健康経営を中核に据えることで ES向上と収益性の高い業態転換に成功

健康経営を中核に据えることで ES向上と収益性の高い業態転換に成功

陶器で有名な愛知県瀬戸市に本社を置く大橋運輸。1954年設立という歴史の長い企業でありながら、時代の流れに柔軟に対応。ES(従業員満足)を高めながら、利益率の高い業態へ転換することに成功した背景には健康経営がありました。今回は、代表取締役の鍋嶋洋行さん、総務部ES推進室の大山理恵さん、管理栄養士の原田さつきさんにお話を伺います。インタビュアー:株式会社セルメスタ 代表 熊倉 利和


1.強いビジネスを作るため、まずは人に投資

——御社は運輸業を展開されているということですが、もう少し詳しく事業内容を教えていただけますか?

鍋嶋代表:はい。大きく分けて、二つの事業があります。一つはB to B。精密機器や自動車部品など輸送に専門的な技術やノウハウを必要とするもの。もう一つがB to C。こちらは、引越、遺品整理などお客様の想いをしっかり受け止めながら仕事をしていくものです。

——なるほど。量より質を重視した運輸サービスを提供されているのですね。会社の設立は1954年ですが、それは昔からですか?

鍋嶋代表:いいえ。以前の運輸業は、たくさんの車を使い、長く運転すればするほど儲かるというビジネスモデルが主流でしたし、大橋運輸もそれに準じて仕事をしていました。しかし、私が代表になった1998年の頃には、規制緩和の影響で参入する企業が増え、価格競争も激しくなっていた。つまり、長時間働いても利益が出にくく、社員の幸せに結びつかない状況だったんです。

そこで、私が代表になったのを機に、選択と集中をおこない、付加価値の高い仕事にシフト。B to Bは特別な免許や専門技術が必要なもの、B to Cはお客様のお気持ちに向き合い、丁寧なサービスを提供する仕事に絞ることで収益性、利益率を高める戦略をとっていったのです。

——大きな改革ですね。その際、大切にされたものは何ですか?

鍋嶋代表:やはり人です。私たち運輸業は、製造業とは違い、何かモノを作るわけではありません。人そのものが価値を生み出す仕事です。ですから、経営戦略的にも、良い人材を集めることが何よりも重要になる。付加価値の高い仕事をするためにも、優秀な人材は欠かせませんし、優秀な人材を集めるためには、ES(社員満足)が欠かせない。ですから、特にこの10年、私が一番力を入れているのはESと言ってもいいくらいです。

そのESの中で、大きな柱となるのが健康。ドライバーという職種は、やはり健康でないとしっかり働けません。また、人生100年時代を迎えようとしている今、現役時代に元気であることはもちろん、定年後、充実した人生を送るためにも、健康管理がとても重要になってきます。だからこそ、「できるだけ早い段階で健康に良い習慣を身につけてほしい」という想いから健康経営に取り組んでいるのです。

2. 8020運動、禁煙、管理栄養士雇用で病気予防

——具体的にはどんな取り組みをされていますか?

鍋嶋代表:健康のための重要なファクターの一つとなるのが歯。歯が悪いと内臓にも影響がありますし、健康を害する大きな原因になってしまいます。また、今はだいぶ良くなりましたが、昔は虫歯があっても歯の治療をしないドライバーさんも多かったんです。そのため、「80才で20本の歯を残そう!」という8020運動を推進しようということになり、力を入れてきています。

具体的にいうと、良質の歯ブラシと歯磨き粉を全社員に配布するとともに、平日は仕事でなかなか歯科医に行きにくいので、提携している歯科院で日曜日に無料検診を実施しています。また、4月18日(よい歯の日)、11月8日(いい歯の日)には、社員だけでなく、お客様にも歯磨きセットをプレゼント。今では、お客様に歯磨きセットを手渡すと、「ああ、もうそんな時期ですね」と言って喜んでもらえるようになっています。当社のこの取り組みは高く評価いただき、愛知県歯科医師会からも表彰を受けることができました。

