【座談会:ホワイト企業】社員のさらなる健康と会社の発展に健康経営を活かす

ブライト500企業による座談会が、2022年12月8日に大阪にて行われました。事業内容によって異なる健康経営の意義や目的、課題などが浮き彫りとなる興味深い座談会になりました。

〔ブライト500企業〕

吉田浩一(ワダカルシウム製薬株式会社 代表取締役社長)

寺尾珠実(ワダカルシウム製薬株式会社 執行役員 管理部 部長)

増田昭雄(株式会社マスパック 代表取締役)

山下哲二(株式会社HNS 管理統括)

稲田礼子(I-QUON株式会社 代表取締役)

平川沙織(I-QUON株式会社 公認心理師・臨床心理士)

〔司会進行〕

熊倉利和(健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表取締役) 

1.健康経営をスタートさせたきっかけとは?

熊倉:本日、こうしてブライト500認定企業の皆様にお集まりいただき、意見を交わせることは奇跡のようだと感じています。本当にありがとうございます。改めて、それぞれの事業内容、健康経営を始めたきっかけを教えてください。

山下:はい。HNSは、システムの開発会社です。クライアントのもとに社員を派遣して、常駐型で仕事をするという業務形態です。派遣先で社員がメンタル的に苦しくなることも多く、もともと、社員のメンタルケアには力を注いできました。あるとき、お付き合いのある保険会社さんから「当社でも健康経営に取り組み、効果が出ています」との話を聞いて興味を持ちました。そこでブライト500の申請内容を確認したところ、弊社で力を入れていたことばかりでした。「それならば」と申請したところ認定を受けることができました。

増田:マスパックは、紙や段ボールの加工業をしています。私が稲盛和夫さん主催の勉強会に通っていたこともあり、社員のための経営を徹底して行ってきました。それとともに、ISO9001(品質マネジメントシステムに関する国際規格)、エコアクション21(環境省が策定した環境マネジメントシステム)なども取得してきました。その流れで健康経営にも取り組み、ブライト500の認定を受けることができました。わが社の場合、メタボなど生活習慣病の人が多く、「なんとかしなければ」と考えていたこともきっかけの1つでした。

吉田:私は2018年にワダカルシウムに転職したのですが、当時の社長に「健康経営をやりましょう」と提案したのがきっかけです。製薬会社としてヘルスケア産業の一端を担っている企業の社員が不健康ではいけません。せっかくならばブライト500を目指しましょうと、2019年4月にスタートし、3年目で認定を受けることができました。

稲田:I-QUON(アイクオン)は、健康経営を各企業に提案する会社です。10人に満たない小さな会社です。スタッフもほとんどが30代ということで、基礎疾患のある人も、喫煙者もいません。ただ、デスクワークも多く、運動不足になりがちなところが一つの問題点ではありました。とはいえ、医師や心理士、精神保健福祉士など健康のプロの集団ですので、健康経営をスムーズに行えるのは、ブライト500の認定を受けるうえで大きな強みだったと感じています。

2.健康経営に大切なこととは

熊倉:社員を巻き込んで健康経営を行っていくにあたり、どんなことにポイントを置いていますか?

吉田:そうですね。健康経営の方法は、社風で違ってくると感じています。社長の一言で社員みなが同じ方向に向かって動くトップダウンの会社があれば、社員の自主性にある程度任せつつ、上手に巻き込みながら行っていく必要のある会社もある。ワダカルシウムは後者です。健康経営をスタートした当時、60名弱の社員の中で8人の喫煙者がいました。そのうち6名は禁煙に成功したが、2名は禁煙する気がない。でも、強制することは当社の企業文化にそぐわないので、仮に完璧にできなくても、楽しみながらみんなについてきてもらえるように工夫しています。

熊倉:たとえば、どんな方法を行っていますか?

吉田:はい。わが社は骨の健康をベースにカルシウムの商品を提供している会社で、社是が「人々の歩くと元気を支えます」です。「まずは社員から歩こうよ」ということで、歩数の競争などウォーキングイベントを開催しています。最初から全員参加は期待せず、回を重ねるごとに参加率が上がっていくような形で進めています。

寺尾:たとえば、最初は個人戦で始め、ランキング形式で毎日の成績を実名で発表していました。実は、そのときには100パーセントの参加率でした。ところが、匿名に変えると参加率が下がってしまった。そこで、部署ごとのチーム対抗にしたところ、またみんながんばって歩き始めました。

吉田:なかには1日に3万歩を歩く人もいるんですよ。そうなると、その人やその人がいるチームが毎回1位になる。そこで、みんなが上位を目指せる方法はないかと考えて、前回からのアップ率で順位を決めようと方法を変えてみました。すると、それまであまり歩いていない人ほど上位に入れます。そんなふうに多くの人が上位に入れる工夫をすることも、社員のモチベーションを保つためには大切ですね。昨年、熊倉さん提案のもとに開かれた、8社対抗のウォーキングイベントも社員たちのとてもいい刺激になりましたよ。

山下:社員が一丸となって健康経営に取り組むとはすごい。うらやましいです。HNSの場合は、社員たちがそれぞれの派遣先で仕事をしているので、「みんなでがんばろう」という取り組みができないことが、大きな課題になっています。

稲田:山下さんから社員さんを派遣している企業にも健康経営を始めてもらえるように働きかけてみる、という方法はどうでしょうか?

