【座談会:ホワイト企業×大学生】学生たちが尋ねた「健康経営のこと」「キャリア形成で大切なこと」
2022年12月8日、かちぞうゼミ(※)の一環として大阪で開かれたブライト500企業と大学生との座談会。関西学院大学の松本ゼミ生とブライト500企業が健康経営の意義や可能性、今後の就活で重視する点など、忌憚なく意見を交わしました。学生たちにとっては、これからのキャリア形成についておおいに考える機会となりました。
(※)産学連携かちぞうzemiは、一般社団法人そばくりラボ主催の「かちぞう企画」の一つで、産学連携で価値創造にチャレンジする実践的なPBL活動(PBL:Problem Based Learning)。より良い社会の構築を目指して価値創造するための実践的な調査研究活動に、学生がチーム単位で半年間かけて取り組む。
〔ブライト500企業〕
吉田浩一(ワダカルシウム製薬株式会社 代表取締役社長)
寺尾珠実(ワダカルシウム製薬株式会社 執行役員 管理部 部長)
増田昭雄(株式会社マスパック 代表取締役)
山下哲二(株式会社HNS 管理統括)
稲田礼子(I-QUON株式会社 代表取締役)
平川沙織(I-QUON株式会社 公認心理師・臨床心理士)
〔大学生〕
念治明美(関西学院大学 3年)
吉道亜樹(関西学院大学 3年)
草野瑞希(関西学院大学 3年)
追矢裕子(関西学院大学 3年)
佐保健太郎(関西学院大学 4年)
〔司会進行〕
熊倉利和(健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表取締役)
目次
1.ブライト500に認定されるために大切なこと
佐保:私は学生であり、起業もしています。そのため健康経営の認定にも興味を持っているのですが、ブライト500の認定を受けるのはとくに大変と聞きます。申請に当たりハードルを高く感じた項目は何でしたか。
稲田:そうですね。ブライト500の認定を受けるために審査される項目は13個あり、そのうち何個行っているか、が審査されます。健康経営にはすべて大切であり、「どれが大変」というのは特にはないように思いました。
吉田:ブライト500の認定を受けるには、健康経営を熱心に行っている全国の中小企業の500位以内に入らなければいけません。現在は、申請する企業が大変に増えていて、上位500に入るには、13項目中13個すべて行っていないと難しくなっています。
寺尾:13項目中、どこがいちばんハードルを高く感じるかは、おそらく企業によって異なるのでしょうね。もう1つ重要なのが、社外に発信することともいわれています。
吉田:ブライト500の認定取得では、社外発信が、かなりウエイトが高くなっているように感じています。健康経営の重要性を社会に浸透させていくことで、国民一人ひとりの健康維持に役立てていきたいというのが国の思いなのでしょう。
増田:マスパックは健康産業ではないので、実際のところ、健康経営について社外に発信することが、なかなか難しいということがあるんですよ。ですから、今回のように社外発信する機会を得られたら、どんどん参加していきたいと思っています。
稲田:自分だけよくても社会は変わっていきませんが、企業と企業が協力して社会全体を底上げしていくことで、国民みんなの健康につなげていく、というのが大切なのでしょうね。
2.健康経営は採用活動の強みになるか
追矢:私は今、就職活動中です。就活を始めてみると、健康経営をアピールする企業はまだそれほど多くないように感じられました。ブライト500の認定を受けている皆さんの会社では、健康経営を武器とした採用活動は行っていますか。
山下:そうですね。ハローワークや紹介者には、人を大切にする会社であることをアピールするために、健康経営を行っていることを積極的に伝えています。一方、当社が採用する人材に対してですが、当社では主に若い世代と年齢の高い世代を採用しています。若い人に健康経営をアピールすることは特にしてきませんでしたが、年齢の高い層には、「社員の健康を大切にする会社」ということは魅力あるポイントになると思いますので、アピールするようにしています。
寺尾:ワダカルシウムの場合は、中途採用が主であり、みなさんのような学生さんの採用は行っていませんが、面接時に「健康経営を行っているのですか? ホームページを見ました」と質問されることがあります。そのときには、従業員の健康維持に積極的に取り組んでいる企業であることを、きちんと答えるようにしています。
稲田:新卒生など若い世代の人たちは、一般に、健康の大切さに対してまだ実感も薄いだろう、と企業側はとらえているのではないでしょうか。そのため、新卒生に対して健康経営を武器にした採用活動をしよう、という企業は少ないのかもしれませんね。ですが、健康経営は従業員満足度を上げるうえで、とても役立ちます。心身の健康が守られてこそ、私たちはよい仕事ができるのですから。
吉田:反対にお聞きしてみたいのですが、学生さんは、企業が健康経営をアピールしたら就職を考えますか? 若い人たちにとって「自分がやりたいことができる」ということの優先順位は高いと思いますが、 「あなたの健康を支えますよ」という会社もアピールポイントになりますか?
