データヘルス見本市 主催者セミナー:歯を大切にしていますか?健康増進と歯の関係

1.歯についての意識の高まり

健康な歯に対する意識は年々高まっている状況です。私自身が若い頃に地方で行った歯についてのセミナーは、雪国で人口が少ないということもありますが集まったのは親子一組、たった2名でした。

それが、2年半前に同じ場所でセミナーを行ったところ、12名集まりました。健康で丈夫な歯への関心や口腔ケアについてはインターネットなどで情報を豊富に得られることができる今、身近に感じられるようになった方が増えているということを感じます。

やはり、健康というのは失ってから初めてその大切さに気付くもので、歯に関するケアの必要性も同様なのではないでしょうか。高齢社会を迎え、65歳から75歳までの人口が横ばいとなっています。

さらに、75歳以上の人口が今後増えていくという状況で、いつまでも元気でいられるような健康づくりは非常に重要な意味をなすことは言うまでもありません。

これまでの日本の人口推移を見てみると、1800年代後半の明治時代が始まった頃より急速に上昇、その後は4倍近くまで上昇しましたが、2000年のピーク以降は急速に減少していく見込みです。

高齢化と人口の急速な減少で、社会保障費の増加も問題になっています。今後はどのように健康づくりを行うか、また、できるだけ健康寿命を延ばして、医療にかかっても出きるだけ軽度ですむように、働きかけていくことが大切です。

2040年を見据えたうえで、健康で誰もが元気に活躍できる社会の実現のために必要なことは大きく分けて3つあります。

①雇用・年金制度改革など
②健康寿命延伸プラン
③医療・福祉サービス改革プラン

これら3つを基本とし、現役世代の減少をカバーするため、様々な対策を行っていくと宮原氏は説明しました。

2.歯科保健を取り巻く状況

現在、子どもの虫歯の数は年々減少しており、高齢者においても60歳以上で20本以上の歯を残す8020(ハチマル・ニイマル)の達成数は増加しています。また、1年間に歯科検診を受けた人の割合、高齢者の歯科受診率は増えています。その一方で、成人で歯周病にかかる人の割合は増加傾向にあります。

子どもの虫歯が減っていることについて、その原因として考えられるのは、フッ素入りの歯磨き粉が家庭に浸透し、使用する機会が増えていることや、健康に対する意識、特に歯に対するケア方法が親世代にとって一般的になっていることが挙げられます。

また、虫歯になりやすい習慣、例えば昔はお菓子やアメをよく与えることが多かったかもしれませんが、現在は虫歯予防を考えて気軽に与える機会が減っていることも防止につながっています。

虫歯がある12歳の子どもの割合は、以前に95%だったものが現在は40%に減少、3歳の子どもにおいては50%が20%以下になりました。また、3歳以下の子どもが持つ虫歯数の平均は、2.7本だったものが0.5本と1本を下回っており、ほとんど虫歯がないという非常に良い状況となっています。

さらに、12歳の子どもが持つ虫歯の数でみても0.84本となっており、こちらも1本を下回っています。3歳と比べるとやや数値にアップが見られるものの、子どもの虫歯数は飛躍的に減少しているという状態です。

ただし、成人については、歯肉に所見がある人の割合は減少しているのですが、歯周炎については7割以上が罹患しています。歯周病は20歳代から急激に増え始め、40〜50歳代になるとさらに増えます。歯が病気になることで全身の健康にも影響を及ぼすことが考えられるため、歯肉炎を治すことでメリットがあると予想されます。

また、1年以内に歯科検診を受けた成人の割合は、50%を超えました。しかし、市町村によって、受けている人の割合にバラツキがあり、歯科検診受診率の低い地域の歯科医師や歯科衛生士の確保が急務となっています。

歯科検診を特定健診と合わせて行うという方法もありますが、口腔検査は時間がかかりますので、時間的な負担が発生します。また、口の中を見せたがらない人も多く、口腔内の検査ができないと歯周病の発見が遅くなってしまいます。

