【トップライン】子育ての経験が健康経営で活きる。仕事が生きがいとなる。

トップラインさんは愛知県小牧市に本社を置く運送会社。健康を害する社員が出たことを契機に健康経営に取り組み始めました。「子育ての経験が健康経営にとても役立つ」と語る中嶋社長にお話を伺いました。(インタビュアー:健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表取締役  熊倉 利和)

〔株式会社トップライン〕

中嶋 洋子さん(代表取締役)

1.従業員の大病が健康経営のきっかけに 

――まずトップラインさんについて教えてください。

中嶋社長:はい。宅配業務、物流拠点間輸送、倉庫業務、ウォーターサーバーの水の配送など幅広い物流サービスを提供する運送会社です。従業員数は、パート・アルバイトさんを含め35名でそのうち女性は6名。創業は2004年です。

――トップラインさんを創業する前は何をされていましたか?

中嶋社長:もともとは専業主婦だったのですが、離婚をし、子供を一人で育てないといけない状況になりました。それで33歳の時、大手の運送会社に中途入社。なぜその会社を選んだかというと、求人誌に載っている中で一番時給が良かったからです。

運送会社では路線部で働いていましたが、その時の上司から「7人で新しい運送会社を立ち上げたい。自分達は現場のことは知っているが、お金のことはわからない。だから、経理や経営をやってほしい」と誘われました。経営はもちろん、経理の知識もなかったのですが、「いいですよ」となぜか答えてしまいました(笑)。このメンバーならきっとやっていけるだろうと深く考えもせず、勢いだけでしたね。

ですから、最初の頃は、わからないことばかり。配車にしても、私は愛知県の出身でないこともあり、土地勘もなく、ドライバーによく怒られていました。会社を立ち上げたと言うと格好いいですが、子供を育てないといけませんでしたし、ただただ必死でした。

――なるほど。そういうご苦労があったのですね。なぜ健康経営に取り組もうと思ったのですか?

中嶋社長:あるドライバーが大きな病気になったことがきっかけです。そのドライバーは夜便担当。神奈川や東京まで荷物を運び、また戻ってくるということをしていました。ですが、ある日、出社時間になっても現れず、どうしたのだろうかと心配していたら、「起き上がることができません。今から救急車を呼びます」とドライバーから電話が入りました。病院で診断を受けると腎不全だとわかり、即入院となりました。

当時、彼は40歳を過ぎたばかりで体型もスリムでした。ですから、疲れを感じても、寝不足かなとあまり気に留めていなかったようです。

――そのドライバーさんは、健康診断は受けていましたか?

中嶋社長:はい。当然、健康診断は受けていました。ただ、本人も健康診断の結果をあまり見ていませんでしたし、私たちも確認を怠っていました。それも手遅れとなってしまった原因だと思います。

そのドライバーは、入院した翌日から週に3回、透析を受けることになり、結局、ドライバーの仕事も辞めざるを得ませんでした。経営者でありながら従業員の健康について無関心でいたことが、一人の人生を変えてしまった。そのことに大きな責任を感じ、健康経営に取り組むきっかけになりました。

――それはいつ頃のことですか?

中嶋社長:7年前です。その前にも一度、健康経営の導入を検討したことがあります。ですが、喫煙率も高かったですし、ドライバーは人から何か言われるのを嫌う我が道をいくタイプが多いので、禁煙を呼びかけても聞いてもらえないだろうと判断。健康経営に取り組むことは一旦、諦めました。

ですが、実際に健康を害する従業員が出てしまった以上、もう待ったなしで健康経営に取り組もうとなりました。ちょうど新たに採用した事務職の人たちが、新しいことに取り組むことが苦にならないタイプでした。それで「もう従業員に大きな病気になってほしくない。健康経営を始めたい」と話したら「ぜひやりましょう!」と言ってくれ、一緒に推し進めてくれることになりました。それが私にとってとても大きな力になりました。

