「健康経営」認定のエビデンス対策は、安全衛生優良企業の取組に学べ

1.生産性の向上と企業のイメージアップ

経済産業省が進める健康経営優良法人の認定制度は、厚生労働省の安全衛生優良企業公表制度の基準をベースに創設されたもので、健康経営の内容は安全衛生に包含されています。

「健康経営のすすめ」をテーマに登壇した非営利一般社団法人安全衛生優良企業マーク推進機構理事長の木村誠氏は、健康経営の最新のトピックスから話を始めました。

「先週、健康経営アワードの発表会が2月21日に行われると発表されました。健康経営で難しいのは、毎年発表の仕方や基準内容が変わりますので、目が離せないということです。なお、発表会には認定申請した企業以外の一般企業も参加できます。」

「そもそも健康経営とは何かというと、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する経営手法ということです。

メリットとしては、まず生産性の向上が挙げられます。それ以外にも企業のイメージアップ、特に採用活動に大きな利点があります。背景は、生産人口の減少と高齢化、人手不足の問題、医療費の増大、働き方改革といったことが挙げられます。

これは国策としてヘルスケア産業を盛り上げていこうという狙いとともに、構造的な問題として人口減少をどう食い止めていくか、医療費が増大していくという点では、亡くなる直前まで元気でいてくれれば、医療費を抑制できるという考え方があります。

人手不足もとりわけ中小企業を中心に深刻になっています。日本商工会議所が平成30年6月に行った調査では、人手不足と答えている企業が65%に上ります。過去5年間を見ても右肩上がりで人手不足を訴えていますので、ここをなんとかしていこうということが多くの企業の共通する問題意識になっています。」

「厚生労働省の安全衛生優良企業公表制度は、下部組織の労働局が受け皿になっています。これに対して経済産業省の健康経営優良法人の認定制度は、日本健康会議という組織を作り受け皿にしています。

日本健康会議のメンバーを見ますと、著名な経済団体をはじめ医師会、知事会など、さまざまな団体が名前を連ねてオール日本といった組織になっています。」

2.申請内容で50%以内に入るのが第一関門

「次に健康経営の実務的な認定要件について説明していきます。健康経営には厳密には3つの種類があります。上場企業を対象とした『健康経営銘柄』と大企業向けの『健康経営優良法人』(ホワイト500)、中小企業向けの『健康経営優良法人』です。

ただし、健康経営銘柄は1業種1社が選ばれるというもので、毎年25社しか選ばれません。皆さんがチャレンジできるのは、大企業向けと中小企業向けの2つです。

いま、ご覧になっている資料『健康経営優良人2019(中小規模法人部門)の認定基準』は、中小企業規模となっていますが、この基準自体は大企業も中小企業も同じです。」

「年間のスケジュールとしては、まず認定基準は毎年8月に発表されます。その年の11月が申請の締め切りとなっています。認定基準は、この中で毎年変更になります。そして2月には結果が発表されるというサイクルになっています。

まず大企業向けのホワイト500は、8月に認定基準が発表されたところで健康経営の調査票を提出する必要があります。これには70項目にも及ぶ質問項目がありまして、ここで提出した企業の上位50%以上に入らないと、次のフェーズに進むことができません。」

木村氏は、ここで躓いている企業がたくさんある、と指摘します。

「2年間出したけど受からなかった、50%以上に入るにはどうしたらよいのか、という相談が増えています。おととしは受かったけれど、去年は受からなかったという企業もあります。

50%以上に入れた場合は、大企業では表中の評価項目1~15番のうち12項目を達成する必要があります。一方の中小企業は、15項目のうち6項目です。必須項目は、大企業、中小企業ともにクリアが必要です。

また、健康経営を評価するための5つのフレームワークとして、『健康経営理念・方針』『組織体制』『制度・施策実行』『評価・改善』『法令遵守・リスクマネージメント』があります。このうち、最も重要なのは、5つめの『法令遵守・リスクマネージメント』で、まずここをクリアしなければ先には進めません。」

