【東京すずらん】コロナ禍を乗り越え、新規事業にも着手。健康経営でピンチをチャンスに

東京すずらんさんは、飲食店向けにおしぼりレンタルを行なっている企業。コロナ禍で外食産業が大きなダメージを受ける中、一時期は仕事が半分になりました。そうした厳しい状況の中、健康経営を通じて社員が自ら考え、動く企業風土を醸成。業務改善や新規事業に繋げようとしています。(インタビュアー:健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表取締役  熊倉 利和) 

〔株式会社東京すずらん〕

■石川 啓夫さん(代表取締役)

■池ノ谷 幸枝さん(総務部部長)

1.81歳でも第一線で活躍

――まずは御社の事業内容について教えてください。

石川社長:はい。飲食店向けおしぼりレンタルを中心に事業を展開しています。配達エリアは中央区、千代田区、港区、新宿区、渋谷区などです。

――御社は2018年から毎年「健康宣言」をして認定を受けており、2021年、2022年は中小法人部門の上位法人として「ブライト500」にも選ばれました。健康経営に取り組むきっかけは?

石川社長:当社の顧問になってくれている社労士さんから、やってみてはどうですかと勧めてもらったのがきっかけです。それで、試しに取り組んだところ、当社への評価、信頼度が格段に高まりました。ほかの認証などとは違い、大きな影響力を持つことがわかりましたので、本格的に取り組むようになりました。

――健康診断の受診率は100%だとお聞きしています。

池ノ谷さん:はい。検診後の面談やストレスチェックも積極的に受けてもらえていますので、健診への意識は高い方だと思います。例外としては石川社長。「特定健診、自分は受けなくてもいいかな?」と言ってきたので、即座に「ダメです。受けてください」と答えました(笑)。

石川社長:そうでしたね(笑)。それと、法律遵守や認証関連などとは関係なく、ダイバーシティは大切にしています。

――それはいいですね。今、従業員の女性の割合は?

池ノ谷さん:60名のうち、45名が女性。下は22歳で上は81歳です。81歳の人は、75歳の時に当社に入社してくれました。前の会社を定年後に応募してきてくれて、実際に会ったらとても元気でチャキチャキのお母さんという感じの人でしたので、現在も週5日勤務で働いてもらっています。

――年齢層の高い社員も多いとなると、より健康が大切になりますね。

池ノ谷さん:おっしゃる通りです。産業医の先生に来社してもらい、風邪や腰痛などについてレクチャーしてもらうなどしています。それらは勤務時間中に行っているので全員参加です。

勤務外では、近所に桜がキレイな場所があるので、最近、お花見パーティーを開きました。コロナ禍があったのでイベントはなかなかできなかったので、久しぶりにみんなで楽しい時間を過ごせ、社内のコミュニケーションを図るのにも役立ちました。

――今後、健康経営で力を入れていきたいものはありますか?

石川社長:はい。食育です。当社では、知的障害のある方や引きこもりの若者なども雇用しています。彼らを見ていると、栄養のバランスを考えず、ケーキなど好きなものばかり食べている人が多い。今は健康診断で問題があった人だけ栄養士の方からアドバイスをいただいていますが、さらに食育に力を入れていきたい。特に肥満の人はわかりやすいのですが、痩せていて偏食な人は埋もれがちになるので注意深くサポートしていきたいですね。

2.人財採用で質量ともに成功

――先ほど健康経営に取り組み始めてから会社への信頼度、評価が高まったとおっしゃっていましたが、具体的には?

池ノ谷さん:一番、顕著に効果が出ているのは採用面です。新卒採用でも当社が健康経営に取り組み、優良法人認定を受けているということで、ブラック企業ではなく、安心して入社できるという評価をいただけています。実際、2021年卒より、2023年卒採用の方が、応募の数が増えていますし、学生さんの質も高くなっています。みなさん優秀なので第1次、第2次、第3次と選考が進んでも甲乙つけ難く逆に苦労しました。贅沢な悩みですね。

石川社長:そうですね。お陰様で健康経営は採用など外部へのアピールとなっています。むしろ、当社は健康経営に力を入れているということの社内向けのアピール、従業員の理解のほうが少し足りないかもしれませんね。

