データヘルス見本市 主催者セミナー:どうすれば成果が上がる?特定健康保険指導のモデル実施について
目次
1. モデル実施の現状
廣瀬 佳恵さん(以下、廣瀬さん):
まずは、厚生労働省が取り組んでいる特定健診、特定健康保健指導の現状について概要を説明させていただきます。
身体計測、血液や尿検査を含めた特定健診の結果に基づいて、糖尿病などのリスクに応じて対象者を選定し、生活習慣改善についての理解や実践を深めるための特定保健指導が行われています。
2016年度の特定健診実施率は51.4%(目標70%以上)、さらに特定保健指導の修了者は18.8%(目標45%以上)と、実施目標の達成には遠い状況です。2018年度からは、積極的支援にあたり実施量の評価に代えて、保健指導による腹囲や体重の改善状況を評価可能とするモデル実施が取り入れられています。
津下 一代さん(以下、津下さん):
ここからは、モデル実施でどう変わるか、ねらい、成果を上げるための対策についての説明を行わせていただきます。一番大切なことは保健指導を行ったかどうかという結果だけを見るのではなく、一緒に考え行動すること、さらに保健指導を行ったことによる変化を分析して、データを見ながら進めていくことです。
初回面接で動機付けをしっかりと行い、習慣として本人に意識を持ってもらうこと。さらに数回以上のサポートを行うことで実施率の向上が見込めます。さらに、保健指導の広がりで、指導を受けた人の医療費が削減されているというデータも出ています。評価基準のポイント消化のために電話で指導を行う、ということよりも具体的な目標設定が大事です。
例えば、3ヶ月で2キロ体重を減らすことができた人は、6ヶ月後の3%減量目標達成率が81%、反対に3ヶ月でマイナス2キロを達成できなかった人は6ヶ月後の3%減量達成率は19.7%となっており、達成率に非常に大きな差があります。
指導ということですが、動機付け支援をしっかりと行うことが大切で、あとは環境を整えることが重要です。まずは3ヶ月でマイナス2キロ、あるいはマイナス2センチを目標にして生活習慣を個人で見直していくこと、モデル実施の目標は真剣に取り組む人を増やすことにあります。
2. 保険者からの取組報告〜グラクソ・スミスクライン健康保険組合〜
住田 規行さん(以下、グラクソ住田さん):
ここからはグラクソ・スミスクライン健康保険組合での取組についてご説明いたします。私どもの会社は化学、外資製薬会社とで、被保険者は3200名、事業所は全国に4ヶ所あります。
職種としては、MRと呼ばれている営業職が全体の6割を占めています。このMRは営業という職業の特性上、非常に不規則で血糖のリスクありと判定される人が社内の多職種より多いことが目立っています。
平成20年度から特定保健指導を行っておりましたが、メタボ率に大きな変化は見られませんでした。そこで、平成24年度から「特定保健指導をやめる」という大きな改革を行いました。
特定保健指導完了率は65.8%(平成24年度)をピークに、14.3%(平成28年度)と大幅に下がった一方、メタボ率は以前の26.9%(平成21年度)から年々減り、22.1%(平成28年度)に到達しました。
平成30年度はプログラム名を「GSKカラダリセットプログラム」とし、取り組んでいます。具体的に何を行ったかと申しますと、特定保健指導をやめた代わりに、web面談に切り替え、20分の指導を3回行い、栄養士からの指導もwebで行うようにしました。
また、営業職という不規則な仕事上、途中で離脱してしまうことを防ぐために自分で取り組める人は申請書を出してもらい、強制しないように工夫しました。また、会社独自の方法として、服薬により特定保健指導に該当しないメタボ、また30代前半からのかけだしメタボに着目し、それらに該当する人にもICTと呼ばれるスマホをはじめとする通信機器を使用した指導を中心に行うようにしました。
モデル実施の概要としては、40歳以上の特定保健指導対象者にKENPOSという問診システムを使用したチェック、web面談としてトレーナーによる運動支援を20分、そして振り返りという3ステップで行うようにしました。
運動指導士によるskypeでの面談、自分で習慣づけられるよう自主トレの動画プログラム受講をメールで送信するなどのフォローも行い、自分自身で目標を定めて実行するという動機付けの支援を行っています。この取組により、食事以外の一番の課題である運動についての対策を強化し、続けることで成果が出るかどうか、分析中です。
津下さん:
現状や原因をふまえ、目的をしっかりと定めて取り組んでいる例のご紹介でした。10年でどう変化したかを見極め、それに応じた対応が非常に良いと思います。今後の成果に期待したいです。
3.保険者からの取組報告〜FUJI健康保険組合〜
宮下 知子さん(以下、FUJI宮下さん):
ここからは、FUJI健康保険組合のモデル実施の状況、課題についてご報告させていただきます。
株式会社FUJIは、愛知県を拠点とした電子部品、工作機製造や開発などを行っている会社で国内拠点は合計6ヶ所、さらにグループ会社が国内に3ヶ所、海外に7ヶ所あります。従業員数は約1600名でグループ会社を含めると2200名を超えます。被保険者は約2000名ですが、男性が86%を占めている状況です。
現在は、4月から7月を健診実施期間、保健指導実施は7月から10月(4・5月健診受診者)、9月から12月(6・7月健診受診者)という3つの段階に分けて取り組んでいます。
A:週平均8000歩以上の歩行を継続
B:トレーニングジムに通い運動を継続
C:みんなでちょこやせハッピーキャンペーンに参加
D:1日健康づくり教室(あいち健康プラザ)に参加
これらA〜Dの4つを中心に実施しています。特に、Bは専門家の意見を取り入れ、Cはスマホを利用しコラムやクイズなどを行い、景品が当たるキャンペーンを実施し誰でも参加できるようにしています。Dは1日という時間をかけて学ぶことで成果につながるのではないか、と考えています。
Cのキャンペーンについてはやりがいがあるという声がある一方、モデル実施の趣旨を理解してもらえているか、現在実施中のため3ヶ月後に本当に効果がでるかという課題があります。また、自己管理という意味での継続支援を受けてもらえるかという疑問も生じています。
4.特定保健指導で成果を上げるためには
モデル実施についての概要や実際の取組例などをふまえまして、ここからは私が司会を行いながら、特定保健指導において成果を上げていくためにどうすれば良いかについての対談を行わせていただきます。
棟重 卓三さん(以下、棟重さん):
第2期特定保健指導における課題として1つ目に挙げられるのは職域問題があります。2つ目には健診日当日の保険指導は特定保健指導として認定されないという問題、3つ目にはポイントにとらわれない保険指導、さらに4つ目には柔軟な対応(モデル実施)を行うことができるかという課題があります。
このなかでも、4つ目のモデル実施は個々の健康保険組合に委ねられているという状況です。ひとまずやってみるという健康保険組合を増やすため、モデル実施をもっと行ってもらうためには何が必要でしょうか?
