時間が不規則な出版業でも健康経営を実現。 ユニークなアイデアと根気が成功の鍵。

時間が不規則な出版業でも健康経営を実現。 ユニークなアイデアと根気が成功の鍵。

2017年、2018年と2年連続で健康経営優良法人(中小規模法人部門)に認定された株式会社テニテオ。仕事柄どうしても働く時間が不規則になり、残業も多い出版やイベント業界において、自己主張の強い社員たちをいかにしてまとめ、健康経営を推進していったのでしょうか。ご担当者3名にお話を伺いました。 (インタビュアー:株式会社セルメスタ 代表 熊倉 利和)


1.残業時間は枠を狭めながら徐々に少なく

——では、まずは御社の事業内容について教えてください。

井上さん:はい。一つは出版事業でパチンコホール情報誌『月刊パチンコウォーカー』、子育て情報誌『teniteo』という自社媒体を発行しています。紙媒体もやっていますが、メインとなるのはWeb媒体ですね。そのほかにも「テニーとテーオ」というキャラクター事業やイベント事業もおこなっています。

母の日に感謝を伝えるイベント『ハハノワ』は、お陰様で前回は1万8千人もの大勢の方にご参加いただきました。さらに、夏休みにご家族で芝生の上に寝転び、大型スクリーンで映画を鑑賞する『月あかり映画祭』など年4回イベントを開催しています。

——私たちの暮しを楽しくしたり、子育て支援や家族の絆を深める事業を展開しているのですね。そんな御社が、健康経営に取り組むようになったのはなぜでしょう?

井上さん:出版やイベントという事業柄、どうしても時間が不規則になりがちです。以前は朝の出勤時間が決まっていただけで、夜いつまで働くかは、社員それぞれの裁量に任せられていました。

そうすると、どうしてもダラダラしてしまう部分も出てくるんですね。私自身、デザインの仕事をしているのですが、前は締め切りに追われ、夜遅くまで平気で残業していましたし、「今日は徹夜だな」となった場合、途中でお風呂に入ったりもしてました(笑)。ですが、こんな不規則な働き方をしていたら健康に良くないのはもちろん、仕事の効率も悪くなるし、自分のプライベートの時間も確保しにくい。ですから、健康経営の取り組みとして、まず働く時間の見直しから始めました。

とはいっても、今日から「○○時までに必ず帰ってください」といきなり変えるのも無理があります。そこで、最初は「22時までには帰りましょう」と実現可能な時間から始め、段階を踏んで徐々に残業時間を少なくしていきました。制作のスケジュールも締め切りなどに余裕を持たせるようにしたんです。

また、以前なら勤怠管理も「何時から何時まで会社にいました」と紙に書いて事後報告のカタチをとっていましたが、グループェアなどのITツールを導入し、「何時から何時まで、どこで働いたか」と個々の勤務時間も自動的にわかるようにしました。そうなると、本人だけでなく、総務など周りの人たちも「働きすぎていないかな」とチェックできるようになるんです。

このようにして、残業時間を少なくしていき、今では、9時30分から18時30分までが定時。勤務可能な時間帯を8時30分から20時と枠をしっかり決め、締め切りなどどうしても仕方ないときに限り、事前申請で22時まで勤務可能としてあります。

これによって、以前の個々に任せきりにしてダラダラと長く働くというスタイルから、できるだけ勤務時間を短くし、決められた時間の中で集中して仕事をおこなうというスタイルに変えることができたんです。

——とは言っても、出版の仕事では納期は絶対ですし、社員の方それぞれに慣れ親しんだ働き方があります。簡単には変えられなかったのでは?

谷山さん:おっしゃる通りです。特にキャリアの長い人ほど自分のやり方を持っています。実際、「こんな時間に仕事を終わらせられるわけがないだろう」と最初の頃は反発する人もいました。

ですが、井上君は行動的で自分でやってみせる率先垂範タイプ、私は言葉で理論的に伝えていくタイプですから、それぞれ役割を分担しながら、健康経営のメリットや意義を理解してもらえるように根気強く説得していきました。

そうやって不平不満もある中でも、実際に取り組み始めると、「案外できるかもしれない」と一人ひとりの働き方、スケージュル管理の意識が徐々に変わり始め、今では「遅くても20時までには仕事を終わらせる」という共通認識が浸透しています。

2.斬新なアイデアで個性豊かな社員を一つに

——実際に健康経営を押し進める上で大事にした点、心がけたところなどはありますか?

