【IKIGAI企業インタビュー】物流の2024年問題はドライバーの地位を上げるチャンス。“社員ファースト”経営が人財を創る(株式会社ハンナ)

株式会社ハンナさんは、奈良県奈良市に本社を置き、近畿圏に多くの配送インフラを持つ運送会社さんです。2017年から健康経営に取り組まれており、社員ファーストを掲げ、働き方改革や社員教育に尽力されています。今回は「人財が営業戦略のひとつ」と語る取締役の西岡さんにインタビューさせていただきました。(インタビュアー:健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表取締役  熊倉 利和)

〔株式会社ハンナ〕

西岡徳行さん(取締役)

米澤友海さん(経営管理部 総務課)

1.社員への思いが社長を動かす

――よろしくお願いいたします。まず、ハンナさんについて教えてください。
西岡取締役:はい。弊社はトラック運送をメインとする運送会社で、近畿圏までの近距離と東は愛知県、西は岡山県までの中距離輸配送を得意としています。現在の社員数は147名、グループ全体で184名となります。設立は昭和55年です。

――ハンナさんは、運送業界では数少ない女性が代表取締役社長を務められていると伺いました。最初は苦難も多かったのでしょうか?

西岡取締役:そうですね。苦難も多かったと思います。下村が代表取締役社長に就任し数年間は、母親目線で見守るような経営をしていましたが、あるときから物流に対する知見が確立され、発言も大きく変化していきました。詳しく聞いたわけではありませんが、就任当初の運送業界は女性社長が少なく、疎外感を感じることがあったそうです。それだけではなく、弊社の社員まで軽んじられるようなこともあったと聞きました。その経験から自分自身が成長しなければ社員が馬鹿にされ続けてしまうと感じ、物流関係の講座や集まりに積極的に参加するようになったようです。

――社員への思いが下村社長を動かしたのですね。

西岡取締役:おっしゃるとおりです。社長はハンドルこそ握りませんが、プライドを持って会社を経営し、社員と向き合い続けています。例えば、全社員との個人面談を年2回、自ら実施していました。しかも、弊社は365日24時間営業ですので、社長は社員のスケジュールに合わせて多いときで15人/日の面談を行うんです。さらに、必要があれば何時間でも社員と話していました。社長は「社員ファーストで仕事をしているから自分自身はブラックでもいい」とよく言っていましたね。

――そうだったんですね。下村社長の社員に対する愛情の深さを感じます。

2.社員ファーストで働き方改革

――“社員ファースト”という言葉が出てきましたが、現在、社員のために何か取り組まれていることはありますか?

西岡取締役:はい。社員がいつでもどんなときでも、自分に合わせた働き方ができる会社作りをしています。創業当時は、酒問屋さん限定で仕事をしていましたが、一般貨物の運送事業に切り替わり、多様な社員が入社するようになりました。例えば、日中は親の介護をしている人や子どもの世話をしている人など、夜勤を希望する人がすごく多かったんです。そこで、社員が希望する時間で働けるよう、24時間365日営業にシフトしたんです。

――素晴らしいですね! 苦労されたこともありましたか?

西岡取締役:そうですね。やり始めたときは本当に苦労の連続でした。初めは深く考えておらず、「社員から時間の融通がきいてありがたい」との声も多かったです。しかし、進めていくにあたり、24時間の人員管理や、トラックを24時間動かすためのコストの問題が徐々に浮き彫りになり、苦労は絶えませんでしたね。でも、弊社で働いてくれている人たちのニーズに応えたかった。そんな思いで当時の幹部社員が一丸となり、約10年かけて365日24時間稼働できる仕事を獲得し、管理体制を作り上げました。

――今年4月から時間外労働上限規制などが適応され、“物流の2024年問題*1”が話題になっていますね。働き方などにさらなる変化はあったのでしょうか?

