【座談会:ホワイト企業×大学院生】企業と学生が働くことの意義を本音で語り合う

2022年11月24日に開かれたブライト500企業と大学院生の座談会。企業の健康経営担当者と学生が直接話すという斬新な取り組み。企業、学生双方の本心や心の奥底にある想いが聞け、大変内容の濃いものとなりました。

〔ブライト500企業〕

石川啓夫(東京すずらん 代表取締役)

池ノ谷幸枝(東京すずらん 総務部部長)

石川格子(東陽電気工事 代表取締役社長)

〔大学院生〕

野 祐崇(東京大学大学院 修士2年)

阿部直樹(早稲田大学大学院 修士2年)

1.会社を変えていくために若い力が必要

野:皆さんの会社では新卒採用をされていますか? また新卒採用をする理由は何ですか? 

石川(啓):東京すずらんが新卒採用を始めて2年目になります。なぜ始めたかというと、会社としてこれから新しいことにチャレンジしていきたい。新しいことを始める場合、既存の従業員より、これまでのやり方や常識にとらわれない感性、発想を持った新卒の人に担当してもらいたいと考えているからです。

熊倉:変えるといえば、東陽電気工事さんは長い歴史を持つ会社。若い石川格子さんが社長になられてから変化はありますか?

石川(格):はい。当社は昭和8年に創業され、もうすぐ100周年を迎えます。各種電気工事を通して地域のライフラインを支えてきました。私で3代目となりますが、私が経営を任されたことを機に、これまでのやり方を変える努力をしてきました。

阿部:伝統ある会社さんですと、どうしてもこれまでのやり方や固定観念に縛られてしまうと思います。そうした中、会社を変えていくのは難しかったのではないですか?

石川(格):そうですね。伝統を守り、変えてはいけないものも確かにありますが、変えていかないと衰退するだけです。会社を経営していく上で私自身の力不足を感じていたこともあり、それで大学院で経営学修士(MBA)も取得することにしました。MBAで学んだことも活かしながら、新しい取り組みを始めたのですが、健康経営もその中の一つです。

ただ、最初の頃は理解してもらえず、古参の社員からは無視されたり、辞めてしまった人もいました。その一方、私のやり方に共感し「一緒に突っ走りましょう!」と言う若い社員もいてくれました。そうした中で、とりあえずやってみる。ダメだったらやめるというトライ&エラーを繰り返し、組織も徐々に形になっていきました。来年は新卒者を6名迎えることができます。これまで確かに大変な部分もあったのですが、自分の思ったことにチャレンジできることは、中小企業の経営者の醍醐味なのではないでしょうか。

2.人を大切にしないと会社が成り立たない

野:東京すずらんさんでは、どのような年齢層の人が働いているのですか?

池ノ谷:幅広い世代がいますが、一番上の人は84歳です。「定年を迎えた方も歓迎します」と募集したところ、75歳の時に電話をくれ、それからずっと働いてもらっています。

石川(啓):定年後、仕事を辞めてしまうと、家に引きこもったりして途端に元気がなくなってしまう人も多いですね。年齢の高い人に活躍してもらえると会社も助かりますし、その人がいつまでも元気でいてくれるためにも社会に参加し、働くことが大事なのではないでしょうか。

阿部:なるほど。会社を経営し、人を使う立場の方からのお話が聞けてとても興味深いです。

石川(啓):働く人を大切にしなければいけないとはみんなが思うことですね。特に中小企業は、代々家族的な雰囲気の中で経営を行ってきたところが多いので、従業員を大切にすることの重要性はどの経営者も頭ではわかっていると思います。

東京すずらんでは、過去に人が辞めてしまうことが多い時期がありました。そういう状況になると、私自身、「今日、ちゃんと人が来てくれるのかな」と出社前に心配になり、心臓がドキドキしました。怖くて怖くて仕方なかった。そんな経験を経て、従業員を大切にしないと仕事が回っていかないと身を持って知らされました。

