【三幸土木】健康経営は会社の原点。人を大切に想う気持ち

健康経営を経営の中核に据え、30以上の健康施策に取り組んでいる三幸土木さん。本社敷地内にレジリエンスセンターや自社農場をオープンさせるなど、その取り組みはまさにトップランナー。大いに感心させられるインタビューとなりました。(インタビュアー:健康経営の広場/IKIGAI WORKS代表  熊倉 利和) 

1.社員も家族も幸せにしたい 

――まずは御社が健康経営に取り組むようになったきっかけについて教えていただけますでしょうか?

木下社長:はい。わかりました。今から7年ほど前、管理栄養士で現在、当社の健康顧問を務めていただいているCanna先生の講演で「野菜を食べることの必要性」「食生活の大切さ」「アメリカでは健康投資をしている企業の株価が上がっている」といったお話を伺ったことが一つのきっかけとなりました。

それと、当社の理念の中に「社員とその家族すべての人と共に喜び幸せを分かち合いたい。」というものがあります。当時、健康経営についてあまり深くは理解していなかったものの、健康に投資することは社員はもちろん、社員の家族も含めみんなが幸せになることに繋がるのではないかと考え、取り組みを始めました。

――具体的には何から始めましたか?

木下社長:まずは食生活の改善です。例えば、ベジファースト。つまり、食事の時、最初に野菜を食べようというルールを決めました。それとともにメタボ対策として体重測定も徹底。まだガラケーを使っている人も多かったので全員にスマホを持たせ、体重管理に活用してもらいました。

宮路さん(企画業務部 部長):最初の頃は、体重の変化を紙で張り出していましたが、今は『のっちゃおか』という自社独自のスマホアプリを使っており、体重管理だけでなく、食事管理にも役立てています。たとえば、野菜をどれくらい食べたかを記録し、合計の摂取量がわかるようになっています。

木下社長:そうだね。体重管理は役員など一部の社員で始めたのですが、全員を巻き込むことを考えた場合、アプリを使ってグループで競争するようにしたほうが興味を持ってやってくれるだろうということになりました。『のっちゃおか』というアプリのネーミングも社員全員から募って決めたものです。

健康施策で何かを始める時、こちらで全部決めるのではなく、いかに社員に自ら進んで参加してもらうかということを常に考えています。きっかけづくりはトップダウンでやることも必要だとは思うのですが、いざ始めた後は社員を巻き込み、ボトムアップに移行させることが大切です。

――なるほど。それはいいですね。ボトムアップ促進のためにそのほかにも何かされていますか?

木下社長:はい。毎月、健康経営運営会議を開き、私と役員、宮路部長、若手社員にも参加してもらって意見や要望を吸い上げるようにしており、今では30以上の健康施策を行なっています。

2.健康経営はメッセージ

――30以上の健康施策に取り組むというのは、なかなかできることではありません。その中で何か一つ例にとって紹介していただけますか。

木下社長:では、禁煙チャレンジについて話させてください。ある年、とても業績がよく、社員に臨時賞与を出そうということになりました。ですが、ただ単にお金で配分したのでは、それっきりで終わってしまいます。後々まで残るようにもっと工夫をしたいということで禁煙チャレンジを始めました。

禁煙チャレンジは、禁煙に取り組み、成功した人は1ヶ月間で2万円、5ヶ月で計10万円をもらえるというもの。チャレンジする際、社員のご家族などにサポーターになってもらいます。

私は年に2回、社員と面談するのですが、チャレンジ中の人に「ご家族はどんな反応をしているの?」と聞くと、「実は妻はもともと私にタバコをやめてほしかったらしいんです。『タバコをやめられた上にお金ももらえるなんて、こんないい会社ないじゃない』と妻からも言われています」と答えてくれました。

また、本社敷地内にある畑『サンコーファーム』で、安全で新鮮な野菜を育てています。季節によって色々な種類の野菜が採れるのですが、それを社員の自宅に持ち帰ってもらいます。そうすることで自宅でもたくさん野菜が並ぶようになります。

社員やご家族が健康になるのはもちろん、「そうか、旦那さん、お父さんの働いているのは、こんなことを考え、こんな取り組みをしている会社なんだな」ということがご家族に伝わります。禁煙チャレンジにしても、『サンコーファーム』にしても、当社のことをご家族にご理解いただくためのものでもありますし、会社からのメッセージです。

――それは素晴らしい。『サンコーファーム』は社員の方が管理しているのですか?