対策方法としては、口腔内の検査に変わるスクリーニング検査を検討しています。

生活状況、口の状況などを質問したり、唾液検査のみで結果が分かるような検査を取り入れる方法もありますが、精度がどの程度あって、市町村がどの程度取り組んでくれるかに委ねられている部分がまだまだ多くあります。

しかし、スクリーニング検査が導入されれば、歯周病の予防や早期発見に役立つと考えています。

8020(ハチマル・ニイマル)については、平成元年から取り組んでいます。80歳になっても自分の歯が20本以上ある人の割合は、開始当初7%だったものが平成28年には50%を超えました。今後は、8029(ハチマル・ニク)と名前をかえて、80歳になっても肉を食べられる人を増やせるようにすすめていきたいと考えています。

さきほど、12歳の虫歯の罹患率が平均で40%に減っているとお伝えしましたが、実は都道府県別に見ると非常に大きな開きが見られます。例えば、新潟県では20%であることに対して、沖縄県では70%となっており、地域に応じた対策方法が必要であることをあらわしています。

3.歯と健康の関係

口腔と全身の健康には関連性があると考えられます。要介護者のなかで口腔ケアを受けている人は2年以内に発症する誤嚥性(ごえんせい)肺炎の発症率が、そうでない人に比べて低いというデータがあります。

入院患者に対しては口腔管理を行うことで、消化器外科と心臓血管外科で10%ほど入院日数が少なくなったという調査結果もあります。このことから、口腔ケアを行うことで、多額にかかってしまう医療費をおさえることにつながる可能性があります。

歯周病は慢性炎症として血糖コントロールに悪影響を及ぼすことが示されています。そのため、歯周病の重症度が高いほど血糖コントロールが難しくなります。重症の歯周病を放置することで糖尿病が発症しやすくなるのです。

循環器病においても影響があるのではないかと考えられています。台湾で行われた51万名規模のコホート研究で、歯周病である人は虚血性心疾患の発症が多いという結果から、歯周病に罹患することで虚血性心疾患にかかる率が高くなることが分かっています。しかし、アメリカの研究では、歯周病と虚血性心疾患との発症関連については関連性が認められなかったという研究結果があり、今後の詳細な調査や研究に基づいて考える必要性があります。

さらに、歯周病は脳梗塞に関しても発症についての独立したリスク要因となりやすくなるとされており、定期的に歯科検診を受ける人は脳梗塞の発症を予防できる可能性が示唆されています。

これらのことから、糖尿病、心疾患、脳疾患などの予防として歯科検診を受けて口腔ケアを行うことは、健康を保つうえで非常に有意義であると言えます。

食べ物をかんで食べることができる能力のことを咀嚼能力と呼んでいますが、それには健康な歯が必要不可欠です。70歳以上の高齢者において、咀嚼能力が低い人に低栄養(BMI 20以下)傾向の割合が高いということが分かっています。この調査では「何でもかんで食べることができる」かどうかが基準となっています。

また、別の調査では歯の本数が20本以上ある人では80%以上が、何でもかんで食べることができると回答していますが、歯の本数20本未満では50%に減ってしまいます。このことから、健康な歯を保つことが栄養状態の良し悪しを左右すると言えるのではないでしょうか。

4.スポーツは歯が命

スポーツ選手などのアスリートでは、歯はより良いパォーマンス発揮に欠かせません。栄養を取り入れるためには、消化を助けるためにもよくかんで食べることが大切で、噛み合わせについてもスポーツにおいて重要なことが分かっています。

一流のアスリートでは、一般の人よりも虫歯が少ないというデータがあります。そして、嚙みしめる力はパワーを発揮するために欠かせないと考えられています。かむ力の例をお伝えすると、一般人は90kgfであることに対して、ライフル狙撃選手では250kgfと衝撃のあるスポーツのため意外に大きな数値となっています。その他、テニス150kgf、ゴルフ250kgf、 レスリング130kgf、 重量挙げ180kgfと一般の人の2倍程度は必要であると言えます。

