【社会的健康ピッチコンペティション・最終報告会】1位に輝いたのは小樽商科大学の提案「採用戦略でトラックドライバーをなりたい職業に!」(株式会社ハンナ)

社会的健康戦略研究所が主催する『社会的健康ピッチコンペティション』は、健康経営を通じて企業の様々な課題を解決する、産学連携プロジェクトです。最終報告会のプレゼンテーション『株式会社ハンナ部門』では、1位を小樽商科大学、2位を西南学院大学、3位を和光大学が獲得しました。今回はトラックドライバーのイメージを覆す「主婦層」をターゲットにプレゼンを展開した小樽商科大学 鈴木ゼミのみなさんの提案を紹介します。

〔参加企業〕

株式会社ハンナ 西岡徳行(取締役)米澤友海(経営管理部 総務課)

〔参加学生ゼミ〕

小樽商科大学 鈴木ゼミ 

大江亜衣 河原令奈 下館尚志 竹谷雪月 福家さくら 

村瀬翔汰和光大学 大野ゼミ [3名]

田中隼大朗西南学院大学 三井ゼミ [7名] 

〔審査〕山崎牧子(経済産業省ヘルスケア産業課)

〔司会進行〕熊倉利和(IKIGAI WORKS株式会社 代表取締役社長)

1.熱い会社に相応しい、学生たちの熱のこもった提案

「小樽商科大学 チーム『熱血プロまみれ』の発表を始めます。よろしくお願いいたします!」

竹谷雪月が元気にプレゼンをスタート。株式会社ハンナのキャッチコピー『熱血プロ集団』を連想させるそのチーム名に早くも期待が高まります。

「今回の課題は『トラックドライバーがなりたい職業の上位に位置するためにどうすれば良いか』。まずトラックドライバーの現状について資料を見ると、全産業と比較して『年齢構成は40代、50代の割合が高く、若年層の割合が低い』『女性の進出状況が極めて低い』ことがわかります。これに対しハンナ様は、女性ドライバーの割合が全体の2割、産休・育休取得率が100%であり、これは大きな強みと言えます。また全日本トラック協会の調査では『現在の仕事をしていく上での希望』について、待遇面での改善を求める声が多く聞かれました」

そこでチームは解決策を求める方法をこう考えました。

まずは『株式会社ハンナ』がトラックドライバーのイメージを押し上げる。それが業界全体に波及し、求人への応募が増加。人手不足が解消され、業績が伸びる。するとドライバーの給与もアップして、“なりたい職業”に近づいていく、と。

「私たちは『仕事選びに悩む求職者に、ハンナでドライバーとして働きたいと思ってもらう』をテーマに設定し、採用戦略にフォーカスして策を考えることにしました」と竹谷雪月は言います。

次に、ロジックツリー分析(※1)とSWOT分析(※2)を行い、課題と解決策を求めました。分析から見えた課題は『各種SNSが発展途上であること』『求職者とのタッチポイントが少ないこと』『HP状の求人情報の分かりづらさ』です。

2.強みである女性活躍を活かし、採用ターゲットを主婦層に

下館尚志が求職者のターゲット選定について話します。

「求職者を“働き方重視”“給料重視”という軸と、“即戦力”“要育成”の軸で分けて考えたとき、ハンナ様のトラックドライバーのニーズとして“働き方重視”で“即戦力”となる主婦・復職者がターゲットになると考えました。

主婦層が働き方を重視している裏付けとして『妊娠判明当時の仕事を辞めた理由』のデータを見ると、多くの主婦が『自分の気力・体力』『両立を支援する雰囲気がなかった』『勤務先に両立支援の制度が整っていなかった』と回答しています。このことから、主婦層が求める働き方として『子育てに理解のある会社の雰囲気』『子育てをしやすい労働環境』を重視していることがわかりました」

施策を考える上でのペルソナ(ターゲット像)として『再就職を考えている36歳の専業主婦』『子どもは幼稚園年長』『新卒で派遣職員に就職し結婚出産を機に退職』『その後は専業主婦だが再就職を希望』を設定。価値観として『子育て生活の中で一人の時間が欲しい』『ライフスタイルを変えたくない』を挙げました。

そしてターゲットに対する採用メッセージ『運転席で見つける、私だけの働き方。』を設定して戦略を考えます。

3.親子へのアプローチで未来のトラックドライバーも獲得

河原令奈が具体的な提案内容を述べます。

「3つのアプローチから、ターゲットである主婦層の獲得を目指します。①勤務形態の多様化 ②子供向け体験イベント ③SNSでの発信です。

①勤務形態の多様化として、主婦層向けの採用枠を新設。スーパーのパートと同様に、『9:00~16:00で週4日勤務』などの気軽に働ける時間設定を行います」

大江亜衣が続けます。

「②の子供向け体験イベントは、トラック乗車体験やVRによる運転体験、トラックデザイン考案、トラックのトミカプレゼントなどで子供たちにトラックに親しみをもってもらいます。同時に、トラック種類別機能説明を行い、小型車やAT免許で運転できる車両について保護者にアピール。

