経済産業省 ダイバーシティ経営企業100選受賞企業 女性が子育てしながら活躍できる経営とは

1.女性の活躍推進を目指して24年前に設立。ようやく時代が追いついてきた

- ラッシュ・インターナショナルとはどのような業務の会社ですか?

倉田満美子さん(以下、倉田さん):一言で言うと、女性の視点を活かした販促支援コンサルティング会社です。インターネット関連のコンテンツ制作が非常に多いのですが、お客さまの求めに対応するだけではなく、お客さまがこうすればもっとよくなるということを私たちが探して提案していくことも業務としています。

具体的にはウェブ制作をはじめ、SNSやメルマガなどを使ってのセールスプロモーション、さらにそうしたものを常に最新の状態に保つ更新作業が、ひとつの大きな柱になっています。

もうひとつは、お客さまの業務を改善するための調査です。顧客満足度調査や従業員満足度調査のほか、ミステリーショッパーといってお客のふりをして飲食店などに行って対応をチェックする、といった業務も行っています。

- 倉田さんがこの事業をスタートさせて何年になるのですか?

倉田さん:24年になります。

- スタッフは何名ぐらいいますか?

倉田さん:社員は常勤のパートも含めて40名ぐらいいます。このほか、スタッフさんと呼んでいるのですが、在宅で入力作業やグラフの制作などの作業をしてくれるメンバーが60名ぐらいますから、総勢は100名ほどになります。

- 社員の男女比はいかがですか?

倉田さん:ほとんどが女性。男性は4人ぐらいです。

- 経営理念と言いますか、倉田さんが考える働く環境作りについて教えてください。

倉田さん:私は大学を卒業してトヨタ自動車という大きな会社に入り、OLをしていました。当時、女性社員は結婚すると会社を辞めるのが通例でしたので、私も結婚して退社しました。でも、トヨタに入ってくる女性は対外的に優秀です。当時からもったいないなという気持ちがありましたね。

自分もトヨタにいたと言うと、すごいねと言われて、このまま働かない手はないなと思っていましたが、結婚している女性が社会で働くのは意外と大変だ、ということがだんだんと分かってきました。まして子供を産むと、もう社会から当てにされないということを実感しました。

ですが、会社にはそういう女性たちと比べて、仕事が出来ない男性がたくさんいますよね。そこで、そういう女性たちを集めて会社を作ろうと思ったのです。別に社長になりたかったわけではなく、ないなら作るしかないという気持ちで起業しました。

- 起業したときにお子さんはいらしたのですか?

倉田さん:ハイ、二人目を産んですぐのときです。私は24歳で結婚して、それからフリーランスでパソコン教室のインストラクターをしていました。そこでも優秀な女性インストラクターが、子供を産むと家庭に引っ込んでしまう。

そういうのがもったいないなと思ったのです。私が起業することで、その力を社会で活かせるようにしたいという思いでした。私が働きたいような会社を作ろう、ダメなら止めればいいと正直思いました。

今考えると、大手企業に属するのが向いていなかったのかもしれません。大手企業は、入社数年の私たちが何かを決められるということはありません。上司にこれおかしくないですかと言っても、キミの意見は聞いていないからと言われるようなこともありました。

- 起業したとき、かつての同僚に声をかけたりしたのですか?

倉田さん:もちろんです。私よりも優秀な人がいることを知っていますので。インストラクター時代に、この会社はこういうやり方か、あの会社はこういうことで困っているのだなと、テキスト通りではなく、会社それぞれで求めることが違うことに気がつきました。そこでその会社に合ったことを提案したほうが喜ばれるのではないか、と思いました。

そういうことをインストラクター友だちと話していて、どうせやるなら私はもっと感謝されたいのよと言うと、同じように考えている人がいました。そこで、私が起業しようかなと言うと、みんなが一緒にやりたいと言ってくれまして、スタート時点から5、6人は自分と同じ考えのメンバーが集まりました。

- 目の付け所が違いますね。今でこそ働き方改革と言われていますけれど。

倉田さん:まさにこんな私でも働ける会社ってどんな会社と考えて、こういうことを言われると仕事が出来ないよね、こういう仕組みがないと働き続けられない、と考えて仕組みを整えていきました。自分が社長ですから、出来ることは実行できますので、もう爽快ですよ。

自分もリアルなインストラクターとして教壇に立っていましたから、一緒に働くスタッフがどういうふうならよくて、どういうふうなら嫌か分かります。

私は現場が好きで、現場を知っているからこそ私に人がついてきてくれると思っています。自分もやれるという自信があるとともに、自分がやれないことを事業にはしていませんので、そこが当社の強みなのかもしれません。

2.健康はすべての基本。健康診断100%受診、インフル対策も積極的に推進

- 健康経営優良企業の認定を取ろうとしたきっかけは何ですか?