――従業員の方にとっては、健康経営が当たり前になっているのかもしれませんね。健康経営を行い、従業員を大切にしている会社で働いていることに気づいてもらえれば、口コミ効果でリファラル採用(紹介・推薦)も増えていきそうです。それと、健康経営をされている会社では、辞めた従業員がもう一度入社するケースが少なくありません。

池ノ谷さん:確かに、辞めた人から「東京すずらんは良い会社だと辞めてから気づきました」とはよく言われます。

――せっかく素晴らしい取り組みをしているのですから、社内外にもっとアピールをしないともったいないですね。

池ノ谷さん:確かにそうですね。前回取材してくださった『健康経営の広場』の記事も、検索すると上位に表示されます。おしぼりをどこかの会社に頼もうとお客様が検索された時、『健康経営の広場』の記事も上位に出てきますので、そのことがお客様からの信頼感に繋がっているのだと思います。

――健康経営にどう取り組めばいいかと悩んでいる会社さんも少なくないですから、そういった会社さんからお問い合わせがくるのではないですか?

石川社長:はい。実はたくさん来ています。他社さんの健康経営の推進にもできるだけお役に立てればと考えています。

――地域貢献についてはいかがでしょうか?

石川社長:今の時点では、やはり雇用が一番の貢献になると思っていますが、蕨市の青年商工会議所のメンバーになっていますので、求めに応じて地域貢献活動をさせていただいています。つい最近も川口市のSDGsに関するイベントに参加しました。

池ノ谷さん:コロナ禍でマスク不足の時、マスクを当社にて販売しました。普段、私たちはエンドユーザーの方々とお会いすることがありません。実際に地域の方々と接することで、お客様に喜んでもらうために何をすればいいのかさらに考えるようになりました。地元の方々からも、「おしぼりの会社みたいだけど……」という程度の認識だったのが、「こういう人たちが働いているんだ」「こういう会社なんだ」と知っていただく機会にもなりました。

石川社長:そうですね。コロナ禍の初期は、地域の皆さんもマスクや消毒液が手に入らず、お困りになっていました。私たちは洗濯が仕事の一部ですので、アルコールや化学薬品を扱っている会社との関係が深いのでマスクや消毒液を地域の皆さんに提供することができました。ただ、マスクは大量に仕入れたので在庫になってしまい、後で大変でした(笑)。結局、市に寄付させていただきました。

3.人こそが最大の差別化ポイント

――飲食店向けのおしぼりレンタルをされていますので、御社自身、コロナ禍の影響も大きかったのではないですか?

石川社長:はい。おっしゃる通りで一時期は仕事が半分になり、会社の存続も危ぶまれる状況となりました。ただ、確かにコロナ禍は大きな打撃だったのですが、人財や事業について見直す良い機会にもなりました。

――具体的には?

石川社長:はい。まずコロナ禍によって、おしぼり業界でも今まで以上に衛生的なものが求められるようになっています。そこで当社としても、抗ウイルス剤を添加したおしぼりの生産を始めたり、思い切って設備投資をし、おしぼり以外のものを洗う洗濯機を導入。寝具やユニフォームの洗浄、病院などのスリッパの消毒、撥水加工などにも取り組んでいます。今までやってこなかったことも含め、お客様のニーズに合ったものを提供しようとより一層、品質やサービスに力を入れるようになりました。

もう一つは当社の強みの見直しです。おしぼり業界では、同業他社も同じような機械、生産設備を使っています。ですから、差別化には自ずと限界もある。何で他社と差別化できるかと考えた時、やはり人しかありません。

――御社の仕事には営業、おしぼりの製造、ルート配送などがあると思うのですが、具体的な差別化となるのはどんなことでしょうか?

石川社長:はい。どの職種においても、仕事をしていてやり方に迷うことがあると思います。どちらがいいのかといった時、楽な方を選ぶのか、それとも、少し手間はかかってもお客様のためになる方を選ぶのかでも差となって現れます。

いきなり高い次元の仕事をするというのではなく、普段の仕事の中でちょっとした意識の持ち方、姿勢が少しでも変われば、その積み重ねで大きな違いになっていきます。ただ、そうするように、こちらから一方的に命令することはしたくありません。従業員が自ら考え、改善していってもらいたい。その旨を従業員に伝え、意識改革を進めています。

4.健康経営で新事業を生み出す

――業務改革、企業風土を変革していく中で新卒入社の人たちにはどのようなことを期待していますか? 

