【カサマ】健康経営はライフワーク。女性の目線を重視し、日々の幸せを叶える

DM事業、健康食品の通販事業、健康経営のコンサルティングを行なっている株式会社カサマ。自社でブライト500の認定を受けるとともに、健康経営の普及・啓発に取り組んでいます。「倖(さいわ)い=普段の暮らしの中で皆で共に感じる幸福感」を経営理念に掲げ、「健康経営は子育てと一緒」「やりたいことをすることが健やかさに繋がる」と語る笠間社長と奥様の由美子さんにお話を伺いました。(インタビュアー:健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表取締役  熊倉 利和) 

〔株式会社カサマ〕

笠間 力さん(代表取締役)

笠間 由美子さん

1.仕事ゼロ。辛い経験が健康経営の入り口に

――まずはカサマさんについて教えてください。

笠間社長:はい。昭和7年に私の祖父が西陣織のお店を開いたのが始まりです。その後、昭和31年に私の父が法人化。西陣織のビジネスからは撤退し、大阪でDM事業(ダイレクトメールの封入・発送代行)をスタートさせました。その父が65歳で亡くなった後、それまで商社で働いていた私が会社を継ぎました。

経営は順調でしたが、ある日、顧客であった大手通販会社から突然、仕事の打ち切りを伝えられました。新規開拓もうまくいかず、全く仕事がない状態が続いたことが大きなストレスとなり、体調もおかしくなってしまいました。

その後、経営は持ち直すのですが、私と同じような悩み、苦しみを抱えている人もきっと多いに違いない。私が体験し、学んだことを他の人にも活かしてもらいたいという想いが健康経営の原点になっています。

――健康経営についてはどのようにしてお知りになりましたか? 

由美子さん:伊藤忠の岡藤現会長が社長に就任されてすぐの頃、ご自身が体調を崩された経験から、トップダウンで健康経営を始めたというインタビュー記事を読み、すぐ「健康経営に取り組みたい」と社長に提案しました。というのも私自身、新卒で入った会社で体を壊しています。健康の大切さを人一倍感じており、健康経営の必要性を強く訴えかけました。

笠間社長:当時は経営を立ち直そうと贅沢ブルーベリー酢などの健康食品の通販に取り組み、そちらに力を入れていました。ですから、妻から健康経営と言われても「それってお金になるんかい?」という感じで正直、あまり乗り気ではありませんでした。

ですが、そうしているうち、健康食品を購入してくださっている法人のお客様から「健康経営というものがあるらしいですね」と言われるようになり、そうなると立場上「もちろん知っていますよ。当社も認定を取りますよ」と言うしかない(笑)。それで健康経営優良法人認定制度が始まった最初の年(2016年)に認定を受けました。

そのことをお客様に伝えると、「当社も認定を受けたいから色々教えてほしい」と言われるようになり、それが健康経営のコンサルティングの始まりです。最初の頃はボランティア。健康食品を買ってくれるので、そのサービスとして健康経営の相談にも乗りますよという形でした。

――DM事業も継続されたのですか?

笠間社長:はい。DMに関しては、お客様が1社だったので切られた時に大変でした。それならばお客様を全国から募り複数にすればいい。それでWebを使い、「御社専属のパートさん、要りませんか?」という切り口で全国からお客様を募りました。自社でパートさんを雇うほどではないが、月に何日か作業を手伝ってほしい会社があるはずだという読みが当たり、数多くの依頼が来るようになりました。

2.命を燃やし、自分の志した道を行く

――DM事業については、お客様から注文を切られた段階で精算するという選択もあったのでは?

由美子さん:そうなんですよね。DM事業は止めて、健康食品の通販事業に絞ったらと社長に提案したこともありますが、「いや、絶対に止めない。プライドもあるし、従業員や家族を守らないといけない」と頑なでした。

笠間社長:ですが、近畿地方に大きな台風が来た時、作業場の屋根が飛んでしまい、そこが使えなくなってしまいました。それで止むを得ずDM事業は一旦、縮小しました。あのまま無理して続けていたらどうなっていたことか。今となってはまさに天の声だったと思います。

――資金繰りが苦しい中で経営を続けるのは、奥様にとっても大変だったのではないですか?

