【シリーズ:健康×マーケティング ピッチコンペティション2023】⑤ 学生が見つけた「働く」ことの新たな価値〔アップコン〕

「健康×マーケティング ピッチコンペティション2023」(社会的健康戦略研究所主催)のIKIGAI WORKS部門にエントリーしてくれた神奈川大学・中見ゼミの学生たち。ピッチコンペに向けて、神奈川県川崎市に本社を置くIKIGAI企業・アップコンさんにインタビューを行いました。IKIGAI企業の社長との交流を通じて、学生たちが発見した「働く」ことの価値とその喜びとは? 

〔アップコン株式会社〕

松藤 展和(アップコン株式会社 代表取締役社長)

〔神奈川大学 中見ゼミ〕

大富貴稀 平塚未仁羽 羽松原ひびき 吉田陽 渡辺彩音

〔IKIGAI WORKS〕

熊倉 利和(健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表取締役)

須子 善彦(マイプロジェクト代表取締役/IKIGAI WORKS取締役)

1.プライベートに仕事を持ち込まない

大富さん:私たちは神奈川大学経営学部に在籍し、中見ゼミにてマーケティングを主に学んでいます。本日は、仕事のこと、人生のこと、いろいろ教えてください。

渡辺さん:私は、将来の夢がまだ明確ではありません。今日の機会を、自分の未来を測るモノサシづくりに活かしていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします

松原さん:今回のピッチコンペでは、自分たちの人生経験や価値観から「どんな会社で働きたいか」というマイモノサシをつくっていきます。そこで早速の質問ですが、松藤社長が幼い頃からがんばってきたことを教えていただけますか。

松藤社長:そうですね。小学生の頃はオール5を目指して勉強をがんばり、中学校時代は軟式テニス、高校時代は硬式テニスに熱中しました。高校の部活ではキャプテンを努め、弱小テニス部を県大会2位にするほどがんばりました。

平塚さん:それほどまでにがんばった原動力は、どこにあったのですか。

松藤社長:実は私は、友だちが少ないんです。1人でいても寂しいと思わない。そのぶん、興味を持ったことはとことんやり続けられます。小学生の頃にオール5を取ると決めたら、テスト前には徹夜して勉強するほど、幼い頃から凝り性でした。

アップコンでの仕事も同じです。今、新たな研究開発を行っていますが、毎日、社員たちと実験の日々です。納得いくまでとことん研究する。それが楽しくてしかたがありません。

平塚さん:松藤社長は凝り性だから努力できるとのことですが、がんばれないこと、続けられないことはないのですか。

松藤社長:好きなことはがんばれても、そうでないと大変に感じますよね。たとえば、当社では入社10年で資格を10個取得することを目標としています。私も、漢字検定を2級まで持っていて、次は1級ですが、テキストを開こうという気持ちになれないこともある。でも、好きじゃなくても、やらなければいけないことはどんな仕事にもあります。そうしたことは、困難に感じてもやりますね。

平塚さん:どうしたら、やらなければならないことを、やり遂げられますか。

松藤社長:時間の使い方にメリハリをつけることです。

たとえば、みなさんはもう20歳を過ぎて、国民の3つの義務のうち、教育の義務を終えていますよね。そのあと、何が待っているかといえば、勤労と納税の義務です。この義務は、嫌だろうがなんだろうが一生懸命にやらなければいけない。でも、そればかりにはなりたくないでしょう。私もそうです。ですから、私は残業をほぼしません。8時間は世の中のためにがんばりますが、16時間は自分自身のものです。私は仕事が好きですが、仕事以外に好きなこと、やりたいことはたくさんある。プライベートの時間は、それらのことに熱中します。やるべきことをやりとげるには、それを自分の時間に持ち込まないくらいのスタンスが必要です。

私自身、家に仕事を持ち込みませんし、仕事の話もほぼしません。実は、うちの子どもたちは幼い頃、私が会社を経営していることを知らなかった。創立記念で、社員やその家族、お客さんとバーベキュー大会をしたとき、「パパって、社長なの?」と初めて知ったくらいです(笑)。

2.「家庭第一」を理念にする会社

渡辺さん:仕事が好きでしたら、ずっと仕事をしていたいと思ってしまいませんか。「好き」を仕事にすると、仕事とプライベートを切り分けるのが難しくなりそうです。

松藤社長:私も、この仕事が大好きで、楽しくてしかたがないんですよ。だから、放っておくと、ずっとやってしまうかもしれない。でも、24時間仕事をしていたら、たぶん、不幸なことがたくさん起こってきます。