倉田さん:社員が取引先の方からこういうのがあるからやってみればと言われたので、なんか社長こんなのがあるけど、というところから始まりました。

健康はすべての基本だと思っています。いくらお金があっても、仕事があっても、不健康だったら幸せとは言えません。自分が考えていることと、認定趣旨がマッチしていたので申請しました。

健康でないと戦力として期待できなくなりますから、みんなで頑張ってやろうねという会社なので、健康でないと会社も辛いし、本人も辛いと思うのです。

- 健康経営以外にも、ホワイト企業大賞とか、極めつけは経済産業省のダイバーシティ経営 企業100選に選ばれるなど、いろいろな外部認定に積極的に参加されていますが、これらの取 得も同じ流れですか?

倉田さん:同じですね。自分から取りに行った賞はなく、自治体などから勧められて申請しました。こんな細かいことを聞かないでほしいと思いつつ申請書類を書いているのですが、賞を取ることで会社として課題に向き合っているエビデンスになります。

当社はこういう会社ですということを社内、社外に周知することになりますから、よいことだと思います。

- 健康経営という部分で取り組まれていることを教えてください。

倉田さん:まずは、健康診断をちゃんとやろうということですね。健康診断100%受診を目指して担当を任命し、受診していない人には何度もプッシュするようにしました。ちなみに、今、喫煙者はゼロです。

といって、私自身が起業した28歳から40代まで、1回も健康診断を受診していませんでした。大きな病気をしたことはなく、会社も休むことはなかったのですが、49歳のときにバレーボールで半月板を損傷して初めて入院しました。松葉杖をついていると、コップで水を飲むことや段差を超えることも一苦労で、健康がいかに大事か痛感しました。

それまでは総務の社員にみんなに健康診断をやらせといてねと言うだけでした。それからは絶対全員受けさせることにして、とても厳しく言っています。

私は夜中の1時2時まで働いてもなんともありません。ただ、社員の中には8時間働いたらもう無理という人もいます。それは本人の体力や基礎的な体の状態なのです。健康診断を実施することで、それが数字で分かりますから健康診断は本当に大事です。

また当社は、家庭の主婦、母である社員がメインで働いていますので、冬場のインフルエンザ対策には特に力を入れています。

具体的には予防接種の費用を会社で3,000円負担し、流行により同時期に複数人が休むことを避けられるよう配慮しました。また強制はできませんが、お子さんがいる社員には、お子さんの接種についてもお願いしています。

インフルエンザは本当に困ります。お母さんの社員は自分がかかって休むのはもちろん、子供がかかっても休まなくてはならず、場合によっては1カ月ぐらい休むことになります。今年は特に深刻で、愛知県にはインフルエンザ警報が出たほどです。

- 幹部の人材まで広まったら大変ですね。

倉田さん:幹部社員は、インフルエンザの予防接種や健康診断だけではなく、経営の危機管理の面からもっと手厚く対応する必要がありますね。一人10~15万円の費用がかかりますが、人間ドックも受けさせなくてはいけないかなと考えています。

3.健康経営、ダイバーシティ経営企業100選、ファミリーフレンドリー企業…。採用、営業で 効果大

- 健康経営の優良企業に認定されて反響はどうですか?

倉田さん:とてもよい反応をもらっています。当社が健康経営宣言をして認定されたことをニュースレターで報告すると、お客さまからもすごいねとの反響がありました。社内でも、会社が社員の健康を考えていることについて、プラスに受け取ってくれていると思います。

- 健康経営優良企業以外、ダイバーシティ経営企業やファミリー・フレンドリー企業、女性 の活躍推進企業などの認定の影響はどうですか?

