データヘルス見本市主催者セミナー:高齢化による介護と保健事業一体化を進めるにあたって

データヘルス見本市主催者セミナー:高齢化による介護と保健事業一体化を進めるにあたって

2018年10月に大阪で開催された「データヘルス・予防サービス見本市2018」では、健康経営や健康スコアリング、特定保健指導などについてのセミナーが開催されました。高齢化により医療のあり方は大きな問題となっています。介護と保健事業に関するセミナーでは、保健福祉など様々な分野を経て現職の厚生労働省保健局高齢者医療課課長・込山愛郎氏が登壇しました。


1. これまでの医療保健制度と一体改革後の展望

近年、後期高齢者の医療のあり方は常に議論されています。2009年に厚生労働省は給付と負担のバランスが崩れることで、高齢者が困窮することがないよう後期高齢者医療制度を導入、保険料を軽減し、年金や介護保険の給付が減少する中でも健やかに暮らせるよう、社会保障と税の一体化を進めてきました。

今後、2040年にかけては2つのテーマを中心に進めるようになります。

1つ目は生産年齢人口の低下、2つ目は健康寿命の延伸です。高齢者が増えていく中、できるだけ多くの労働者が生涯現役で、これまで以上に長く活動を維持し続けていかないことには、今の社会構造をキープすることはできないという試算があることは既に皆様実感されていることと思います。

また、ニュースなどでも報道されているように、これからの日本は、外国人による労働者数の向上と合わせて、高齢者が元気で長く働ける環境を整えていくことが必要不可欠となります。

具体的な政策課題としては、労働力や労働者数の制約が強まるなかでの、医療や介護サービスのテクノロジーを活用した環境の確保にある、と込山氏は説明しました。

2. 健康寿命延伸に向けた取り組みとは

全国民の健康格差の解消により、2040年までに健康寿命を3年以上延伸することと平均寿命との差の縮小を目指しています。

さらに、2種類のアプローチ方法として、健康無関心層も含めた予防・健康づくりの推進、さらに地域間格差の解消がある、と込山氏。例えば、健康寿命の最も高い県は山梨県となっていますが、その水準に全都道府県が到達すれば、男性+1.07年、女性+1.43年の延伸が見込むことができます。

さらに年代別では大きな3本柱として、

□健やか親子施策(子ども期)
□がん対策・生活習慣病対策(壮年期)
□介護・フレイル対策(後期)に分けて考えています。

それらを実践するうえでの基盤整備としては、見える化、データヘルス、環境開発、社会全体の取り組み、これら4つを想定しています。

また、高齢者の健康状態の特性等についてですが、大きく分けて

「健康」
「フレイル(虚弱)」
「身体機能障害」の3つに分かれます。

フレイルとは、『フレイル診療ガイド2018年版』(日本老年医学会/国立長寿医療研究センター)によると、「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」を表すfrailtyの日本語訳として日本老年医学会が提唱した用語となっています。

フレイルは「要介護状態に至る前段階として位置づけられますが、身体的脆弱性のみならず精神心理的脆弱性や社会的脆弱性などの多面的な問題を抱えやすく、自立を妨げる障害や死亡を含む健康障害を招きやすいハイリスク状態を意味する」と定義されています。

また、フレイルの前段階にあたる「プレフレイル」のような早期の段階からの介入・支援を実施することも重要であると考えています。また、高血圧・心疾患・糖尿病・呼吸器疾患や悪性腫瘍など生活習慣や加齢に伴う疾患と、認知機能障害・視力障害・難聴・めまいやうつなどの老年症候群とは、それぞれ相互に影響があるのではないかと継続的に検証されていますが、現状ではまだはっきりと解明されていません。

2018年の6月には、介護と保険制度がバラバラの状態では非効率であるとして、「経済財政運営と改革の基本方針2018」が閣議決定されました。

これは、高齢者の通いの場を中心とした介護予防・フレイル対策や生活習慣病等の疾病予防・重症化予防、就業社会参加支援を都道府県などと連携しつつ、市町村が一体的に実施する仕組みを検討、健康寿命の地域格差の解消を目指すことを課題としています。

具体的な取り組みとして、まずは予防・健康づくりの推進が挙げられます。高齢者の有病率は高く、その早期発見と対応、重症化予防への対策が必要であること、生活機能の低下により活動の場が少なくなること(フレイル)が大切な柱となります。さらに、現状では介護予防と生活習慣病対策・フレイル対策は実施自体が別となっていることから、それぞれの連携が課題となっています。

これは、今の制度上では生活習慣病対策・フレイル対策と介護予防(介護保険)が別々に展開していることと、医療保険の事業は75歳を境に、保険者・事業内容が異なってしまうことが原因となっています。

高齢者に対する保健事業と地域連携についてまとめると、

①国保など、壮年期の医療保険から連続した取り組み
②介護予防と連携した取り組み、の2つがあります。

まず、医療保険からの取り組みとしては、生活習慣病などの重症化予防・服薬に関する相談と指導などが挙げられます。一方、介護予防からの取り組みとしては、栄養に関する相談や指導・口腔に関する相談や指導があります。

各自治体では、レセプトや健診データ分析(医学的見地)と実施条件や予算(実施可能性)の2方向からアプローチを行い、1年目は対象者の選定基準の決定から事業実施、さらに評価を行ったうえで、1年目と同様の手順で2年目につなげていきます。検討の進め方としては、高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施に関して、制度や実務的な論点について整理するため、有識者会議を設けて検討しています。

