【講演会議事録】人口減少時代を生き抜く! これからの企業経営に欠かせない健康経営の役割〔一般社団法人日本鋼構造物循環式ブラスト技術協会〕
【講演会議事録】人口減少時代を生き抜く! これからの企業経営に欠かせない健康経営の役割〔一般社団法人日本鋼構造物循環式ブラスト技術協会〕
一般社団法人日本鋼構造物循環式ブラスト技術協会の令和6年度中間報告会に、IKIGAI WORKSの熊倉利和が招かれ、「人口減少社会の経営戦略としての健康経営」をテーマに講演しました。生産人口が減少する時代において、社員の健康と働きがいを支える健康経営は、企業の未来を左右する重要な鍵です。100人以上の経営者や管理職の前で、実際の成功事例を交えながら、企業価値の向上や競争力を高めるための取り組みについて熱く語りました。
〔講演者〕
熊倉 利和(健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表取締役)
目次
1.企業の未来は「健康経営」が握っている
みなさんは、企業の未来を左右するのは何だと考えていますか? 売上ですか? 会社の規模ですか? それとも、社員ですか? 答えは社員。私は断言します。これからの時代、人がますます重要になっていきます。
日本では高齢化が進む一方で、2050年に女性の平均寿命は90歳、男性は83歳を超えるとされています。しかし、出生率は依然として低いまま。日本はすでに人口減少社会に突入しています。「人財の減少」が、すべての企業の共通課題になっていくのです。
ところが企業は、この貴重な「人」をうまく活かせていない。こんなデータがあります。アメリカのギャラップ社が2021年に行った社員エンゲージメントに関する調査によると、日本企業では、エンゲージメントが高い社員の割合がわずか5%でした。世界平均は23%で、米国/カナダは34%。日本のこの数字は、世界最下位。東アジアの中でも最も低い数字です。
エンゲージメントとは、ご存じの通り、社員が会社や仕事に感じる愛着や情熱のこと。エンゲージメントを持つことで、仕事への積極的な姿勢や自発的な行動が引き出されます。そうだというのに、企業の発展に欠かせないエンゲージメントを持つ社員が、日本では100人中5人という割合。この数字、いくらなんでも低すぎませんか?
しかも、日本は経済成長ができていない。国際通貨基金が2024年4月に発表した推計では、インドにも抜かれ、現在世界5位。若者が未来に夢や希望を抱きにくい社会になっています。結果、自己肯定感が低い若者が増えています。内閣府が2018年に行った「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」によれば、「自分自身に満足しているか」との問いに、「そう思わない」「どちらかといえばそう思わない」と答えた若者は、なんと55%。若い人の過半数が自分に自信を持てていない。こんな国は他にありません。
生産人口は減少の一途をたどっているのに、国民のエンゲージメントも、若者の自己肯定感も低い日本。人口減少社会では1人ひとりの役割が重要になってくるというのに、個々の能力が発揮されず、未来への活力が失われているのです。いったい、どうしたらよいのでしょうか。
今こそ「人を幸せにする経営」が必要です。この「人を幸せにする経営」を実現する鍵となるのが、健康経営です。
2.健康経営で社員が輝くとき、企業も輝く
2020年に約7,400万人だった生産年齢人口は、2050年には約2,000万人減少すると見込まれています。AIが発展していくとはいえ、人の能力の重要性は一層高まるでしょう。
そうしたなか、社会が企業に求めているのは「人的資本経営」です。人を「コスト」ではなく「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値の向上を図る経営。それが「人的資本経営」であり、わかりやすくいえば「人を幸せにする経営」です。
では、どうすれば人的資本経営を実現できるのでしょうか。最も簡単で確実な方法があります。それは、健康経営から取り組み始めることです
私たちが「健康」というとき、体と心の状態にばかり注目します。しかし、WHO(世界保健機関)は「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも精神的にも、そして社会的にも満たされた状態にあること」と定義しています。つまり、真の健康とは「肉体的」「精神的」そして「社会的」という3つの要素が調和した状態のこと。この状態を「ウェルビーイング」といいます。
今の若者、いわゆるZ世代が求めているのがまさに「ウェルビーイング」です。地方でも都心でも、安心してやりがいを感じられる企業が必要とされています。健康経営では、社員の健康と自己実現を促すことでウェルビーイングを実現し、会社の利益の源泉になる人財を育成していきます。
ただし、いざ健康経営をスタートすると、「自分の健康のことを会社にとやかく言われたくない」という社員が必ず出てきます。「健康管理は自己責任だ」という意見も出てくるでしょう。しかし、人を幸せにする企業や組織にしか未来が訪れない時代が、今後やってきます。人を幸せにできない企業には、人が入ってこなくなるからです。自己責任という言葉で片づけてよい状況では、もはやありません。