倉田さん:当社ぐらいの企業規模でそれらをたくさん受けているのは珍しいことらしく、テレビやラジオに出させてもらったり、雑誌に掲載されたりしました。そこで、コンサルタント契約の申し込みが増えるなど、営業面の大きな効果があります。

また、人材採用面での効果も少なくありません。今年も新卒採用を行っているのですが、学生の反応がすごくあります。エントリーしてくる学生が多いため、今年は4~5回会社説明会を実施しました。

ただ、女性活躍推進とかワークライフバランスとか掲げることのマイナス面もあります。働きやすくするためにいろいろな制度を用意するのはよいことですが、それに甘えてはいけないというのが私の考えです。

会社は社員の健康に配慮するけど、それは頑張っている社員の健康に配慮したいのであって、毎日サボっているのでは健康に配慮したくないと思ってしまいますよね。当社に入社を希望する学生は増えたものの、甘えた子を選別する手間も増えたと思います。

- 若いときはいろんな苦労をして、自分の限界を超えることで仕事の楽しさが分かってくる 部分がありますよね。

倉田さん:それを超えてきたからこそ自分たちは今があるのであって、そこで成長し、幸せを感じることができるのです。何も頑張らないで、それを感じることはできません。

- お客さまから対価をいただくという部分が、A社、B社、そして御社、そこに期待されて いるという部分に応える必要がありますよね。

倉田さん:そこを裏切ってはダメなのです。ただ、裏切ってはダメだけど健康を害してもダメだという、そのラインを詰めていくことが経営の難しさです。

4.働く上で甘い環境といい環境は違う。出来る社員は評価で差をつける

- そこを勘違いしてくる人をスクリーニングする方法は何かあるのですか?

倉田さん:そこは経営理念、当社では経営指針書というものを作っていまして、何で当社が選ばれているのかということを毎週朝礼で話しています。甘い環境といい環境は違うということを言い続けていまして、1回言っても分からない、10回言っても分からない、2年ぐらい言い続けると分かってくる。

結局、甘い環境にしてしまうと、お客さまから信頼されなくなるのです。当社の経営方針を理解してくれているお客さまが多いのですけれど、甘えになった瞬間にそれはビジネスですから切られます。

新卒の採用を何年間か積み重ねていくと、最初はまったく分かっていなかった1年目の社員が、2年目、3年目になり、なぜか私の言っていたことを新入社員に話していたりするのです。こいつも一丁前になったなと、内心、泣きそうになるほどです。

同時に評価にも力を入れることで、給与との紐付けをしています。出来る社員には給与をたくさん出す、それをきちっと系統立てて行っています。たまには24時間働きましょうというニュアンスです。ある程度のストレスをかけて、テンションを高くするのは健康のためにもよいと思うのです。

- ビジネスパースンとしての頑張りどきというのもありますよね。

倉田さん:あります。でも、制度を整えて気を遣い、健康経営をしながら活躍推進もできるように考えている企業だからこそ、若干のアクセルも吹かせられるのかな、ということはあると思います。そこは単なるブラック企業とは大きく異なる点です。

- ちなみに新卒の採用を始めて何年ですか? また、採用人数は何人ぐらい?

倉田さん:今年で4年目になります。採用するのは、名古屋本社と東京オフィスを合わせて5名前後ですね。

- 定着率はどうですか?

倉田さん:勘違いしている人で早期に辞めていくことはありましたが、残っている社員は2年目、3年目で輝いてきます。

- 同業者と比べて離職率はどうですか?

倉田さん:平均よりはよいと思います。女性が多い職場なので、夫の転勤で退職というケースはありますけれど、平均よりはよい感じで捉えています。

5.頑張れるステージに応じて回りがサポート。裁量労働制で給与ダウンなし

- ほとんどの社員が女性なので、結婚、出産、育児などその人自身でも頑張れるステージと そうでないステージの濃淡がありますよね。これに関して寄り添えるような制度はありますか ?

