健康経営インタビュー:人材派遣健康保険組合(後編)

短期・断続就労による派遣社員の生活において、生活習慣病の予防など、元気に働ける身体作りをサポートしている人材派遣健康保険組合。今回は、常務理事の伊藤 康子さん、業務部長の佐藤 貴弘さん、業務部保健事業課係長の野村 恒さんにお話を伺いました。インタビュアー:株式会社セルメスタ 代表 熊倉 利和

前編では、データヘルスの取り組みや情報提供通知のアプローチなどについてお伺いしました。後編となる本記事では、ご加入いただいている事業所へのアプローチについてお話しいただきます。

4. 事業所へのアプローチについて

─ 被保険者ではなく、事業所に対してはどのようなアプローチをされていますか。

佐藤さん:事業所に向けて、健康診断の受診率やかかった医療費、生活習慣病のリスクがある方の人数や、受診勧奨をしているけれど未だ病院に行っていない方の人数など、様々なデータをまとめて年に1回お送りしています。ご自身の事業所が、全事業所の平均と比較してどの位置にいるかなども分かるようにしています。

─ 320カ所全部にお送りしているんですか。

佐藤さん:加入者数が少ない事業所の場合は、その事業所が属しているグループ会社全体の中に含めて送ることもあります。疾病分析なども記載しているデータなので、人数が少ない事業所だと誰だか特定できてしまう場合がありますので。

─ そうですよね。実際、事業主とコラボヘルスを進める中で、こういったセンシティブなデータを出していいのかと二の足を踏む総合健保さんもあります。そういった部分で議論はありましたか?

佐藤さん:ありましたね。やはり事業所への説明が必要だと思います。事業所にお送りしているのは、あくまで事業所という集団としての分析結果であって、自事業所の状況をまずは把握いただくことが目的であることを説明しています。そのうえで、自事業所のこのようなデータを見ると、「緊急を要するリスクがある社員や派遣社員が、受診勧奨の後、ちゃんと病院に行ったかどうかを知りたい」といった確認が事業所からくることもあります。
当組合では、受診勧奨後、4カ月間のレセプトを追跡して通院開始がみられない方に、再度の受診勧奨をしているのですが、同意を得た事業所とは、高リスクにも関わらず受診勧奨をしても病院に行っていただけない方について、事業所の産業医などの方からもお声がけしてくださいと、コラボヘルスとして、共に対象者にアプローチすることも実施しています。

─ 踏み込んでいらっしゃいますね。個人情報の取り扱いについてはどのようにされていますか。

佐藤さん:経済産業省・厚生労働省が出している「健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン」という通知などに基づいて行っています。レセプトなどのセンシティブな情報を事業所にお教えするわけではなく、「受診勧奨の後、病院に行ったかどうか」程度の情報にとどめています。これは、個人情報の取り扱いについて、本人が知り得る状態に置いていれば、個別の同意は必要ないとされている対応でして、当組合ではホームページに個人情報の取り扱いや利用範囲を詳細に掲載しています。
現在、大手を中心に46事業所とコラボヘルスを実施しています。単に事業所にコラボヘルスのご案内を送るだけでなく、実際に事業所に訪問して、説明とお声がけをさせていただいています。

─ 個人情報の取り扱いについては、苦慮されている健保さんも多いですからね。

佐藤さん:苦慮されている健保は多いかもしれませんね。個人情報に関する法律、通知、通達、こうしたガイドラインを基に、適正に実施することが重要だと思います。
定期健診は事業所主導で実施していますので、事業所は当然、健診結果も把握しているものと思います。あとは、高リスクであった方が、その後病院に行ったかどうかだけですので、センシティブな情報をやり取りするわけではありません。

─ 特定健診についてはどうですか。

佐藤さん:被保険者については、定期健診の検査項目に含めています。当組合と事業所とで共同実施の形をとり、受診費用を折半しています。被扶養者の特定健診の費用については、全額健保負担です。

