

森川さん:確かに以前よりは管理が難しくなる部分は出てくると思いますが、他社さんや運転士のせいにするのではなく、当社としてできることをしっかりとやっていきたい。そのためにも、これまでやってきた取り組みがとても役に立っています。

例えば、運行の際は、運転士の耳に眠気を感知できるセンサーをつけてもらっています。運転士の眠気を感知するとバイブレーションが作動し、刺激を与えるとともに、リアルタイムで運行管理者がチェックし、無線で声かけをするなど、ツールと人でダブルチェックするようになっています。

車線逸脱の回数、ブレーキの反応速度などもデータとして把握していますので、副業をしている運転士の車線逸脱の回数が増えていないか。ブレーキの反応速度は落ちていないかなどもチェックし、もし副業を始めてからそれらのデータに異変があるようでしたら、何らかの対応を取ることができます。

今後、これらの取り組みで集めたデータを使い、運転士の体調変化やルートごとの疲労度なども分析できるようにしていきたい。たとえば、「このルートを運行するのは、やはり運転士にとって負担が大きいんだな」「このスケジュールで、この便を担当させるのは避けたほうがいいな」ということもわかってくるようになるでしょう。そのためにも、今、データを蓄積していくことが重要だと思っています。

――驚きました。そこまでやられているんですね。

森川さん:はい。私たちは人の命を預かる仕事をしており、ミスは許されません。ですから、そこまでやらないとバスの運行はできませんし、副業をOKした場合でも、安全管理はその副業先の企業さんに任せるのではなく、あくまで当社でしっかり取り組んでいきたいと考えています。

3.生きがいを持って働けるチャンスを増やす

――副業も解禁されると、従業員の方にとっては多様な働き方が可能になったとも言えますね。森川さんのお話を伺っていると、私たちが設立したIKIGAI WORKSの考えと重なり合う部分が多くあります。IKIGAI WORKSでゆくゆくやっていきたいのは、一つの企業に留まるのではなく、生きがい・働きがいを求めて自由に移動ができ、その人の能力をより活かしたり、やりたいことにチャレンジできるチャンスを増やしていくこと。自分のやりたいことが今いる会社だけで実現できるとは限りませんし、違う会社で働くことができれば、よりやりがいのある働き方、生き方ができるのではないかと考えているんです。

森川さん:そうですね。今、副業をするのは公休日に限定していますが、その枠に縛られず、例えば、週3回に増やすのもいいと考えています。それと、現在、60歳以上の人に5名働いてもらっていますが、今後、増えていきそうですし、自社に限らず、定年とされる年齢を過ぎても、活躍の場が増えていくことを望んでいます。

4.ツールも活用し、理念と想いを共有

――森川さんや会社の想いを従業員の皆さんにはどのような手段で伝えていますか?

森川さん:今は毎週金曜日、従業員に私の考えや想いを伝える時間を設けています。そこで、自分たちの仕事は、お客様の移動をサポートすること。そしてそれは、人生をサポートすることでもあるんだよ、と。例えば、企業送迎なら、働く人を支えています。高速路線バスなら、お客様は遠方まで行くわけですから、何らかの目的を持ってご利用になられる。私たちの仕事は、お客様がその目的を達成することのお手伝いをしているんだといったことを話しています。

――素晴らしいですね。お客様の人生、ライフシーンを移動によってサポートし、プロデュースするというわけですね。

森川さん:はい。そのためにも一番大事になるのはやはり安全なんです。最近、従業員にも改めて話しているのが、安全性の大切さ。私たちと同じようなツールを活用している会社さんは他にももちろんありますが、同じツールを使っても意識、取り組み方によって大きな差が出ると考えています。

例えば、アラームが鳴っても運転士や運行管理者があまり気にかけないというのでは効果は望めません。いかにツールを効果的に活用していくかということが大事。そのためには、運転士、運行管理者だけでなく、バックオフィスのメンバーの役割も大事です。運輸事業者で働く一員として、職種関係なく、全従業員が安全のバトンを繋ぐ役割を果たしているんだという意識付けに力を入れています。

――なるほど。具体的にはどのような手段で従業員の方の意識付け、意思統一を図っていますか?

森川さん:はい。オンラインによるエンゲージメント経営プラットフォームを使い、従業員それぞれの考え、意見を書き込み、リレーのバトンのようにして次の人に回すということも始めています。最初はあまり乗り気でない人もいましたが、「取り敢えずやってみよう」と始めたら、あっという間にバトンが一周回るようになりました。

日報として、その日の仕事で気づいたことなどもレポートしてもらっています。前までは紙に書いていましたので、管理職しか内容を見ることができませんでした。それがオンラインのツールによって、みんなが見るようになり、「お客様からお褒めの言葉をたくさんいただく運転士はこういう働き方をしているのか」といったことも全従業員で共有。それを読んだ人も自分が感じたことをコメントで返すようになっていますので導入して良かったと思っています。

5.人の移動が街を活気づかせる

――コロナ前は5路線21便あったとのことですが、現在(2021年10月)どれくらいまで復活していますか?

森川さん:今は3路線12便です。首都圏と島根、四日市・伊勢、名古屋間を走らせています。ですから、以前と比べるとまだ半分くらいです。ただ、緊急事態宣言が解除されましたので小学校の遠足などの依頼も増えています。

――ベイラインさんは元々、公共性の高い事業を展開されていますし、コロナ禍を経て企業送迎、人材活用などさらに地域貢献、社会貢献度が高まっていますね。

森川さん:ありがとうございます。ただ、今はまだコロナ禍をどうやって乗り越えるかといった段階なので、地域貢献、社会貢献まではなかなか思いが回らない部分はあります。ただ、私自身、会社のある川崎育ち。私が子供の頃は、今のようにバスに乗って川崎から日本中に行けるとは思っていませんでした。逆に全国各地から川崎に人が気軽に来てくれるようになるなど想像もしていませんでした。そういった意味では、仕事を通じ、地域貢献ができているのではないかと思っています。

人は移動することによって、初めてその街の魅力を知ることができますし、人が移動することは地域を活性化することでもあります。ですから、私たちの仕事は街づくりに参画し、貢献するものであるという自負を持っているんです。

【取材後記】

コロナ禍による緊急事態宣言は、首都圏と全国を結ぶ高速路線バスを運行するベイラインエクスプレスさんにとっては、大きな打撃となりました。それを企業送迎や人材紹介といった新事業に活路を見出すとともに安全性への意識付けをさらに徹底。地域や社会、そして人のために何かできないかと常にチャレンジを続ける姿勢にただただ頭が下がりました。「日本一健康なバス会社」と呼ばれるベイラインエクスプレスさんは、日本一真摯に事業に向き合う会社かもしれません。

                   

<企業データ>

会社名:ベイラインエクスプレス株式会社

事業内容:高速バス・夜行バスの運行/企業送迎バスの運行/人材紹介

所在地:神奈川県川崎市川崎区塩浜2-10-1

従業員数:36名

ホームページ:https://bayline.jp/

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