木下社長:管理をしてくれているのは、当社の営業担当の70代後半の男性。今も営業を続けているのですが、メインの仕事は畑の管理になっており、週2回ほど来てもらっています。彼は自分の畑も持っていて、そこで採れた野菜もウチで買い取り、社員に配っています。

――社員は大切な財産。いつまでも長く元気に働いてもらいたいという御社の想いを体現するエピソードですね。

木下社長:それができるのも、自然に囲まれた場所に会社があるからです。このロケーション自体、会社のアイデンティティですし、魅力に繋がっていくのだと思います。

そもそも健康経営は大企業よりも中小企業のほうが取り組みやすいですし、トップのメッセージも伝えやすいということがあると思っています。先ほどの禁煙チャレンジや『サンコーファーム』でも、当社のこの規模だからこそ「一緒に健康になろうよ。会社もサポートするよ」というメッセージや想いを伝えることができます。

「社員の給料をどうやって払おうか」といった状況で経営に余裕がない場合は、社員のことを財産(資本)ではなく、コストとして考えざるを得ないかもしれません。ただ、当社にも経営が厳しい時期がありましたが、その中でも、社員の給料を上げるためにはどうすればいいかという思いで経営をしてきました。

ですから、今、社員をコストとして捉えざるを得ない経営者も、社員を思う気持ちさえあれば、人にかけるお金はコストではなく、投資であるというふうに考えられるようになると思います。

それに仮にお金がなくても、知恵を出し、工夫することによって健康経営はできます。今、やれる範囲のことをやればいい。社員を大事にしていることを表現し、メッセージを送るだけでもいいと思います。

3.女性目線を大切にした情報発信

――御社のホームページを拝見しますと、健康経営の取り組みがしっかり紹介されていますね。

木下社長:はい。せっかくやるのなら周りにもちゃんと伝わるようにやろう、発信側の自己満足では意味がないということで力を入れています。それと、自分達の手で進化させていきたいと考えていましたので、最初にホームページの骨格だけを業者さんにつくってもらいました。

友人に広告代理店勤務の者がいたので、「ウチは今、こんなことを考えているんだ。これからこうしたいんだ」と伝え、当社のことをよく理解した上で協力してもらっています。

――それはいいですね。せっかく健康経営に取り組んでいるのに、それをしっかり外部に伝えられている企業は実は少数です。健康経営の取り組みを伝えることで、人財採用など様々なメリットが生まれてきますのでとてももったいない。その点、御社は伝え方がとても上手ですね。広報部などがあるのですか?

宮路さん:ありがとうございます。広報のための専門の部署はなく、ホームページはパートの女性、SNSは女性社員が担当してくれています。

木下社長:最初のうちは、「こんな表現の仕方じゃ伝わらないよ」「あれはもう載せた?」と細かく注文を出していましたが、今では私が何も言わなくても安心して任せられます。 

――情報発信でも女性が活躍されているのですね。

木下社長:そうですね。社員数の増加と会社の売上は比例していますが、面白いのは、当社の場合、女性の活躍が進むにつれて利益率が上がっていること。女性が活躍できるということは、風通しの良さ、働きやすさ、社員が力を発揮しやすい環境があるということだと思うので、それが利益に結びついているのではないでしょうか。

健康経営においても女性の力を借りないと、どこか盛り上がりに欠けます。コミュニケーション能力、細部への目配り、気配りといったことでも男性より優れている点が多いですし、社員も女性から言われたほうが聞く耳を持つ傾向があります。それもあり、当社ではホームページやSNSの情報発信で女性中心にやってもらっていますが、今の時代、女性の力や目線を大事にしないと経営そのものが難しくなってくるのではないでしょうか。

4.金融機関などからの信頼も高まる

――健康経営を推進してきて得られたものはありますか?

