「健康関数」を支えるセンサー。非接触、非侵襲で未病状態を判定

1,センシングの今

センシングの今
理化学研究所 健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム 事業化グル
ープ 連携促進コーディネーター 小林 洋氏
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セッション2「健康関数を支える技術・サービス」では、座長を務める理化学研究所の小林洋氏が登壇。導入として「センシングの今」をテーマに講演しました。

セッション2では、実際に健康関数、リサーチコンプレックスで行っている研究開発で一緒にデータを取り、解析し、インデックスにしていこうという4つの企業に講演をしていただきます。私の方からはイントロラクションとして、センシングということの考え方をお話しします。

これは私の私見ですが、自律神経でいろいろなものが結びついているような気がしています。かつてメタボリックシンドロームということで、そういうムーブメントが来ましたが、ここからは自律神経シンドロームというムーブメントがきてほしいな、ということも含めて説明させていただきます。

今日お話ししているのは、健康の状態での予防。残念ながら病気になり、二次予防、三次予防という形で医療にかかります。それ以前の未病です。正常な段階で自分の体がどう変化しているのかを見るところにフォーカスを当てています。

医療では、二次予防、三次予防のセンシングは高度医療のところでもまだまだ研究開発されますが、十分なレベルに達しています。これに対して、今回フォーカスを当てている未病のセンシングはこれから開発が進む分野です。

健康関数のプロジェクトでは、まず1000人を計測して、未病としての指標を作りました。それから第2番目のステップとして、1万人を現在計測しています。それは健康計測から出てきた指標が実際のフィールドでどういう形で評価されるのか。総合指標としての健康関数というものが作れるかという第三ステップのところまできています。

そして第四ステップは事業化へのステップになります。各企業が健康関数をそのフィールドでどういう使い方をするのかがポイントです。健康、サービス、薬品、食品、生活、美容、環境など事業分野は多岐にわたります。

この中でセンシングデータが必ず必要になります。一つ一つのステップで入ってくるデータの品質というか、量というか、そういうものも変わってくるということで、センシングされたデータをどう活かしていくかもポイントになります。

例えばセンシングデータの変動性ということで、生体データは必ず変動しています。朝起きてトイレ行ってご飯を食べて、タバコを吸うと必ず血圧が上がります。それから職場で上司に怒られたら上がります。そういう繰り返しがあるわけです。

ただ、検診のデータはまだまだワンタイムで、安定したときに取っています。ここの課題として変動するセンシングデータをどう扱うかも課題になります。例えば、アップルウォッチ4やフィットビットは、24時間、夜も追随します。ウェアラブルの端末がそういう領域まで近づいてきています。

アボット社のフリースタイルリブレは、24時間貼ったままの血糖計で、これも貼って測っていくと、24時間の血糖値の変動を記録することができます。血を出さずに非常に正しい血糖値を測れると言われています。

例えば、無呼吸症の人が呼吸が止まってから復活するためにはとても力がいります。そこで血圧が200ぐらいまで上昇します。非常に危険な血圧の状態になりますが、これもセンサーで測れるようになって見える化できるようになりました。

それから使える人たちの幅を広げていくということがあるわけです。自律神経を測る装置、心電心拍、不整脈を測る装置、血糖計、アレルギーを測る、これに非接触のセンシング、非侵襲ウエアラブルセンシング、低侵襲センシング、インプラントで埋め込むというところまで技術は進んでいます。

スマートフォンを使った治療支援サービスに取り組むベンチャーもあります。ウェルビーという会社は、PHR(Personal Health Record)をベースにそれぞれの疾病に対して、専用アプリを提供し、服薬管理などさまざまな治療支援サービスを行っています。

これから、非接触や非侵襲などセンシングで、健康関数の開発を大きく支援していただいている4社にプレゼンテーションいただきます。

2.クラウド仕様の自律神経判定による疲労ストレス測定器

クラウド仕様の自律神経判定による疲労ストレス測定器

株式会社疲労科学研究所  代表取締役 倉恒邦比古氏
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次に登壇したのが、創立15周年を迎える疲労科学研究所の倉恒邦比古氏です。同社は非侵襲で疲労ストレスを計測する技術を持ち、昨年には「心の血圧計」と銘打つ疲労ストレス計「MF100」を村田製作所から発売しました。まず倉恒氏は、同社の設立の経緯から語り始めました。