このイベントは、保護者に向けて『働きやすさ・勤務形態の多様さ』をアピールすることと、子供たちにトラックドライバーに興味をもってもらい、『ロマンや憧れ』を形成することが目的です。子供向けのイベントは保護者の目に触れやすく、ターゲットにピンポイントで情報提供できること、即戦力としての保護者だけでなく、子供のロマン形成により将来のトラックドライバーの獲得にもつながります」

村瀬翔汰が話します。

「③SNSでの発信は、物流の現状とそれに立ち向かうハンナ様の姿を周知することが目的です。発信媒体としてYouTubeショートを想定。国内ユーザー数は2023年5月時点で7,120万人以上。女性の利用率も高く、中でも30代では94.7%が利用しており、今回の発信に適している媒体と言えます。

社会問題をテーマにSNSを運用して成功した例として紹介したいのは「まいひめおじさん」https://www.youtube.com/@komori.maihimeojisanというアカウント。“まいひめおじさん”が畑でトマトを持ち、テロップで『助けてください』と訴えるインパクトのある動画や、日本の農業の現状を伝えるショート動画を発信することで、最終的にトマトジュースのEC販売に成功しています。

これを参考にハンナ様では、物流問題への興味を惹く動画の発信で視聴者を増やし、その上で『勤務形態の多様化』や『子供向け体験イベント』などのコンテンツを発信することで、求人やイベントの集客を効果的に行うことができます」

福家さくらがまとめます。

「私たちはゴールをトラックドライバーの地位向上に定め、そのためのドライバーの給料UP、雇用環境改善策を考えました。ターゲットを主婦層に設定し『運転席で見つける、私だけの働き方。』というメッセージのもと、提案した施策は3つです。

①勤務形態の多様化

②子供向け体験イベント

③SNSでの発信

この3つの施策を段階ごとに導入することで、以下のような流れができます。まず『勤務形態の多様化』によって、求職者の入口を増やす。つぎに『子供向け体験イベント』を通じ、ターゲットにピンポイントでアプローチ。最後に『SNSでの発信』で、ハンナ様の姿を広くアピールします。この流れで主婦層の認知と求職者の増加が見込め、“トラックドライバーの地位向上”という目的が達成されていくと考えます」

4.「すぐに取り入れたい!」と思わせる具体性を評価

ハンナ経営管理部の米澤さんは「物流の2024年問題に伴い、働き方の多様化はどうしても取り組まなければならない課題。女性活躍や主婦層へのアプローチに対する具体的な提案を、ぜひ参考にしたい」と講評しました。

ハンナ取締役の西岡さんも「具体性のある提案がありがたかった。特に『主婦に特化した求人の枠』はこれまで無かったので、例としてあげてもらった時間設定などを、そのまま当てはめて求人を出してみたい」と具体的な提案内容を高く評価し、「ターゲットを決め、それに対して子供と保護者向けイベントを行い、SNSを展開していくというアイデアも、とても良かった。当社は良いことはすぐにやる会社なので、参考にして取り組んでみたい」と述べました。

経済産業省ヘルスケア産業課の山崎さんからは「よく分析し、プレゼンもハキハキとして分かりやすかった。まとめのスライドが最後にでてくるのも秀逸。メッセージの『運転席で見つける、私だけの働き方。』というコピーもとても良かった」と絶賛。「ただ、これだけのことをやるには社内リソースが要るが、実現可能性は?」と質問しました。

それに対し、西岡さんからは「120%実現可能です!明日にでも始めたい。子供向けの交通安全イベントを予定しているので、そこで今のご提案を早速活かします!」と力強い言葉をいただきました。

【取材後記】

『トラックドライバーがなりたい職業の上位に位置するには』という課題は、大きなテーマであるからこそ難しかったと思います。それに対し、小樽商科大学のみなさんは丁寧な分析を元にした具体性のある提案で見事期待に応えました。ハンナの西岡さんも「小樽商科大学のご提案を早速、採用戦略やイベントで活用したい」と絶賛。学生のアイデアが企業に即活用されていくこの展開に、今回のプロジェクトの意義の大きさや素晴らしさを感じましたし、改めて小樽商科大学 鈴木ゼミのみなさんに拍手を送りたいと思います。

(※1)ロジックツリーとは、問題や課題をツリー状に分解し、論理的に整理して解決策を導き出すフレームワーク。 

(※2)SWOT分析とは、企業やプロジェクトの内部環境と外部環境を「強み」「弱み」「機会」「脅威」の4つの要素で分析するフレームワーク。

<企業データ>

会社名:株式会社ハンナ

事業内容:一般貨物自動車運送事業・貨物利用運送・通過型倉庫・車輌整備

所在地:〒630-8442 奈良県奈良市北永井町372番地

資本金:1,000万円

社員数:社員数 147名 (2023年4月現在)

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