【セミナーレポート】地域活性となるウェルビーイングの活用に向けて 2021年度「社会的健康戦略研究所」の活動ご報告
Care Show Japan2022のセミナーとして開かれた『地域活性となるウェルビーイングの活用に向けて 2021年度「社会的健康戦略研究所」の活動ご報告』。健康経営を地域に浸透させる取り組み『愛媛プロジェクト』と、日本発のウェルビーイングISO規格を活用することで国際競争力のある巨大ヘルスケア産業が生まれることを社会的健康戦略研究所の皆さんからお話いただきました。
■浅野 健一郎(一般社団法人社会的健康戦略研究所 代表理事)
■植田 順(一般社団法人社会的健康戦略研究所 理事/株式会社NTTデータ経営研究所)
■物井 則幸(一般社団法人社会的健康戦略研究所 研究員/ライオン株式会社)
目次
1.経営目標から逆算した健康施策を
健康経営やウェルビーイングの考え方を都市部だけでなく、地域に浸透させるための試みが愛媛プロジェクト(ウェルビーイング愛媛WXプロジェクト)です。
2021年7月からスタートし、健康経営に関心の高い地元の病院、スーパーマーケット、フィットネスクラブ、テレビ局、銀行などが参画。コロナ禍ということもあり、オンラインを中心にリアルを交えながら進められてきました。
「愛媛プロジェクトを進める際の根本的な考え方、それは“健康は資本である”というものです。従業員の健康に着目しているだけでは十分ではなく、企業戦略の中の一つであるという認識で地元企業の皆さんには進めていただきました」とプロジェクトの推進をサポートする植田 順氏(健康戦略研究所 理事/株式会社NTTデータ経営研究所)。
愛媛プロジェクトは次の4つの流れで進められました。
▼健康経営を理解する
▼自社をアセスメントする(どれくらい自社の健康経営が進んでいるかを客観的に評価)
▼自社を成長させるための健康経営施策を考える
▼健康経営を始める
「健康経営を進めていく上で特に重要なのは、自社の経営目標を明確にした上で、その実現のために行うこと。例えば、売上を伸ばしたいという経営目標がある場合、その実現のためには従業員のパフォーマンスを高める必要がある。パフォーマンスを高めるために運動や食事改善に取り組んでもらおうという道筋、健康施策が見えてきます」と物井 則幸氏(社会的健康戦略研究所 研究員/ライオン株式会社)。
愛媛プロジェクトでは、各企業に経営目標の実現に必要なことを把握してもらうとともに、実現をサポートするサービス事業者(運動、食育、快眠など)が選べるような仕組みも構築していると言います。
2.シートを活用し、壁を乗り越える
自社で健康経営を進めようとすると、壁にぶつかることも少なくありません。
例えば、「健康経営の担当者に任命されたが、どこから始めればいいのだろうか」「自社に合う健康施策がわからない」「上司や経営者に健康施策の効果をどう説明すればいいのか」といったことがよく見受けられると言います。
愛媛プロジェクトでそのような壁を乗り越えるために有効だったツールが『コミュニケーションシート』だと言います。このシートを使うことで、「自分達の会社がどのような健康経営に取り組むべきか」「具体的に何から始めていけばいいのか」がわかるようになっています。
例えば、「利益10億円達成という経営目標があるが、従業員の抱えるストレスやメンタルダウンが障害になっている」というのであれば、「睡眠改善に取り組もう」といった施策が導かれるようになっているとのこと。
このようにコミュニケーションシートを使うことで、自社が取り組むべき健康施策が明確になるとともに、担当者が経営者と同じ目線で議論できるツールにもなると言います。
3.組織が健康であることは不可欠
では、具体的にどうやって健康経営を始めていけばいいのでしょうか。次の3つのステップがあると言います。
▼基盤を作る
まず健康経営を行う準備として社内の基盤をつくります。健康経営の基盤は「健康経営度調査票」に定義されていると言います。