アップコンには、基本理念があります。それは、「健康第一 安全第一 家庭第一」です。この理念は20年前に起業したときから変わっていません。仕事は大切ですが、人生、それだけではありません。8時間、仕事をがんばったら、残りの時間は自分が好きなことをする。週末にはゴルフやサッカー観戦、旅行を全力で楽しむ。プライベートが充実していて、なおかつ労働時間が限られているからこそ、仕事に集中できるのです。

平塚さん:「健康第一」「安全第一」という言葉はよく聞きますが、「家庭第一」を基本理念にしている会社さんは初めてです。なぜ、この理念を立ち上げられたのですか?

松藤社長:私は大学卒業後にニューヨークの大学院に留学し、卒業後はオーストラリアで15年ほど働いていました。その影響が大きいですね。オーストラリア人は家庭がいちばんで、定時になったら仕事が残っていたとしても、パッと切り上げて帰宅します。

では、オーストラリア人にとって2位はなんだと思いますか?

答えは、スポーツです。オーストラリア人にとって、スポーツは最大の文化です。たとえば「あなたは何をしているの?」と質問された場合、答えとして期待されるのは「テニスをやっています」など、自分が取り組んでいるスポーツのこと。まず家族の話をし、次にスポーツ。その次が食です。

平塚さん:オーストラリアの風習は日本とずいぶん違いますね。幸せな人生のイメージが浮かんできて、今のお話を聞けて、とてもよかったです。

松藤社長:私がオーストラリアに渡ったころ、日本では「24時間働けますか?」というコマーシャルが流行していました。実際、「あなたは残業できますか?」と採用試験の面接で問われていましたし、定時で帰ろうとすると「やる気がない」と見なされてしまう風潮がありました。

反対に、オーストラリアでは定時で帰るのが当たり前で、残業は離婚の原因にもなってしまうのです。ただ、オーストラリアに渡った当初、私自身は暇でしかたがありませんでした。5時に仕事を終えても何をしてよいかわからなかった。そこで、釣りやスキューバーダイビングなど趣味を増やしていき、仕事以外のつきあいも築くことができました。

渡辺さん:家庭がいちばん大切で、プライベートの時間はスポーツなどの趣味を楽しむ生活は、とても素敵です。ただ、そう考えると、私たちがこれからの人生をかけて働くのはなぜなのでしょう。

松藤社長:働くというのは、自然なことなんですよ。たとえば私は現在65歳で、周りには定年退職を迎えて仕事を辞めていく人たちも大勢います。私自身も、たとえ会社を辞めても、生涯、お金に困ることはないはずです。好きな熱帯魚をたくさん買えますし、ゴルフも旅行もできます。でも、それだけの人生は、私にとっておもしろくはありません。

働くことの最大の理由は、「社会の一員である」と実感を持てることにあります。自分が人の役に立ち、人を喜ばせることができると感じることが、生きがいにつながります。

具体的に、アップコンは、沈下した地盤を修正することを主な事業内容としています。たとえば、地震や地盤沈下の影響で、コンクリート床に段差や傾き、すきまができてしまうことがあります。この場合、従来は床を壊して新たにコンクリートを打ち直すという大工事が必要でした。しかし、私たちは、ウレタン樹脂の発泡圧力を利用したアップコン工法(コンクリート床沈下修正工法)という技術によって、コンクリート床を壊さず、短期間での施工を可能としています。しかも工事費用をかなり抑えられます。お客さんはとても喜んでくれます。

我々アップコンのミッションは、沈下で困っている人たちを助けること。みなさんは、水平面で暮らすことを当たり前と感じているかもしれませんが、空間にわずかでも傾きが生じると、さまざまな問題が浮上します。めまいなどの健康被害も出てくる。そうした人たちをアップコンは助けることができる。この喜びは仕事をしているからこそ得られるものです。

3.0.5%の人財を目指せ

大富さん:私からも質問をいいですか。松藤社長は、尊敬されている経営者や、影響を受けた人はいますか。

松藤社長:そうした人はいないですね。もちろん、誰かの考えに共感したり、参考にしたり、といったことはあります。ですが、その人がすべて正しいとも思わない。私自身は、自分で考え、自分で実践することを基本としています。