健康経営は、マーケティング戦略としても機能します。社員が楽しく働ける居心地の良い会社にしていくことで、離職率や休職率が下がり、従業員満足度(ES)が向上します。従業員が能力を発揮しやすくなり、イノベイティブな発想が生まれやすくなります。新しいビジネスが生まれ、事業の拡大や、さらには世界市場への進出の可能性も広がります。結果として、売上が向上し、社員の健康と自己実現への投資が、会社の成長・発展に繋がるのです。
つまり、社員のために行う健康経営は、持続可能な経営という面においても、導入する価値が高いとおわかりいただけたでしょう。
3.健康経営は新たなビジネスチャンスを創造する
経済産業省は2017年に健康経営優良法人認定制度を開始しました。日本には中小企業が約350万社あるとされていますが、認定を取得しているのはわずか1万7000社、1%にも満たないのが現状です。そのため、今から認定を取得していくことは大チャンスです。生産年齢人口が減少するなか、優良法人認定を取得することで、人的資本経営を行っていることを名実ともに示すことができます。採用活動でも「人を幸せにする企業」としてアピールができるのです。
建設塗装業は「3K(きつい・汚い・危険)」といわれがちですが、健康経営を通じて社員の健康と働きがいに投資していることを伝えれば、就活生にも安心感を与えることができます。認定取得は「国のお墨付き」を得ること。約47万社の建設塗装業界においても、取得数は4000社弱にすぎません。今、認定を取得することは、他社との差別化において、大いに役立つでしょう。
では、健康経営を行うと、売上が伸びるのかどうか。この質問を私は毎回受けます。そこで今回は、愛知県の株式会社三幸土木の事例を紹介します。
木下力哉社長は、「社員に建設業への誇りを持ってほしい」という思いから、「社員のためになることをしよう」と健康経営に取り組み始めました。認定制度開始前の2014年から取り組み、現在では健康経営の実施項目は40近くにも上り、社員の健康と自己実現に情熱を注いでいます。
では、健康経営による経営上の成果はどうでしょうか。
健康経営を始めた当初、社員の喫煙率は56.8%と高く、偏食や運動不足も目立ちました。当時の売上高は16億円、新卒採用は0人。それが健康経営を立ち上げ、実施項目を増やすことで売上高は年々増加し、新卒採用も増えました。コロナ禍でも売上は伸び続け、2021年には26.2億円、新卒採用は10人を実現。現在では、売上高をさらに大きく伸ばしていると聞いています。
もちろん、健康経営は社員への投資であり、単に売上のために行うものではありません。しかし、結果としてこれだけの成果を上げている企業が、現実に存在します。
「健康経営なんて意味があるのか?」と疑問を持つ方にお伝えしたい——やらない理由は、どこにありますか。三幸土木が成長した背景には、社員に投資し、安心して働ける環境を整えたことで、社員一人ひとりがその持てる力を最大限に発揮できるようになった点が大きく影響しています。
人口減少社会、そして人材確保が難しい時代が、すでに到来しているのです。健康経営は一朝一夕に成し遂げられるものではありませんが、正しい方法で行えば、数年後に社員への投資が何倍にもなって返ってくるでしょう。そのリターンを手にするには、他者との差別化が可能な今から始めることが肝心です。
企業が社員に投資し、安心して働ける環境を整えることで、長期的な成長と安定が実現します。人口減少社会で企業が持続的に発展するための鍵は、「人を幸せにする経営」にあります。その入り口として、健康経営こそ最高の方法。企業の競争力を高め、未来への確かな一歩となるのです。
【取材後記】
講演会終了後、山梨の塗装会社から健康経営のコンサルタント依頼を受けました。講演会では三幸土木の事例を紹介しましたが、健康経営には企業ごとに最適な方法があります。自社の社員に最適な方法で実施することが重要で、それによって速やかに良い結果を得ることが可能となります。
「健康経営にはお金がかかる」と言われることもありますが、費用をかけずに実施する方法はいくらでもあります。たとえば、社員に手紙を書いたり、手料理を振る舞ったりなど、心のこもった方法で実施している経営者もいます。健康経営や「人を幸せにする経営」とは、社員への愛の形です。その愛が社員を輝かせ、いずれは会社全体を輝かせます。
私たちには、そのためのノウハウがあります。健康経営を始めたい、または行き詰まっている、今よりさらにステップアップしたいなど、ぜひお気軽にご相談ください。
〈協会データ〉
協会名:一般社団法人 日本鋼構造物循環式ブラスト技術協会(略称:循環式ブラスト協会)
Japan Steel Structure Circulation Blast Association(略称:JSCB)
事業内容:循環式ブラストの技術に関する調査及び研究、循環式ブラストの環境・安全に関する調査及び研究、循環式ブラストに関する施工管理者への研修、ブラストに関する国内外の関係機関との協調
所在地:〒130-0014 東京都墨田区亀沢1-8-6 堀江ビル2階
会員数:133社(令和6年9月末現在)