【IKIGAI企業インタビュー】ウェルビーイングな街づくりを通じ、働きがい・生きがいを創造(加賀建設)
加賀建設は石川県金沢市に本社を置くブライト500認定企業。健康経営やウェルビーイング経営をベースとしながら、コアビジネスである土木・建築、飲食や物販などの新規事業、地域貢献活動などを通じ金沢の活性化に力を入れています。(インタビュアー:健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表取締役 熊倉 利和)
加賀建設株式会社
鶴山雄一さん(代表取締役)
木戸由莉奈さん(管理本部 課長代理)
中川咲樹さん(管理本部)
目次
1. 誰もが元気でいられる組織をつくる
熊倉:本日はありがとうございます。常々ぜひ一度お話を伺いたいと思っておりましたので、やっと念願が叶いました。まずは御社について改めて教えていただけますか。
鶴山社長:当社は1943年、加賀造船として創設され、今年(2023年)でちょうど80年目を迎えます。現在は、総合建設業として港湾などの安全を守る土木、街のランドマークなどをつくる建築を中心に事業を展開。この10年は、少子化が進む中、金沢が発祥と言われるお茶の販売や飲食事業、さらには子供たちの学びの場の提供など地域活性化のための事業にも取り組んでいます。
熊倉:御社はブライト500に認定されていますが、健康経営に力を入れる理由は?
鶴山社長:健康経営も含め、当社の大きなキーワードになっているのがウェルビーイングです。モノの豊かさだけでは測れない社会になっている中で、「社員の幸せとは何か?」を考えながら、どうすれば社員のエンゲージメントを高められるかということに取り組む必要がありますし、それができないと企業は衰退していってしまうのではないでしょうか。
熊倉:確かにWHO(世界保健機関憲章)も「健康とは、単に疾病がない状態ということではなく、肉体的、精神的、そして社会的に、完全に満たされた状態にある」と定義しています。つまり「ウェルビーイング」であるということですね。
鶴山社長:建設業界を見ても、2022年には就業者の55歳以上が約36%となっており、高齢化が著しい。特に夏場の暑い中、冬の寒い中で働くのは大変です。いわゆる3K(きつい、危険、汚い)と言われてしまいがち。人財の確保が業界全体の課題となっています。
人財確保という点では、私たちのような中小企業は、大企業にはない価値、魅力をつくる必要があります。その中で当社は「誰もが元気でいられる組織をつくる」「自分らしく働くために健康課題を把握する」「チームで力を発揮できる健全なつながりをつくる」「会社に来たくなる働きやすい環境を整備する」をテーマとして掲げています。
2.地域と連携し、人や街を活性化していく
熊倉:では、健康経営の具体的な取り組みについてお聞かせください。
鶴山社長:食生活の改善では、スムージーなどを社内で販売し、野菜の摂取量を増やすようにしています。また、デスクワーク従事者にはバランスボールなどの運動機器を提供していますし、テニスやフットサル、ハイキングなどのスポーツ・レクレーションも定期的に開催しています。
私が代表を務めるウェルビーイング経営ラボ金沢では、当社だけでなく、石川日産さんなど金沢を中心に50社ほど集まり、ウォーキングイベントを開催しました。
熊倉:それはどんなきっかけで?
鶴山社長:当社が健康経営やウェルビーイング経営を推進する中で、周りの企業さんから「一緒にやりませんか?」「取りまとめ役をお願いできませんか?」というお話を頂いたのが始まりです。どうせやるなら、トップダウンではなく、一人一人がそれぞれテーマを持ちながら取り組めるようにしたいと考えました。
実際、各企業の若手や中堅社員の皆さんに集まっていただくことができました。みなさんに「楽しく」「思いやりを持って」「人とのつながりを感じられる」ことをテーマにイベントを考えてほしいとリクエストを出したところ、企業の枠を超えたウォーキングイベントを考え、実行してくれました。当社からは木戸も参画しています。
木戸さん:私ともう一人の企画部の女性社員、それに他社さんの2名で実行委員会をつくり、イベントをどうやって運営していくかをゼロから考えました。私は事務職なので普段、他社の方々と触れ合う機会がほとんどありません。ウォーキングイベントでは他社さんとの繋がりもできましたし、久しぶりに大きなやりがいを感じられました。
熊倉:それはいいですね。加賀建設さんはインフラを支える建設業ですから、元々地域への貢献度が高い。地域活性化の事業についてももう少し詳しく教えていただけますか?