草野:なると思います。やりがいのある仕事ができるかどうかは、もちろん、就職活動をするうえで欠かせない重要ポイントです。そのうえで、健康経営を行っている企業に入社できればうれしいです。
寺尾:もう1つ参考までにお聞きしていいですか? 学生さんが就職先を選ぶときは、どんなことを優先していますか?
草野:はい。私の場合は、興味のある職種かどうかです。また、私には大切にしている趣味がありまして、仕事と両立できるかどうか、休みをきちんと取れるかも重視している点です。健康経営を行っている企業であれば、休日をしっかり取れるはずですし、とても安心です。
追矢:私は、仕事はやりがいが大切と考えています。また、結婚しても仕事は続けていきたいと考えています。キャリアも結婚もとなると、心身がベストバランスに保たれていることが大切になります。そういう意味で、健康経営を行う企業であれば、やはり、うれしいですね。健康経営を実践する企業であれば、働きやすい職場環境も、挑戦する人を支えてくれる環境も整っている、と考えられます。
吉道:私は就活の軸を自分の中にきちんと持ち、その軸が企業の理念と一致しているかを重視して選んでいきたいと思っています。私自身は、仕事は一生と考えています。ですから、会社の理念に共感できることは大切ですし、自分の持ち味を活かせるかどうかも重要と考えています。同時に、従業員の健康を大切に考える企業か否かは、生涯にわたって働いていくうえで大切になってきます。
佐保:私自身は企業家としてすでに長期インターンシップの求人サイトを運営しているので、就職は考えていませんが、出資してくださるかどうかが大事ですね(笑)
3.大学での学びを就活で生かす方法
念治:私たちが所属する松本ゼミでは、人的資源管理の研究を行っています。そこで、採用試験で面接を行われる立場のみなさまは、このことを就職活動でどのようにアピールすると効果的と考えますか?
山下:そうですね。人材育成を学んでいるということで、「メンタルが崩れにくい」と企業側にアピールしていってもよいかもしれません。社会に出たら、メンタルを整えることが大事になります。現場で何かあっても、自らの気持ちをどう変えていくのか、いかにポジティブな視点を持てるのか。かなり厳しい状況に置かれたとき、これができるかどうかは、大きな違いになってきますし、そうした人材を企業は求めているはずです。
増田:本当にそう思います。あとは、就活でアピールするならば、どんな研究をしているかよりも、「学んだことからどのような気づきがあったのか」を伝えると、面接官の心に響くのではないでしょうか。
吉田:面接官の心に響くように伝えるには、具体性も大切です。松本ゼミの方々はみなさん、人的資源管理の研究を行ってきたのですから、それを活かした新人研修も考えられそうですね。そんなことを具体的に話してみるのもよい方法だと思います。
吉道:わぁ、さすが企業のトップの方々のアドバイス、勉強になります。人的資源管理の研究によってどんな能力が身につき、そして新たな職場でどう活かせるのか、そこを伝えることを重視して自分のアピールポイントを考えてみたいと思います。
稲田:では、みなさんに1つ質問してもよいですか。今、みなさんは就職活動をされていますが、新卒で入社した企業でずっと働きたいですか? それとも、転職まで見据えていますか? みなさんのお話を聞いていて、どんなキャリア形成を考えているか知りたくなりました。
追矢:そうですね、ファーストキャリアは企業への就職を考えています。ですが、いずれ起業したいとも思っています。
吉道:私の場合は、現在のところ、キャリア形成までは考えていません。転職は簡単にできるとも思えませんので、一生働き続けたいと思える企業に就職したいと、今は考えています。ですから、この就活では、自分が働き続けられる企業かどうかを見極めていきたいです。
草野:一生働けられるような、環境のすばらしい企業に就職できたら、幸せです。でもその一方で、自分自身のやりたいこととは、年齢や経験を重ねるにつれて変わっていくこともあると思います。私自身は、そこにあわせてキャリアを変えていくという可能性も視野に入れながら、今は就活をしています。
吉道:たしかに。転職は簡単ではないと思いますが、人生は何が起こるかわからない、とも想像します。やりたいことは年齢や経験によって変わっていくのも自然なことです。ただ、いざ転職しようと考えたとき、能力がなければ、そのときの職場以上の企業に転職することは難しくなります。ファーストキャリアでは、その点をしっかりと見据えて、力をつけていきたいです。
