【サイショウ・エクスプレス】健康経営で従業員の意識改革。ドライバーの仕事を新3K(稼げる・健康・かっこいい)に

一人一人のことをじっくり見ることができるという中小企業の強みを活かした健康経営を推し進めているサイショウ・エクスプレスさん。心身の健康はもちろん、従業員の意識改革に着手しながら、質の高い人財採用にも成功。安心・安全だけでなく、付加価値の高いサービス提供へ繋げています。(インタビュアー:健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表  熊倉 利和) 

[サイショウ・エクスプレス株式会社]

齋藤敦士(代表取締役)

1.別れも経験し、命と健康の尊さを知る

――まずはサイショウ・エクスプレスさんについて教えてください。

齋藤さん:はい。運送業と倉庫業を営んでおり、関東圏を中心に配送を行なっています。保有する車両は31台で従業員は26名。平均年齢47歳の会社です。

現在の売上としては、イベント関係で60%、建築関係で40%です。イベント関係でも、スポーツやテレビ局(映像機器)、フェスティバル関連(肉フェスなど)、バーベキュー運営会社など多岐に渡ります。

――長い歴史を持つ会社でもありますね。

齋藤さん:はい。昭和30年に祖父が創業し、この新木場に会社を構えてからも約35年経ちました。創業当時は、江東区千田にあり、木場に近いこともあって材木をメインで運んでいたと聞いています。去年(2021年)、40年近く経営を任されてきた父(現会長)に代わり、私が社長となりました。

――齋藤さんご自身、健康への意識はもともと高かったのですか? 

齋藤さん:いえ、そうでもありません。サイショウ・エクスプレスに入社する前は、修行の意味もあり、大手宅配企業で2年半、ドライバーとして働いていました。上司から「プロのドライバーなのだから健康に気をつけるのは当然だ」と言われたりしたのですが、その上司自身がタバコを吸っていましたし、私自身も吸っており、上司の言葉もあまり響きませんでした。

サイショウ・エクスプレスに入社し、管理職となり、ドライバーのマネジメントをする側になった時も、健康はドライバーにとってとても大事だとは頭ではわかっていました。ですが、私はまだタバコを止められていませんでしたし、部下にも健康を大切にしろとはなかなか言えませんでした。

――そんな状況の中、健康経営に取り組み始めたきっかけは? 

齋藤さん:2017年に健康経営をスタートさせましたが、2015年頃には健康づくりの必要性を感じ、健康経営の構想は頭の中にありました。それというのも、一つには、がんや大動脈解離などの大きな病気をする従業員が毎年のように出ていたこと。もう一つは、これは個人的なことなのですが、私と妻の母が続けて亡くなってしまったことです。私の母が66歳で妻の母が59歳とともに若かった。そして、関越道バス事故(2012年)、軽井沢スキーバス転落事故(2016年)、高齢ドライバーの事故などが相次いで起きていたことも背景としてあります。

そうやって会社、家族、社会の出来事から健康の大切さをひしひしと感じていたある日、新聞記事で健康経営について知りました。当時、私は専務でしたが、まさに当社に必要なものだと思い、私の発案で従業員の健康づくりをしっかりサポートしていこうとなりました。

2.一人一人に合った健康施策を

 

――健康経営を推進する上でどのようなことを大切にしていますか?

齋藤さん:はい。基本的なことを大切にしながら、従業員一人一人のことをしっかり見ることです。健康診断はもちろん、再検査(再受診)も必ず受けてもらい、この3年間は再検査の受診率が100%です。

それと健康管理士さん、看護師さんとの健康面談を半年に1回、あまり状態の良くない人は3ヶ月に1回といったふうに定期的に実施しています。「この人はどんな持病があるのか」「どんな薬を服用しているか」といったこともデータ化。健康診断の結果と健康面談をもとに健康課題を明確にし、それに合った健康施策を行なっていきます。

ドライバーは高血圧や糖尿病が多いといったことも分かってきましたので、講習会も開くようになりました。ただ漠然と病気の話ばかり聞かされるのではあまり面白くないので、もっと具体的なテーマを設定します。