木下社長:いくつもあります。たとえば、健康経営に関する様々な賞をいただいたり、新聞で取り上げられたりしますから、有料の広告記事を出さずとも会社のことをしっかりPRしてもらえています。そうすると一層、健康経営に力を入れるようになり、質も高まっていき、良い循環が生まれます。

採用でもいい影響が出ており、近年では毎年10人程度の採用ができるようになっています。応募者の方が当社を訪問した際、「この会社は健康経営に取り組んでいて社員を大切にしている。雰囲気もとてもいい」と感じてもらって入社を決めてくれる人が多くいました。

それがコロナ禍ではリモート面接ゆえに会社の雰囲気も伝えることができず、今回に限っては、思ったように人財が採れませんでした。一流企業だったらネームバリューだけで人が来てくれます。一方、私たちのような中小企業は採用担当や広報がいくらがんばっても結果はついてきません。ですから、来年以降より一層、健康経営に力を入れ、新しい仲間を全員で迎え入れるんだというムードを醸成しながら採用にも繋げていきたいと考えています。

――御社の場合、大手ゼネコン、官公庁などがメインの顧客ですが、健康経営を進めてから何か変化はありますか?

木下社長:健康経営に取り組んだことが直接受注に繋がったかどうかはわかりませんが、当社の存在価値は間違いなく高まったと思います。取引企業さんや銀行さんからも、「この会社とは安心して付き合える」という信頼感をより持っていただけるようになったと感じています。

たとえば、銀行の支店長からも「御社が健康経営をしているお陰で本部にも説明しやすいですし、金利も下げやすいです」と言ってもらえています。取引企業さんにとっても、当社が健康経営に力を入れていることが一つの安心材料になっているようです。

5.強さは健康経営から生まれる 

――ここまで健康経営に取り組んでいる企業は、日本全国を探してもまだあまりないでしょう。仮に御社が健康経営をやめてしまったらどうなると思いますか? 

宮路さん:やはり困りますね。健康経営をしているお陰で、社内のコミュニケーションが活性化したり、調和も生まれています。もしまとまりを失ってしまったら、私たちのような中小企業ほど人財採用にも影響が出てきます。健康経営は中小企業が大企業に対抗するための武器でもありますから、健康経営をやめてしまうと当社の武器がなくなり、ビジネスも成り立ちにくくなるのではないでしょうか。

木下社長:そもそも健康経営は、社員の健康に配慮し、サポートするもの。社員を大切にすることは、経営の原点です。また、健康経営は企業戦略の一つです。戦略と聞くと計算高い感じもしますが、シンプルに「社員が長く元気に働ける」「誇りを持って働ける」「幸せな人生を送れる」ようにするためのものであると捉えればいいのだと思います。

【取材後記】

三幸土木さんの健康経営の根本に「社員やその家族も含め、みんなに幸せになってもらいたい」「自分の周りの人に感謝をする」「社会に貢献する」という想いがあります。きっかけづくりをトップが行い、社員を巻き込みながらボトムアップで推進し、会社の存在価値や信頼度を高める手法はぜひ真似したいところです。健康経営は、社員を健康にするだけでなく、社員の幸せと会社の成長の両方を同時に実現させる手段であることを三幸土木さんは証明してくれています。

<企業データ>

会社名:三幸土木株式会社

事業内容:土木建築一式工事/建築資材の販売/砕石、砂利の採取及び販売/産業廃棄物収集運搬業 /前各号に付帯関連する一切の業務

所在地:(日進本店)〒470-0103 愛知県日進市北新町北鶯91-5

資本金:3千万円

社員数:103名

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