【セミナーレポート】共創型官民連携の成功事例。かすみがうら市と磐田市が語る取り組みと成果

2024年2月20日(火)、Care Show Japanでセミナー「『共創型官民連携』のススメ」が開催されました。モデレーターを務めたのは、官民連携事業研究所の晝田氏。ゲストとして、茨城県かすみがうら市と静岡県磐田市の担当者が登壇し、官民連携の重要性や実際の取り組みについて語りました。

かすみがうら市と磐田市は、令和4年度に九州経済産業局が開催した「ガバメントピッチ」に参加。ガバメントピッチとは、自治体や政府機関が抱える課題に対し、民間企業から解決策を提案してもらう仕組みです。両市はヘルスケア分野での地域課題を解決するため、官民連携に意欲的に取り組まれています。

本記事では、晝田氏の講演、かすみがうら市と磐田市の取り組み発表、そして3氏によるパネルディスカッションの内容を順にお伝えします。

〈司会〉

大西 大空 (経済産業省 関東経済産業局 地域経済部 地域経済化 ヘルスケア産業室 係長)

〈モデレーター〉

晝田 浩一郎(株式会社官民連携事業研究所 執行役員CCO)

坪沼 友美(茨城県 かすみがうら市 保健福祉部 健康増進課 主任)

鈴木 淳子(静岡県 磐田市 健康福祉部 健康増進課  地域保健グループ  主任保健師)

※注:肩書きはセミナー当時時点のものです。

1.官民連携を成功に導く3つのフェーズ(官民連携事業研究所 晝田浩一郎)

今、日本にはさまざまな社会問題が山積しています。それらの問題を、自治体だけや企業だけで解決するのは難しい状況です。そこで、自治体と企業が協力し、共に課題を解決する「官民連携」や「共創」の重要性が増しています。

官民連携を進めると、「上司の壁」「公平性の壁」「前例主義の壁」など、さまざまな壁に直面します。それらの壁を1つ1つ乗り越えていく秘訣は、官民が一緒になってお互いの強みを活かすこと。「お金を出す側」「サービスを提供する側」と区別するのではなく、対等な立場で共創し、パートナーシップを築いていくことが求められます。

 具体的には、自治体が地域課題を提示し、企業がノウハウやデータ、システムを提供する。そうすることで、少しずつ成功体験を積み重ねていくことが大事となります。

なお、官民連携には、以下の3つのフェーズがあります。

  • 解決すべき課題の特定と明確化
  • 実証実験の繰り返しと成功体験の積み上げ
  • 事業化への移行

本日の登壇者である茨城県かすみがうら市と静岡県磐田市は、官民連携を成功させた自治体です。その取り組みを聞き、自治体と企業が協力して社会問題を解決していくことで、日本の明るい未来を築くためのヒントを得てください。

2.「白い歯キラリ 笑顔あふれる健康の街へ」(茨城県かすみがうら市)

茨城県かすみがうら市では、年少人口や生産年齢人口が減少し、高齢化率は32.9%に達しています。私たちは、口腔ケアを通じた健康推進を目指し、「白い歯キラリ 笑顔あふれる健康の街へ」をテーマにガバメントピッチに参加しました。

市では、歯科健診の案内を広報誌や個人通知などで行っていますが、無関心層に届きにくいという課題がありました。また、歯の喪失は40歳を境に増加し、特に若年層での歯の重要性が浸透していないことが問題でした。

この課題を解決するため、企業のDX技術を活用し、歯科健診の受診を促進する仕組みづくりを進めるために企業の提案を募りました。

結果として、10社の提案の中から、スタートアップ企業2社を選定し、継続的な歯科ケアを促進する取り組みや健康管理アプリの導入を行いました。

1年間の実証実験を通じて、歯科医院との連携が進み、市職員の健康意識も向上するなど、かすみがうら市は大きな一歩を踏み出しました。今後も市民全員が健康づくりに参加できるような取り組みを継続していきます。

3.「住むだけで健康になるまちIWATAへの挑戦」(静岡県磐田市)

静岡県磐田市は、工業や農業が盛んな地域であり、ジュビロ磐田のホームタウンとして「スポーツの街」というイメージがあります。しかし、市民の主要な交通手段は車であり、歩行や身体活動の低下が問題となっています。

また、特定健康診断の結果、高血糖による保健指導が必要な市民が多く、特に働く世代の生活習慣病リスクが課題です。

そこで、「健やかで幸せな毎日を~住むだけで健康になるまちIWATAへの挑戦~」とのテーマでガバメントピッチに登壇。企業のデジタル技術を活用し、働く世代が手軽に楽しく健康促進を行える仕組みを応募しました。

24社から提案を受け、最終的にNEC(日本電気株式会社)と連携することに決定。決め手は、提案されたアプリに、私たちが求めていた機能がそろっていたこと、そして持続可能な形で運営するための施策を一緒に作っていくというスタンスを示してくれたことです。

私たちは、市内18社300名以上の従業員を対象に3ヶ月間の実証実験を実施しました。結果、健康無関心層にも興味を持ってもらえたと実感しています。

来年度は対象を市在住・在勤・在学の18歳以上の人へと拡大します。また、アプリにはポイントがたまる機能があり、そのポイントを利用者が有効活用できるよう、市内の施設や店舗と連携し、地域経済の活性化にも役立てていきたいと考えています。

4.官民連携の成功のポイントを探る(パネルディスカッション)

晝田さん:ここからは、かすみがうら市の坪沼さん、磐田市の鈴木さんと一緒にディスカッションを進めていきます。かすみがうら市はスタートアップ企業2社、磐田市は大手企業1社と連携されましたが、「この企業と共創したい」と考えたポイントは何でしたか?