井上さん:やはりコミュニケーションですね。先ほどの話にも通じますが、出版やイベントという仕事柄、やはり自己主張や個性の強い人も少なくありません。仕事ではそれが良い面に働くことも多いのですが、「さあ、健康経営に取り組みましょう」と言っても、そう簡単には動いてくれなかったりもします。ならばと、まずは社員同士のコミュニケーションを活発し、何でもざっくばらんに話し合えるように、会社全体の風通しを良くしていくことに力を入れました。

たとえば、クジ引きで3ヶ月ごとに席を変えていきました。普段、同じ仕事だけをしていると、ほかの部署との付き合いはあまりありません。そこで席替えをして、部署を越えたコミュニケーションを図ることにしたんです。

——普通に考えると、同じ仕事をする人が集まっていたほうが効率も良く、仕事も捗りそうなものですよね。

そうなんです。私自身、本当に大丈夫かな、と不安に思う部分もありましたし、実際、反対の声も聞こえてきました。ですが、仕事に使う資料などは分野別にキャビネットで保管するようにするなど工夫をこらしながら、まずは始めることにしました。すると、これもやってみると、徐々にできるようになっていくんですね。

思わぬ相乗効果もありました。デスクも席替えを前提に使うので、自分のデスクにはできるだけモノを置かないようになるなど常に整理整頓を心がけ、仕事の効率も高まりますし、外部への情報漏洩を防ぐことにも役立ちます。

服部さん:それに、違う部署の人が隣にいると、仕事の相談をしたときにも、同じ部署の人とはまったく違う視点で意見をもらえて、発想が広がっていきます。また、違う部署の人だからこそ、気楽に相談できる部分もありますから。

——なるほど。健康経営優良法人の認定項目にも、組織内のコミュニケーション促進がありますものね。

服部さん:そうなんです。最初、正直とまどっているように見えた人もいましたが、
今ではむしろ「来週、席替えだね。誰の近くになるかな」と楽しみにする人も増えています。

コミュニケーションといえば、残業時間が減ったこともあり、仕事終わりに社員同士でご飯に行くことも増えました。仕事が遅くなっても20時ですから、軽く一杯飲んでもいいかな、となる時間ですからね。

今取材していただいているこのオープンスペースも、夜はみんなに解放され、お酒を飲んでもいいし、ご飯を食べてもいい。懇親会を開いたり、大型スクリーンを使ってゲームしたりして、社員同士のコミュニケーションの場にもなっています。

——最初は不安でも、やってみると社内に変化が起きるんですね。健康診断の受診率はどうですか?

井上さん:1OO%です。再検査になった場合も費用は会社が全額負担します。それに総
務部からも「健康診断に絶対に行ってくださいね」とチェックが入るので、行くしか
ありません(笑)。

——それはいいですね。再検査の受診率を上げるのも、健康経営優良法人の認定項目に入ってきていますからね。ところで、御社は社員だけでなく、社員のご家族の健康も大切にしているとお聞きしましたが……。

井上さん:はい。社員の健康診断だけでなく、3年前からは被扶養者の健康診断も会社負担でおこなっています。また、母の日に希望者の実母または実祖母に花が贈られるなど、社員だけでなく、その家族のこともとても大切に考える会社です。健康経営に取り組み始めた大きな目的の一つも、社員のプライベートや家族との時間を大切にできるようにするためなんです。

谷山さん:ですから、長期休暇制度も再整備しました。もともとは8年勤務したら2週間、10年なら1ヶ月間の休みをもらえるという制度がありました。ですが、仕事をしていると、なかなか取りづらい面もあります。なので、毎年1週間の長期休暇を義務化するなど、休みが取りやすくなるように制度も変えています。

3.被禁煙者に月1万円、世帯主に野菜・お米を支給

——そのほかにも健康経営で取り組んでいることはありますか?

井上さん:はい。世帯主に野菜やお米を支給しています。これは、もともと野菜が不足がちになりやすい一人暮らしの社員に向けて始めたもので、最初の頃は野菜を社員の自宅に届けていました。

今は月に1回、業者さんにお米と野菜を会社に運んでもらって、そこから、それぞれが持ち帰るようにしています。野菜は7種類くらいあって種類が豊富ですし、お米も玄米か白米かを選べるようにしてあります。現在では、一人暮らしを含めた世帯主の社員が対象となり、20数人の社員が利用しています。

谷山さん: 2013年からは、非喫煙手当が出るようになっています。これは、煙草を吸っている人が、禁煙を始めて3ヶ月後から手当がもらえるようになるもの。ちゃんと禁煙できているかどうかは、上長など周りの人が責任を持ってチェックしますから、ズルはできません(笑)。

服部さん:非禁煙手当は煙草を吸っていない人がもらえるものですから、もともと吸っていない人は、何もしなくても給料が1万円増えるというわけです。

——禁煙するためのプロセスで費用補助する会社はありますが、禁煙した後に手当を支給しているのを聞いたのは初めてです。いや、驚きました。どのようにして禁煙を社内に進めていったんですか?

