【HNS】誰もが活躍できる場所を提供。コーピングなど先進的な取り組みで心身の健康を守る

社内に医療や介護の知識を持つ人がいるなど健康経営を進める上でとても充実
した環境があるHNSさん。さらにコーピングという先端のメンタルヘルスに取
り組み、社内だけでなく、社外に向けて事業化しようとしています。(インタ
ビュアー:健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表取締役 熊倉 利和)

〔株式会社HNS〕
山下さん(管理統括)

小倉さん(管理部)

有本さん(営業部)

1.生活を維持してもらうための応援団

――まずはHNSさんについて教えてください。

山下さん:はい。会社名のHNSは、ヒューマンネットワークシステムの略です。

人と人の繋がりを大切にしていこうという代表の想いを込め、2011年11月に設立しました。事業内容は、いわゆるSES(システムエンジニアリングサービス)と呼ばれるもので、技術者をお客様の元に派遣し、システム開発などのサポートに当たっています。

お客様は金融機関や保険会社などが中心。そのため、開発言語ではCOBOLを使用する案件が多くあり、Javaなどの他言語によるプロジェクトにも数多く参画。上流工程においてプロジェクトマネージャーのサポート役を務める経験豊かな技術者なども活躍しています。

――技術者や従業員の数、平均年齢はどれくらいですか?

山下さん:現在は約90名のIT技術者が所属しています。中には未経験の若い人もいますが、60歳以上の人にも働いてもらっており、平均すると50歳を超えています。

有本さん:従業員数で言えば40名になります。

――技術者の募集はハローワークを使われているとのことですね。

山下さん:はい。会社設立の目的は、就業の難しい人のフォローもして、きちんとした生活を送ってもらうための応援団になること。そのため、すぐにでも働く必要のある方にハローワーク経由で来てもらっています。

――そうだったんですね。ただ、ハローワークからですと必要な言語を使える技術者や、上流工程のサポートを担える経験豊富な人財を集めるのは難しいのでは?

山下さん:確かにハローワークからの応募となると実に様々な方がいます。面談の時点ではわからなくても、精神面の問題を抱え、障害手帳をお持ちになっていたことが後で判明したり、長く休職されていた方などもいます。そういう方に対しても偏見を持たず、どうやったら仕事をし、生活を維持できるようにするかを考え、サポートしていくことが当社の役割です。

ですから、じっくりヒアリングした上で、その人のスキルや経験を活かせる仕事をしてもらいます。経験のない人の場合は、まず実績を作る必要がありますので、キッティングなどの初歩的な仕事から始めてもらい、キャリアを築いていってもらいます。

――それは素晴らしいですね。ですが、そういう体制でやっていくのはご苦労も多いのではないでしょうか? 

山下さん:私たちからすると、今のやり方が普通のことになっています。確かに、最初の頃は、技術者から仕事上の悩みなどを夜遅くまで聞くことも多くありました。「こういう感じで仕事に取り組んでみたらどうか」「リーダーさんにこんな相談をしてみては?」などこちらも懸命に解決策を考え、うまくいった時もあれば、うまくいかない時もありました。そういった経験を積み重ね、現在の体制が出来上がりました。

2.医療資格を持つ取締役が健康アドバイス

――具体的にはどんな心身のサポートを行なっていますか?

山下さん:技術者が現場に入ってしまうと、私たちの目の届かないところも出てきます。そこで、営業が技術者の元を訪問し、悩みや不安などをしっかり吸い上げます。メンタルなどに不安がある場合は、行政との対応なども行なっていきます。

――そうなると、営業の仕事としては、お客様への技術者の派遣の提案だけでなく、派遣後の技術者のフォローもするのですね。

山下さん:はい。この有本もそうですが、当社の営業はその両方を担当します。技術者から「もうあのお客様の元では仕事をしたくない」といったメールが送られてくることもありますし、そういった不満、不安などの相談にも乗りますので営業の負担は小さくないと思います。

――年齢の高い技術者が多いとのことですが、その点はどうですか?