15年前は国公立大学大の独立行政法人化の年で、大阪市立大学で疲労関連の研究がされていまして、そういうものを特許申請できるようになりました。しかし先生方は特許申請している時間がない。それでは会社組織にしてそういうものをやろう、ということで先生方の出資により当社が設立されたという経緯があります。

当社は社名の通り、疲労を科学することを目的に、当初から疲労の定量化、数値化に取り組んできました。そこで注目したのが自律神経を測定して評価することです。臓器の中で唯一、自律神経が分かるのが心臓の動きです。心臓で一般的に分かる心拍は、交感神経と副交感神経により早くなったり遅くなったり揺らいでいます。

この変化しているデータをセンサーで90秒から120秒測定し、拍数にしますと100~150拍の揺らぎを周波数解析すると、非常に低い周波数帯LF(0.04Hz ~0.15HZ)に交感神経が反映され、高い周波数帯HF(0.15Hz~0.4Hz)に副交感神経が反映されています。

これの数値をそれぞれ記録して、バランスを見たり、活動量を見たりということで評価をすることができるようになりました。こういった評価は、理化学研究所と大阪市立大学の先生方のご指導で完成させました。

なぜ疲労を測る必要があるのでしょうか。いわゆる疲労感と疲労の違い、これは日本疲労学会の話題になっています。ご自身が興奮したり、高揚したりするときは、本来疲れていてもなかなか疲労感を感じないところがあります。

ところが実際には疲れているということで、ある日突然の発熱や急性ストレスに陥ることがあります。毎日自分のストレスを客観的に評価するということが非常に重要です。

脳は神経を通じて体を制御しているのです。神経には体性神経、これは運動神経とか感覚神経、自分でコントロールできる神経です。自律神経は自分ではコントロールすることはできません。これがフル回転すると脳が休むことができません。ここが疲労というかたちになるわけです。

センシングのほうは村田製作所が疲労ストレス計「MF100」を開発しています。使い方は右手の親指をセンサーに入れていただく。左手を金属板の上に置いていただくだけで、非侵襲で簡単に計測できます。左右の電子差で心電計、親指の血流の変化で脈波が取れる、というように脈波と心電を同時に取れるという大きなメリットがあります。

このセンサーが計測した情報をブルートゥースでスマホに飛ばして、それをWi-Fiで当社のクラウドサーバに送り、その結果をスマホの専用アプリに表示することができます。

そのときにリラックスできているかどうか。交感神経有利で緊張気味なのか。多すぎてストレス下か、慢性的な疲労状態か、意欲低下・極度のリラックス状態かなどがアプリのマトリックス上で分かります。

3.カメラによる非接触自律神経計測技術

カメラによる非接触自律神経計測技術
株式会社リコー 研究開発本部 リコーICT研究所 画像応用開発センター オプトメカトロニ
クス開発室 オプトメカトロ二グループ 船橋一樹氏
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得意の画像解析技術を応用し、非接触で自律神経を計測できる機器を開発したリコー。同社の船橋一樹氏が登壇し、「カメラによる非接触自律神経計測技術」をテーマにプレゼンテーションしました。

弊社からは別のアプローチで、カメラを使って非接触で自律神経を計測できる技術についてご紹介させていただきます。こちらの技術は、当社の研究所で開発しました。また、研究開発だけではなく、リコーの中のスマートビジョンという部門で製品化も検討しています。

この技術では、汎用カメラで撮影した画像から脈拍を検出して自律神経機能を計測することができます。脈拍の間隔を周波数解析することで自律神経を計測するというところは従来の技術とまったく同じです。

異なるのは脈拍を顔画像の肌色の時間変化から検出するところです。具体的に申しますと、心臓が血液を送り出しますと血液の量が時間とともに変化し、それに応じて肌の色が目で見てもほとんど分からない程度に時々刻々と変化します。これをカメラで捉えて脈拍の情報を取得するという原理となっています。

実際にこうしたアプローチで脈波を取得しようとすると、取得できる脈波の質が非常に悪いという課題に突き当たります。非接触で取るのでノイズが多く載ります。また、カメラのフレームレートの問題で、サンプリング周波数が低いと時間分解能が低いという課題もでてきます。

弊社としてはそういう課題に対して、もともとプリンター開発技術で培った画像解析技術が強みとしてありましたので、これを応用することで、非接触での計測でも高精度に自律神経を計測することに成功しました。