3.評価されるエビデンスの提出ノウハウ

具体的な申請内容は、健康経営の申請書の一つ一つの項目にエビデンスの書類を添えて、記述していく必要があると木村氏は言います。では、どんなエビデンスをそろえればよいのでしょうか。認定基準表の上から順番に見ていきます。

「例えば大項目1の『経営理念』という点においては、経営者の自覚が大切です。また、最も大事なこととして、法令違反していないことをトップが宣言している必要があります。
それに対するエビデンスとしては、健康宣言書的なものを作って事業場の入り口に貼っている、ホームページに掲載している、社員全員にメール配信しているというなどが挙げられます。

大項目2の『組織体制』については、健康経営に取り組むための仕組みや組織を持っているかということが問われます。例えば事業場ごとに健康作りの担当者がいるなど、企業規模によっては衛生管理者や安全衛生管理者がいれば、その担当者が兼務することも可能です。」

「続いて評価項目①~④の『従業員の健康課題の把握と必要な対策の検討』ですが、この中で一番難しかったのは①の定期検診の受診率を100%にすることでした。ホワイト500の570社の中でも、これができている企業は60%しかありません。

その次に難しかったのが、②の50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施で、できているのは92%です。2番目でも92%なので、健康診断の受診率100%の企業が60%しかいないのはあまりにも低いと言えます。

労働安全法は、事業主には定期健康診断の実施義務、労働者には受診義務を定めていますので、ぜひ定期検診の受診率100%を目指してください。」

「④の健康増進・過重労働防止に向けた具体的な目標(計画)の設定では、厚生労働省は特に過重労働防止について非常に力を入れていますが、この例としては残業時間を10時間削減する、有給を5日増加させる、水曜日はノー残業デートする、といった施策が挙げられます。」

4.禁煙セミナーやラジオ体操、BBQも可

「続いて評価項目⑤~⑧の『健康経営の実践に向けた基礎的な土台づくりとワークエンゲイジメント』ですが、この中には4つのポイントがあります。

まず、⑤のヘルスリテラシーの向上では、管理職又は一般社員に対する教育機会の設定という評価項目があります。これはセミナーを実施する、研修をおこなう、といったことで達成できます。例えば集合研修では従業員向けの禁煙セミナー、管理職向けメンタルヘルス講習が挙げられます。

こういったことを実施しようとしたときに、健康保険組合や自治体などが無料で対応しているものがありますのでぜひ探してみてください。例えば禁煙セミナーを依頼すると、講師が会社に来て無料で開いてくれるといったものもあります。それが実行できればこの項目はクリアできます。

また、定期的な情報提供としては、朝礼で衛生管理の担当者が健康作りについての説明をするといった対応も考えられます。」

「次は⑥のワークライフバランスの推進についてです。適切な働き方実現に向けた取組という評価項目ですが、ワークライフバランスとしては、長時間労働とそれに伴う健康問題、仕事と育児や介護との両立、少子化対策などの課題解決、さらに指標としては年間総実労働時間や年次有給休暇取得状況が挙げられます。

具体的には、定時の消灯日や退社日を決める、リフレッシュ休暇を設定する、などがあります。昨年、厚生労働省は『しょくばらぼ』というサイトをつくり、健康衛生優良企業のマークを取得した企業と企業の基本情報、具体的な取組も掲載されていますので参考にしてください。」

「⑦のコミュニケーションの促進に向けた取組では、スポーツイベントを実施する、バーベキュー大会をおこなう、など、コミュニケーションを図ることをうたえるものであればよいので、例えば毎朝朝礼でハイタッチをやっているというのでも構いません。

⑧の病気の治療と仕事の両立の促進に向けた取組(メンタルヘルス対策以外)は重要なポイントです。これは病院に通いながら仕事ができる環境にあるか、ということが評価のポイントになります。健康で朝から晩まで働いてくれる正社員を採用できる時代ではなくなっていますから、そうでない人材も制度を整えて働いてもらうという趣旨です。