そういう切実な経験をした人でないと、従業員の大切さを実感できないかもしれません。特にこれから労働力人口がさらに減っていきます。従業員を大切にしない会社はやっていけない時代になってきている。そのことを経営者や管理職はしっかり理解しないといけないと肝に銘じています。

3.価値観に合わせた働き方と心の健康

野:今は、昔のようにプライベートを犠牲にしてまで働くという価値観は薄れているかもしれませんね。

阿部:そういう時代にあって、逆に私たちの周りは仕事でとことん頑張りたいという昭和の価値感を持っている学生が多くいます。

石川(格):それは素晴らしいですね。お二人が育った環境やどんなことを意識してこられたのかぜひお聞きしたいです。

野:私の場合、親が転勤族ということもあり、転校も多かったです。それで新しく出会った人たちといかにコミュニケーションをとるかということは意識してきました。

阿部:私は逆に周りの人とのコミュニケーションというより、自分の時間を大切にしてきました。例えば、一冊の本を読み、興味を持ったらその分野の本を次々に読み進めていくということをしてきました。

石川(啓):野さんは「コミュニケーションを大事にしてきた」。阿部さんは「自分で考える時間を大事にしてきた」。どちらもいいですね。もう一つ大事にしてほしいのが、いくら能力が高くても自分だけよければいいという考えでなく、人の役に立つことに喜びを感じる人になってほしいということ。東京すずらんでも採用において、能力より人に喜んでもらいたいという気持ちがあるかどうかを重視していますし、人や社会の役に立たない企業はやがて消えていくのではないでしょうか。

野:そうですね。社会全体を幸せにするというのは今は無理でも、自分の周りにいる5人が幸せなら自分も幸せということを聞きます。まず周りの人を幸せにできる人間になりたいと思っています。

阿部:それはわかりますね。私は、子供の頃、官僚になって日本をよくしていきたいと夢見ていました。でも成長するにつれて意識が変わっていきました。大きな夢を抱きつつも、まずは周りの人を大切にすることが大事だと思うようになっています。

野:今はとにかく、がむしゃらに働きたいという気持ちを持っています。ですが、それですと健康経営の考え方とはギャップが出てくるかもしれませんね。

石川(格):確かに時間も忘れて仕事に没頭することと、健康を大事にすることのせめぎ合いはあるかもしれませんね。ですが、体だけでなく、心の健康という側面もあります。早く帰りたい人は早く帰り、納得いくまで働きたいという人は残業をするというのがいいのかもしれません。一人一人、働き方や生きる価値観は違っています。中小企業のよいところの一つが、従業員一人一人とじっくり話し、その人の気持ちや価値観を汲むことができるところです。

石川(啓):そして、若い人たちには働くだけでなく、勉強する時間をしっかりとってほしい。世の中がどう変わっていっているのか。その中で今後、会社をどのようにしていけばいいのかといったことをお二人には考えてほしいですね。人格を磨き、世の中をよくしたいという気持ちで仕事に取り組むことが心の健康を保つことにも繋がるように思います。

【取材後記】

ブライト500企業と学生による貴重な座談会。企業が新卒に求めること、学生の働くことに対する価値観の変化などとてもリアルな話を聞くことができ、企業、学生の両方にとってとても有意義な時間となりました。有名大学で学ぶ方々はとかく大手企業に就職されることが多いですが、むしろ生きがい、働きがいを求める意識が高い優秀な学生さんほど、経営層と直接やりとりができる中小企業でこそその力を存分に発揮し、大いに活躍できるのではないかとも感じられました。

<企業データ>

会社名:株式会社東京すずらん

事業内容:レンタルおしぼり/業務用雑貨販売

所在地:〒335-0005 埼玉県蕨市錦町2-3-1

資本金:5,000万円

社員数:60名

会社名:東陽電気工事株式会社

事業内容:電気・通信・消防設備工事

所在地:〒961-8055 福島県西白河郡西郷村字道南西85番地

資本金:2,500万円

社員数:8名

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