西岡取締役:変化はありましたね。ただ、2024年問題を受けて仕事のやり方を大きく変えたり、人員流出を防ぐために無理やり給与を上げることは考えませんでした。

弊社では、3年前から2024年問題と向き合ってきました。社員と共にディスカッションを重ね、最終的には社長から全体集会で「完全ホワイト物流で行きます」と宣言があり、この宣言を受け、これまでの3年間は準備期間とし、法律改正前から徐々に時間外労働を制限してきました。この取り組みにより労働時間減少による収入減を最小限で食い止める手立てを考える必要がありました。

まずは、お客様に弊社の付加価値を理解いただき適正運賃でお仕事を受託し、この原資を軸に固定的賃金のベースを上げ、働く時間が減ったとしても総収入は大きく減らない仕組み作りに取り組んできました。

それでも、準備期間の3年間で数名の社員が退職しましたが、その選択肢は全て働き手にあると思っているので、仕方がないと受け止めています。これが「物流の2024年問題」の当社のあり方です。

――なるほど。社員の生活も、社員の意思も大切にされているのが伝わりました。

3.ハンナが地域を盛り上げる中枢に

――地元ラジオ番組への出演や奈良県吉野でイベントを開催するなど、積極的に地域とのつながりを持たれているとお聞きしました。どのような思いで、実施されているのでしょうか?

西岡取締役:はい。弊社の魅力を地元コミュニティに知っていただきたいという思いと地域貢献を通して社員のモチベーションを上げたい、そこにシナジーを生み出したいと試行錯誤しております。社員のモチベーションを上げ、爆発的な成長を促すためには上司が手を差し伸べ、ぐっと引き上げることが必要だと考えています。それを実現するためのアクションプランのひとつとして行っているのが、ラジオ番組なんです。

――そうなんですね。ラジオ番組ではどんなお話をされているのですか?

西岡取締役:例えば、社長の担当番組ではカンボジアの地雷処理に長年取り組まれている有名な先生をお招きし、地雷処理を始めたきっかけやカンボジアでの地場産業促進のための取り組みなどをお話していただいております。普段は耳にすることのない貴重な体験談をラジオを通して聴いてもらい、色々なことを深く考えるきっかけになればと思っています。私が担当する番組では、地域で活躍する方などをお呼びして、人柄や活動内容を多くの方に知ってもらう情報番組を作っていきたいと考えています。

――ラジオ番組などを通じての社会貢献が社員の働きがいに繋がっていくのでしょうね。素敵な取り組みです。

西岡取締役:ありがとうございます。私は、社員だけでなく地元である奈良県の老若男女みんなを元気にしたいと思っています。それは私1人では成し遂げるのは難しいですが、会社全体でアプローチできれば大きな力になると思っています。地域を盛り上げる中枢にハンナがなれたら、それが理想ですね。これからも、地域活性化のために私たちに何ができるのかを模索し続けていきたいです。

4.アカデミーの創設で働きがいを創る

――社員教育にも力を注がれているとお聞きしました。具体的にどんな取り組みをされているのでしょうか?

西岡取締役:そうですね。3年前から社員に向けて“学びの場”を提供しています。アカデミーの主要テーマは実務学、外的要因学、内的要因学、地域社会学、未来学の5つです。実務学では運送業で売上を上げるまでの一連の流れを理解したり、外的要因学では地域の歴史や地元企業の風土を学んだ後、実際に地域のイベントに参加させていただくこともあります。

元々、ドライバーはお客さんとの契約条件を守り、規則に沿って仕事ができれば十分だと考えていました。しかし、アカデミーをやってみて様々な学びが“人財”育成に繋がっていると実感しています。

――なるほど。アカデミーを始めるきっかけは何だったのでしょうか?