例としては従業員から両立支援の申し出があった場合の対応手順や相談窓口、担当者や連絡が決まっていることを明文化しておくとよいでしょう。

このほか、治療に配慮した『時間単位年次有給休暇制度』『時差出勤制度』などの休暇制度、勤務制度を整備し、就業規則に明文化しておくことも求められます。」

5.本質的に取り組むべき女性の健康保持

「⑨の保健指導の実施または特定保健指導実施機会の提供も非常に大事です。ここの項目は全員対象で保健指導を実施してくださいということになっています。

例としては、産業医や保健師などによる保健指導を全員集めて実施するといったことが挙げられます。特定保健指導実施時間の出勤認定や、特定保健指導の実施場所に社内の会議室を提供するなど、社員が使える環境を提供しているかが評価のポイントになります。

次が⑩の食生活の改善に向けた取組です。ここは栄養バランスのよい食事を取ってくださいという趣旨ですから、いろいろな方法があります。例えば自動販売機を置いている企業なら、その内容を低糖質・低カロリーのものに変更するなどが挙げられます。

個人の嗜好にそこまで干渉できるのかという疑問もわくかと思いますが、健康経営というのはいわばお節介制度ですから、社員がそれを受け入れてくれない場合もあります。それならば自動販売機の内容を入れ替えた方が早い、と考えられます。」

「⑪の運動機会の増進に向けた取組については、ラジオ体操をやるということでもいいですし、万歩計を渡すといったことも挙げられます。しかしただ万歩計を渡すだけですと、なかなか自発的にやらないので、そのデータを毎日会社が収集して社内のランキングを出す、そのランキングを全国の人と比べる、といったシステムを作っている会社もあります。

また、就活生向きには、福利厚生制度を充実させるというのは、採用に向けては大きなポイントですから、部活動を作るのも有効です。

そしてまだ十分に取り組めていないと痛感するのが、今年から新しく加わった⑫の女性の健康保持増進に向けた取組の項目です。女性の健康保持に関しては、取り組めることがいろいろありますが、この分野は対応できていないことがまだたくさんあります。

本質的なことに取り組みたいのであれば、まず女性の健康作りを推進する部署やプロジェクトチームを設置することをお勧めします。」

「⑬の従業員の感染症予防に向けた取組としては、例えばマスクを強制的に全員に配る、インフルエンザ予防接種の費用を出す、仕事中に病院に行っても構わないことにする、あるいは消毒液を入り口に置いて必ず使うなど、そういったことを施策としておこなっていただくことが挙げられます。」

6.勤怠システムを導入し、過重労働を管理

木村氏は、⑭過重労働対策の長時間労働者への対応に関する取組も、本質的に取り組んでほしいところだと強調します。

「自社の目標値をどのくらいに設定するか、上限を80時間とするのは、だいぶ時代遅れの話です。安全衛生優良企業の上限は45時間ですから、ここはできればそれに近いレベルで設定していただきたいところです。

それを監督する上司は、ときどき集まって対策を話し合うとよいでしょう。過重労働の対策を話し合うのは、リアルタイムであればあるほどいいわけで、それではどうやって計算するかということになりますので、勤怠システムの導入が有効です。

勤怠システムがなく、手書きやエクセルでは、何カ月も後になってからしか対策が打てません。勤怠システムを入れて残業が45時間以上になったら上司が飛んでくる、そのぐらいの対応が欲しいところです。」

「⑮のメンタルヘルス対策の不調者への対応に関する取組も大切です。メンタルヘルスに関しても過重労働が関係しています。

ストレスチェック義務化後、3年を迎えたところで、とりあえずやっておけばいいという企業と、もう少し改善させたいという企業に分かれてきていて、改善させたいという企業はいろいろな方策を始めています。例としては高ストレス者への面接指導体制の構築などが挙げられます。

最後に、裁判例を通じて企業の安全配慮義務として指摘されている事例にも注意してください。これは認定マークを取得する一つの意味にもなっています。」

そして木村氏は、認定取得のもう一つの効果について次のような例と共にまとめました。

「例えば万が一労働事故が起きてしまったとき、マークを取得していれば会社側としては安全配慮義務を果たしていたということが言えます。逆に言うとそういうものがなければ証明するものがないことになるので、何か認定マークを取得しているということは、裁判になったときも非常に心強い材料となるのです。」

いかがだったでしょうか。認定取得をご検討の企業の方は、ぜひご参考になさってください。

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