山下さん:年齢が高くなるとどうしても体力的な衰えが出てきます。また、本人は元気でも、家族の介護などの問題で働くことが難しくなり、退職したい、契約を解除したいというケースも出てきます。

途中でそういう状態にならないように、最初の時点で本人の心身の病気やご家族の介護なども含め、何でも相談してくださいというスタンスで求職者としっかり話をします。

幸い、当社の場合、医療系の資格を持っている者が社内にいますし、私自身も介護施設の運営に携わっていました。そういった医療、介護の経験や知識のある人間が、技術者や従業員の相談に乗るようにしています。

例えば、技術者や従業員から「家族の介護をする必要が出た」という話を聞けば、本人に代わって行政窓口に私たちが行き、様々な補助やサポートを受けられるように調整を行います。また、健康診断の結果のチェックやアドバイスも、医療の有資格者の取締役が行なっています。

――それはすごい。ちなみに取締役の方の持つ医療資格は?

有本さん:臨床検査技師です。

山下さん:その取締役が社内の冷蔵庫の中を見て、「この食品や飲料は糖分が多いので気をつけて」といったこともアドバイスしますし、体調不良を感じている従業員や技術者の相談にも乗っています。それも当社にとっては当たり前のことになっています。

――驚きました。御社は2021年にブライト500の認定を受けられていますが、健康経営がブームになっているから、というのではなく、会社設立の理念や取り組みがすでに健康経営になっていたということですね。

山下さん:そうですね。健康経営については、保険会社さんから教えていただいたり、産業医さんからの勧めを受けたりもしていましたので、世の中の動きとしても健康経営に対する意識が高まっていると感じていました。それならば、申請してみようかという話になったという流れです。

3.コロナ禍で大きく変わった働き方

――健康管理や健康づくりにおいて何か課題はありますか?

山下さん:最近は外部の方に依頼し、腰痛防止の体操教室なども開いていますし、社内の健康に関する取り組み度は高いと思います。ただ、お客様の元で働く技術者にそれらがまだ行き届いていない部分があるので、今後いかに浸透させていくかが課題です。

――確かに技術者の方はお客様の元に常駐するので、取締役の方がされている健診結果のチェックや健康相談、健康づくりのサポートを受けることが難しい面がありますね。月に1回、来社した時、あるいはオンラインで行うといったことも考えられますね。

山下さん:はい。そこを今、模索しているところです。強制的にやらせても浸透しにくいですので、今までやってきた延長線上で身近なところから取り組んでいきたいですね。それと、コロナ禍になってからは、営業が技術者の派遣先を訪問し、体調面なども含め、ヒアリングすることも難しくなっています。

――なるほど。派遣先で仕事をしていた技術者の皆さんも、コロナ禍では在宅勤務になったのですね。

山下さん:はい。出社しないといけないケースもあるのですが、在宅勤務が増えています。ですから、働き方、仕事の仕方がこの1、2年で大きく変わりましたし、健康面で言えば、自宅で働くことでメンタルに問題を感じる人が増えています。

今まででしたら、仕事上での疑問点があった場合も、お客様の顔を見ながら質問できていたことが、在宅勤務でそれがうまくできないケースが出ています。特に当社の場合、年齢の高い技術者が多いので、SNS上でのやり取りだけでは、若い人のように対応できず、必要以上に考え込んでしまったりする問題も出てきています。

その一方で、コミュニケーションが苦手な人は、自宅で一人で仕事をする方が力を発揮するといったこともあります。いずれにしろ、今までないことが起きているので、これまで取り組んでこなかったことにも積極的にチャレンジしていきたいと考えています。

4.コーピングでセルフケアを身につける

――健康経営で今後、取り組んでいこうと考えていることはありますか? 

山下さん:はい。コーピング(ストレス反応への対処法)を進めていこうと準備をしているところです。

コーピングとは、心理学の考えに基づいたもの。ストレスを認識し、それに対する自分のオリジナルな対処法を作り上げていくものです。つまり、セルフケアです。ですから、人によってストレスへの対処法は違ってきます。

――それは面白いですね。コーピングに取り組もうと思ったきっかけは?