─ データヘルス計画が立ち上がる以前から様々な研究をしてこられて、効果測定もしっかりされていますね。

佐藤さん:去年に比べて今年の健診の結果はよくなっているといった効果測定でもいいのですが、当組合がなぜここまで効果測定をやるかというと、やはり医療費を抑制するという部分が大きいですね。「情報提供通知(健診結果付き)」事業を立ち上げるからには初期費用など諸々の費用がかかりますし、しっかり効果測定をして結果を出さないと、理事会にも報告できませんので。
この事業を開始したのは平成24年ですが、事業開始にあたっても、理事会に効果予測をしたうえで、お諮りし、承認いただきました。

─ 健保は「多少医療費がかかってもリスクが高い人は病院へ」という姿勢。これを事業としての目線で見ると、なかなか承認がおりにくい部分があるのかもしれませんね。

佐藤さん:実際に効果が出たのはよかったと思っています。一方で、そもそも健康診断を受けていただかないと我々もリスクを把握できない、という壁にあたりました。以前は、派遣会社の健診受診率は高くなかったので、これを高めようと。そこで、事業所に向けてのアプローチとして、組合会の事業所名を明記した各種数値を理事会・組合会で共有することにしました。「健診受診率」「健診未受診者/生活習慣病罹患人数の割合」「ジェネリック医薬品利用率」などの数字を記載し、自身の事業所名も出ていますので、自事業所の状況を、目に見える形で組合全体の数値やほかの理事会・組合会事業所と比較していただける内容にしています。1年後にモニタリングする旨も含めて、あらかじめ理事会・組合会でお話し、承認をいただいたうえで出しています。

─ すごいですね! 総合健保さんで、ほかにここまでやられているところはありますか?

佐藤さん:他の状況は存じ上げないのですが、当組合の場合、理事会・組合会の事業所だけで、被保険者数の8割を占めていますので、ここさえ押さえれば全体に響いてきます。データヘルスに関するどんな取り組みも、まずは健康診断を受けていただかないと始まらない。ですので、事業所にも協力をお願いしているということです。

伊藤さん:本来、健診受診率は100%でなければいけませんからね。

佐藤さん:健診の受診率を大幅に引き上げてくださったり、ジェネリックの利用率を上げてくださったりした事業所には、今回、表彰も行いました。

事業所に贈られる盾

─ こうして被保険者へのアプローチもあり、事業所へのアプローチもあり、ひとつのやり方ができあがってきたことが分かります。今後のコラボヘルスの展開や課題などを教えてください。

佐藤さん:課題としては、コラボヘルスとして一緒にやらせていただく事業所を増やすということ。我々としては、やはり全事業所とコラボヘルスを実施して、全事業所に健康になっていただきたいと考えています。また、2年以下など短い在籍期間の方たちをどうフォローするかも検討しなければいけません。たまたま短い期間で転々としているだけで、当組合には累計で長く加入していただいている方も多いと思いますので。婚姻によって苗字が変わっている方などもいるため、現在は、名寄せして照合することができませんが、将来的にはマイナンバーを活用できないかと期待しています。

伊藤さん:派遣社員のみなさんを取り巻く環境も、少し前までとは変わってきています。健康の意識をどう上げていくか、健保組合と事業所が協力して進めていくことが大切だと考えています。

─ 第1期、第2期ときて、これからの展開が楽しみですね。

佐藤さん:第2期であっても、データヘルス・コラボヘルスの事業は続けていきます。いま社会的に健康経営が盛り上がっています。事業主単体でも、まずは従業員の健康診断の受診率を高めたり、従業員の状況を知っていただいたりしたうえで、様々な施策に取り組んでいただきたいと考えています。ホワイト500などにも積極的に申し込んでいただきたいですね。

─ 本日はありがとうございました。

<企業データ>

名称:人材派遣健康保険組合
所在地:〒112-0013 東京都文京区音羽2-10-2 音羽NSビル
加入事業所数:319事業所
被保険者数:418,961人
被扶養者数:67,439人