実際の精度検証は、理化学研究所と共同研究で実施させていただいておりまして、これまでに臨床試験の実施やリサーチコンプレックスでの1000人計測でのデータを利用して検証を継続して行っています。

実際に汎用カメラから測定したデータでも、接触計測器との相関係数として0.95以上という高い相関で計測できるというところを確認しています。

この技術では健康関数に必要な自律神経というデータをパソコンやスマートフォンなどの端末を使って非接触で簡単に高精度に計測することができます。

この技術を健康関数と組み合わせることで、これまで以上に日常のさまざまなシーンで健康度、未病の状態を評価することが可能になると考えています。これは測定する場が増えるということもありますし、測定できる頻度やタイミングが増えることでもあります。

さらに実際に健康館数でマッピングした結果に基づいて、その人に合った最適な健康ソリューションと組み合わせていくことで、実際に健康増進とか、病気リスクを低減するためのサービスの可能性があると考えています。

4.認知機能の見える化「脳活バランサーCogEvo」

認知機能の見える化「脳活バランサーCogEvo」
株式会社トータルブレインケア 代表取締役社長 河越眞介氏
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続いて登壇したのがトータルブレインケアの河越眞介氏。同社は5分で楽しく認知機能が見える化できるクラウドシステム「脳活バランサーCogEvo」を提供しています。

認知症予備軍は2014年に900万人でしたが、団塊の世代が75歳になる2025年には1500万人。これに伴って、医療介護費も014年に14.5兆円から2015年には24兆円に10兆円も増えてしまいます。この10兆円を何とか少なくしたいなということで事業を行っています。

今、生涯現役の実現と言うことを政府が言い出しています。今までの健康寿命の延伸に加えて、この認知機能の維持がなければ、生涯現役の実現はできないと思っています。

例えば今日、時間管理がしっかりしているので遅れずにここにきました。そこで、空間認識能力や注意力が正確なので途中で転びませんでした。そして記憶力、計画力が正常に働いているので、ダブルブッキングをしていません。今日、ここにおいでの皆さんは認知機能が正常に働いているので、仕事ができているとうことです。

健康の先にあるのは認知機能。認知機能の先にあるのがちゃんと稼げる姿ということになるのかもしれません。で、この5つの認知機能が落ちてくると、生活の困りごとが出てきます。これは認知症の世界でいうとMCI(軽度認知障害)。さらに低下すると認知症ということになります。

認知症になったら医者に行って認知症と診断していただけるのですが、その前段階であるMCI(軽度認知障害)では一般的な神経心理学検査では満点で問題なしと判断されたり、明確な診断基準がないなどの問題があります。

当社の脳活バランサーCogEvoに搭載されているタスクは、リハビリ病院の3割から4割にで導入されており、高機能障害になったときにトレーニングをして社会復帰をするときに使われるプログラムとして使われています。

CogEvoでは、認知機能の特性がわかります。どの機能が得意なのか、苦手なのか、全体のバランスから生活上に影響する可能性があるのか、ということが短時間で分かります。そしてクラウドシステムなので、自宅や職場など使用されているデバイスを使って経時変化が見ることができるということになります。

認知機能が低下してくると様々な生活上の問題が起きる可能性が高くなります。最近では高齢ドライバーの事故がメディア等で報道されていますが、運転機能のひとつである認知機能の低下は事故の要因になります。高齢者だから免許を返納するということではなくて、日々認知機能の変化を把握して、その日の状況によって運転に気を付けるもしくは運転をしないというように心がけることが重要です。

当社は、ヘルスケア分野でビジネスモデルを展開するために、医療の分野で臨床研究を通じてエビデンスを構築してきました。そして今、いろいろな企業の方とお話をしていく中で、ソリューションとCogEvoと組み合わせることによる新たな新商品の開発、そしてAI化、ブロックチェーン等を応用した新産業が生まれるのではないかと期待しています。

また、認知機能がメンタルヘルスやパフォーマンスに影響することから、人事部において採用とか再雇用、メンタルヘルス、EAP(Employee Assistance Program)、ヒヤリハット等での可能性を模索しています。

あるいは若くても認知機能が落ちている方は事故をされるわけです。ですから高齢者だから免許を返納するということではなくて、日々認知機能の変化を把握するということが大事になります。

