安全衛生優良企業認定で「ブラックなイメージ払拭」「就活生から大反響」

1.秋田県で唯一、安全衛生優良企業の認定を取得

最初に登壇したのが株式会社フィデア情報システムズ理事の近藤定義氏です。同社は秋田県秋田市に本社を構えるIT企業で、昭和48年(1973年)に当時の羽後銀行、現在は北都銀行と富士通の共同出資で設立されました。

資本金5000万円、従業員150人の中堅企業です。もともと銀行システム関係を中心に手掛け、現在は秋田県を中心とした地方公共団体向けの仕事を受注していると言います

安全衛生への取り組みもめざましいものがあり、秋田県で安全衛生優良認企業の認定を受けた企業は同社しかありません。さらに厚生労働省が推進する若者の採用・雇用に関する「ユースエール認定制度」の認定も受けており、これもIT企業で認定を受けているのは東北で同社を含めて2社しかないと言います。

近藤氏はまず、安全衛生優良企業の取得のきっかけから次のように説明を始めました。

「当社は、以前から社員は会社の宝という考えのもとに、社員が安全で健康に業務に集中できる環境作りを目指してきました。ITという仕事柄、ストレスを感じる社員が多いことから、厚労省に何か情報がないのかな、と調べたのが始まりです。」

「そこで、当社が取り組んだ具体的な安全衛生への取り組みの実例を一つ一つ挙げていきます。安全衛生優良企業への近道はなく、コツコツと積み上げていくのが大事なことがお分かりいただけるかと思います。

当社は社用車を19台所有していまして、定期的な車両チェックを実施しているのはもちろん、7年前からドライブレコーダーを付け、緊急用の脱出ハンマーも乗せています。昨年9月には車載用の防災セットを全車両に搭載。秋田県は雪が多い地域ですので、万一、雪に閉じ込められても、クルマの中で1~2日生き延びられるようにという配慮からです。

社員用の通用口には、ソーラー式のライトを付け、暗いときに足下を照らすようにしています。以前はブロック敷きだった通路の床も、女性がハイヒールなどで転ぶケースがありましたので、すべてコンクリート敷きにしました。自転車と人間の衝突を防ぐためにカーブミラーやソーラー式ライトも付けています。」

2.実効性ある健康、衛生面での対策を行う

健康、衛生面の取り組みも具体的で参考になります。

「当社では、設置して12年目になる衛生委員会を毎月開催し、時候に合わせた健康情報の提供をしています。また関連する資格所有者は、第一種衛生管理者が2人、第二種衛生管理者が2人、そしてメンタルヘルスマネージメント2種、企業在籍型職場適応援助者の資格を私が持っています。」

と近藤氏は話します。

「ちなみに企業在籍型職場適応援助者の資格所有者は秋田県で私一人です。当社では障がい者の方を雇用していまして、その方々が職場に適用できるようにということで資格を取得しました。

昨今、流行しているインフルエンザ対策も万全です。産業医と協力して早めの予防接種はもちろん、館内ではマスク、消毒液を常備しています。

マスクは会社で費用負担をし、強制的に全員に付けてもらっています。また、万が一罹患した場合は、本人の場合は5日、家族の場合は3日、強制的に特別休暇ということで休んでもらっています。

男子トイレには、床にこぼしてしまった小便を自分で拭くようにモップを置いております。また男女トイレ共通で、手を洗ったときに汚してしまった洗面台を拭くために、専用のタオルを置き、使った後は会社が回収して専用の洗濯機で洗っています。」

「今年に入り、具合が悪いときに休憩する専用の部屋を作り、ソファーベッドを置きました。そこには肩こりや腰痛に悩む社員が多いことから、マッサージチェアも設置しました。その他、食堂には自分の健康は自分で守るよう体脂肪計や血圧計を置いています。

健康診断は、毎年始めに定期健康診断の予定表を作り、受診状況を常時確認しております。さらに産業医による健康診断の判定でチェックが入った社員は、二次検査に行くよう指示するとともに、受診の有無の確認も行っています。また健康保険組合員による健康相談を年一回実施し、1日数十人の社員が相談しています。

更に受動喫煙の防止対策では、平成24年より館内の禁煙を実施していましたが、現在では敷地内全面禁煙にしています。さらに新入社員採用時には喫煙者は採用しないことをホームページに記載しております。また、今年の4月からは業務時間中の喫煙を禁止することを社員に通達しています。」