由美子さん:そうですね。でも、私はちょっとノー天気で(笑)と言うのも、父方の実家は、裸一貫、魚の行商からスタートし、100億円企業になりました。ですが、ほんのちょっとしたことで、それが全部なくなってしまったんです。それでも、きちんと後始末をすればまたやり直せるということを間近で見てきましたので、命さえあれば会社が倒産しても何とかなると思っていました。

一方、社長は自分が頑張らないと、従業員も家族も路頭に迷わすことになると本気で思っていたらしいです。それで、「あなたがいなくなっても何とかなるし、何とかする。いざとなれば会社を売ればいい。ご迷惑をおかけした人には頭を下げればいい。応援してくれる人もいる」と言うと肩の力も抜けたようでした。

笠間社長:(苦笑い)それまでは家族も会社も、自分が守らないといけないという意識がとても強かった。でも、彼女の言葉を聞いて、守りに入っても周りの人から喜んでもらえない。じゃあ、攻めるしかないと思えました。それが結局正しかった。

守るという考えは、自分だけでなく、周りのエネルギーも失わせてしまいます。それを身を持って知っているだけに、健康経営のコンサルティングで企業を訪れた際、特に2代目、3代目の経営者には「義務感で仕事をすると経営は必ず悪くなる。それより自分が本当にやりたいこと、志すことにチャレンジしてほしい」という話をします。

人それぞれに向いていること、やりたいことがあります。自分に向いていないこと、やりたくないことをすると、健康も蝕まれてしまいます。自分の命をどう燃やしていくかが大事です。

3.健康経営で一人一人の個性を伸ばす

――健康経営で大切にしていることはありますか?

笠間社長:私たちには4人の子供がいますが、健康経営も子育てに似ているかもしれませんね。仮に遠回りしようと、本当にその人がやりたいことをやれるようにすることが、健やかさに繋がるのだと思います。ですから、従業員を会社の型にはめてしまうのはよくありません。

由美子さん:私は経営やビジネスのことはあまり詳しくありませんが、一人の主婦、母親の目線や感覚で「この人はこうすると嬉しいよ」「あの人には、こうするといいんじゃないか」ということは言うようにしています。

――経営者はどうしてもビジネスの視点でモノを考えがち。奥様の主婦の視点は、健康経営にも役立っているのではないでしょうか?

由美子さん:そうですね。特にカサマの従業員の9割が女性。ですから、自社の健康経営では、女性向けの取り組みを行なっています。たとえば、毎月、従業員全員にコミュニケーションカードを書いてもらい、それを一つにまとめ、みんなに見てもらっています。

DMチームと健康食品チームでは仕事をする場所も、年齢層も違いますので、それぞれが思っていること、感じていることが伝わりにくい。何かお礼を言いたい時も、なかなか言う機会がない。コミュニケーションカードが従業員同士を繋げるツールになっています。

笠間社長:「ありがとう」だけでなく、「エアコンの温度が高すぎる」「電子レンジがほしい」といった会社への不満や要望も含め、何でも書いてもらっています。

――いいですね。そのほかに取り組んでいることはありますか?

由美子さん:はい。『本日の体調』があります。これはホワイトボードに「良好」「やや不調」「不調」という項目を設け、その日の自分に当てはまるものにマグネットを置くというものです。

女性特有の健康問題がありますが、それはコミュニケーションカードにも書けませんし、会社にも言いずらい。「生理痛があるが、仕事を休むほどではない」という時も、「不調」にしておけば、誰かが「どうしたの?」と理由を尋ねたりして、みんなにも伝わり、配慮もできます。それと、情報誌『Health』を月に1回発行しています。

笠間社長:これはお客様に健康リテラシーを高めてもらうために作っていたものですが、自社向けにも発行しようと始めました。

――これを作成しているのは奥様ですか?

由美子さん:デザインはデザイナーさんにお願いしていますが、本や雑誌、Web、論文などから情報を集め、テキストは全部、私が書いています。

――健康に関するものだけでなく、花火の話題など女性が喜びそうな記事も載っていますね。

笠間社長:当社の経営理念が「倖(さいわ)い=普段の暮らしの中で皆で共に感じる幸福感」。仕事ばかりではなく、肩の力を抜いた生き方の提案でもあります。

――以前は「24時間戦えますか?」という企業戦士が持て囃されましたが、それでは上手くいかない時代です。女性の柔らかい目線はとても重要ですね。

4.企業発展のために女性の力は欠かせない

――健康経営に取り組んできて何か感じていることはありますか?