倉田さん:それはあります。14、5年前にこうやっているだけではダメだと気づきました。私が28歳で起業して同じぐらいの年齢の女性たちと始めましたが、だんだんみんな歳をとります。ふと気がつくと、若い社員がいなくなっていました。

そこで、20代、30代、40代のすべての年齢層で社員をラインナップしようと考えて、10数年かけてやっと今日に至りました。ここの年代が足りないからその年代をターゲットに採用して、今は各年代がバランスよく在籍しています。

30代が子育ての一番大きいゾーンで、仕事についてはブレーキを踏まなくてはいけない。そうして子供を産んで復職するけど時短になります。そのときの30代は、下の世代と上の世代で支えています。

それは新卒採用の資料にも書いています。当社はママさん社員が多いのだから支えてください。その代わり、あなたが子供を産んだときには、あなたが支えたママさん社員が少しずつ子供に手がかからなくなっているので、今度はサポートする側に回ります。

新卒も採り続けていますから支えてくれる下の層もいます。それをつなげていくことを経営指針に盛り込んでいるのです。

- 素晴らしい。

倉田さん:その体制を作るのに少なくとも12、13年はかかっていますね。やろうと思っても人がいません。入れた社員が挫折して辞めたこともありますし、せっかくここまできたのに夫が転勤。というのを繰り返して、やっと今、きれいに回るようになりました。

- ちなみにそうやって家庭メインで時短ですといった場合の給与は?

倉田さん:出しますよ。たとえば、子供を迎えに行くから4時で帰るというと、会社では6時間労働になるので給与も25%カットになるのですが、残りの2時間を子供が寝てから夜の9時から11時まで在宅で仕事をしてくれれば、給料を下げなくていいという考え方です。

- どんな制度になっているのですか?

倉田さん:当社では営業職とディレクター職を対象に、在宅勤務や裁量労働制を導入していまして、希望すればそれを選んでいいことにしています。

たとえば、土曜日のほうが誰もいなくて仕事が進むから、土曜に出勤して平日のこの日は休むといったことが可能です。人に迷惑をかけないことが前提ですけれど、仕事の進め方は自分の裁量である程度好きにしていいことにしています。

もちろん、入社してすぐの社員には適用することはできません。ある程度経験を積んでからになりますが、子供がまだ小さくて能力が高い社員ならそれが一番だと思います。

お客さまと接する必要がある部分だけを午前中や午後の2時ぐらいまでに終わらせて、お客さまにご免なさい4時から会社にいませんからと言っていいよと、私も伝えています。お客さんへの説明は私がしますから、その代わり満足な成果を上げてくださいね、というようにしているわけです。

- とても素晴らしいですね。最後に、健康経営優良法人に認定された企業としてこれからど のようなことに力を入れたいか教えてください。

倉田さん:社内だけでなく、特に中小企業経営者の仲間たちにも、広めていけたらと思っています。大企業と違って、社員に健康診断を受けさせていない、勤務時間や休暇の管理も杜撰になりがちなのが中小零細企業です。

経営者が意識を高めるだけでも、社員にとってプラスが多い認定制度なので、知ってもらう、行動してもらえるよう、伝えていけたらと思います。

【インタビュー後記】

ラッシュ・インターナショナルは、女性の社会進出のフロントランナーとして、早くから注目されてきました。創業24年間の事業運営の中で、社長であり、母親でもある倉田さんの思いや志が、事業戦略にしっかりと反映されていて、同業他社と差別化が図れていました。

事業戦略への反映とは、結婚や育児で一度リタイアした優秀な女性の利活用です。優秀な人材による同社のサービスは、パッケージでマニュアル化された内容というよりは、クライアントニーズをより反映したオーダーメイドなものです。

また、裁量労働制や在宅勤務は倉田さんや彼女たちが育児を抱えながらも、どのような働き方なら仕事を継続することができるかという試行錯誤の結晶で、倉田さんの望むような人材が集まる好循環が確立されています。

このように事業戦略と健康経営が表裏一体となっている事例と言えると思います。中小企業に限らず、すべての企業に学ぶべきことが多々あると言えるでしょう。

<企業データ>

会社名:株式会社ラッシュ・インターナショナル
設立:2002年11月1日(創業 1996年)
事業内容:女性視点の販促支援コンサルティング(Webサイトの運用、顧客満足度&社員満足
度調査、総務・経理事務代行、コールセンター&事務局代行、商品開発・マーケティング等)
所在地:本社 〒460-0002 名古屋市中区丸の内3-6-27 EBSビル2F
資本金:1,000万円
社員数:37名(男性4名、女性33名) スタッフ数:60名

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