ヘルスケアIT セミナー12選⑪:健康経営の実践的な進め方- 現状から経営者の説得方法までを指南

ヘルスケアIT セミナー12選⑪:健康経営の実践的な進め方- 現状から経営者の説得方法までを指南

2019年1月に東京ビックサイトで開催された「Care Show Japan2019」。健康経営の広場独自の視点で、お勧めのセミナーをご紹介していきます。その中で1,200を超える企業・団体の福利厚生制度や健康サポートをサポートしてきた株式会社イーウェルから二人の講師を迎えて開かれたセミナーのタイトルは、『健康経営推進の現状と課題 ―コラボヘルス研究会での実践事例―』。健康経営の現状と課題、実践的な推進策について話してもらいました。


1.今、健康経営へ注目が高まっている背景とは?

最近、メディアなどでもよく目にするようになった「健康経営」。実際、日頃から運動をするなど健康維持に努める社員にインセンティブを与えたり、社内で健康増進のための教育に力を入れるなど、健康経営を取り入れる企業が続々と増えています。今回のセミナーでは、株式会社イーウェルのコラボヘルス研究会の戦略企画室の室長である林邦彦氏と、新規事業プロジェクト部長である小林成樹氏が健康経営の現状から、導入する上での課題やポイント、実例までを紹介してくれました。

そもそも「健康経営」とは何でしょうか? 改めて確認しておきましょう。「健康経営」とはもともとアメリカの経営心理学者ロバート・ローゼンが提唱したもの。企業が持続的に成長するためには、従業員の健康をしっかりと担保するという経営手法を指します。具体的には、定期的な健康診断、がん検診などはもちろん、健康増進に取り組む社員に対して特別手当を出したり、メンタルヘルス研修を実施したりすることが挙られます。つまりは、健康経営とは、従業員の健康こそが、企業にとっても、そしてさらには、社会にとっても不可欠なものであることを念頭に置いた経営理念のことです。

実際アメリカでは、1980年代以降、GEやテネコ石油、GMをはじめ、健康経営に積極的に取り組む企業が増えてきました。というのも、従業員の健康は、仕事のパフォーマンスやモチベーションを高めることができ、ひいては生産性や収益性が高まり、医療費も抑えることができるからです。

では、最近になって日本で健康経営が広まっている理由は何なんでしょうか。それは、「今後、65歳未満の労働力人口が大幅に減少すること」「少子高齢化や定年延長によって従業員の平均年齢が上昇すること」「データヘルス計画(※1)や健康経営銘柄(※2)など、国や行政も積極的に施策を押し進め、市場からも有望視されていること」の3点を林氏は挙げています。

これを言い換えれば、これからの企業の課題となるのが、「労働力の確保」「労働生産性の向上」「投資対効果」の三つということになります。つまり企業としては、優秀な人材の確保とその継続的なパフォーマンス維持向上に繋がる施策を整備していく必要があるということです。

(※1)レセプト(診療報酬明細書)や特定健康診査などのデータを活用し、被保険者の健康管理や疾病予防、重症化予防などを効率よく行うための保険事業計画。平成27年度からすべての健康保険組合に実施が義務付けられている。

(※2)従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業を、経済産業省が東京証券取引所と共同で選定している銘柄。健康経営に取り組む企業は、従業員の活力や生産性、中長期的な業績・企業価値の向上が期待され、投資家にとっても魅力ある企業となる。

2.健康経営とは一軒の家を建てるようなもの

とは言うものの、健康経営は日本においては新しい考え方ですし、「いざ健康経営に取り組もう」としても、全体像が掴めず、漠然としたイメージしか沸きません。では、どのように捉えればいいのでしょうか。林氏は、「健康経営」という家を建てるイメージを持つといいと言います。

まず家を支える土台の部分に「企業・経営」があります。企業として、従業員の健康がとても重要であることは言うまでもありませんが、まずは何にするのも土台となるのは企業そのものですし、経営ということを考えると自社ビジネスや収益性があってのこと。つまり、「企業・経営」が土台となります。この「企業・経営」の上に、健康経営の推進を担う「事業主・産業保険」と「健康組合」が乗っており、家のその一番上に「健康に対する考え方」が置かれる。このことで初めて「健康経営」という一軒の家ができると言うわけです。