3.万全なメンタルヘルスへの取り組み

IT企業だけにメンタルヘルスにも、注意を払っていると近藤氏は次のように強調しました。

「ストレスチェックでは、法律の施行前の平成25年から独自のソフトを活用して実施し、心の不調者の早期発見に務めています。残念ながら発症した場合は、総合病院の精神科系、もしくは精神科系の病院を私どもで斡旋いたします。さらに定期的に通院状況を確認し、最終的には本人、医師の面談によって復職の時期を確認いたします。

復職可能となった場合は、地域障害者職業センター及び病院とタイアップいたしまして、お試しリワークとして一週間程度働いた後に、正式にリワークを開始します。

約3カ月のリワーク支援を行い、終了後に復職いたします。復職直後は通常勤務ではなく、最初は午前中で強制的に帰ってもらいます。以降、午後3時まで、5時までと時間と延長し、本人の体調を見ながら順次、対応をしていきます。」

「時間外勤務は、月平均15時間から18時間ぐらいで推移しています。IT会社ですので入退館管理システムを使いまして、チェックをしております。

国では80時間以上の法定外勤務を行った従業員は、産業医による健康診断を実施することになっていますが、当社では10時間減らして70時間を超えた場合は、強制的に病院で診断を受けてもらうようにしています。

休暇は、まず9日間の連続休暇があります。内訳は有給2日、特別休暇3日、それに土日を合わせて連続9日になります。また、土日プラス有給2日間のワークバランス休暇と呼んでいる短期休暇を設けています。

これだけでは有給を完全に使い切るのに1日足りませんから、4月から強制的に休みを1日作りました。ハッピーマンデー、もしくはフライデーということで、土日プラス1日、月曜日か金曜日のどちらかを休んで、連続休暇と短期休暇を合わせて必ず5日間取得するように通達しています。」

「また、プレミアムフライデーは、月末週の金曜日だけではなく毎週金曜日は早く帰って良いということで、毎月社員の半分程度がとっています。さらに、定時退社を毎週水曜日に設定し、17時には帰るということにしています。」

と近藤氏は語ります。そして、安全衛生優良企業取得の効果を次のようにまとめました。

「IT企業といいますと多忙、ブラックというイメージが非常に強いですが、この払拭に役立ったと思っています。秋田県唯一、東北でも2社か3社しか認定を受けている企業はありません。安全衛生に対する積極的な姿勢が各方面から認められたと認識しています。」

4.電気設備企業では初の認定。しかも今年で2度目

次に登壇したのが神奈川県横浜市に本社を構える東電同窓電気株式会社監査役の目迫公雄氏です。同社は昭和25年(1950年)の創業。社名の由来は、東電は東京電力、同窓はOBということで、約70年前に東京電力を退職したOBが自己資金を作って設立しました。資本は同社独自で東京電力の資本は入っていないと言います。

売上げ約90億円、社員300人です。事業所は神奈川に9箇所。千葉県と茨城県に1箇所ずつあります。主な業務は、電力インフラの施行と保守点検で、電柱の敷設や電線の張り替え、送電線や変電所の保守管理、ビルなどの電気設備工事を手掛けています。

目迫氏は同社の特徴を次のように語ります。

「3点ほど当社の特徴を申し上げますと、1点目は黒字経営をずっと続ける地道で硬い会社です。2点目はアットホームな社風で、ほとんどが技術職で男性が占め、先輩社員の後輩の面倒見がよいことから、定着率が高いのが特徴です。

3点目は教育研修に力を入れ、階層別研修の他、資格取得の費用の一部を会社が負担し、電気工事関係の資格は1年目で100%合格しています。

安全衛生優良企業の取得を目指した理由は、当社は現場の人ばかりの企業ですので、現場の人の安全と衛生を考えた場合、それの客観的な評価になると考えました。ちなみに当社は、今年1月に神奈川労働局長から認定書をいただき、継続して2回目の認定になります。今、この制度ができて4年目ですが、認定企業は全国で33社しかありません。電気設備企業では当社のみです。トップはトヨタ自動車や堀場製作所など、製造業が多いです。」

5.現場の社員の声を聞き、施策に取り入れる

目迫氏はまず、認定取得の難しさから説明を始めました。

「安全衛生優良企業認定には、55項目の通信簿があります。事故、災害が同業者より少ないうえに、安全、衛生についての55項目のエビデンスを出す必要があるのです。これを行政の人が全部チェックします。

3年前にこの認定を受けようとしたとき、当初はこれは駄目だなと思いました。そこで約4カ月、神奈川労働局の担当の方と10回以上キャッチボールして、やっと認定にこぎ着けました。