鶴山社長:一つは人づくりです。今、日本は都会と地方、親の所得の違いなどで教育格差が生まれ、子供たちは様々な課題を抱えています。そこで古い木造の建物を購入してリノベーションを施し、『金石町家』をつくりました。ここには図書室やアトリエなどがあり、子供たちが様々なことを学び、人と接することができるスペースになっています。
それと金沢にはお茶の茎を焙煎してつくる棒茶と呼ばれるものがあるのですが、この棒茶を産学連携で生産し、販売しています。棒茶は甘くてスッキリしていますので、欧米のマーケットに受け入れてもらえるのではないかと考え、海外との取引も進んでいます。
金沢は古い街。長い伝統の中で培われてきた素晴らしいものがたくさん残されています。その伝統や財産を大切にしながら人を育て、コミュニティを再生・構築してウェルビーイングな街づくりを進めていきたいと考えています。
3.挑戦は社員の意識を変え、成長を促す
熊倉:健康経営やウェルビーイング経営を実践することでどんなメリットがありますか?
鶴山社長:まずは社員の意識の変化です。健康経営は個々が健康になるだけではなく、それによって企業の生産性や活力を高めていくもの。とかく健康になることが目的と捉われてしまいがちでしたが、社内アンケートでも「生産性を向上させる」ことを意識している社員が9%から今年22%まで伸びています。
熊倉:それは素晴らしいですね。鶴山さんは率先して様々な新しい取り組みをされていますが、その想いや考えが社内に着実に浸透しているように思われます。でも、社員のみなさんは大変だったのではないですか?
木戸さん:そうですね。社長からは次々に新しいテーマやワードが出てきます。例えば、「SDGsってなんだろう?」というところも最初は正直ありました。ですが、新しい知識を吸収したり、経験ができ、結果的にみんなのスキルアップにつながっています。
鶴山社長:健康経営にしても木戸を中心に社員が自ら提案し、実際に動いていくという形ができあがっています。地域活性化事業も20、30代メンバーが中心にやってもらっています。ゼロから新しいものを生み出すことをしているので、頭も使うし、大変だと思います。でも、みんなとても優秀。仮説を立てながらやっていく作業を繰り返してくれています。
大切なのは会社の中で自分の居場所を見つけられること。そして、昨日より今日成長できたということを実感できるようになることです。
4. 伝統と革新。理念も常にアップデート
熊倉:ここまでお話を伺ってきて、鶴山さんのお考えの幅広さ、奥深さに驚くばかりです。鶴山さんは俯瞰で業界や地域を見つめ、課題を解決しようとしていらっしゃる。どうやってそれらを培ったのでしょうか?
鶴山社長:前職はゼネコンで働き、技術者として現場を運営していました。ですが、人が育っていないですし、10年後、20年後、30年後を考えた時、業界全体への不安もあり、J C(青年会議所)に入りました。そこで素晴らしい人と出会い、経営に関する考え方やビジョンについて学びましたし、社会課題や地域課題に取り組んでいこうという情熱も生まれました。
ただ、社内の雰囲気づくりや空気感の醸成については、今でも私というより会長である父が担っている部分が大きいと思います。女性活躍についても、今から20年ほど前ですが、石川県内で女性を技術者として最初に採用したのは当社でした。その社員は「どこの会社でも門前払いだったのが、加賀建設だけが面接をし、採用してくれた」と言っていたそうです。真面目で実直な会社ですが、新しいことに挑戦したいという人の背中を押す風土は昔からあるのだと思います。
熊倉:加賀建設は、鶴山さんで四代目になりますね。たくさんの企業にインタビューしていますが、経営者が二代目、三代目になった時に地域への貢献や社員を幸せにすることに力を入れる傾向があると感じています。DNAとしてそれを鶴山さんも引き継いでいらっしゃる。
鶴山社長:そうですね。ただ大切なものは守りながら、時代とともに会社の理念やミッションは常に変わっていくべきものだと思います。当社は建設業だけでなく、事業を多角化していく中で優秀な人財も入ってきてくれ、これまでできなかったことができるようになっています。社会の変化を見つめながら、さらに良い会社にしていくために企業のあり方もアップデートし、新しいことに挑戦していきたいと考えています。
熊倉:御社は様々な魅力をお持ちです。それを外部に伝えるため広報部などがあってもいいですね。
鶴山社長:確かに社外への発信は必要ですし、少しずつ増やしています。
熊倉:社員の方から見てどうですか?