2.食生活の改善とコミュニケーション

――そうやって取り組んでいったことがブライト500認定にも繋がっていくのですね。

中嶋社長:そうですね。ただ、「何か特別なことをしているのでは?」と思われることも少なくありませんが、「これならできる」ということを積み重ねていっただけです。たとえば、ドライバーは独身の人も多いですし、コンビニ弁当やカップ麺、菓子パンばかり食べているので食生活を少しでも改善したいと取り組んだのが『青汁大作戦』。これは野菜不足解消を目的に青汁の摂取量をランキング化。Best3に入った人にご褒美を提供するというものです。青汁は缶で購入しており、一缶で何十杯もできますからコストもあまりかかりません。

――いいですね。従業員のコミュニケーションを促進する取り組みはされていますか? 

中嶋社長:はい。やはり従業員同士のコミュニケーションはとても大事。サッカーや野球もいいですが、コミュニケーションをとりながらフェアプレイや礼儀も学べるので、ゴルフサークルを作りました。違った部署の人やお客様、協力会社さんとの交流の場にもなっています。

3.従業員発のアイデアで健康経営が浸透

――それらのイベントや施策はどなたが企画しているのですか?

中嶋社長:ゴルフサークル、青汁大作戦などは私です。2年前からやっている社内菜園については従業員からの提案です。みんなでお昼を食べている時などに「あの会社さんの健康経営の取り組みはいいですね」「これもやってみたいですね」などという話が自然に出てくるようになっています。

――それは素晴らしい。従業員の皆さんに中嶋社長の想いが浸透し、アイデアが活発に出るようになっているのですね。

中嶋社長:はい。時間はかかりましたが、今はそういうふうになっています。

――喫煙者が多かったとのことですが、その後、どうなりましたか?

中嶋社長:これもみんなで解決策を考え、まずは分煙を進めようとなりました。ですが、いきなり「分煙にします」と言っても反発も出てきますので、徐々に進めていこうと考えていた時、電子タバコが普及し始めました。それで電子タバコなら事務所内でも車内でも吸っていいことにしました。

するとドライバーたちも「それならやってみてもいい」と受け入れてくれました。それからしばらく経ってから「電子タバコも外で吸いましょう」「車内でも咥えタバコは安全上問題があるので、車を止めて吸いましょう」と1年半くらいかけて段階を踏んでいきました。今ではそれが定着し、タバコを吸うことを止めた人もいます。

4.母親目線を大切にし、人財採用にも成功

――喫煙率の低下、社内コミュニケーションの活性化、従業員が自ら考えて動く企業風土の醸成など健康経営の効果が出ていますね

中嶋社長:ありがとうございます。確かに、社内の雰囲気も明らかに良くなりました。以前は、禁煙や食生活の改善の話をしても「ほっといてくれ」という反応でしたが、手を替え品を替え、時間をかけながら話していくと、徐々に頑なだった気持ちも溶けていきます。すると面白いことに、それまで険しかったドライバーの顔も笑顔になり、人に対する接し方も優しくなっていきました。それと同時に社風も見る見る明るくオープンな雰囲気になっていきました。

――素晴らしいですね。社風が変わっていく中で会社を辞めてしまう人もいましたか?

中嶋社長:はい。社風がオープンに変わっていくと、一匹狼的な人など自分には合わないなと感じる人もどうしても出てきます。「従業員に健康になってもらいたい」「コミュニケーションを活性化して社風を明るくしていきたい」という会社の方針と合わない人も出てくるのはある程度、仕方がないかもしれません。

――逆に健康経営や明るい社風は採用でも強みになるのでは?

中嶋社長:はい。そこは明確に狙っていました。同じような仕事、同じような給与、労働時間なら、健康経営に取組み、従業員を大切にしているトップラインがいいと求職者から選んでもらえる理由になりますから。

――なるほど。どのような人財を求めていますか?