反対に、「尊敬される経営者」になりたいとは思っています。だからといって、尊敬されることを意識しているわけではありません。尊敬とは、自ら意識するものではなく、何かに打ち込むことによって、あとからついてくるものです。

そもそも、私はそんなに立派な人間ではないのですよ。私がアメリカに留学したのは、当時1ドル360円の時代。父親はサラリーマンでしたから、相当に大変だったと思います。

みなさんは今、若い。若いころは可能性が無限にあるのに、できないことが多いですよね。お金がない、時間がない、立場がないといって、あきらめることがたくさんあると思います。すべて満足できるように人生は進められません。だから、今の自分ができる範囲で一生懸命にやって、人生を切り開いていくとよいのだと思います。

松原さん:では、立場に関係なく、意見や提案を出しやすい雰囲気をつくったり、下の意見をくみとるために何か行っていたりすることはありますか。

松藤社長:今、私と話していて、みなさんはあまり緊張していないでしょう。私は、初めてのお客さんから電話がかかってきたときにも、すぐに打ち解けられます。誰とでもいつも通りに話せるのは、自分が偉いとも思っていないし、お客さんが偉いとも思っていないから。私は常に誰とでも相手と同じ目線で話しています。話やすい雰囲気をつくるには、これがいちばんです。

社員にも、同じことを伝えています。たとえば営業の人間は、最低限のスキルは必要です。ですが、自分を変に飾る必要はありません。最後は、自分の個性で仕事をすることが大事です。

平塚さん:とても勉強になります。最後の質問をさせてください。アップコンさんでは、社員の方々のがんばりを可視化するために、何か取り組んでいることはありますか。私自身、自分の努力が正当に評価される会社で働きたいと考えています。

松藤社長:そうですね。年度初めに、全員に年間行動計画表を上司と相談しながらつくってもらっています。「今年はこの目標を達成する」と決めたら、それを実現させるために、毎月チェックしていきます。こうした取り組みが、「社員のがんばりを可視化する取り組み」という質問の答えになるでしょうか。

当社では、入社10年で10個の資格を取ることを目標にしています。「次は何の資格を取ったらよいでしょうか」と相談にくる人もいる。資格の勉強が楽しくてしかたがないという人もいますね。

では、入社後10年で資格を10個持っている人とは、日本にどのくらいいると思いますか。きちんとした統計があるわけではありませんし、資格にもさまざまなレベルがありますが、現在の35歳の100万人中2000~5000人くらいです。仮に5000人と考えると、0.5%程度です。

一方、会社は全国に400万社ほどあります。そのうち、上場企業は約4000社。0.1%の割合です。アップコンも上場し、0.1%を達成しました。

社員たちにも、全国で0.5%に入る人間になろう、そのためにがんばっていこうと伝えています。そうやってお互いに影響しあうことで、社内に好循環を築いています。

平塚さん:社員の方々がお互いに高めあっていくことが、お客さんに喜んでもらえる仕事につながるのですか。

松藤社長:その通りです。お客さんが自分たちのサービスを受けて喜んでくれることは、働くモチベーションになります。「このレベルでは喜ばなかった」ということが万が一にもあれば、その上のレベルに自分を持っていかなければいけない。そうやって上を目指し、お客さんが喜び、笑顔になってくれたら、自分たちも嬉しいし、働きがいをもって仕事を続けられるのです。

【取材後記】

「仕事にプライベートを持ち込むな」という経営者は大勢います。ですが、「家庭第一」を掲げ、「プライベートに仕事を持ち込まない」という松藤社長の働き方は、学生にとって新鮮な驚きでした。プライベートを充実させてこそ、集中して素晴らしい仕事ができ、会社にとっても、社会にとってもかけがえのない人財となる。この考え方は、これから社会に飛び出していく学生たちに、大きな刺激を与えたことでしょう。「働くことの真の価値」そして「人生を豊かに生きるヒント」を学ぶことのできたこの経験は、学生たちの人生における貴重な財産になったと信じています。

〈企業データ〉

会社名:アップコン株式会社

事業内容:コンクリート床スラブ沈下修正工法「アップコン工法」による施工・施工管理など

所在地:〒213‐0012神奈川県川崎市高津区坂戸3⁻2⁻1KPS東棟611

URL:https://www.upcon.co.jp/

資本金:7,325万円

従業員数:45名(2023年7月時点)

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