例えば、ドライバーは食事をしようと思っても、車を駐車する場所を探すのにも苦労しますので、コンビニやラーメン屋さんなどになり、栄養も偏りがちです。また、ドライバーは喫煙者が多く、タバコを吸いながら缶コーヒーを飲む人や、カップラーメンを買う人も多いことがわかっています。それならば、缶コーヒーとカップラーメンをテーマに管理栄養士さん、健康管理士さんを交えながら話そうということになりました。

「缶コーヒーやカップラーメンは健康にとってあまり好ましくない」ということを伝え、「カップラーメンは週に一回にする」「缶コーヒーを飲むならせめて微糖にする」といった目標を立ててもらいます。「でも、微糖と言ってもこれくらいの砂糖が入っているよ」ということをさらに説明すると、「じゃあ、缶コーヒーもやめます」といったふうに話をしながら、目標を設定してもらいます。

大きな会社でしたら、「こんな講習会を開きます。こんなイベントをしますから、参加してください」というふうに一方的に進めていけばいいのかもしれません。当社も以前はそういうスタイルでしたが、やはり健康状態やライフスタイルは一人一人違います。健康経営はトップダウンでもできますが、それでは従業員からの声が上がってこない。従業員が主体的に参加できるようにすることが大切なのではないでしょうか。

ヨガやタイ式マッサージ、血管年齢の測定会なども勤務時間内にできるようにしていますが、強制ではありません。会社のほうで様々なメニューを用意し、その中で自分にあった健康法を見つけてほしいと思っています。

3.従業員の意識改革に着手

――健康づくりについては順調に進んでいるようですね。従業員の意識の変化などはありますか?

齋藤さん:健康づくりが進む一方、従業員の意識面での教育が十分にできていなかったことに気づきました。それで一昨年(2020年)から社員教育に力を入れるようになりました。その一貫として仕事の30分前に出社し、トラックの清掃やゴミを拾う整備・清掃活動を始めました。清掃やゴミ拾いで体を動かすことで腰痛などの改善にも効果が期待できますし、仕事前の準備体操がてらやってもらっています。

この整備・清掃活動を従業員にTwitterで配信してもらいます。すると、それを読んでくれた人から、「仕事で疲れているのにゴミ拾いをされているのですね」といったコメントが書き込まれたりして、嬉しくなったり、さらにやる気にさせてくれます。この活動を通じて生きがいや自分の存在価値を見出している従業員もいます。こういったことにも大切なヒントが隠されているのではないでしょうか。

――WHOの定義にもあるように、心と身体だけでなく、他人や社会といかに建設的でよい関係を築けるかが健康には欠かせませんし、こういった取り組みは御社が謳う「新3K(稼げる・健康・かっこいい)」にも繋がるのではないでしょうか?

齋藤さん:そうですね。清掃やゴミ拾いをすれば、物理的にキレイになるだけでなく、心もキレイになると思っていますし、新3Kにも重なります。

――従業員が生きがい、働きがいを感じ、エンゲージメントが高まれば、生産性やお客様からの評価も上がりますね。

齋藤さん:そうですね。実は、お客様と運賃交渉をする際も、先ほどのTwitterをお見せしながら、整備・清掃活動に力を入れていることをお伝えしています。そうすることで、お客様から「御社のドライバーさんは、そういう高い意識で仕事に取り組んでいるのですね」と言ってもらえ、信頼感も高まります。清掃やゴミ拾い活動をすることでドライバーの感性も磨かれ、お客様のお困りになっていることに気づきやすくもなります。

また、自社の敷地だけでなく、お客様の会社の清掃もさせていただいたりもしています。その際、お客様と言葉を交わしたり、コミュニケーションをとることになりますし、普段の仕事をスムーズに進めることに役立ちます。

トラック協会で行なっている横断歩道の旗振り誘導も、他の会社さんは経営者や管理職が担当することが多いのですが、当社ではドライバーにやってもらっています。ドライバーがやることで職種の地位向上にも繋がると思います。業界を変えるのはやはりドライバー自身。従業員には負担をかけますが、理解してもらえるように話をしています。

――なるほど。御社では小学生向けの乗車体験会も開いています。お子さんたちにとっても、あんなに大きなトラックに乗せてもらえるのは、とてもワクワクした体験になるでしょうし、ドライバーさんはそれを見て自分たちの仕事に誇りを感じられると思います。

齋藤さん:おっしゃる通りです。ゴミ拾いにしろ、交通安全の旗振り誘導にしろ、「こんなことをやってもしょうがない」「ゴミ拾いのためになぜ早起きしないといけないんだ」と最初はみんなブツブツ文句を言いますが、続けてくれています。やはり、実際にやってみると気づきが必ずありますから、文句を言われながらもやらせています(笑)。

4.その人が幸せであることが最も大事

――2017年から健康経営を推し進めてきて何か感じることはありますか?

