インターン生が見た健康経営企業の魅力【前編】

健康経営は、従業員の心身の健康に配慮することで、一人一人の生産性や創造性、さらには働きがい、生きがいを高めていくもの。そのことは、働く側にとって大きな魅力となり、就活生へのアピールポイントにもなります。今回は、三共精機のインターンシップに参加した学生の目に健康経営がどう映ったのか。また、受け入れる企業側にどのようなメリットをもたらすかについて取材しました。(取材:健康経営の広場/IKIGAI WORKS代表  熊倉 利和)

【2021年三共精機インターンシップ参加者】

■井上美玖(京都光華女子大学)

■橋爪佑太(京都文教大学)

■山内月乃(同志社女子大学)

■山本真輝(龍谷大学 )

1.三共精機にインターン生がやって来た!

2021年8月23日の朝、4人の大学生が三共精機にやってきました。2週間にわたるインターンシップに参加するためです。三共精機では毎年インターン生を受け入れており、今年で16年目。今回のテーマは、ズバリ健康経営です。

三共精機自身、健康こそが幸せに働くための土台になるという考えの元、健康経営に力を入れています。今回のインターンシップは、そんな三共精機だけでなく、健康経営を推進する他企業にもインターン生自身が取材を行い、レポートにまとめるという斬新なもの。8月30日には、愛知県瀬戸市に本社を置く大橋運輸にインタビューを行いました。

山本真輝さん(インターン生): 大橋運輸さんが健康経営を行う上で基本となる考えを教えていただけますか?

鍋嶋社長:はい。これまで健康は個々の社員に任せるという考え方が世の中の主流でした。ですが、今は年金をもらえる年齢も60から65歳、今後、さらに70歳に引き上げられることも想定されています。このように長く働く時代になっていますので、社員の健康についても会社がサポートする必要があると考えています。

特に私たちは運輸業なので安全がとても大切ですが、健康あっての安全です。健康でなければ集中力も高まらないし、事故などの危険性も生まれてしまいます。この健康と安全に共通するのが、良い習慣を身につけること。また、良い習慣のある人は、仕事でも成果をあげることができます。

つまり、健康経営に力を入れることで社員が良い習慣を身につけ、良い仕事を安全にしてもらえれば、会社のためにもなります。特に食は健康や体づくりのベースになりますので、自社で管理栄養士を雇用しています。

太さん(大橋運輸 管理栄養士):そうですね。一人一人、生活習慣や生活リズムが違いますので、私の方では社員のすぐ側にいて、その人に合った食事、運動、睡眠などのアドバイスをするように心がけています。

山本さん(インターン生):特に今のコロナ禍においてはどのような対応をとっていますか?

鍋嶋社長:以前から免疫力を高める食品や食材を社員に提供していますが、これはコロナ禍においても有効であると考えています。特に最近力を入れているのが、朝ご飯をしっかり食べること。若い社員などは朝ご飯を食べる習慣のない人も少なくないので、ヤクルトを配布するとともに、ゆで卵とバナナを事務所に置いてあります。そうすることで朝ご飯を食べることを習慣化してもらうようにしているんです。

また、ウナギやA5ランクのお肉などが当たる抽選イベントを毎月のように開き、トウモロコシ、リンゴ、ブルーベリー、サクランボなどの季節の野菜と果物は全員に配布しています。

山内月乃さん(インターン生):それはすごいですね。女性の育児休暇は一般的になっていますが、御社では男性も積極的に育児休暇を取得しているとのことですね。

鍋嶋社長:はい。私たちは物流の仕事をしていますので、以前でしたら奥さんの出産の立ち会いもできないという状況でした。ですが、今は出産立ち会いと出生届の提出日の2日については100%休んでもらっています。育児休暇についても2回取った社員もいます。

2.すべての人が働きやすい環境を整える

井上美玖さん(インターン生):障がい者の方も活躍されており、インターンシップもあるとお聞きしました。

鍋嶋社長:ええ。大橋運輸では今、4名の知的障がい者に働いてもらっています。障がいのある方にインターンシップに来ていただく場合も、まずは当社の障がいのある社員とじっくりと話してもらい、自分たちと同じような障がいがあっても、こんなに活躍できるんだということを知ってもらいます。

大切なのは、受け入れる私たちが、お一人お一人の障がいの特性についてしっかり理解すること。持っている能力とハンディキャップは一人一人違います。どのような仕事を任せれば、活躍でき、やる気に繋がるかを考えることが、彼・彼女らの可能性を広げることになります。

橋爪佑太さん(インターン生):LGBTQの方々の採用に力を入れるようになったきっかけは何ですか?

