大塚製薬2019年健康経営実践セミナー 事例紹介編
目次
1. 井上蒲鉾店:まずは当たり前のことをしっかりと
株式会社井上蒲鉾店は、昭和6年、鎌倉で創業したかまぼこ店。出来合いのすり身ではなく、魚から仕入れ、保存料や化学調味料を使わずに、魚本来の味わいを大切にしたかまぼこ作りを行っています。
「今ではナショナルブランドの食品メーカーでも、魚からすり身にし、そこからかまぼこを作るということはしておらず、お正月に一本一万円以上の価格設定で特別に販売するくらいではないでしょうか」と代表取締役の牧田知江子氏も誇らしげに語ります。
そんな井上蒲鉾店が今、力を入れて取り組んでいるのが健康経営。井上蒲鉾店が健康経営を始めるにあたり、大切にしたのが定期健康診断を受ける、有給休暇を消化するといった一般的な会社の義務をしっかりと果たすことだったと言います。
「当社の従業員は、パートの女性が多いのですが、以前は健康診断にしても、受けたくない、仕事の都合で受けられないという人もいて、50名のうち30名程度しか受診していませんでした。それが、現在ではほぼ100%受診しています」
どうして100%にできたかというと、受診を奨励するのはもちろん、健康診断後も、「去年の結果と比べてどうなったか」「気をつけるべきところはどこか」などをしっかりチェックするとともに、本人ともミーティングを行って結果を確認。再検査も必ず受けてもらうなど、アフターフォローをしっかり行い、従業員の健康に対する意識を高めていったからだと言います。
「従業員の中には、健康診断の前日や一週間前からお酒を控えよう、健康に気をつけようという人も少なくありませんでしたが、それではあまり意味がないんですね。私たちは仕事柄、保健所の立ち入り検査もありますが、その場合も、検査があるからキレイにしようというのではなく、普段から衛生管理にしっかり取り組み、ありのままの姿を見てもらい、悪い点があったら指摘してもらって改善した方がいい。健康診断もそれと同じ。普段の自分の健康状態を見てもらった方がいいよ、といったことも従業員には伝えながら、少しずつヘルスリテラシーを高めていってもらいました」
有給休暇の消化については、繁閑の差をうまく利用して成功していると言います。
「私たちの商品は、かまぼこなので、お正月前の11月、12月がとても忙しいんですね。反対に、おでんなどをあまり食べない夏の時期は余裕があります。だから、夏の期間にしっかり有給を消化してもらうようにしています。従業員にパートの女性が多いので、夏に有給を使うと、夏休みにお子さんと過ごせる時間が増えるといったメリットも生まれています」
そして、井上蒲鉾店では、災害等緊急時の通勤状況の把握にもつとめています。
「朝早い仕事ですので、車で通勤する人が多いですし、製造小売なので、かまぼこを作る人だけでなく、販売する人も欠かせない。ですから、地震、台風などの災害時の通勤経路表、連絡網を把握し、足の確保について考えるとともに、通勤途中での事故などから従業員を守る必要があります。
従業員に通勤経路表、連絡網を書いて提出してもらっても、それっきりになって、仮に変更点があってもそのままになってしまいがち。ですから、私たちは9月を防災チェック月間と位置付けて、毎年提出してもらうようにしています。その際、災害時はこういう点に気をつけようね、と話し合い、お互いに防災意識を高めているんです」
2. 井上蒲鉾店:「食」は人に良い物という信念
井上蒲鉾店には、確固たる信念があります。それは、“食”という漢字は、“人”に“良”という字からできている。だから、人に良いものを作る会社でなければならないというもの。その信念は、かまぼこ作りの現場で体現されています。
「実は“健康経営”という言葉は昨年知ったんですね。それで、内容を見てみると、これってウチがこれまでにやってきたことじゃないか、と思ったんです」
原材料の仕入れに始まり、製造環境、衛生管理も含め、井上蒲鉾店がしてきたことが、知らないうちに健康経営に繋がっていると感じた牧田氏。さらに、強化していこおうと思ったと言います。
「例えば、2020年に向け導入が義務付けられているHACCP(ハサップ)。HACCPはNASAの手法を使った食品衛生管理ですが。食品を作る人たちの健康についても厳しい基準があります。当社でも、体調確認シートで熱、下痢、腹痛、吐き気などの体調チェックを従業員にしてもらい、毎日工場に入る前に提出してもらっています」
毎日となると、ルーティンワークになってしまい、とりあえず大丈夫のほうに○を付けておけばいいか、となるのかと思いきや、従業員が日々の健康状態に敏感になり、健康を自分ごととして考える良いツールにもなっています。検便も、トイレで便をしっかりチェックすることで、血が混じっていないかなど健康状態を確認することになりますし、大腸がんの早期発見にも繋がります」