現状の課題をまとめると、
高齢者の低栄養防止・重症化予防等の推進については国庫補助金により助成されていますが、フレイル対策を実施している地域は限られているということが挙げられます。また、生活習慣病対策・フレイル対策(医療保険)と、介護予防(介護保険)が制度ごとにそれぞれで実施されていることに加えて、後期高齢者医療制度に移行する75歳を境に保険者・事業内容が異なることが課題となっています。

また、後期高齢者医療制度における保健事業の現状については、全体の87%が健康診査となっており、フレイル対策については全く行われていないという状況です。原因として考えられるのは、保健事業の人員確保が進まず、保健指導もあまり行われていないことにあると考えられる、と込山氏は説明しました。

3. フレイル対策について

2015年5月に日本老年医学会から、フレイルが提唱されました。これまでにも説明の中でお伝えしておりますが、フレイルとは加齢に伴い心身の活力(筋力や認知機能など)が衰えることで、生活機能障害がみられ、活動範囲が小さくなり家に閉じこもりがちになる状態、要介護状態や脂肪などの危険性が高くなった状態を指しています。

これまでにも何度も議論を重ね、2019年度からはガイドラインが作成され、全国的な展開をスタートしています。

その中で指標となるのは、共通指導としての重症化予防の取り組み、固有指導としては高齢者の特性(フレイル)などを踏まえた保健事業が挙げられます。

また、高齢者の低栄養予防防止・重症化予防の推進としては保健指導の実施が中心となります。具体的には、保健センターや診療所、病院などの専門職のスタッフが訪問指導を行い、保険者が専門職のスタッフに相談をする方法をとっています。

閉じこもり、孤独になりがちという、社会的・身体的・精神的なフレイルの多面性があるという側面からアプローチすることが最重要課題となっています。

フレイルの時期から、本格的な介護が必要な状態に移行してしまう前に、適切な介入・支援により、生活機能の維持向上を目指すことが介護・医療費の軽減にもつながる、と込山氏は説明しました。

4. 高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン

このガイドラインは、健康課題を抱える高齢者について、これまでに示されていなかった具体的な取り組みに関する指針として高齢者の特性を踏まえた保健事業の考え方や具体的な内容を提示することを目的としています。

大きく分けて
①広域連合が実施することが望ましい保健事業の内容や手順について、科学的知見を踏まえて提示、
②広域連合と市町村が協働して、高齢者の健康づくりや介護予防などの事業と連携し実施する場合の役割分担や留意点を提示、の2点が基盤となります。

具体的には、後期高齢者の特性に応じた保健事業、役割分担と連携、取り組みの内容の3つに分けて考えています。

その中でも役割分担については、都道府県・国民健康保険団体連合会・関係機関や専門職団体・国・医療機関のそれぞれが関わっていきます。

介護予防との関係では、医療保険は疾病の発症やその重症化予防を、介護予防は要介護状態の発生及び悪化の予防・軽減を目的にするという考え方を基本にしています。

また、後期高齢期になるほど、医療と介護の両方のニーズを併せ持つことになり、それぞれの支援が並行して必要になる場合もあります。そのため、両者は相互に補完する形で共存することが望ましいと考えています。

スムーズに進めるために対象者の階層化を行っていき、個別対応が必要かどうかを階層で把握していくことで、どのような支援を行うかについてを決定づけていきます。

介護予防と連携した取り組みとしては、栄養・口腔に関する課題、さらに国保など壮年期の医療保険から連続した取り組みとしては、服薬や生活習慣病などの重症化予防に関する課題を行います。これらを支援の入り口として、高齢者が抱える健康上の不安を専門職がサポートしていきます。

実践方法としては、市町村が広域連合から委託などを受けて実施する場合を想定しています。

事業実施主体における体制整備、地域連携体制の構築、事業企画の3段階で進めていきますが、広域連合と市町村では違った役割を担います。

健診結果やレセプト情報を活用し、解決が必要なデータについては具体的な支援を行うために、どのような体制で行う必要があるかを考えていきます。

医療保険者としての立ち位置として、レセプトデータ、健診データ分析に基づく優先課題の設置が挙げられます。広域連合では、データヘルス推進の一環として、後期高齢者の特性が現れる健康状態や医療のかかり方(重複・多受診など)について分析の上、実態把握することにより被保険者の状態に応じた保健指導等が実施されるよう企画することが求められます。

市町村との連携、前期高齢者との連続性を考慮した対策が必要になります。

5. 高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施についてのまとめ

これまでにお伝えした内容をまとめます。現状では、保健事業として疾病予防や重症化予防のための健康診査を「後期高齢者広域連合」が行い、一般介護や予防事業と介護予防や生活支援サービス事業は「市町村」が行っている状況で、保険と介護が別軸で進められていることから、フレイル対策は手薄になっていることが問題となっています。

そこで、今後求められるスタイルとしては、医療・介護データの分析を行い地域の健康課題を整理分析することと、課題を抱えている高齢者を把握しアウトリーチ支援などを通じて保健事業や介護予防のサービスなどにつなげることが挙げられます。

そして、個別状況に応じて、様々な取り組みを活用しながら効果的な事業をコーディネートします。

それらを踏まえた上で、現在はバラバラに行われている保険と介護事業を並行して行い、保険から介護への移行期にはフレイル対策についても盛り込んでいきます。

具体的なフレイル対策のひとつとして、通いの場などを提供するなど社会参加を活発にすることが考えられます。保健事業においては、社会参加を含む多様な課題まで視野に入れた取り組みを行っていくことが大変重要になります。

予算に関する問題が非常に大きく、難しい面も多いですが今後の医療費増加への対策が急務となっている今、このような場をお借りして積極的にフレイル対策などの認知度を高めて取り組んでいきたいと、込山氏は締めくくりました。

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