山下さん:はい。せっかくストレスチェックを受けても、やりっ放しではあまり意味がないと思っていました。ストレスチェックの結果を受け、それをストレス軽減に繋げていくことこそが重要です。

先ほども触れた社内で開いた体操教室がとても好評でした。それで次にストレスを抱えている人にも声をかけてヨガ教室を開いたのですが、開催後にアンケートをとったところ「とても良かった」「毎週やってほしい」という意見が多く寄せられました。

それで定期的に開こうということになり、ヨガやメンタルヘルスなどについて調べていくうちに、コーピングを知りました。ヨガやフィットネス教室を開く際も、コーピングを取り入れ、セルフケアについて学べるようにすれば、さらに効果的であると思ったのがきっかけです。

――確かに、ストレスチェックなどで、この従業員は高ストレスの状態にあるということがわかっても、解決しないと意味がないですよね。コーピングによって自分のストレスの種類が分かれば、それに相応しい対処法も見えてきます。

山下さん:おっしゃる通りです。高ストレスだと言われても、いきなり精神科を受診するのはハードルが高いかもしれません。医療やメンタルヘルスの知識を持った人が教室のインストラクター、セミナーの講師を務めるのなら、その受け皿にもなれます。

ヨガやフィットネスのインストラクターにも、このメニューや運動がどうストレス軽減に繋がるかといったことも話していただこうと思っています。まずは来月から、コーピングの一環として薬剤師の先生にレクチャーしてもらう予定です。薬の相談をとっかかりにして、心身の悩んでいることを打ち明けてもらえれば、会社でも対応できます。

5.健康経営を起点に新規事業を生み出す

――今後のビジョンを教えてください。

山下さん:はい。一つは、このコーピングを当社だけでなく、社外にも広めていきたいと考えています。当社の代表がコーピングの資料を持って知り合いの会社を案内して回ると、「すぐにやってみたい」という反応をいただき、500人規模のIT会社からも問い合わせが来ています。その会社からは「過去にコーピングについて検討したことがあるのだが、うまくいかなかったのでじっくり話を聞かせてほしい」という要望をいただいています。

コーピングは耳馴染みのない言葉ですが、大手企業さんではすでに実施できないかと検討しているところもあります。メンタルヘルスなどに関する研修はたくさんありますが、コーピングをテーマにしたものはほとんどないのでニーズも大きいのではないでしょうか。

――金融機関などのCOBOLを使ったシステム開発は、無くならないし、むしろ人手不足の状況にあるとのことですが、次の世代にも繋がる新規事業が誕生するのは心強いですね。

有本さん:はい。COBOLなどを使ったシステム開発もしっかり継承していく必要がありますが、社会全体としてはCOBOLの案件は減っていくと思うので、もう一つの柱が必要。ブライト500の認定を受けたことを契機にコーピングなどの新しい事業が始まっていて、それは私たち若い世代にとってもとてもありがたいことです。

【取材後記】

誰もがやりがいを持って仕事ができ、それによってしっかりとした生活を送れるようにしたいという想いで会社を経営するHNSさん。コーピングにも取り組み、従業員や技術者の健康に活かすだけでなく、事業化することで次世代へ会社を継承するとともに、今の社会に必要とされるメンタルヘルスを広めていこうとしています。その理念と取り組みに深い畏敬の念を抱くとともに、これからの健康経営に多くのヒントをもらえる取材となりました。

<企業データ>

会社名:株式会社HNS

事業内容:契約先企業の技術パートナーとして情報システムに関する幅広い提案設計業務(金融・流通関連の業務系システム開発/オープン関連の業務系システム開発/インフラ保守管理業務系システム開発/ホームページ&Web系システム開発/若手技術者育成支援事業/シニア技術者独立支援事業/ソーシャルビジネスコンサルティング)

事業所在地:〒541-0054 大阪市中央区南本町四丁目3-16-1002

資本金:1,500万円

社員数:40名(契約技術者90名)

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