廣瀬さん:
今はそれぞれの健康保険組合が「様子見」をしているという雰囲気があるのが現状です。何から始めたら良いか分からないということもあると思うので、始めるためのきっかけがあれば、もっと広まるのではと考えています。
津下さん:
そうですよね、経産省からの働きかけと共に、企業内でコラボヘルスという言葉が少しずつ広がっているように企業と健康保険組合との連携も必要であると考えます。
グラクソ住田さん:
就業時間内に何ができるかが鍵となると思います。営業職の特性をもっと把握してICT、webを活用していくためにもセキュリティ問題を会社と共に協力してクリアにし、進めていく必要があると考えています。
FUJI宮下さん:
コラボヘルスをもっと浸透させるためにも、今から課題をしっかりと把握して共有し、取組内容を決めていく必要があると思います。さらに、モデル実施へも盛り込むことができれば良いと感じます。
津下さん:
保険者に対しては、時間の経過と共に広がっていくのか、ポイント制度で良いのか、どうすればモデル実施が増えていくのでしょうか。健康保険組合連合会としてはどのようにお考えでしょうか。
棟重さん:
今回開催されているような見本市を見ると非常に充実していると感じます。様子見という保険組合が多いということですが、このような機会を利用することで知る機会となり、一歩踏み出すことにもつながると思います。また、動き出すことで課題も出てきますし、モデル実施もそれに伴って徐々に広がるのではないかと思います。
津下さん:
保険者のモチベーションアップ、また対象者本人のやる気を高めるためには何が大切でしょうか。
グラクソ住田さん:
ただ単に義務だからやりましょう、というのではうまくいかないのではと思っています。その面では、3ヶ月後にマイナス2センチ、マイナス2キロを目標にするというのは非常に有用な方法ではないかと感じます。目標までが6ヶ月では長く感じますし、まずは3ヶ月の間にたった2センチ、2キロで良いというのは分かりやすく実行しやすいと思います。
津下:
そうですよね、たしかに6ヶ月で3%減量と言われても難しいですし、理解しにくい面もあります。食事についてのサポートを継続するための支援や工夫についてはいかがでしょうか。
FUJI宮下:
食事についての指導は3ヶ月間だと次回の指導までに時間が空いてしまうので、それまでに資料を配布するなどのモチベーションアップの対策が必要ではないかと思います。
津下さん:
たしかに、健診から指導を行う実施期間の目安を6ヶ月と考えると、次の健診までにも時間がありますし、指導した当日は良くてもそこから3ヶ月空いてしまうというのでは野放しという状況になってしまいます。モデル実施の効果を高めるためにも、終了後にフォローやリマインドは必要となりますね。
廣瀬さん:
現状のモデル実施では、数値をとるための期間に開きが出てしまいます。長期的にデータをとって、その中でどの部分に対しては短期的にデータをとるべきか、さらに保険者にどうアプローチすれば参加してもらえるか、道標となるものを今年のモデル実施をふまえて来年度以降に反映させていきたいと思います。
津下さん:
それでは、最後にモデル実施について今後の取組や抱負などについてのメッセージをいただけますでしょうか。
グラクソ住田さん:
モデル実施を迷っておられる保険組合があれば、ひとまず飛びつくというのは良いことだと思います。後悔することよりも頑張ろうと思えることの方が多いのではないでしょうか。私たちの今後の目標としては、3ヶ月でマイナス2センチ2キロについて、成果が出るかエビデンスを追求していければと考えています。
FUJI宮下さん:
私たちの組合ではモデル実施について何をすると良いのか、まだ手探りの状態です。頭でしっかりと考えて既存の事業とうまく連携することができれば、課題ももっと見えてくるのではと思います。そして、そのなかで良いサイクルを見出すことができればと考えています。同時に、他の組合さんの成果を見て、良いところを取り入れたいと思いますので、もっとモデル実施が浸透すれば良いと感じます。
棟重さん:
おっしゃるとおり、加入者の健康を守るためにモデル実施には積極的に参加して、うまく利用していただきたいと思っています。
廣瀬さん:
評価や数値、結果だけにとらわれがちで、うまくいかないのではないかとモデル実施に参加することをためらってしまうのは、もったいないと思います。試行錯誤を繰り返すなかで、達成に結びつくこともありますし、その取組自体が大きな財産となると思います。モデル実施についてネガティブな気持ちを持つのではなく、創意工夫をして取り組んでいただけると非常にありがたいです。
津下さん:
みなさま、ありがとうございました。今後、モデル実施が保健事業のさらなる広がりのきっかけとなることを願いたいと思います。