中川さん:私は入社して3年目ですが、加賀建設という会社は、個々がとても成長できる場所ですし、企業文化や風土も好きです。加賀建設の魅力を様々な形で発信していきたいですね。
5.地域貢献は働きがい・生きがいを生む
熊倉:これからのビジョンについてお聞かせください。
鶴山社長:やはり地域のためになることに力を入れていきたい。父もそうですが、私もこの金沢、そして本社のある金石という地域をいかに良くしていくかということをずっと言い続けてきました。中小企業が大企業に勝るものは何かと言えば、地域とのつながりです。地域とのつながりがあるからこそ、私たちの事業も成り立ってきました。ですから感謝の意味も込めて、「地域のために」と考えるのは自然なことです。
熊倉:会社の仕事を通じ、地域のみなさんの役に立っている、喜んでもらえているというのは、社員の誇りにもなりますし、エンゲージメントも高まるのではないですか?
鶴山社長:おっしゃる通りです。特に当社の場合、地域のお祭りやイベント、海岸清掃などにも取り組んでいます。それらのボランティア活動にも社員のみんなが進んで参画してくれていることには感謝しないといけません。社員が地域の活動に参加することで、加賀建設に対する地域の皆さんからの信頼や評価も高まっています。
また、仕事だけでなく、地域のイベントなど様々な活動の中で人と出会い、新しい情報に触れたりします。自分の価値観にも変化が生まれます。お金だけでなく、幸せな人生を過ごすためには、仕事以外の時間を充実させることが欠かせないのではないでしょうか。
熊倉:本当にそうですね。生きがいを得るためには、人との繋がりがとても大事です。逆に言えば、社員のみなさんの地域や人との繋がりを企業である加賀建設さんが後押ししているという見方もできますね。生きがい、やりがいを自分で探し、実現するのは難しい部分もあります。一人でできることは限られますが、会社のパワーを使えば可能性が広がっていきます。
鶴山社長:その通りです。普段の仕事をしているだけでは出会えない人たちと知り合うことで刺激を受け、それぞれの本業や当社の事業全体にもいい影響をもたらしてくれます。
熊倉:そうすることで御社の社員のレベルもさらに上がっていきますね。特に伸ばしたい事業はありますか?
鶴山社長:やはり建設です。この地域だけでなく日本全体を見ても、極地的な集中豪雨、災害がより身近なものになっています。その一方、建設業界全体で人手不足という課題もある。災害に備えるためにも新しい技術開発を含め、大学との連携もさらに強めていきたいと考えています。とにかく「次世代のため」ということに尽きます。子供たちや次の世代のためになる事業をつくっていきたい。
熊倉:「次世代のため」「地域のため」となると、社員が働きがい、生きがいを感じられるようになり、会社も成長する。加賀建設さんはすでにそこに気づかれていらっしゃいますね。
【取材後記】
健康経営はもちろん、今回は伝えきれませんでしたが、SDGsや産学連携などにも取り組み、業界や地域の活性化を事業戦略と結びつけながら展開している加賀建設さん。自社の発展だけでなく、常に次世代のことを考え、様々な挑戦を続けるその姿勢には頭が下がるばかりです。また、新社屋(日本海側最大級の大型木造ZEB基準の建築物)も完成し、さらに働きやすさ、働きがいが高まる環境づくりを推し進めています。今回取材することができ、本当に良かったと思わせてくれる企業でした。
<企業データ>
会社名:加賀建設株式会社
事業内容:土木事業(港湾 海上 道路 橋梁 河川など、土木構造物の施工、リニューアルを行っています)/建築事業(住宅 オフィス 工場 店舗など、多岐にわたる建物の企画 提案 設計 施工 維持管理を行っています。)/地域活性化事業(地域特性を活かした新しい価値を創出するプロジェクトの企画や提案 運営を行っています。)
所在地:(本社)〒920-0337 石川県金沢市金石西1丁目2番10号
資本金:5,400万円
社員数:109名(男性53名、女性56名)※2023年1月現在