「健康経営」という枠組みが一軒の家であるイメージができた上で、その家の中でどうやって健康経営を推進していけばいいのでしょうか。これは、どんなことにも当てはまるものですが、まず目標を立て、目標を達成するための手段を選び、最終的に結果を出すという流れです。健康経営の目標としては、「働き方改革(労働環境の改善)」「労働生産性向上」「従業員満足向上」といったことが挙げられるでしょう。

次に目的を実行するための手段です。健康経営の手段としては、「ストレスチェック制度(※)」「健康管理強化」「コラボヘルス推進(※2)」「保健事業強化」「データヘルス計画」といったものがあります。その手段によってもたらさえる結果が、「企業価値向上」「健康経営認定」などになるというわけです。

健康経営・健康投資がもたらすものを、もう少し具体的に考えてみましょう。大きく分けると「従業員にとっての価値」と「企業/経営者にとっての価値」にわけられると言います。

 まず、従業員の価値としては、「労働時間の適正化や柔軟な働き方の実現」のほか、「健康診断が受診しやすくなる」「食事や運動に配慮した健康プログラムが提供される」といった健康を目的とした活動の費用補助などです。

一方、企業/経営者にとっての価値としては、「従業員のモチベーションや業務効率が高まる」「欠勤率が下がる」「労災の予防になり、健康保険料などのコスト削減になる」「企業のイメージ・アップになる」「採用・リテンション(人材の引き留め)に繋がる」といったことが挙がられます。

(※1)仕事や職業生活に関して強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者が5割を超え、これが原因で精神障害を発病し、労災認定される労働者が増加傾向にある。この状況を受けて、常時使用する労働者に対して、医師や保健師などによる心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を実施することが事業者の義務となっている(労働者数50人未満の事業場は当分の間努力義務)。

(※2)健康保険組合などの保険者と企業が積極的に協力し合い、労働者やその家族の健康増進を効果的および効率的に行うこと。

3.企業価値を向上させる健康経営認定

国や行政も積極的に健康経営を押し進めており、認定制度も確立してきています。例えば、経済産業省では、2016年に「健康経営優良法人」の認定制度を設立。

 これは、「特に優良な健康経営を実践している法人」を日本健康会議(※1)が認定するもの。規模の大きい法人や医療法人を対象とした「大規模法人部門」、中小規模の法人や医療法人を対象とした「中小規模法人部門」の2部門でそれぞれ健康経営優良法人を認定します。大規模法人部門の健康経営優良法人は、別名「ホワイト500」と呼ばれています。

健康経営を押し進め、これらの認定を受けるメリットに、金融機関や投資家などからの信頼が高まるなどともに、リクルート市場の評価が高まることが挙げられると林氏は言います。例えば、学生にとって人気が高いとは言えなかったある外食企業が、合同就職セミナーなどで「ホワイト500認定」という看板を掲げたところ、応募者が急増したと言います。

こうした効果が得られることもあり、健康経営優良法人認定への申請企業(調査回答企業)は、年々増加。2017年は、1,239社だったのに対し、2018年は1,800社と561法人も増えました。その中で特徴的であったのは、未上場企業の申請が上場企業を上回ったこと。2017年では、未上場企業521社、上場企業718社であったのが、2018年には未上場企業941社、上場企業859社となっています。

これは未上場企業は、知名度などで上場企業にどうしても劣り、採用でも苦戦するケースが多いためだと言います。同じような理由で、建設業なども積極的に申請をおこなっていると言います。

(※1)経済団体・保険者・自治体・医療関係団体など民間組織が連携し、厚生労働省・経済産業省の協力のもと、国民の健康寿命の延伸と、医療費適正化に向けて、実効的な活動を行うことを目的とした団体。