当社は、ヘルスケアに出て行く中で医療の分野でも正しいエビデンスを積み上げてきました。そして今、いろいろな企業の方とお話をしていく中で、CogEvoと組み合わせることで新たな新商品、AI化、ブロックチェーン、そして新産業が生まれるのではないかと期待しています。

人事部において採用とか再雇用であるとか、メンタルヘルスの問題というよりもパフォーマンスを向上する、EAP(Employee Assistance Program)の企業へも販売を開始しています。あるいはヒヤリハットの問題。やはり認知機能の低下に伴い、いろんな事故が起こります。保険会社との協業も進んでいます。

電子顕微鏡やMRIで見えなかったものが見えると一気にサイエンスが進歩します。認知機能が見えるということで、いろいろなサービスを作ることができます。そして世界へ行きたいと思っています。

5.毛細血管スコープによる未病の可視化

毛細血管スコープによる未病の可視化
あっと株式会社 代表取締役 武野 團氏
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セッション2の最後に登壇したのが、あっとの武野 團氏です。大阪大学と共同開発した同社の血管スコープは、毛細血管画像を3秒で数値化できる世界初の毛細血管解析システム。テレビや雑誌にも多く取り上げられるなど注目されています。

私どもは未病の可視化として、非侵襲で指先皮下の毛細血管画像を解析し、新しい健康指標を構築しています。健康科学ビジネスベストセレクションズで大賞をいただいたのがご縁でリサーチコンプレックスに参加させて頂いております。その後、日本総研の主催する未来2018のメディカルヘルスケア部門でも最優秀賞を受賞いたしました。

毛細血管について少し説明しますと、動脈のような三層構造ではなく、一層構造です。毛細血管の役割は、栄養や酸素を細胞に届けるためにあります。血管の95%以上が毛細血管だということが分かってきています。

疾病との関係は、基礎的な研究ではいろいろ研究されておりまして、脳ですと認知症などとの関係や睡眠障害、骨粗鬆症、老化などいろいろなものとの関連性がわかってきています。

それではどうやって毛細血管を見るかといいますと、毛細血管スコープに指先を置くだけで毛細血管の血流を見ることができます。画像で見ると、ヘアピン状のまっすぐで太くもなく細くもなく均一なのがノーマルな状態です。

それに対して数名の糖尿病の方の毛細血管画像を観察すると、短く蛇行している傾向がある事が観察できております。肩こりとか腰痛とか冷えとかを訴える方は、本数が少なく、ちょっとふにゃりとして見えます。

これまでメディアにたくさん取り上げられていまして、NHKスペシャル「ゴースト血管が危ない」のタイトルになった通り、大阪大学微生物研究所の高倉伸幸先生が命名されたゴースト血管という言葉が、キャッチーにいろいろなところで使っていただいています。ゴースト血管自体はもともと血管があったところが、なくなった現象と定義づけられています。

毛細血管スコープを開発した当初は見ているだけでしたが、それを大阪大学との共同研究で数値化できるようにしました。現在はクラウドで解析ができるようになっています。

導入実績としては1000台以上導入頂いておりまして、だいたい300台ぐらいが薬局、最近は企業や研究機関などにも導入が進んでいます。私は健康を見守るのは薬局が最適だと考えています。毛細血管スコープの導入により、薬局の集客やカウンセリングに使われるという想定です。

新しくクラウドで解析したものをQRコードでスマホに表示するアプリ『血管ナビ』を6月にリリースします。ご自身の毛細血管画像管理と点数化の経時変化的に表示することができます。毛細管スコープの設置場所などもこのアプリでわかるようになっていまして、そちらに行ってもらえばご自身の毛細血管を見ることができます。

毛細血管スコープの特徴は、まず非侵襲ということが挙げられます。また、観察から評価までを一気通貫で行えます。簡便に操作ができてリアルタイムで解析ができるのも特徴になります。

リサーチコンプレックスでは、健康計測会に参加させていただいています。1000名データは今年1月に計測完了しまして解析に入っています。さらに1万人計測のほうにも参加させていただいております。

今後のロードマップとしては、ハードの自動化、IoT化、予測、そこに健康関数の要素も加えることで、未病のリスク評価などいろいろなことができると考えています。2019年4月に毛細血管ラボ社会実装コンソーシアムを立ち上げました。大学や病院や企業、研究者の方々と一緒に毛細血管で何がわかるのか研究を進めています。

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