鍋嶋社長:ある一人のLGBTQの方の入社がきっかけとなり、広がっていきました。最初のLGBTQの方に働いてもらうにあたり、LGBTQの団体に出向き、どうすればLGBTQの人たちが働きやすくなるのか、どういうことに不具合を感じるのか、といったことをお聞きし、入社後も、試行錯誤しながら働きやすい環境や制度を整えていきました。そうやって制度が整えば、また次の人が入社してくれるようになる。良い循環が生まれ、今では全ての部署でLGBTQの方に働いてもらっています。

3.人生を楽しむために健康があり、仕事がある

橋爪さん(インターン生):先ほど、長く働く時代が来ているとおっしゃいましたが、年齢が進むにつれ、体力的には衰えてくる面もあるのではないですか?

鍋嶋社長:同じ作業を続けていると、意外と体力は維持できるものです。ただ、若い頃の健康づくりはとても大事。30歳までに基礎体力を高められるかどうかで人生後半から体力面の差が出てくるのではないでしょうか。それと10年先を見据えた体力づくり。例えば、40歳の時に取り組めば50歳の時に差が出ます。若い人は若い人なりの健康づくり、中高年なら中高年なりの健康づくりが必要だと思います。

そのために、社員が無料で使えるようにスポーツクラブと契約しており、社内にもジムがあります。また、月に一度、バランスボールや太極拳の教室を開いていますし、スポーツ選手なども使っている酸素カプセルのルーム版を社内に設置しています。そのほかにもウォーキングイベントに参加したり、営業所に縄跳びを配布するなど、楽しみながら気軽に運動できる環境を整えています。

また、仕事の質を高めるためには、上手に心身をリフレッシュさせることがとても重要。仕事をがんばろうと思ったら、プライベートが充実していないといけません。週末は疲れて寝ていただけというのでは、良い仕事をすることはできない。そのために、趣味を楽しむための費用も支援しています。人は働くために生きているのではありませんし、人生を楽しむために仕事をしてほしい。

そういう意味では、会社そのものが楽しい場所であるべき。仕事を楽しんでいる人には誰も勝てません。ですから、どうしたらワクワクした気持ちで働けるかを考えることが経営者や管理職のこれからのテーマになると思います。

石川会長(三共精機):鍋嶋社長、太さん、ありがとうございました。ここまで健康経営に取り組んでおられる企業さんは珍しく、本当にすごいなと改めて感心しました。学生たちも大橋運輸さんの健康経営に興味津々となっており、新卒採用に応募しようかという勢いです。

鍋嶋社長:ありがとうございます。これからさらに良い人材の採用が難しくなり、経営課題の上位になります。そんな中、健康経営に取り組んでいないと優秀な人材は確保できないのではないでしょうか。健康経営に取り組んでいることが、採用活動をする上で欠かせなくなってくると思います。

4.「健康第一、安全第一、家庭第一」に込めた想い

インターン生たちは、翌8月31日には、神奈川県川崎市に本社を置くアップコンを取材しました。

橋爪さん(インターン生):アップコンさんは『健康第一、安全第一、家庭第一』を会社の基本理念として掲げていますが、生まれた背景について教えてください。

龍野さん(アップコン経営企画部):はい。社長の松藤の海外での経験が元になっています。松藤はオーストラリアの設計事務所で働き、その後、現地で自ら会社を設立。日本型の会社中心ではなく、オーストラリア型のプライベートの時間もしっかり持ち、家庭を大事にする働き方をとても気にいっていたんですね。ですから、帰国後、2003年にアップコンを設立する際も、その考えが色濃く反映されたんです。

馬籠さん(アップコン営業部): 健康第一、安全第一、家庭第一の中でも、特に社員の健康を考えている会社だと思っています。健康であれば会社を休むことも少ないですし、いい仕事ができます。ですから、忙しい時でも「最近、残業が増えているよ」「早く帰るようにしないと」と社員同士でも自然に声かけがなされています。

山内さん(インターン生):社員の家族も大切にしているというお話ですが、具体的な取り組みについて教えてください。

馬籠さん(アップコン営業部):はい。例えば、クリスマスには、奥さん、親御さんなど社員の家族宛に「いつも支えていただきありがとうございます」「今、アップコンではこういう活動をしています」といった社長直筆のメッセージを添えてカードが贈られてきます。

龍野さん(アップコン経営企画部):それと、当社は川崎フロンターレのスポンサーをさせていただいているのですが、毎年、会社の創立記念日に近い日に開かれるホームゲームには、社員の家族もご招待しています。

山内さん(インターン生):それは羨ましいです。御社の健康づくりの中核となっているのが健活倶楽部(健康活動倶楽部)とのことですが、設立の経緯を教えてください。

龍野さん(アップコン経営企画部):はい。2014年から2015年に病欠や遅刻をする人が急に増えたことがきっかけです。私たちは建設業ですので、チームを組んで仕事をします。そのため、病欠や遅刻の人が出ると、業務にも影響が出てしまいます。それまでは、社会人なのだから健康管理は自分自身で行うというスタンスでしたが、これではいけないと、2016年2月に健活倶楽部を発足しました。

馬籠さん(アップコン営業部):遅刻にしても、最初は罰ゲーム的なもので減らす取り組みをしていたのですが、なかなか効果が上りませんでした。それで、

罰ゲームではなく、頑張った人はご褒美がもらえる方式に転換。例えば、誕生月が同じ人でチームを組み、そのグループで一年間、誰も遅刻をしなかったら一人5000円分のポイント(飲食費)がもらえるといったもの。罰ゲーム方式からご褒美方式に変えたことで2年以上、一人の遅刻者も出ませんでした。

橋爪さん(インターン生):健活倶楽部の社員の参加率はどれくらいですか?