かむことで大きなパワーを生み出すことができるということ、即ち、歯とスポーツの関係は非常に密接であることが分かります。

5.歯を守ることで全身を健康に

先ほど説明したように、口腔ケアを行うことで入院日数が10%減少することが分かっています。歯を健康に保つためのケアすることで、全身の健康にもつながるということを基本にして、どのように歯を守っていくべきかについてお話しします。

やはり、まずは生涯を通じた歯科検診を行うためのシステムを構築することが基本となると思います。現状では、乳幼児、児童については歯科検診が義務となっており、1歳6ヶ月、3歳で受ける必要があるほか、幼稚園や小学校、中学校などでも受ける義務があります。

一方、成人に関しては努力義務とされており法的義務はありません。歯周病に関しては20代以降から増加していくことが分かっていますので、今後はデータをとって検診の必要性を検討していこうと考えています。

平成30年以降、歯科健康診査推進事業を立ち上げていますが、検診においては市町村ごとにフォーマットがバラバラで、乳幼児と児童などの検診結果に連携がない状態となっています。全国で統一されていない件に関しては、全国で標準の形式を決めて、すすめたいところなのですが、その前に検証が必要なことも多くあります。例えば、今後期待できる唾液による検査が、どこまで有用かについて明らかにしていくなど、まだ取りかかっていない部分も多くあります。

来年度以降に予算が確保できれば今後行っていく検診のスタイルについて、小さな事業省や、市区町村などすべての場所で実施可能なのか、新しい検査は有用なのかについて検証を行っていきたいと考えています。

今回のようなヘルスケアの見本市では、私自身もどのような事業や検診内容があるのかについて、広く知ることができるので楽しみに来ました。

歯についての取組は平成23年からスタートし、平成34年に向けて様々な目標値を立てて良い数値も出せていますが、残念ながら下がっているものも見られます。それは、歯周病についての目標です。

40歳では、歯周病にかかっている人の割合を25%におさえることを目標としています。しかし、元は37%だったものが、現在44%と上昇しています。また、60歳でも同様で、54.7%だったものが、62%に上昇、目標値は45となっています。目標値を達成するために、効率的かつ有効な検診方法の開発、そしてそれを全国に展開していく必要があります。

現在の我が国の歯科治療では、虫歯になったら削って詰めてかぶせて、また虫歯になったら同じことを繰り返し、神経まで到達したら抜いて、さらに悪化すればブリッジや入れ歯になるという流れになってしまっています。

今後は、口腔機能の管理が重要になってきます。今後の診療報酬にも変化があると思います。しかし、現在のガイドラインでは、正しい歯磨き方法、正しい情報、定期的な歯科検診、早期受診、さらに口腔機能の低下ということで、口腔機能についても触れられてはいますが、まだ一般的ではないというのが現状です。

客観性のあるもの、数値化されているもの、分かりやすいもの、例えば口腔機能に関するアプリなどがあれば、ありがたいと思っていますので、もし今回お聴きいただいてなかで、やってみたいという業者さんがいらっしゃれば、お願いできればと思います。

また、来年度からは予算をかけて、口腔機能についての普及啓発活動を行い、広く一般に知っていただくようにしたいと思っています。

2025年には、ライフステージに応じた歯科、医科、介護、地域、などで様々な方向性で情報を共有して取り組んでいく時代になります。今はまだ歯科でしか理解できないデータが多くなっていますが、共通言語を開発し、より分かりやすく異業種間で共通認識を持てるようにしていきたいと思っています。

今回は、歯の取組についての現状をお話させていただきました。皆様の今後の活動にお役に立てましたら幸いです。本日はありがとうございました。

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