認定取得に当たっては、いろいろなことに取り組みましたが、一言で言うと現場の人の意見を聞いて取り入れていったということです。頻繁に現場を回り、働き方改革も含めて社員に聞きながら実施してきました。」

「当社は電気工事の会社ですので、現場のパトロールを行っています。安全管理の部署の社員だけではなく、労働組合の幹部と経営層が定期的に一緒に回っています。そのときに安全対話といって、車座になって現場の意見を聞きます。安全についての話だけではなく、仕事やプライベートの悩みを聞いて、それを現場にどう活かすか考えています。

安全衛生活動では、毎年、個々の事業会社で社員全員を集めて、全社安全の日というイベントを丸一日行っています。社員が安全への取り組みを発表、安全衛生の意識をリセットして、効果を高めようというのが狙いです。

健康管理では、当社は仕事柄、腰痛持ちが多いです。全社員に聞いたところ、約60%が腰痛持ちとの回答がありました。そこで、一般的なラジオ体操などは他の企業も行っていますので、オリジナルの腰痛予防体操を作ろうと専門家を呼びまして、半年かけて現場でできる腰痛予防体操のリーフレットやビデオを作りました。さらにインストラクターと本社の社員が各事業所に行って、社員に直接指導しています。」

「当社では、法定を上回る検診検査を実施しています。定期健康診断のときに腹部エコー、がんの検査、特に女性は乳がんや子宮がんの検査を会社負担で行っています。

また、今流行しているインフルエンザは毎年11月、各事業所に医者を派遣して全社員に強制的に予防接種しています。インフルエンザにかかると丸一週間は休まなくてはいけませんから、労働生産性の面からも大事だと考えています。」

6.対策の基本はコミュニケーション重視

メンタルヘルス対策では、各部の部長、所長が責任者になっている他、相談システムを設けていると、目迫氏は次のように説明します。

「自分の病気や家族の介護、ローンなどの金銭問題など誰でも悩みを持っているものです。それを総務にメールして相談するかというと、プライベートなことは特に相談しにくいでしょう。そこで外部の保険会社と契約して、本人、家族がいつでも相談していいですよ、という仕組みを設けています。会社はお金を払うだけで内容についてはタッチしませんから、相談しやすいのではないでしょうか。

子供の夏休みには毎年中学生以下の子供に画用紙を渡して、安全をテーマに絵を描いてもらっています。当社は電気工事会社なので、電柱や高所作業車、ヘルメットを被ったお父さんの絵などが多いのですが、これは日頃から父親が自分の子供に仕事の内容を話していなくては描けないと思います。

上手な絵は会社のロビーに1~2カ月張り出すのですが、それを社員が見て盛り上がります。これもメンタルヘルス対策の効果があると考えています。」

「過重労働防止対策では、長時間労働になった社員は厚生労働省の疲労度チェックシートで疲労度をなどをチェックし、さらに産業医の面接を行います。60時間以上の時間外労働では、総務部長から所属長に対して改善指導書を出します。改善指導書をもらった社員に1週間以内の報告書の提出を求め、総務部がチェックしています。

働き方改革では、法律で年次有給休暇を5日以上取らなくてはいけませんが、当社は2年前から計画的に6日以上取るようにと指導しています。6日以上ですから、8日でも9日でもよいのでその計画書を出してもらっています。このほか、永年勤続リフレッシュ制度があります。また、コミュニケーションを図る目的で、家族旅行やバーベキュー、飲み会などの費用の一部を会社が負担しています。これが大変好評です。

最後は自慢話になりますが、当社は行政から複数の賞や認定を受けています。例えば7年前に文部科学省からキャリア教育の優良企業として表彰されました。これは学生を対象に15年前から行っているインターンシップが認められたものです。」

「8年前には神奈川県の子供子育て大賞というワークバランスの賞もいただいています。また、横浜市からは、CSR関連の横浜地域貢献企業、横浜グッドバランス賞、横浜健康経営の3つの認定を受けています。」

そして目迫氏は、次のようにまとめました。

「こういった認定や表彰を受けると、それを業務にどのように結びつけるか、という課題が出てきます。私は去年まで人事部長を務めていましたので、安全衛生優良企業の認定を受けたことで、取引先以外にも特に就職希望の学生から大きな反響があったことを肌で感じています。このような結果が得られたことで、やはり認定を受けたことは大変良かったと考えています。」

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