シリーズ『私の生きがい組織』(第四回) 会社を通じて幸せの輪を広げていく

1.オーストラリアでの生活が原点

「売り上げよりも、お客様よりも大切なものがある。それは健康、安全、家庭だ」

私がそう考えるようになったのは、1989年から約15年間暮らしていたオーストラリアの文化、生活スタイルの影響が強くあります。オーストラリアの人たちは、ファミリーファースト。家族が何よりも大事で、仕事を第一に考えている人は、経営者などを除くとほとんどいない。

そして、帰国後、アップコンを設立。建設業という仕事柄、安全が何よりも大事であることは言うまでもありません。そうやって、『健康第一』『安全第一』『家庭第一』がアップコンの企業理念となりました。

その理念を守るため、私は営業担当者にも「とにかく売り上げを上げろ。お客様を最優先しろ」とは言いません。というのも、売り上げ、お客様を最優先すると、どうしても無理が出てきてしまう。

たとえば、朝、お客様の所へ約束の時間に訪問した際、お客様が不在で中に入れず、施工ができない。夕方になってようやくお客様が来て、「明日までに完成させてほしい」と言われた時、どうすればいいのか。

売り上げ第一主義、お客様第一主義だったら、徹夜してでもやるでしょう。ですが、それでは社員の健康を損ねる恐れが出ますし、無理して仕事をしたら事故も起きやすくなる。 病気や怪我をせず、安心して長く働けるようにすること。これがみんなを幸せにするための最善の道なんです。

2.健康づくりは仕事の一環

健康づくりに会社を挙げて本格的に取り組み始めたのは、2015年のこと。というのも、その年、遅刻する人、病欠する人が急に増えたからです。原因の一つとして考えられたのが運動不足。本来ですと、健康づくりは個人それぞれで取り組めばいいのですが、放っておくとますます不健康になってしまう。そこで会社主導で健康づくりに取り組み始めました。

まずは、各部署から人を集め、社長直轄でプロジェクトチーム『健活(健康活動)倶楽部』を発足。社員全員を巻き込むようにしました。

モチベーションを高める仕組みとして、健活ポイントも作りました。これは「エレベーターではなく、階段を使ったら何ポイント」「禁煙したら何ポイント」というふうにして、年間を通じて貯めたポイント相当分のカタログギフトがもらえるというものです。

社内で取り組む健康活動は毎年アップデートされていくのも特長です。

昨年新たに健活倶楽部で行った取り組みの一つが、『大人の体力測定』。会社近くの区のスポーツセンターで体力測定を行うのですが、毎年同じ時期に実施することで自分の体力の変化を定点観測。データとしても明確にわかるようにしています。

会社で健康づくりに取り組む場合、仕事が終わった後や休日に社員が集まってスポーツなどをするという会社も少なくないでしょう。ですが、それですと、どうしてもやらない人が出てきてしまう。そこで、就業時間中に全員で健康づくりに取り組めるようにしました。 今年の新たな取り組みとして、全社員が集まる第一月曜日の15時から終業時間までを健活の時間とし、フットサル、ランニングなどの運動はもちろん、脳トレや動体視力のトレーニングなどを行う時間としています。

3.大事なのは生きがいと健康

アップコンで実施している、健活倶楽部の取り組みがメディアでも紹介されるようになり、各地の商工会議所や健保組合が視察に来られ、相談を受けるようになっています。私たちの経験、ノウハウをお伝えするとともに、同じような課題、目標を持ったみなさんとご一緒に健康づくり、会社づくりに取り組んでいきたいと思っています。

さらに視野を広げると、環境問題やSDGsといったことも見えてきますが、地球環境を守ることに関しては、微力ながら貢献することができているのではないかと自負しています。

というのも、コンクリート床の沈下や傾きを直す場合、従来では一旦、全部壊してから、新しく作り直すというやり方が主流でしたが、私たちが独自に開発した工法を使えば、壊さずに直すことができます。そのことでCO2を90%削減することができ、川崎市からも認定を受けています。

そして、近年、私がとても楽しみにしていることがあります。それは、私たちが仕事で使うノズルの清掃をお願いしている川崎市にある社会福祉施設のみなさんとの交流。日頃のお礼も兼ね、毎年クリスマスにサンタの格好をして訪問し、ささやかなプレゼントを贈らせていただいています。

ありがたいことに施設のみなさんは、いつも大歓声で私たちを迎えてくださるので、「あれ、スターになったのかな」と一瞬、勘違いしてしまいそうになります(笑)。また、6月のアップコンの創立記念日の前後には、私たちが応援している川崎フロンターレの試合にご招待。そんなとき、みなさんが楽しそうに過ごしているのを見ると私自身、幸せな気持ちでいっぱいになります。

会社は、幸せや生きがいを生み出すための場所でもあります。アップコンで働くことが幸せだと感じられる環境を作ることが私の責任ですし、いつまでも長く働いてほしいと思っています。

そのため、アップコンには定年退職制度がありません。心身とも健康で仕事にやりがいを感じられれば、人は何歳になっても元気に働くことができる。実際、アップコンには80歳を過ぎるまで 働いてくださった社員もいます。その人は営業職だったのですが、長い経験で培ってきたノウハウや人脈は、まさに会社にとって宝物でした。 健康で、生きがいを持ってずっと働けること。それは本人、ご家族、さらには社会のためにもなる。私たちがそのお手本になれればこんなに嬉しいことはありません。

【私の生きがい組織のインタビューを終えて】

熊倉さんとはこれまでも展示会での公開講演で登壇するなど、健康経営の取材を通じて当社の取り組みについて、理解していただいているのだと思います。

そのため今回も話はスムーズに進み、テーマは健康経営と生きがい組織でしたが、話が進むにつれて、社長に就任した17年前を思い出すことができました。 いい人財を蓄えてお客様や地域に貢献でき、社会に必要と思われる会社を今後も目指します。

【編集後記】

コストをかけずに創意工夫を凝らしながら、オリジナリティあふれる健康づくりを生み出していく松藤展和氏。今回のインタビューでは、オーストラリアでの経験が『健康第一』『安全第一』『家庭第一』という考えに繋がっていったなど、その背景や想いも聞くことができ、大変興味深いインタビューとなりました。

特に、健康で、仕事にやりがいを感じられれば、人は何歳になっても元気に働くことができるという実例は、人生100年 時代の到来に向けて、とかく不安を煽る風潮に対して、心強いメッセージと感じました。

<企業データ>

会社名:アップコン株式会社

事業内容:土木工事業 及び 建築工事業(コンクリート床スラブ沈下修正工法「アップコン」による施工・施工管理/ウレタン製土壌改良材「ナテルン」による施工・施工管理及び「ナテルン」の販売/農業用水路トンネル機能回復加圧式ウレタン充填工法「FRT工法」による施工・施工管理/ウレタンを使った新技術の研究・開発)

本社所在地:神奈川県川崎市高津区坂戸3-2-1 KSP東棟611従業員数:44名(2020年4月現在)

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