坪沼さん:行政に寄り添いながら、共に創り上げていってくれるかどうかが、選定の大きなポイントでした。今回連携した2社は、かすみがうら市まで何度も足を運んでくれ、顔を合わせながら本音で語り合うことができました。リアルなコミュニケーションが取れたことは、とてもありがたかったです。

鈴木さん:私たちも同じです。磐田市は大手企業と連携しましたが、重要だったのは企業の規模ではありません。市の課題や「解決したい」という思いを理解し、寄り添ってくれる提案をしてくれたことが選定のポイントでした。

晝田さん:なるほど。スタートアップや大手企業という区別ではなく、「寄り添ってくれるかどうか」が選定において重要だったのですね。

坪沼さん:そうですね。製品やサービスの内容や質ももちろん大切ですが、私たちの市のために真剣に考えてくれているという思いが、共創したスタートアップの2社からは強く感じられました。

晝田さん:最終的な選定の決め手は、「思い」の部分だったということですね。では、公務員の方々から見て、「一方的な営業」と「共創」の違いはどんなことでしょうか?

鈴木さん:やはり、「思い」や「気持ち」が伝わってくるかどうかだと思います。提案してくださった多くの企業の方々と面談した際、私たちが求めている提案ではなく、相手がアピールしたい製品の話をされたときなどは、「ちょっと違うな」と感じました。

晝田さん:重要なのは、矢印が「自分」ではなく「相手」に向いているかどうか。つまり、自分の視点からではなく、相手の立場に立って共に考えること。これが「共創」の本質ですね。では、実際に企業と連携を始めてから、行政側の役割として意識したことはありますか?

坪沼さん:私たち行政の役割は「調整」だと考えています。市役所内での調整や、歯科医との調整、市民との調整など、さまざまな関係者との調整が私たちの責務です。

晝田さん:なるほど。予算についてもお聞きしたいと思います。実証実験を行うための予算は、どのように対応されたのでしょうか?

鈴木さん:今回は、企業が負担してくださいました。通常、行政では予算の確保が非常に難しい課題となります。特にヘルスケア事業では、効果が現れるまで時間がかかるため、短期間で具体的な効果を示すことが難しいのです。そのため、財政課に提出する資料作成が重要で、予算獲得に向けた戦いが必要になります。

晝田さん:まさにここにも、官民連携の成功のポイントが見えますね。予算獲得に役立つデータや情報を企業が提案していけば、行政にとってこんなに心強いことはない。また、ふるさと納税の活用など、市税だけに頼らない方法を企業側から提案することもできるでしょう。予算獲得の方法を官民が共に考えることは、「予算」という壁を乗り越える手段になりますね。

では最後に、これから官民連携による共創を進めていく方々に向けて、エールをお願いします。

坪沼さん:官民連携を通じて多くの経験をさせていただきました。嬉しいこともありましたが、大変なことも多々ありました。多くの壁を乗り越え、私自身も成長することができました。官民連携は、そこに携わる人も成長させてくれると実感しています。

かすみがうら市では歯科ケアから始めましたが、今後は健康づくり全般にわたる、さらなる取り組みを進めていきます。かすみがうら市と一緒に取り組んでみたいという企業の方がいましたら、ぜひお声かけください。

鈴木さん:磐田市も課題はまだまだあります。この企画を一つのきっかけに、多くの課題の解決につなげていきたいと考えています。行政は「縦割り」とよくいわれますが、実際には、役所の中でも他の科の職員ともチームを組んでいます。今後は、企業の方々ともチームを組みながら課題解決を進めていきたいと思っています。磐田市の取り組みに共感いただけましたら、声をかけていただけますと嬉しいです。

大西さん:みなさん、ありがとうございました。官民が共に悩み、考えながら進めていくことが、連携成功のカギだとよくわかるディスカッションでした。当局でも引き続き、共創型の官民連携を推進していきます。

【取材後記】

今回の取材を通して、官民連携における「共創」の重要性を改めて実感しました。かすみがうら市や磐田市が企業と手を取り合い、それぞれの強みを活かして課題解決に向けて取り組む姿は、非常に印象的でした。特に企業が単なるサービス提供者としてではなく、自治体に寄り添い、共に未来を創り出そうとする姿勢が成功のカギだと感じました。

何度も対話を重ね、共に考え、信頼を築いていく過程こそが、官民連携を成功に導くポイントであると強く感じます。取材を通して、「共創」の重要性を改めて確認。官民連携が今後さらに広がり、日本の未来を明るく照らしてくれることを期待しています。

〈企業データ〉

会社名:株式会社 官民連携事業研究所

事業内容:官民連携事業の推進、創造及び開発、情報の提供サービスなど

所在地:大阪府四條畷市岡山東1-10-5 忍ヶ丘センタービル 6F

資本金:900万円

〈自治体データ〉

自治体名:かすみがうら市

市役所所在地:茨城県かすみがうら市大和田562番地

市民数:39,991人(2024年8月現在)

〈自治体データ〉

自治体名:磐田市

市役所所在地:静岡県磐田市国府台3-1

市民数:165,856人(2024年8月現在)

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