谷山さん:これも残業時間を少なくしていったときと同じで、最初から全面禁煙にするのではなく、まずは「午前中は煙草を吸わない」などにして、徐々に禁煙の時間を伸ばしていく方法をとり、今は勤務時間中は禁煙となっています。

それまで煙草を吸っていた人も、ある程度の時間我慢してみると、「あっ、このまま吸わなくも大丈夫かも」という人が出てきますし、手当ももらえるわけでまさに一石二鳥。「じゃあ、禁煙しよう」という人が増えていったんです。

会社として休憩時間はしっかり設けていますが、煙草を吸う人は喫煙スペースまで行って吸うわけですから、「それも休憩時間なんじゃないのか」と吸わない人から見たら不公平にも感じるわけです。そんな非喫煙者の不満の解消にもなっているかもしれませんね。

井上さん:でも、喫煙者からしたら、その時間も煙草を吸う者同士で仕事の打ち合わせをしたり、根回しのようなこともしますので、仕事の一部でもあるんですよ。そういう私も、今では禁煙してしますが(笑)。

4.採用戦略にも好影響。認定が応募者の安心材料に

——出版やイベントは仕事がハードというイメージがありますし、特に今は人手不足です。健康経営に取り組むことで採用などに影響が出ましたか?

服部さん:おっしゃる通り、特に今の学生さんは、労働環境などをとても気にされます。「出版には興味があるけれど、徹夜仕事はちょっと……」「イベントの仕事で休みはしっかり取れるのだろうか」と不安に思う方も少なくありません。

会社説明会などで労働時間や休日についての説明を受けても、学生さんからしたら、それが本当かどうかわからない部分もあります。その点、健康経営優良法人認定は誰に目にも明確にわかるもの。「当社は健康経営優良法人認定企業です」ということをホームページなどで謳うことで、応募される方にとって大きな安心材料になります。

谷山さん:当社はこれまで中途採用が中心で、新卒はほとんど採用していませんでした。正直、残業も多かったですし、新卒が採りづらい社内環境ということもありました。ですが、健康経営に取り組み、残業時間も少なくすることで働きやすい環境が整いましたし、健康経営優良法人の認定を受けたことでイメージアップになりましたので、2年前から新卒採用も本格的に始めています。

服部さん:ですから、即戦力の人材は外部のパートナーさんにお願いして、新卒をじっくりと育てていくというふうに、人材採用や人材育成の方針も固められるようになってきました。

5.思わぬ落とし穴も……。申請書類は慎重にチェック

——健康経営に力を入れ、2017年、2018年と連続で認定を受けたのに、なぜか2019年は一回お休みとなってしまいました。

服部さん:そうなんです。お恥ずかしながら、それは私たちのうっかりミスが原因です。認定のための取り組み自体は、2019年も全部適合していて自信があったので、申請が通らなかったときは、正直驚きました。

それで問い合せをし、不適合だった項目を教えてもらったところ、提出書類の不備など本当に単純なミスに原因があることがわかったんです。健康経営にしっかり取り組むだけでなく、申請の段階でも慎重にならなければと反省しているところです。

——健康経営をおこなっている企業の人事・総務の方であったり、健康経営アドバイザーを目指す人であったり、どちらかというとB to Bの読者が多いですね。『健康経営の広場』としては、有益な情報を伝えるとともに、そういう方々の横の繋がりも作っていければと考えています。ですから、今年はメディアだけでなく、イベントなどリアルでもそういう場を作りたいと思っているんです。

——そうだったんですね。それではこれからも健康経営を続けていくということですね。

井上さん:もちろんです。やりたいこと、やるべきことがまだまだたくさんあります。個人的には、社内コミュニケーションをさらに高めるため、社員旅行を実施し、みんなでワイワイ楽しみたいですね。

谷山さん:でも、今の時代、社員旅行に行くなんて面倒だと思う人もいるんじゃないかな。

井上さん:いや、いや、仕事を離れても会社のみんなと一緒にいることが何よりも楽しいと全社員に思ってもらえるように、僕はしたいんですよ。

服部さん:熱いですね(笑)。「認定を受けたら取材が来るよ」と聞かされていましたが、今回が初めての取材の申し込みで「あっ、ついに来たか!」と思いました。ところで、『健康経営の広場』はどんな人たちに読まれているんですか?

谷山さん:それはいいですね。2019年4月から働き方改革法案も順次施行されていますし、今、まさに大きな転換期にあります。出版やイベント業界はもちろん、広告代理店なども含め、産業界全体で協力し、情報を交換しながら健康経営を押し進めていく必要がありますからね。

インタビュー後記

事業の成長戦略と健康経営が見事にリンクさせたテニテオ。たとえば、紙媒体の出版だけなら、今までの働き方でもやっていけたかもしれない。しかしながら、Webやイベント事業にも進出するとなると、これまでとは違ったやり方が求められる。たとえば、前日深夜まで働いてそのまま朝からイベント開催というのでは、どうしても無理が出てきてしまう。

まずトップの社員に対する想いや確固たる事業戦略があって、その想い、戦略を担当の社員がしっかり汲み取り、健康経営を推進できている。経営と現場の距離の近さという大企業にはない中小企業の強みが活かされた事例でした。

<企業データ>
会社名:株式会社テニテオ
事業内容:WEB.APPサービスの企画開発運営、出版事業、イベントの企画運営、編集。
ライティング・デザイン・撮影、広告代理業、他
所在地:愛知県名古屋市中区栄1-31-41 大井ビル5F
従業員数:46名

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