シリーズ『私の生きがい組織』(第五回) 人はゆっくりと花開く

1.時代の波に存在意義を問われる

「この会社の存在意義とは何なのだろうか? その問いの答を出せないようなら、自分に三共精機の社長を務める資格はない」

私が三共精機の社長に就任した2009年は、リーマンショックの影響が色濃く残っている時期。毎月赤字が続き、2年間で売り上げが6割減。社員も3割くらい辞めてしまいました。

売上げが下がっていった理由は、リーマンショックの影響だけではありません。三共精機は、いわゆる機械工具商社。ものづくりをするメーカーさんに工具や機械を提供します。ですが、インターネットの普及により、私たちのような商社を通さなくても、入手できるようになっていきました。

このまま会社をやっていけるのだろうか。そもそも機械工具商社という仕事は必要とされているのだろうか。私の悶々と思い悩む日々は続きましたが、答はなかなか見つからない。

壁を乗り越える一つのきっかけとなったのが、京都府の『知恵の経営』認定制度。人材や技術、ネットワークといった目に見えない資産を見つめ直し、業績を向上させようという制度に応募することが契機となり、会社の現状や強みを改めて考えていきました。

確かに売り上げは6割減になってしまった。だが、逆に言うと4割のお客様は、依然として三共精機を頼りにしてくれている。さらにお客様の役に立てるようになるためには、どうすればいいのか。私たちが出した答は、“ものづくりの課題解決業”になるということでした。

たとえば、人手不足に苦しむお客様に対してなら、「機械の自動化を推し進めましょう」といった提案をする。機械を自動化するためには、素材や工具も新しくする必要が出てくる。世の中の変化をいち早く掴み、お客様のものづくりの課題を解決できる会社になろうと新たなスタートを切りました。

2.時間をかけて育てたものは強い

機械工具商社から、ものづくりの課題解決業に進化を遂げるために、社員研修などを通じて人へ投資し、仕事のスタイルも大きく変えていきました。

三共精機は、長いお付き合いをさせていただいているお客様が多く、リピート率が高い。継続発注の場合、お客様と対応するのは、女性を中心とした内勤スタッフ。この内勤スタッフの権限を広げ、産休・育休、フレックス勤務、半日有給など家庭と仕事を両立できる仕組みも整備。営業としての仕事をしてもらうことにしました。これにより、お客様にとっても仕事や商品の相談をする当社の窓口が増え、売上げが増えていったんです。

また同時に社内システムの再構築や、海外事業への取組みも始めました。リーマン後に生き残ったとしたら、その後のビジネスをどう展開していくかを考えたからです。結果としてその時にやってきたことが今、内勤営業と外勤営業の連携や、システム業務の外販化や、マレーシアでの現地法人設立につながりました。

健康経営も推し進めました。ノウハウや経験が豊富でお客様からの信頼も厚いベテラン社員に長く働いてもらえれば人手不足も解消できる。さらに、障がい者や外国出身者の採用も積極的に推し進めていきました。これらは、社会貢献の気持ちからではなく、困っているので力を貸してくれないかとこちらからお願いしたことが、結果的にダイバーシティになったというのが実際です。

私たちのように、じっくりと一人一人と向き合い、意識を変えながら少しずつ前に進んでいくというやり方では、急な成果は期待できないかもしれない。ただ、そうやって薄い皮を一枚一枚丁寧に積み重ねていくようにして築き上げてきたものは、ほかの会社は簡単には真似できない。それだけの強み、価値があると思うんです。

3.縁が人と人を結びつけていく

三共精機に来る前、私は大手の金融機関で12年間働いていました。その会社の社員は偏差値の高い大学を卒業した、いわゆる “優秀な人”が多く、似たようなタイプの人が集まっていました。仕事や会社にこれといった不満はありませんでしたが、家庭の事情でその金融機関を辞めることに。そして、京都に来て、妻の父が経営する三共精機に入社しました。

すると、環境や雰囲気がガラリと一変。たとえば、ここで働いている人たちは、学歴など気にしない。高卒、専門卒、大卒もいますし、今では大学院卒や留学生までいる。そんな中で、良い大学を出て期待されて入った人がすぐに辞めてしまったり、反対に高卒で入った人がしっかり成果を出していたりする。それを見て、優秀って何なんだろう?と考えるようになりました。

肝心なのは、世間一般の定義ではなく、その会社にとって優秀であるかどうか。一人一人違うその人が持つ個性、強みを伸ばし、発揮できれば、会社はその人が輝ける場所になる。

偏差値の高い大学を出た人を一度にたくさん採用し、今、いる社員を全部替えたとしても、決してうまくはいかないでしょう。仮に業績が良くなったとしても、それでは三共精機ではなくなってしまう。誰もが良い所、悪い所を持っている。私自身も含め、三共精機には飛び抜けて優秀な人がいるわけじゃない。それぞれの強み、弱みを補い合うからこそ三共精機というオンリーワンの会社になるんです。

社員たちには、この会社で自分がやりたいことを実現してほしい。そのためには、「こんな仕事をしたい」というのはもちろん、「会社をこう変えていきたい」といったことをどんどん発信してほしい。必ずしも会社という枠に拘らなくでもいい。

会社としては痛手ですが、生きがいを追求するために会社を辞めたいという場合、止めることはできない。会社を辞めても、その人との縁は続きます。三共精機という会社だけ見れば、契約社員なども含め、80人程度。ですが、この会社で一緒に働いた仲間が新しい世界で活躍してくれることで、私たちの世界も広がっていくことになります。

ですから、私はこう言いたい。「あなたが本当にしたいことは何? それをやろうよ!」と。これは、三共精機の社員だけでなく、働く人みんなに向けたメッセージです。

【編集後記】

今回は改装工事が完成したばかりの海外営業部や営業企画室のフロアでインタビューを実施しました。まさしく「もともと優秀な人がいるのではなく、活躍できる場所をつくることでその人が優秀になる」というお考えが反映された設計になっていました。リーマンショック後の不況も乗り越え、業績も向上しましたが、売上げは景気などに左右されることが大きい。自社の利益を追求するのではなく、お客様のためになるかどうかを判断基準にすることが大切とおっしゃいます。いずれのエピソードも稲盛和夫氏の著書の一節である『動機善なりや』を座右の銘としてる石川社長の生き方を体現していると感じました。

そして、人のために仕事をすると、不思議な縁にも恵まれるとのこと。実際、『健康経営の広場』でもお馴染みの大橋運輸の鍋嶋社長とは講演会で一緒に講師を務めたことがあるとのこと。業界も会社の所在地も全く違う二人が出会い、意気投合。そして、『健康経営の広場』を通じて再び繋がり、イキカタリストとして同じミッションを担うというのも、まさに不思議な縁です。

<企業データ>

会社名:三共精機株式会社

事業内容:切削工具、測定工具・機器、環境関連商品、工作機械、設備・装置などの販売。およびものづくり課題解決業

本社所在地:京都市南区吉祥院九条町49番地

従業員数:78名

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