【IKIGAI企業インタビュー】背伸びをしない健康経営。残業ゼロでパフォーマンスをアップさせ、業績も働きがいも向上(昭栄精機)

昭栄精機さんは、高精密切削加工技術で医療機器などの部品生産を行っています。「従業員が心身ともに健康であればこそ生産効率が上がる」と考え、残業ゼロに取り組んだ佐藤社長にお話を伺いました。(インタビュアー:健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表取締役  熊倉 利和)

〔株式会社昭栄精機〕

佐藤 元章さん(代表取締役社長)

佐藤 文香さん(経営企画部企画課)

1.健康があってこその良いパフォーマンス

――まず昭栄精機さんについて教えてください。

佐藤社長:はい。当社では、1970年の創業以来、高精密切削加工技術で半導体製造装置や医療機器、光学機器などの部品を少量多品種で生産してきました。数で言うと10個にも満たない受注が中心です。厳しい精度管理をするためには、機械による大量生産ではなく職人の卓越した技術力が必要なのです。

――佐藤社長も技術職の出身ですか?

佐藤社長:いいえ。2018年の事業継承で社長に就任するまでの30年間、私は銀行で融資を担当していました。社長になり最初の2年間は、会社の状態を徹底的に分析し、コストの見直しなどを行って黒字化に取り組みました。

銀行員の目線で見たとき、製造業にとって生産効率は非常に重要です。しかし実際に自分が製造業に携わることになって、どうしたら生産性が上がるのだろうと改めて考えさせられました。技術的な生産効率は、モノづくりのプロである従業員たちも考えていると思いますが、もっと会社全体的な視点から変えられることは何だろう、と。

その結果、プレゼンティズムを改善していこうと考えました。

――プレゼンティズムというのは“心身の健康の問題のためにパフォーマンスが上がらない状態”ということですね。

佐藤社長:その通りです。出勤してちゃんと働いていたとしても、本当の意味で健康でなければ仕事に集中できなかったり、ミスが起こりやすくなります。逆に心身ともに健康な状態であれば、前向きに、高いモチベーションを持って仕事に集中できるので生産性も上がると考えました。

――具体的にはどのような施策を行いましたか?

佐藤社長:当時は残業がとても多い会社だったので、まず「残業ゼロ」という目標を掲げました。ところが従業員からは「残業代があって生活が成り立っているので、残業ゼロでは困る」という反対の声があがったのです。

そこで私は「定時に帰宅すれば、子供とお風呂に入ったり、家族一緒にご飯を食べることもできる。心も身体もリフレッシュして、時間内に集中して仕事に取り組んでほしい」と伝え、業績が上がればそれを賞与として還元することを約束しました。

――従業員の理解が得られて、残業ゼロは実現しましたか?

佐藤社長:実は、残業をなくすことにした矢先にコロナ禍になりました。当社も残業するほど仕事がない状態になってしまったのです。当時は月~木曜日を出社とし、金曜日は休みにせざるを得ないほどの状況でした。

幸いコロナで業績が下がったのは一期だけだったので、すぐに月~金曜日の出社に戻りましたが、その期間に従業員に残業しない生活サイクルが浸透していました。健康に働くことや、家族と過ごす時間などを、コロナ禍にみんながより意識するようになったことも大きかったと思います。

そうして現在では、残業しなくても業績アップできる会社になりました。

2.健康経営は背伸びをせず、できることから

――コロナ禍は誰しも健康について考えた時期でしたね。健康経営を始めたのはいつからですか?

佐藤社長:4年前からです。その頃、当社は離職率が高かったのですが、講師を招いて健康経営について聞き、それで会社が変わっていけるならぜひやってみようと思いました。

はじめは山梨県の健康事業所宣言からスタートし、2022年からは3年連続で健康経営優良法人認定を受けています。昨年、経営企画部に健康経営を引き継ぎましたが、本当によく研究して取り組んでくれたおかげで、たった1年で2024年のブライト500にも認定されました。

――それは素晴らしいですね!

佐藤さん:健康経営を担当することになり、まず「健康経営の広場」に掲載されている「ブライト500白書」を丹念に読ませていただきました。大変参考になりました。ありがとうございます!

――本当ですか?嬉しい!とても報われた気持ちです!ブライト500認定は難しいという会社もたくさんありますが、どのようにして認定に漕ぎ着けたのですか?