石川社長:はい。「こういう人に来てもらいたい」と当社の求める人物像を明確にした上で、それに合った人に入社してもらいたいと考えています。本人たちにもそれをしっかり伝え、何がお客様のお役に立てるのかといったことを常に意識し、今より高い次元の仕事に最初から取り組んでもらおうと思っています。

池ノ谷さん:そうですね。コロナ禍になって新しい事業にもチャレンジしようとなった時、従業員と面談をしてそのことを話したのですが、なかなか乗り気になってくれない部分がありました。やはり新しいことに取り組むには、先入観なく、物事を柔軟に考えられる新卒入社の皆さんへの期待が大きくなります。

――そうなると新卒で入ってくる人たちのキャリアステップはどうなりますか?

石川社長:はい。名称としては総合職とし、まずは全部の部署の仕事を経験してもらおうと思っています。その部署である程度マネジメントの仕事ができたら次に移ってもらう。その過程で本人の適性もわかってきますから、営業や生産、そして新規事業の仕事に就いてもらおうと考えています。今、新規事業については、池ノ谷に全部やってもらっている状態ですので新たな力が必要です。

池ノ谷さん:そうですね。健康経営にしろ、新規事業にしろ、今は私が突っ走ってやっている部分がありますから、どうやったらもっとみんなを巻き込めるのか、次の人にバトンしていけるかが課題ですね。

――実は、ブライト500を取得するくらいの会社さんになると、健康経営の担当者が新規事業に取り組むケースが見受けられます。健康経営の担当者は、従業員一人一人のことをじっくり見ていますので、その人の適性ややりたいことなども理解しており、それが新しい事業を始める際の人選や活用に役立ち、うまくいくようです。

5.究極のおしぼりを目指して

――では、今後のビジョンについて教えてください。

池ノ谷さん:はい。一つは究極のおしぼりを作ること。そのためにフランス語の「ULTIME(究極)」という言葉を使ったロゴマークも作りました。

石川社長:これは蕨市在住の著名なデザイナーさんにご担当いただいたものです。当社の配達エリアには、日本の中でも最高の料理、サービスを提供する都心の一流店も多くあります。そんなお店がおもてなしの一つとして最高のおしぼりを使いたいと考えた時、選んでいただけるようにしたい。豊かな食文化を彩る付加価値の高いおしぼりを提供したいですし、そのためのブランディングにも力を入れたいと考えています。

池ノ谷さん:それと、グループ企業6社で協力しながら健康経営を行うことになり、資料の共有をしたり、Web会議で意見を出し合ったりしています。皆さんと一緒に取り組めるのがとても嬉しいですね。

石川社長:コロナ禍でダメージを受けた外食産業の周辺企業として、テレビの取材もかなり多く受けています。次の取材では、ここまで回復したんだという姿も見てもらいたいですし、新事業も軌道に乗せておきたいですね。そのためにはやはり人財が一番大切。さらに健康経営に力を入れ、当社の強みをつくっていきたいと考えています。

【取材後記】

東京すずらんさんの取材で感じたのは、人の温もり。石川社長、池ノ谷さんともにとても細やかな気配りをされる方で、「健康経営は人の優しさに気づくこと」という言葉もとても印象的でした。コロナ禍でダメージを受けても、業務改革や新規事業のチャンスととらえ、人財採用にも成功。さらに新しいおしぼり文化を生み出そうとしています。ピンチを切り抜け、さらに飛躍するためのチャレンジをする際、健康経営はその大きな力になることを東京すずらんの皆さんは伝えてくれています。

<企業データ>

会社名:株式会社東京すずらん

事業内容:レンタルおしぼり/業務用雑貨販売

所在地:〒335-0005 埼玉県蕨市錦町2-3-1

資本金:5,000万円

社員数:60名

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