4.始めるに当たり経営者の説得が鍵となる

このようにメリットの多い健康経営ですが、なかなか押し進めることができない企業も少なくありません。その原因としては、「社内/健康保険組合内の人的リリース不足」「健康経営に関する指標の活用方法がわからない」「他者の取り組みがわからない」「社内コンセンサスが取りにくい」といった回答が担当者から多く寄せられていると小林氏は言います。

実際、健康経営に取り組み、健康経営優良法人認定を受けるにも、担当者は大変です。様々なデータを集めたり、社内のコンセンサスをとったりとやることが多いのに、人手も足りないと頭を悩ませているようです。
では、どうすればいいのでしょうか。まずは可視化が大事だと言います。物事は何でもそうですが、最初の段階で豊富な資金や人員を投入すれば、成功する確立がぐんと高まります。社内のコンセンサスをとり、資金や人員を投入できる環境をつくるためにも、健康経営をおこなうことのメリットを可視化し、共有できるようにすることが欠かせません。

メリットとしては、先ほど言ったことにも重なりますが、「従業員満足度の向上」「従業員がイキイキと元気に働ける状態」「生産性の向上」などが挙げられます。そして、社外的にも、「企業イメージの向上」「自社ビジネスへの好影響」に繋がっていくということ。つまり、健康経営をおこなうことで、マスコミ、投資家、リクルート市場での評価も高まり、融資や仕事の依頼が増え、優秀な人材を獲得できることを社内に浸透させていくことが重要になります。

メリットを可視化したあとは、「可視化フェーズ→計画フェーズ→実行フェーズ」へ段階的に進んでいきますが、それぞれのフェーズで「計画→実行 →改善→評価」というPDCAを回していくは欠かせません。

そして、健康経営を推進していけるかどうかの鍵は、経営者の説得にあると小林氏は言います。つまり、健康経営がもたらすメリットや必要性を経営者に理解してもらうこと。

とは言うものの、経営者に対し、単に「社員の健康」というワードを投げかけるだけでは、心を動かすことは難しい。それよりも、「労働生産性」というワードを使い、「長時間労働の解消には、労働生産性の向上が不可欠であり、労働生産性を高めるためには従業員が良好なコンディションで働くことが不可欠である」といった文脈からの説得のほうが効果的です。

また、同業他社の事例や動向、自社との取り組みの比較をすると、経営者に興味を持ってもらえるケースが多いと言います。例えば、レセプトデータを活用しながら、従業員の高血圧、高ストレス精神疾患、循環器疾患などの割合を、自社だけではなく、他社と数年間に渡り比較したりすること、フィジカルやメンタルの不調がいかにパフォーマンスの低下に繋がるかを数値として出すことで、経営者の健康経営への関心をぐんと高まると言います。

5.押しつけをせず、パートナー企業とも連携

健康経営を実践に移すとき、気をつけたいのが押しつけにならないこと。例えば、「禁煙の施策をしよう」「血圧の高い人のために減塩プログラムをやろう」といった場合も、社員などの対象者に「これをやってください」と一方的に言うのではなく、選択肢を与えることも大事だと言います。

例えば、「健康指導を受ける」「プログラムに参加する」という場合も、実際に専門家に会って指導を受けたい人もいれば、インターネットで空いた時間に受けたいという人もいるでしょう。できるだけ社員が参加しやすくなるように工夫し、ハードルを下げることも必要でしょう。もし、不参加ならば、その理由を書いてもらい、今後の施策に活かすということもいいでしょう。

経営者の説得も成功し、社内のコンセンサスもとれ、健康経営を実践に移すときに欠かせないのが、民間のヘルスケア事業者などとの連携です。禁煙や運動、栄養管理などを専門的におこなっている事業者に協力を仰ぎながら、効果的に実行していきたいところです。

各企業や健康組合による健康経営が成果を上げるためには、従業員の健康課題が適切に可視化されること。企業トップの理解のもとにニーズに合った健康プログラムが提供されること。さらにはプログラムの評価が適切に行われているといったいくつかの要素が不可欠になってきます。

それぞれの企業や健康組合に合った方法で、健康経営を押し進めていってくださいというメッセージでセミナーは終了となりました。

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