増田:自分の行く道をそれぞれに見据えていて、みなさん、本当にすばらしいです。おっしゃるとおりに、希望通りの転職は、想像以上に難しいのが現実です。新卒で就職した場合、業務におけるスキルは求められませんが、転職の際には求められますものね。ただ1つ考えておいたほうがよいのは、企業に就職したとしても、そこで完璧にスキルを身に着けられるわけではない、ということでしょう。
平川:そうですね。新卒で就職した場合、希望した通りの職務に就けるとも限らないのが現実です。私の知人では、研究職として入社したのですが、数年後にマーケティング部に異動になったというケースもありました。
吉田:そういう話はたくさんありますね。そして、その傾向は、大企業ほど強くなります。部署も従業員数も多い大企業では、自分が希望する部署に配属されるのは、なかなか難しいものです。新卒時、多くの学生さんは大企業への入社を希望されますよね。それはそれですばらしいことですが、大企業のやり方に凝り固まらないことも大事だと思います。実際のところ、転職がいちばん難しい人とは、大企業に勤めていた人です。大企業で培った自分のやり方こそ正しいと思い込み、新たな職場に適応できない人が多いのもまた事実です。
追矢:よくわかります。自分が描いているキャリア形成のゆるさを身に染みて感じました。今のお話をきっかけに、キャリアをいかに構築していくか、改めて向きあっていきたいと思います。
4.健康経営についての感想
熊倉:本日、ブライト500認定企業のトップの方や担当者の方にお話をお聞きして、学生のみなさんはどのようかことを感じましたか?
追矢:企業によって健康経営の取り組み方や内容はそれぞれであり、それは自社の社風にもとづいていることだとわかりました。自分自身のキャリア形成についても、今回のイベントをきっかけにさらにしっかりと向き合っていきたいと感じました。
念治:事業内容によって健康経営の方向性が変わること、そしてブライト500認定企業の代表の方々の社員を想う気持ちが強く伝わってきました。健康経営はコストがかかるにもかかわらず熱心に取り組まれていることを、学生にももっと知ってもらいたいです。
吉道:健康経営の知識をそれほど深く知る機会がこれまではありませんでした。ですが、今回の話を聞いて、経営側の方々の意識が共通して「社員の幸せ」にあることがわかって、とても興味深く感じました。健康経営が社員や家族にとってどれほど重要かを考える貴重な機会となりました。
草野:健康経営を続けて行くことは、決して簡単ではないと気づきました。初めて企業の方々とお話をして、さまざまな苦労や努力を聞くことができました。健康経営の大切さも考えながら、自分のキャリア形成の参考としていきたいです。
【取材後記】
健康経営について詳しく知らなかった学生たちが、ブライト500認定企業の方々のお話を食い入るように聞いている姿が印象的でした。就職活動で企業を回るなかでは決して聞くことのできない「人を大切にする会社」の生の声を聞き、学生たちは大きな発見をしたことでしょう。企業ですから、利益の追求はもちろん重要ですが、それはそこで働く人たちの健康と幸せな生活が守られてこそ。その視点も持ちあわせながら、今後の就職活動に活かしてほしいと願っています。
〈企業データ〉
会社名:ワダカルシウム製薬株式会社
事業内容:第二種医薬品製造販売業/医薬部外品製造販売業/医薬品製造/医薬部外品製造業
所在地:〒534-0024大阪市都島区東野田町4丁目1-17
資本金:9,800万円
社員数:55名
会社名:株式会社マスパック
事業内容:ペーパーディスプレイ・POPの企画、製造、販売/デザインパッケージの企画、製造、販売/医薬品パッケージの製造、販売/その他関連印刷物の製造、販売
所在地:〒566-0045 大阪府摂津市南別府町1-3
資本金:1000万円
社員数:42名
会社名:株式会社HNS
事業内容:金融・流通関連の業務系システム開発/オープン関連の業務系システム開発
所在地:〒541-0054 大阪市中央区南本町4丁目3-16-1002
資本金:1500万円
社員数:41名
株式会社:I-QUON株式会社 / アイクオン株式会社
事業内容:企業・団体等におけるメンタルヘルス、安全衛生管理、労務管理などに関するコンサルティングの実施/ メンタルヘルス、安全衛生管理、労務管理などに関する研修の実施/産業医、精神科担当産業医等の受託/精神科医、臨床心理士、精神保健福祉士等によるカウンセリング、認知行動療法の実施/休業中の勤労者に対する復職支援の実施
所在地:〒569-0071大阪府高槻市城北町2丁目9-34 1F・2F
資本金:2100万円
社員数:4名