西岡取締役:はい。当社は幹部の育成として様々な研修や勉強会を開催してきました。しかしながらドライバーやスタッフ職に対して学びの場がありませんでした。社員個々が自立心を持ち、未来の自分をどう描くのか考える機会を作ろうと役員会で決定し、本格的な人財育成=ハンナアカデミーを始動させたのです。自分の未来は自分で作って行くしかありません。でも、会社として彼らを手助けすることはできると考え、その土壌作りをしています。1しか知らないより10知っている方が選択肢も視野も広がり、生きやすくなると思っています。

ただ、あくまでも一人ひとりの意思を尊重し、アカデミーも完全任意参加で行っています。

――総務課の米澤さんは、アカデミー1期の受講生だと伺いました。参加して感じたことはありますか?

米澤さん(経営管理部 総務課):そうですね。私は3年前にアカデミーの1期生として参加しました。2、3年目は、補佐という形で運営にも携わっています。講座を通じて受講者として学んだことと、運営側の視点から得た経験が実務にも役立ち、働きがいにも繋がっています。

――素晴らしいですね。どのようなときに働きがいを感じましたか?

米澤さん:以前はソリューション事業室に所属しており、地域に特化した広報活動などを行っていました。その部署では健康経営を促進させる活動も積極的に実施しており、地域の女性活躍についての相談会やSDGsセミナーにも講師として参加させていただきました。ここでもアカデミーでの経験が活きましたね。それに、多くのセミナーに参加したことで、社内外で個人名を認知してもらえ、「何年も前から見ていましたよ」と声をかけていただいたこともあります。一生懸命にやってきたことが評価され、それを直接的に実感できたことに働きがいを感じました。

5.24年問題はドライバーの社会的地位を上げるチャンス

――今後の展望についてお聞かせいただけますでしょうか。

西岡取締役:これから、物流・運送業界は大変革期に入ります。この2024年問題は、ドライバーの働く時間が制限され、人財確保が難しくなるなど多くのリスクもある一方で、この業界がよい方向に変わるチャンスでもあります。

現在の仕組みでは、物流に掛かる費用はコストとして扱われ、商品価格の何パーセントという考え方でした。これから2024年問題を皮切りに「運びたくても運べない」という状況になる可能性があります。メーカーはコストという考えではなく、適正な運賃を考えた価格設定をする必要があると考えています。会社はコンプライアンスを守りつつ、社員の生活も守る義務があります。このチャンスを逃さず、お客様と交渉し、理解を得て、もっと運送事業者が活躍できる舞台を整えていきたいですね。ドライバーの社会的地位を3ランク、4ランク上げていくのが目標です。

もちろん、今後も“社員ファースト”の会社作りは続けていきます。ハンナが考える社員ファーストとは、社員たちが自ずと頑張れるような環境を会社が作り続けることだと思っています。最終的には社員が努力したことが実を結び、結果が出たときに「ああ、会社が環境を整えてくれてたんやな」と気づき、ハンナでずっと働きたいと思ってくれたら嬉しいですし、そうなれば会社もさらに発展を遂げると確信しております。

【取材後記】

今回のインタビューで特に印象に残ったのは、西岡取締役の発言の随所に現れるハンナの“社員”への思いです。会社がどんな状況であっても、社員を中心に考え、彼らの成長と幸せを第一とする真摯な姿勢に感銘を受けました。2024年問題に対する物流コストの見直しやドライバーの社会的地位向上を目指す取り組みは、単なる経営戦略ではなく、人財を守るための愛ある行動です。ハンナがこのような困難な状況をチャンスと捉え、前向きに取り組む姿勢は他の企業も見習いたい点が多いのではないでしょうか。これからも“社員ファースト”を続け、さらに飛躍していくハンナの姿を追い続けたいと思います。

<企業データ>

会社名:株式会社ハンナ

事業内容:一般貨物自動車運送事業・貨物利用運送・通過型倉庫・車輌整備

所在地:〒630-8442 奈良県奈良市北永井町372番地

資本金:1,000万円

社員数:社員数 147名 (2023年4月現在)

*1 : 物流の2024年問題とは、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制と改正改善基準告示が適用され、労働時間が短くなることで輸送能力が不足し、「モノが運べなくなる」可能性を問題視していること。参考:全日本トラック協会

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