佐藤社長:こう言うと「本当ですか?」と言われるかもしれませんが、認定のために特別なことはしていないのです。点数をとるための施策より、従業員が健康になることに着目し、背伸びをせず、できることをしっかりやった結果を評価していただいたと考えています。実際にお金もそれほどかけていません。経営企画部としてはもっとやりたいこともあるようですが、お金がかかることは後回しにしてもらっているので(笑)

――経営企画部からはどういった提案をしてきたのですか?

佐藤さん:例えば、子育てや介護などと両立して働くためのフレックス制度の導入です。それまで子育て中の方は、お子さんが熱を出す度に、早退や休みで給料や有休が減ってしまい、安心して働けませんでした。でもフレックス制度のおかげで、通院後、例えば10時から19時の勤務も可能になりました。選択肢が増えればそれだけ働きやすくなります。

佐藤社長:製造業の現場では、フレックス制度の導入は多くはないと思いますが、それによって会社全体の生産にかける時間もむしろ安定しました。当社は月にのべ3500時間の生産時間が必要なのですが、就業時間を固定せず各々の事情に合わせることで、その時間を確保できています。

例をあげると、家業の農業を手伝っている従業員は、午前中に農作業をして午後から出勤、ダンスの先生であればレッスンに合わせて曜日ごとの時間調整をしています。また本業はラグビー選手で、一部リーグを目指して山梨県のチームに所属しながら昼間は当社で働いている社員もいました。自分の夢を追いながら働く従業員は、いつか退職してしまうかもしれませんが、それでも当社は技術を教えて、一緒に働きながら彼らの夢も応援しようという考え方です。

3.世の中の流れを汲み、何事にも挑戦する

――フレックス制度の他にも経営企画部からの提案は採用されていますか?

佐藤社長:はい。よく研究して色々なアイデアを出してくれるので、いつもポンポンとはんこを押してOKを出しています(笑)

私は“時流適応”という言葉が好きで、時代や世の中の流れに沿ってビジネスのスタイルも新しくしていきたいという考えです。当社は現在従業員40名。たったこれだけのメンバーで高精度な生産技術を守り、会社を強くしていくには時流適応の考え方は欠かせません。新しい考え方や制度を取り入れて、色々な立場や事情のある人が働きやすく、定着できる会社になることが必要です。

――佐藤社長のそのような考え方が、従業員が新しい企画を出しやすい会社の雰囲気を作っているのだと感じます。

佐藤社長:新しいことを始めるとき、社長である私が「やるぞ」と言えば、中には仕方なく参加する人もいるかもしれません。それよりも経営企画部のメンバーが、一般社員の目線で自分たちの働く環境を良くしようと取り組み、それに共感した人が協力して進めていく方がずっと意味があります。

当社の従業員にインドネシア人がいたのですが、彼女はイスラム教徒なのでお祈りの時間があり、食べるものにも決まりがあります。そこでイスラム教について調べた従業員が、お祈りの時間に合わせて休憩を取れるように会社に申し出てくれたり、納涼会などのイベントで、彼女が食べられるものを手配してくれました。

従業員の中から、同じ職場の仲間が働きやすいように考えて協力しようという力が生まれて、自然にダイバーシティも根付いています。こうして会社全体の意識が変わっていけば素晴らしいことです。

――“自発的に”というのが嬉しいですね!

佐藤社長:はい。最近は昼食のあと、従業員が自発的に掃除をしてくれています。会社から特に何も言っていないのですが、自分たちで考え、協力して職場をきれいにしている姿は本当に美しく感動しました。この様子をどうにかして隠し撮りして、noteに載せたいと思いながら見ています(笑)

4.どんなに時代が変わっても大切なのは人財

―― 素晴らしい人財が育っていますね!

佐藤社長:ありがとうございます。さきほども言ったように、当社は少数精鋭でモノづくりをしているので、人財がとても大事です。ロボット化とかAIと言っても、結局は人だと思います。だからこそ人財を強化していく。働きがいのある会社で活き活きと力を発揮してもらうことが重要です。

――働きがいについては、どのように高めていこうと思いますか?

佐藤社長:従業員との面談で、どういう時に働きがいを感じるか聞いたところ「ありがとうと言われた時」という回答が多く聞かれました。感謝の言葉をもらう経験は仕事はもちろんですが、社会貢献を通じても得られるものです。

当社では社会貢献の一つとして、山梨大学の学生さんのために無償で車の部品を作るお手伝いをしています。

――車ですか?なぜでしょうか?