由美子さん:はい。日本は、労働力人口が減っているので、より女性の活躍が期待されています。ですが、健康診断の項目や数値の出し方を見ても男性寄りになっているのではないかと感じています。そういったことも含め、改善していけば、女性がいつまでも元気に働ける社会になるのではないでしょうか。

笠間社長:そうだね。中でも、更年期障害への対応がとても大切。

由美子さん:更年期を機に会社を辞める人も多いと聞きますが、せっかくキャリアを築き上げてきたのに体調が理由で辞めるのはあまりにも勿体無い。私自身、10年前、更年期障害で悩んだことがあります。ずっと体調がすぐれないので病気を疑い、病院で大掛かりな検査をしてもらったのですが、どこにも異常がないという結果でした。じゃあ、この目眩や耳鳴り、背中の痛みの原因は何なんだろう?

そんな時、NHKの番組で更年期障害について知りました。私にも当てはまると思い、婦人科に行ったら先生から即座に「更年期障害です。すぐに治療しましょう」となりました。治療を受けてから半年で症状が驚くほど改善しました。そういった病気の情報を知らずに会社を辞めている人がたくさんいるはず。会社が少しサポートをするだけで、女性がさらに大きな戦力になります。

5.健康経営は企業の課題を浮き彫りにする

――これからのビジョンをお聞かせください。

笠間社長:はい。健康経営は、私のライフワークです。死ぬまで取り組んでいきたい。コンサルティングだけでなく、ソリューションも当社のサービスとして提供していきたい。ソリューションの一つが健康食品の通信販売です。通販には当社が元々やってきたDM事業が必要となります。

そうやって今後は年商3〜5億程度の小さな事業を多く作ろうと考えています。その事業の責任者に今、パートなどで働いている女性になってもらい、デジタルマーケティングから作業、媒体制作など配送以外は全部自社で行う体制にしていきたいと思っています。

――健康経営のコンサルティングについては、笠間社長がお一人でやられているのですか?

笠間社長:いえ、上場企業の経営に携わってきた人にパートナーになってもらっています。というのも、健康経営に取り組めば、必ずその企業の経営課題が見えてきます。健康経営については私がコンサルティングを行い、経営課題のソリューションについては、パートナーの方に担当してもらうという形にしています。

――確かに健康経営に取り組めば、生産性、売上、社内外のコミュニケーション、採用といったことに繋がっていきますね。

笠間社長:はい。これらの事業を推進していく上で一番のキーとなるのが、先ほどもお話しした「普段の暮らしの中で皆で共に感じる幸福感」という理念です。この理念によって、会社と従業員、従業員とお客様を繋げ、理念実現のための商品やサービスを提供していくということです。

この理念ができたのは、私が35歳の時。祖父も父も私も、生活の中の幸福感、嬉しいと感じる瞬間を大切にしながら事業を行ってきたことに気づいたからこそ生まれたものです。ビジネスの成功や自分がお金持ちになることより大切なことがあると考えています。「そんな理念にすると、会社の成長が遅れるぞ」とある人から言われたこともあります。それは正しいかもしれない。ですが、この理念は私の信念であり、命をかけらえることなんです。

【取材後記】

カサマさんの健康経営にたどり着いたストーリーや支える理念などとても感動的なお話をお聞きすることができました。健康経営を効果的に推進するためには、社内・社外のコミュニケーションのハブとなる人の存在が重要。カサマさんでは奥様の由美子さんが社長の言葉や考えを従業員の皆さんにわかりやすく伝えるとともに、情報誌で社内外へ情報を発信。まさに健康経営においても核となる存在となっていました。女性目線を大切にする健康経営によってカサマさんのアットホームで健やかな企業風土が醸成され、それが社外にも広まっています。

<企業データ>

会社名:株式会社カサマ

事業内容:DM事業(販促サポート)/健康食品の通信販売/健康経営のコンサルティング

所在地:〒536-0008 大阪市城東区関目6丁目13-24 ヘッドビル3階

資本金:1,000万円

社員数:25名

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