馬籠さん(アップコン営業部): 現在は100%ですが、発足した当時は、なかなかイベントなどに参加してくれる人も多くありませんでした。それで、月初の月曜の15時からの2時間を健活プロジェクトの時間(健活タイム)とすることで、社員全員参加することができるようになりました。健活倶楽部の今の取り組みの一つが、大人の体力測定。小学校や中学校でやったような、体前屈や反射神経などを測定し、社員全員の平均値やランキングを発表。次はもっと良い結果を出そうとモチベーションが高まる工夫をしています。

今年の5月には、全国の企業が参加するウォーキングイベントに社員全員で参加しました。会社や社員個々のランキングもでて盛り上がりますが、イベントが終わると尻すぼみになってしまうので、アップコン独自でもアプリを活用したウォーキングイベントを開催するようになりました。

その際、チームリーダーには、健活プロジェクトのメンバーではなく、それほど積極的に活動していない人を選定。「あなたは先月より歩数が少ないよ。もう少し頑張れない?」とメンバーを鼓舞する立場になってもらうことで、より主体的、積極的に健活に取り組んでもらえるようにしています。

5.健康づくりはコストではなく、投資

橋爪さん(インターン生):健康経営で特に意識していることはありますか?

龍野さん(アップコン経営企画部):はい。一方的に押し付けるのではなく、社員が楽しみながら進んで取り組めるようにすることです。例えば、健康づくりを頑張った人は健活ポイントがもらえ、カタログギフトの中から欲しいものを選べますし、やればやっただけ健康になるのはもちろん、自分にメリットがあると感じられるような仕組みにすることが大事。もちろん、それらの取り組みにはお金がかかります。ですが、社員の健康づくりはコストではなく、投資であるとアップコンでは考えているんです。

石川会長(三共精機):貴重なお話どうもありがとうございました。社長直轄のプロジェクトとして健活を推進し、会社全体で健康経営に本気で取り組んでいることが伝わってきました。特に勤務時間の中で実施しているところ。仕事を止めてまで健康づくりに取り組んでいるのは本当にすごい。私たちも参考にさせていただきます。

【取材後記】

今回、大橋運輸とアップコンという健康経営のトップトランナーを取材した三共精機のインターン生たち。2社の姿勢や取り組みに驚くとともに、健康経営は、単に従業員を健康にするだけでなく、生き生きと働くためのものであることを知ったようでした。後編では、インターン生を受け入れてくれた三共精機の石川会長のインタビュー、そしてインターンシップの成果を発表する報告会の模様をお伝えします。

<企業データ>

■三共精機株式会社

事業内容:2019年経済産業省 新・ダイバーシティ経営企業100選認定。2018年、2020年、健康康経営優良法人認定、2021年同認定ブライト500認定。1948年に設立された機械・工具・測定機器・装置等を扱う専門商社。現在京都本社・滋賀・名古屋・岡山とフィリピン、マレーシアに販売拠点を置き、企業の社会的責任やSDGsを社員全員が考えられる土壌を実現。

本社所在地:京都市南区吉祥院九条町49番地

従業員数:74名

http://www.sankyo-seiki.com/

■大橋運輸株式会社

事業内容:2017年経済産業省ダイバーシティ経営企業100選受賞。5年連続、健康経営優良法人認定。1954年創業、愛知県の運輸会社。法人部門(車部品輸送)と個人部門(遺品整理・引越等)を県内で展開。多様な人材を受け入れ女性・高齢者・外国人・障がい者・LGBT等ダイバーシティ人材が活躍。

所在地:愛知県瀬戸市西松山町2-260

従業員数:約100名

https://www.0084.co.jp/

■アップコン株式会社

事業内容:2021年東証TOKYO PRO Market に上場。2019年、厚生労働省 第三回働きやすく生産性の高い企業・職場表彰最優秀賞・大臣賞受賞。5年連続、健康経営優良法人認定。ウレタン樹脂の発泡圧力を利用し、地盤沈下などで傾いた建物構造物を壊さず修正する当社を設立、全国で展開。ウレタン研究開発も手掛ける

住所:神奈川県川崎市高津区坂戸3-2-1 KSP東棟611

従業員数:47名

http://www.upcon.co.jp/index.html

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