佐藤社長:「学生フォーミュラ日本大会」という全国の大学対抗の小型レーシングカーレースが、年に一度行われています。これは自動車分野で活躍を目指す学生たちが、実際に自分たちでマシンを製作し、ものづくりの総合力を競うものです。

今年は、設計の段階から当社の技術者が学生さんたちの相談に乗りながら、一緒に電気自動車の部品を作りました。未来の技術者を育てるという社会貢献にもなった一方、当社の従業員もとても楽しかったようです。学生さんたちにモノづくりの楽しさを伝えつつ、自分たちもそれを改めて感じ、共有できた良い経験でした。

佐藤さん:それがきっかけとなり、社内に研究開発チームが発足しました。自社製品の開発をしたり、モノづくりの楽しさを若手に伝えると同時に、難加工図面・難削材に挑戦するチームです。当社の切削技術を利用して色々なものを作ってみようという取り組みで、これまでにいくつかのボードゲームを作り、切削の研究と作る喜びを体験しています。

5.働きがいがあり、家族と自分に誇れる会社

――そういった社会貢献は採用にもつながっていますか?

佐藤社長:はい。ありがたいことに最近は採用に苦労していません。経営企画部が情報発信を充実させてくれたことも大きな力になっています。

佐藤さん:自社サイトに採用ページを設けたり、noteでの情報発信を毎週1記事以上を目標に、年間80記事ほどあげています。また無料の求人サイトなどネットを活用することで、若い世代にも広くアピールできていると思います。ハローワークの公的職業訓練所にプレゼンに行き、そのご縁で地元のラジオ番組に出演してからは、さらに応募者がぐんと増えました。

――さすがですね!情報発信はブライト500の中でも大事な要素の一つです。経営企画部は本当に様々な業務を担当していますね。

佐藤さん:はい。いまは健康経営とDX、新人事制度、生産効率を上げるための生産計画のサポートや、労務、勤怠管理なども担当しています。こうして多面的に会社の業務に関わって、採用についてもどんな人が必要か見えてきました。黙々と技術を極める姿勢はもちろん大切ですが、そんな中でも多様な施策に協力的に関わってくれる人が増えてほしいです。みんなで新しい風を作っていけたらと思い描いています。

――頼もしいですね!佐藤社長、最後に今後目指していきたいことを教えてください。

佐藤社長:ブライト500認定を受けることができたので、これからはそれを維持していかなくてはなりません。ただし大事なのは、認定されることではなく、認定を受けるだけの会社であり続けることです。従業員の満足度も上がって、当社で働きたい人が増えることにつながることが重要です。

来年4月には新人事制度を始め、国の方針にしたがって、今と比べて平均7%ぐらい給与のベースアップができるような仕組みを作ろうと考えています。基本給は年齢給と能力給に分けて、頑張ったら報われるような形です。

当社は「皆を豊かに幸せにできる会社」を目指しています。従業員にとって給与はもちろんですが、身心ともに健康で、やりがいと誇りを持って働けることが幸せにつながると思います。また仕事や社会貢献を通じて、お客さまや地域の方々を豊かに幸せにすることで、ここで働くことを家族にも自分にも誇れる会社にしていきたいです。

当社は今年、南アルプス市に移転します。いまよりもっと大きい工場を建て、機械も人も増やす予定です。それでもまだ余るほどの土地がありますから、そこで地域の人たちに喜ばれるイベントなどを行い、地域貢献できることも楽しみにしています。

【取材後記】

昭栄精機さんは「背伸びをせず」「できることを」行った結果、健康経営優良法人認定を受けることができたと言います。残業をなくした結果として、“社員の健康”と“生産効率アップ”の両方を得ることができ、情報発信の効果が“採用”と“ブランディング”に表れました。そしてそのすべてがブライト500認定の評価となったのです。認定そのものを目的とするのではなく、従業員を思って取り組んだ結果、採用や事業にも活きて、認定につながる。これこそが健康経営の本質だと感じました。そして、健康経営を起点に働きがいを高めることにも成功。従業員の自発性やモチベーション、幸福度も向上するというお手本のような素晴らしい循環が生まれています。

<企業データ>

会社名:株式会社昭栄精機

事業内容:切削部品加工

所在地:〒409-3866 山梨県中巨摩郡昭和町西条3853-1

資本金:6,000,000円

社員数:40名

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