齋藤さん:そうですね。やるべきことは一人一人に合わせた健康づくりですし、健康づくりの大切さを従業員からも理解を得られるようになっています。ただ、最近思うのは、健康が絶対ではなく、その人が幸せで悔いのない人生を送れればそれでいいのかもしれないとも思うようにもなっています。仮に健康であってもその人が幸せでないかもしれません。ですから健康経営の目的も、健康を最優先させるというより、従業員がサイショウ・エクスプレスで働いていて良かった、幸せだったと思ってもらうことなのではないかと考えるようにもなりました。

――なるほど。いいお話ですね。健康経営を進める上で何か課題はありますか? 

齋藤さん:はい。健康が大事だということは、みんな分かっているのですが、なかなか一歩、足を踏み出せないという人も中にはいます。そういう人たちには、こちらから歩みよる必要がありますので、健康面談をもとにその人に合った健康づくりをサポートしていくことを続けていきたいと思っています。

5.人財採用と付加価値の高いサービス提供

――御社のお客様はイベント関係が多く、コロナ禍で売上にも影響があったのでは?

齋藤さん:はい。売上が前年比で6割減が3ヶ月間続くなど創業以来の厳しい状況になりました。そこから少しずつ戻していき、2021年からは営業活動にも力を入れ、今年に入ってからほぼ100%回復しました。

――従業員の数も変わりましたか?

齋藤さん:そうですね。コロナ前は35名でしたが、現在は26名です。今は会社の体質改善や盤石な体制づくりに取り組んでいる時期ですので、人財の入れ替えもある程度、仕方がないのかもしれません。

――御社のホームページの採用ページもとてもよくできていますし、応募も多いのでは?

齋藤さん:そうですね。ただ、応募者を増やすよりも、ターゲットに合った人を採用できることが大事。その意味も含め、採用はメールでの書類選考、オンライン面接を経て、対面での最終面接という流れです。

そうすると、メールを使って応募できるか、オンライン面接ができるかどうかでも絞り込みがなされ、最終面接で仕事に対する本気度を見ることができますので、優秀でやる気のある方を採用できています。

――なるほど。意識の高くないドライバーさんを多く抱えながら、質より量で売上を伸ばすこともできるかもしれませんが、長くは続きません。それより、優秀なドライバーさんに来てもらい質の高いサービスを提供していくほうが着実に成長できるということですね。

齋藤さん:おっしゃる通りです。

――それにしても、齋藤さんは経営者としてはまだ若く、年上の従業員さんも多くいる中で、再検査100%受診、清掃やゴミ拾い、旗振り誘導など、やるべきことを徹底できるのはすごいですね。受け入れられるのも、従業員のことを本当に心配していることが皆さんにも伝わっているからでしょう。

齋藤さん:ありがとうございます。本当にそう思ってくれているなら嬉しいですね。ですが、実際はまだまだだと思っています。健康経営や社員の意識改革を進めるのは、会社を守るためでもあります。会社を守れなければ、先代や家族にもあわせる顔がありませんから。

【取材後記】

従業員やご家族の病気などで健康の大切さを知ったサイショウ・エクスプレスの齋藤さん。安心・安全が求められる運輸業界ですが、競争も激化し、それだけでは生き残っていけないと言います。そこで、健康経営や社員教育で従業員の意識を改革し、パフォーマンスを向上させながら質の高い人財採用にも成功。新3K(稼げる・健康・かっこいい)を体現し、業界のイメージアップにも大きく貢献していってくれることでしょう。

<企業データ>

会社名:サイショウ・エクスプレス株式会社

事業内容:一般貨物自動車運送業/倉庫業

所在地:〒135-0053 東京都江東区辰巳3-13-12

資本金:1,000万円

社員数:26名

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