仕事柄、手を清潔に保つことも重要。そこで牧田氏自身、手洗いマスターの資格を取得。『ハッピーバースデー』を歌いながら手洗いをすると時間的にもちょうどいいよ、と従業員にノウハウを伝授しています。
そして、食品に限らず、ケガ・事故の防止といった安全管理は製造業にとって欠かせないこと。ヒヤリハット事例の共有、朝礼・ミーティング等での注意喚起、機械等取扱マニュアルの確認などを随時行っていると言います。
「例えば、機械のスイッチを入れるときは、鉄道員さんがやっているような感じで、声出し確認を行いますし、機械にトラブルがあった時はまず電源を落とすといったことは、朝礼やミーティング、掲示板などで常に周知徹底しています」
3. 井上蒲鉾店:トップと従業員の関係性が大事
中小企業が健康経営を推進するに当たり、トップと従業員の関係性が大事であると牧田氏は言います。
「大企業であれば予算と人員を使い、様々なことができるかもしれません。予算も人員も限られた中小企業では、トップと従業員との関係が何よりも大事。まずは、トップが健康経営をやるんだ!と宣言すること。そして、理念や目的を従業員にしっかり、伝え、コミュニケーションをとっていくこと」
井上蒲鉾店で言えば、「人に良いものを作る」という理念。「作り手が健康でないと良いものは作れない」という信念。それを形にするための手段の一つが、健康経営であると言うのです。
「それぞれの会社さんで、健康経営の素地がすでにあるはず。例えば、禁煙については過去にこんな取り組みをした、とか、今、有給消化率を高めるためにこんなことをやっているといったもの。それらを一つに繋げていく作業を、改めて従業員と一緒にやってみるととても効果的。当社では、朝礼や店舗ミーティング、店長会議の機会に、それぞれの事例や事情、アイデアを出し合っています」
厚労省の健康経営の認定制度や業界特有の取り決めなどがあり、一見、バラバラに見えても、俯瞰で見ればどれも健康経営に繋がっていると牧田氏は言います。
そして、「これからも、自社らしさを活かしながら、健康経営に取り組んでいきたい。そして、中小企業でもこれだけできるんだ、ということを証明していきたい」と牧田氏は熱く語ります。
4. 富士薬品:地域に寄り添い健康を支えていく場所
富士薬品は、配置薬販売事業とドラッグストア事業という2ウェイ販売チャネル、それを支える医薬品製造事業という製販一貫体制を敷く、複合型医療品企業。
「一般のご家庭などにお薬を常備する配置薬によって、忙しくてなかなか病院に行けない方、急な病気にも安心してお薬をご利用いただけています。また、ドラッグストアも土日もオープンしていますし、平日も夜遅くまで営業していますから、いつでもご来店いただけます」と鎌田梨菜氏。
特にドラッグストア『セイムス』などでは、健康相談会なども開き、商品だけでなく、健康情報も提供。地域の健康ステーションとしての役割を果たしていると言います。
「例えば、未病・予防の奨励商品なども、スタッフの手書きのPOPでわかりやすくお客様に伝えるようにしています。また、管理栄養士による食事のアドバイスが受けられたり、血液検査ができる店舗もあります」
病院に行くのはちょっと面倒という人も、ドラッグストアなら気軽に血液検査をし、自分の健康状態をチェックできるとお客様からも大変好評だと言います。
店舗で血液検査をしたところ、受けられた方の73%がグレーゾンであるなど、課題が見つかると言います。健康課題が見つかった方には、行動変更を促すことが大事になりますが、そのための一つのツールとなっているのが、埼玉県のコバトン健康マイレージ。
現在20店舗で実施しており、申し込みをされたお客様に歩数計を提供。お客様は歩いた分、ポイントが貯まり、その貯めたポイントで商品が当たるなど、モチベーションが高まる仕組みになっていると言います。
5. 富士薬品:従業員の健康こそが会社の力
地域でお客様に一番身近で、一番信頼されるドラッグストアを目指す富士薬品。そのためには、まず従業員の健康づくりが欠かせないと鎌田氏は言います。
「富士薬品では、2019年4月に健康経営宣言をしました。今は、できるところからまず始めているところ。栄養、運動、休養に関する情報などを社内報で提供したり、ウォーキング、健康診断受診の奨励、階段利用促進などを、会社横断のプロジェクトで推進しているところです」
ドラッグストアを、お客様の栄養、運動、休養という健康3原則を支える場にするためにも、従業員の健康づくりにさらに力を入れていきたいと鎌田氏はビジョンを語ります。