それと、禁煙活動にも力を入れるとともに、食や睡眠のための取り組みを始めました。たとえば、朝食を食べるかどうかで体温も変わりますし、午前中の集中力にも影響が出ます。また、深い睡眠を得るためには、シャワーで済ませるのではなく、しっかりお風呂に入ろうといったことを朝礼や社内報を通じて伝えていっています。

——それはいいですね。特に運輸業は、喫煙率が高い業種の一つですからね。

鍋嶋代表:おっしゃる通り。B to C の仕事をしている人はそうでもないのですが、特に大型トラックのドライバーの喫煙率はとても高いですね。

大山さん:禁煙運動をおこなうに当たり、アンケートをとったところ、当社社員の50%以上が煙草を吸っていました。禁煙外来の費用を会社で負担したり、通いやすい近くの病院を紹介したりすることで、最近は3割くらいに減らすことができました。でも、まだ高い。粘り強く取り組みを続けていく必要があります。

鍋嶋代表:そうですね。やはり健康は、治療より予防が大事。特に食。体は食べ物から作られますので、できるだけ良いものを社員に食べてもらいたい。だから、眼に良いブルーベリー、疲労回復に効果があるトウモロコシ、免疫力を高める乳酸菌飲料などを配るとともに、各営業所には水素水サーバーを設置してあります。

そして、何よりも、食を通じた健康管理、健康づくりのプロである管理栄養士さんの存在が大きいですね。当社では、管理栄養士の原田さんに週4日来てもらって、ご指導いただいているんです。

——それは素晴らしいですね。原田さんはどのようなお仕事をされているんですか?

原田さん:朝礼にも参加し、声かけをさせていただいています。たとえば、「朝食をしっかり食べてきましたか?」とか、お酒が好きな方には「昨晩は飲み過ぎてないですか? 体調はどうですか?」というふうに、一人一人とお話をさせていただきます。

食事だけでなく、睡眠の悩みを聞かれることが多かったので、睡眠コンサルタントの資格も取りました。次々にやるべきこと、やりたいことが増えていっているんです。

——ところで、原田さんはどのような経緯で大橋運輸さんで働かれることになったんですか?

原田さん:私はもともと、乳児院で長年働いてきて定年退職を迎え、再就職先を探していたんですね。病院や給食サービスなどでも管理栄養士は必要とされますが、どうしても調理の仕事が中心になります。なかなかやりたい仕事が見つからないときに、出会ったのが大橋運輸でした。

「社員の健康管理のために、どうしても管理栄養士さんが必要なんです」という代表の熱い想いに感銘を受けましたし、本来私がやりたかった予防医学などの仕事ができているので、今、仕事にとてもやりがいを感じています。ただ一つ悔やまれるのは、もっと早くここで働きたかったということですね(笑)。

3.健康経営の副産物としてのダイバーシティと人材採用

——御社は第一回目となる2017年から健康優良法人認定を受けることができています。その前から様々な取り組みをされていたので、認定には自信があったのではないですか?

大山さん:そうですね、8020運動は2012年から始めていますし、禁煙や食事、快眠などにも力を入れていましたから、2017年に初めて申請をする際には、チェック項目もクリアできていました。また、協会けんぽ愛知支部さんから2016年度の健康取組優良事業所として金賞をいただいていましたから。

鍋嶋代表:ですから、健康優良法人認定の申請をする目的としては、自分たちの取り組みがどこまでできているのだろうか、という確認の意味もあったんですが、認定を受けたことで弾みがつき、取り組みに加速がついていきました。

——健康経営に取り組み始めて、どんな影響が出ましたか?