▼アブセンティーズム、プレゼンティーズムを改善する
アブセンティーズムは、心身の不良が原因で起きる欠勤など。プレゼンティズムは、出勤はしているものの健康上の問題でパフォーマンスが上がらない状態。これらは至急手を打つべきものだと言います。
▼組織を健康にする
個人の健康とともにとても重要なのが組織の健康。従業員の身体・精神の健康が改善し、せっかく職場に復帰しても、組織が不健康だとまた病気になってしまいます。そのため、従業員同士の信頼関係がしっかりしているといった組織の健康は不可欠だと言います。
組織の健康があり、その上に個人の健康がある。組織が健康ならば、アブセンティーズム、プレゼンティーズムも改善しますので、場合によっては最初に取り組むべきものであるとのこと。
これまでのマネジメントの考え方は組織優先になりがちでしたが、これからは個人優先に変えていく必要があり、組織体系もトップダウンではなく、フラットになるように変えていく必要があると言います。
このような考えの基、推進していった愛媛プロジェクト。すでに企業ごとの取り組みが始まっており、今後は企業間の連携を進め、ツール(コミュニケーションシートなど)もより使いやすくブラッシュアップしていくとのこと。その目的は、自社を成長させるための健康経営の実現です。
4.日本発の国際標準化で巨大市場を生み出す
浅野 健一郎氏(社会的健康戦略研究所 代表理事)からは『ウェルビーイングの国際標準化がもたらす社会と企業への影響』というテーマで日本発ウェルビーイングISO規格についてのお話がありました。
「2050年には、世界の人口が100億人になり、その人たちがいかに健康で幸せに生きられるようにするにはどうすればいいのか。それが今、喫緊に解決しなければならない世界が共有する課題となっています」と浅野氏。
課題解決のためのキーワードの一つがSDGs。当初、MDGs(ミレニアム開発目標)では各国の政府主導で行おうとしていましたが、それではうまくいかず、SDGsでは企業主導にしようと変わったと言います。つまり、企業が主役となり、経済活動を通じて社会の課題を解決していこうということ。ですが、具体的に何をどうすればいいかは曖昧になっている部分が少なくないと言います。
「最近、SDGsのバッジをつけている方を多く見受けます。ただ、環境問題に取り組むのだろうといった理解に留まり、具体的には他に何をすればいいか理解されていない状態です」と浅野氏は指摘します。
こうした状況の中、ウェルビーイングに関する国際標準づくりが進んでおり、2021年7月20日のISOの国際投票において、健康経営の国際標準化の日本提案が賛成国多数で採択されました。
こうして日本発のウェルビーイングISO規格づくりが進められていく中、いかにこの規格を戦略的に活用するかがとても重要であり、国際的な産業競争の結果を左右するものになると言います。
そのため、先手を取ったビジネス活用が求められているとのこと。例えば、「高齢化社会が進み、認知症の方が増えていく中でどうやって内包していくか」「親の介護する人たちがどうやって社会参加できるようにするか」といったことも重要なテーマになるとのこと。
ホームケアにしても高齢化が進む日本が先行しており、家の中の安全性をどうやって高めていくかといったことのノウハウも蓄積され、日本が他に先駆けてアドバンテージを取れる環境にあります。
ただ、これまで日本は、国際標準化規格などのルールづくりに関連した競争を苦手としてきました。せっかく日本が主導してルールづくりをできるチャンスが到来しているのにも関わらず、取り組みが遅れてしまっては大きな市場、ビジネスチャンスを失うことになります。
これからヘルスケア産業領域も環境関連などと同じようにルール主導型になるとのこと。ヘルスケア事業における市場獲得競争は、ルール形成の戦いに突入していきます。
「ルールづくりを主導し、日本発ISO規格のアドバンテージを活かすことができれば、競争力のある巨大ヘルスケア産業を生み出していけることでしょう」と浅野氏は言います。