中嶋社長:人財採用でターゲットにしているのが、結婚してお子さんがいる方。とても優秀なのに時間などの制約で能力を活かせない女性が数多くいます。ですから面接などでも、「家庭を優先してほしい。仕事中でもお子さんに何かあったならすぐに帰ってください」「週に2、3日でも、1日5、6時間勤務でも大丈夫です」と伝えます。

もしそれで人手が足りなくなれば、同じような条件の人を増やせばいいだけです。そうやって、結婚してお子さんがいる人が働きやすい環境にすることで、大手企業などで働いた経験を持つ人、優秀な人に当社で活躍してもらいたいと考えています。

また、私自身この会社を立ち上げた時、子育て中でしたが、あまり子供の面倒を見てあげることができませんでした。ある意味、自分ができなかったことを従業員にはしてもらいたい。仕事も家庭も自分の時間も大切にしてほしいという想いもあります。

――そういう考えが生まれるのは、中嶋社長ご自身が母親であることも大きいのではないでしょうか。健康経営においても、従業員を自分の子供のように大切に考える視点や感性がとても活かされているように思えます。

中嶋社長:おっしゃる通りです。実際、従業員のことを自分の子供だと思って接しています。それは私より年上の従業員でも同じです。子供は自分の好きなこと、興味のあることしかやりませんし、なかなか素直に言うことを聞きません。それだけに子育ての経験はとても貴重なものですし、子育ての経験を持つ当社の事務職の人たちも、気難しいドライバーへの対応などもとても上手。手の平の上でうまく転がしています(笑)。

5.「生活のため」から「生きがい」へ進化

――これからのビジョンについてお聞かせください。

中嶋社長:はい。私がこの業界に入った20年前は、運送屋と呼ばれていました。次の世代にバトンタッチするまでには、自社だけでなく、業界全体で運送屋と呼ばれなくなるようにしたいという気持ちで仕事に取り組んできました。

それを実現する方法の一つが健康経営だと思います。ですから、当社はたくさんの協力会社さんと一緒に仕事をさせていただいていますが、協力会社さんのドライバーの健康に対する意識を少しでも変えることができればと考えていますし、各運送会社の経営者の皆さんにも理解してほしい。従業員を大切にしようという同じベクトルに向かって進むことが、みんなの繁栄に繋がると信じています。

――健康経営のメリットは理解できるが、大変そうだし、面倒くさいと二の足を踏んでいる経営者に対して何かアドバイスはありますか?

中嶋社長:まずは始めてみることです。80歳を越えてから独学でプログラミングを学び、ゲームアプリを開発した女性が登場するテレビCMで「とにかくバッターボックスに立ってバットを振ってみよう」と言っていますが、まさにその通り。始めなければ何も起きません。

仮に健康経営に失敗しても罰金をとられるわけでもないですし、世間から責められることもありません。それと、やってみると意外と面倒ではありませんし、従業員のためになります。さらに従業員の家族のためにもなり、経営者や会社のためにもなります。

それと、会社を経営するうち、人は変われるものだということがわかりました。あまり優秀でなかった人が見違えるように変わってくれたというシーンを何度も見てきています。ですから、優秀な人だけでなく、そうでない人も成長できる会社にしていきたい。それと、「仕事は生活のためにするもの」と特にこの業界では考える人がまだまだ多いですが、そうではなく、「やりがい。生きがいのためにするもの」へと意識を変えていきたいと思っています。

【取材後記】

健康経営の進め方は十人十色。トップラインの中嶋社長が健康経営で大切にしていることが母親目線です。事務職にも大手企業などで働いた経験を持つ主婦の方を積極採用。母親のような優しさと粘り強さで時間をかけながらドライバーさんの心も溶かし、健康経営を浸透させていきました。今回、紹介することはできませんでしたが、優秀なドライバーさんもそうでないドライバーさんも同じ仕事内容、同じ給与としたことで一体感が生まれ、全体の底上げを実現するなど、その経営手腕、情熱に唸らされるばかりの取材となりました。

<企業データ>

会社名:株式会社トップライン

事業内容:一般貨物自動車運送業/貨物軽自動車運送業/貨物利用運送事業/特別管理産業廃棄物収集運搬業/PCB廃棄物収集運搬

所在地:〒485-0082 愛知県小牧市村中葭池1244-1

資本金:1,000万円

社員数:35名

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