鍋嶋代表:健康経営を押し進めるためには、きめ細やかな女性の視点が欠かせません。ですから、女性社員の活躍のシーンが増えていきました。運輸業は男性の仕事というイメージがある中、当社は安全管理の責任者も女性が担当しています。これは業界としては、異例なことです。

女性が働きやすい職場づくりは、当然、私たちの大きなテーマの一つですが、女性が働きやすい会社は、マイノリティの方を含めすべての人にとって働きやすい環境であると私は考えているんです。

実際、当社では、外国人、障がい者、LGBTQの方の雇用が進んでいます。外国人は、実習生というカタチではなく、直接雇用でフィリピン、台湾、ネパール、ペルーなどの方を採用。また、LGBTQの方もそれぞれの部署で活躍してくれています。障がいのある方の採用では、ご本人に持てる能力をできるだけ発揮してもらうのはもちろん、彼ら彼女らを支えることで周りの人間の成長に繋がっています。

これらの取り組みのお陰で、海外8ヶ国、県外の9都道府県からも人材募集の応募が来ています。さらに、大卒の新卒も採用できるようになっていて、私たち自身がとても驚いています。

——なるほど。応募者から見ても御社の魅力が増しているのですね。

鍋嶋代表:ありがとうございます。それと、当社の地域貢献活動も、応募者にとって魅力的に映っているのかもしれませんね。たとえば、高齢者の方が家の中で転倒して寝たきりになるというケースがとても多いので、転倒防止のためのモノの片付け方、震災時の導線を確保する方法などのセミナー、出前講座なども開いています。

人間というものは、人の役に立つこと、人に喜んでもらえる仕事をすることで充実感を覚えるもの。やりがいのある仕事はESにもなるんです。だから、「地域に貢献したいから」と応募してきてくれる意識の高い人が増えていることが嬉しいですね。

4.一人一人にさらに深くコミットしていく

——今後、力を入れていきたいことはありますか?

原田さん:今、ドライバーの意識喪失といった健康起因事故が社会問題になっています。もし事故が起きてしまったら、被害者側、加害者側の双方にとってとても不幸なこと。ですから、やれることは何でもやっていきたいですね。

原田さん:たとえば、2019年4月からは「健康チャレンジ」という取り組みをスタートさせ、一人一人とさらに深くコミットしています。

この「健康チャレンジ」には現在10名の社員が参加してくれていますが、まずは時間をかけて面談をおこない、睡眠、喫煙、飲酒、メタボなど今の状態をしっかりヒアリング。すると、「お酒や煙草がなかなか止められない」「運動に取り組めていない」という個々の課題が見えてきます。

運動にしても、ドライバーさんはトラックで遠くまで行くので運動している気になっている人もいますが、実際はほとんど座りっぱなしの仕事です。そういう方には、踏み台昇降やスロースクワットなどの短時間で簡単にでき、効果が上がる運動に取り組んでもらいます。単に運動するだけでは面白みに欠けるので、参加者同士で競争してもらい順位をつけ、賞金も出しているんです。

比較的簡単な運動でもちゃんと取り組めば、効果が出てきて、健康診断で要注意だった人でも、血圧、脂肪、血糖といった数値に改善が見られるようになります。数値が改善したらさらにポイントが付くというふうに、参加者のモチベーションが高まるよう工夫しています。

——とても熱意のある管理栄養士さんがいてくれて、代表としても心強いですね。

鍋嶋代表:本当に有り難いですね。だからこそ、しっかりサポートしていきたい。特に何をするにも、流れができるまでの最初の段階が大変。ですから、社内で何か取り組みを始める際は、まずは予算をしっかり付けるようにしているんです。

5.中小企業だからこそ健康経営に取り組む

——素晴らしい取り組みをされていますが、これまでの健康経営を振り返ってみてどうですか?

鍋嶋代表:最初の頃は、社員からの反発も多かったですね。「なぜ、手間ひまかけてこんなことをやる必要があるの?」「社長はなぜ健康、健康と口うるさく言うんだろう?」と苦々しく思っていた人も少なくなかったでしょう。私のようなタイプより、「仕事が終わったら、酒でも飲んでぱあっと楽しめ」とか、「一本、吸うか?」と煙草をくれたりするような社長のほうが社員からは好かれるかもしれない。

でも、これから年金の支給時期が伸びたり、社会保障費が抑制されたりするとも言われる中、いざ重い病気になってから煙草を止めたり、食事に気をつけても遅いんですね。

特に私たちのような中小企業は、経営者と社員との距離が近いですし、社員が病気になったり、定年後に辛い生活を送ったりしている姿を見たくないんです。だから、少しくらい嫌がられても、健康については口酸っぱく言い続けたい。社員が健康経営の本当の効果、恩恵を実感するのは10年後、20年後かもしれませんが、それでもいいと思っています。

大山さん:確かに、最初の頃は、歯磨きセットを渡していても、「それより給料上げてくれよ」と言う人もいましたね(笑)。2019年4月から煙草を吸わない人と健康診断を受診した人に手当を支給することになったのですが、今でも喫煙者から反発が出たりもしていますし、伝え方もさらに工夫していかないといけませんね。

——課題や苦労も多いけれど、それ以上に得るものが多いということでしょうか?

鍋嶋代表:まさにその通り。健康経営やESに力を入れたこの10年間、大変なこともありました。何か新しいことを始めると、その都度いろいろな課題が出てきますが、それを解決しようとすることで新しいものも必ず生まれてきますし、とても意義のあることでした。

特に、日本の会社の約99%は中小企業。私たちのような中小企業の運輸業でも、ここまでできるということを証明したいし、「あそこができるならウチでもできる」とか「あっ、こういうやり方があるのか」と他の企業のみなさんの参考になれば嬉しいですね。

——とても参考になるはずです。特に御社の場合、収益性の高いビジネスへ転換を遂げることと、健康経営が見事にリンクしていますから。

鍋嶋代表:そうなんです。「健康経営なんか儲からない」「中小企業だからやる余裕がない」と思っている人もいますが、中小企業だからこそ、健康経営をやるべきなんです。健康経営をすることで、様々なメリットが生まれてきますが、それを実感できるのは健康経営を実際にやっている人だけ。やったことのない人たちには、なかなか伝わりにくいですね。

——それにしても、社員の健康は自己責任と捉え、病気になったら別の人を探せばいいとクールに考える企業もありますが、御社は本当に社員を大切にされていますね。

鍋嶋代表:私も20年前に代表になった頃は、売り上げのことばかり言っていたかもしれません。でも、「売り上げを伸ばして」と社員に言ったからといって、伸びるものではない。それより、社員が売り上げを伸ばせるための環境づくりこそが大事。特に一番重要なのが、健康管理、健康づくりなんです。

私の究極の目標であり、夢は、自分が引退したとき、この大橋運輸の仲間たちが、社会の中で元気に大活躍している姿を見ること。そこから逆算して今、何をすべきかを考え、ブレずにやっていきたいと思っています。

インタビュー後記

空前の人手不足、価格競争、安全管理への厳しい要求など、様々な課題に直面している運輸業界。その中にあって大橋運輸は、健康経営を中核に据えることで課題の一つ一つを解決。さらに外国人の直接雇用やLGBTの方の採用など時代の先を行く取り組みにも果敢に挑戦しています。
業態転換、人材獲得、ES(従業員満足)の向上など、どれも簡単できることではありません。様々な困難にぶつかりながらも乗り越えていけるのは、代表の鍋嶋さんの熱く、時に厳しくもある父親的な愛情を、大山さん、原田さんなどES担当者の優しく、母親的な愛情で包み込み、社員に伝えていくというバランスの良さにあるのではないでしょうか。大橋運輸のみなさんは、これからも人と人の強い絆を武器に健康経営さらに推進していってくれることでしょう。

<企業データ>

会社名:大橋運輸株式会社
事業内容:精密機器・自動車部品輸送、引越、生前・遺品整理、学校給食配送など
所在地:愛知県瀬戸市西松山町2-260
従業員数:約100名

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