山下:そうしたいところなのですが、大手企業にこちらから提案するのは、難しいところがありまして……。それでもコロナ禍以前は、月に1回は必ず本社に戻ってきてもらい、コミュニケーションをとっていましたが、コロナの流行でそれも今はできていません。ただ、困ったことがあったらすぐに相談してもらう体制はとっています。早くに声がかかれば、早い段階で初手を打てる。反対に、本人任せにしてしまうと、「こんなことをいったら、迷惑がかかるかも」と考え込み、結果的に対応が遅れます。「いつでも窓口を広く開けて待っているよ」というスタンスでいると、いろいろな相談がきます。業務のことだけでなく、介護のこと、教育のこと、以前は離婚の相談などもありました。

稲田:素敵ですね。とても風通しをよくされているのですね。

山下:病院やメンタルクリニックに一緒に行って、私も同席して医師と話すこともあります。本人が伝えきれない変化を医師に理解してもらい、早期回復につなげていくためです。

稲田:それはとてもすばらしいです。書類のやり取りだけでなく、会社側の人が医師との面談に同席されるというのは、スムーズな職場復帰に繋がる可能性のある方法です。メンタルヘルスに対する会社のマネジメント力は非常に高いといえますね。

熊倉:I-QUONさんは、企業に健康経営の実践方法を提案していますね。

稲田:はい。当社の契約先は中小企業が多く、働く人が50人に満たない事業所からの相談も受けています。人的資源が少ないなかで、社員の健康をどう底上げしていくかが、各社の大きな課題となっています。そうしたなかで、楽しく取り組む、お金をなるべくかけずに取り組む、この2点がとても重要になってきます。たとえば、人の筋力や体力は、握力を調べるとわかります。つまり、握力は、筋力・体力の簡単な指標になるんです。そこで、握力トレーニングから始め、次は事業所内をよく歩きましょうといった提案もしています。

平川:みなさん、健康が大切ということはわかっていても、「さあ、やろう」とスタートを切るところまでがいちばんハードルが高い。ゼロから1までを、自分で上げるのがもっとも難しいわけです。ですので、楽しくて、なるべくお金をかけずにできることを提案してあげるとスタートしやすく、のちのちの取り組みにつなげやすくなります。

増田:わが社も健康経営は、ある程度のところまではうまくいっていますが、あと一歩が難しいと思うところがありました。健康とは、プライベートな部分が大きいからです。会社からある程度の知識や経験を与えても、それ以上は自分でやるしかありません。ですから、わが社では委員会をつくって、社員の主体性に任せることを始めています。委員会が中心になり、「忘年会までの6日間の休日にどれだけ歩いたか」を各自申請し、表彰しようということも行いました。わが社のように健康を扱う会社でない場合は、健康経営が会社の業績に直接的な影響を与えるわけではありません。そのぶん、社員の意識をいかに変えていくかが大切になってきます。

3.ブライト500の取得を今後も目指すか

熊倉:ブライト500は、今年も認定申請企業が増え、ますます狭き門になっています。今後も認定の取得を目指していく予定はありますか?

山下:ええ、おそらく目指します。理由は主に2つあります。1つは社員のためになること、もう一つはビジネスにつながることがわかってきたことです。ブライト500を取得してから、営業の電話がたくさんかかってくるようになりました。

増田:わが社も取得できればうれしいです。ですが、取得そのものが目的になってはいけないとも思っています。マスパックの場合は、健康経営の最終的な目的は、社員の健康で豊かな生活を守ること。ブライト500の申請は、そのための1つの手段ととらえています。ですから、申請してブライト500を取得できなかったとしても、健康経営は続けていきますよ。

吉田:なるほど。ワダカルシウムの場合は、ヘルスケア産業にかかわる企業ですから、社員が不健康とあっては提供する商品の信頼にもかかわりますので、ブライト500を今年も取得できるよう努力を続けます。

稲田:I-QUONも取得をめざします。もちろん取得が目標になってはいけませんが、多くの企業にわが社のことを知ってもらい、健康経営や産業衛生のお役に立っていきたいと願っています。わが社は社員が少なく、営業力がほぼないという状況のなか、ブライト500を取得して知名度が確実に上がったのも事実です。

熊倉:これから健康経営に取り組もうとする企業にとって、役立つお話ばかりでした。事業内容は違っても、ブライト500企業が集まって情報交換することで、健康経営の具体的な方法や利点がこんなにも明確になるのか、と新たな可能性を感じる貴重な時間となりました。

【取材後記】

最初はみなさん、少し遠慮されている雰囲気もありましたが、「こんなこともやっている」「あんな可能性もある」とブライト500や健康経営の可能性、自社の課題など、ふだんは顔をあわせることのない業種の方々と活発な意見交換を熱くされていました。こうした新たなコミュニティの構築は、社会を大きく巻き込んで健康経営を広げていく頼もしい一歩になると、改めて実感できる座談会となりました。

〈企業データ〉

会社名:ワダカルシウム製薬株式会社

事業内容:第二種医薬品製造販売業/医薬部外品製造販売業/医薬品製造/医薬部外品製造業

所在地:〒534-0024大阪市都島区東野田町4丁目1-17

資本金:9,800万円

社員数:55名

会社名:株式会社マスパック

事業内容:ペーパーディスプレイ・POPの企画、製造、販売/デザインパッケージの企画、製造、販売/医薬品パッケージの製造、販売/その他関連印刷物の製造、販売

所在地:〒566-0045 大阪府摂津市南別府町1-3

資本金:1000万円

社員数:42名

会社名:株式会社HNS

事業内容:金融・流通関連の業務系システム開発/オープン関連の業務系システム開発

所在地:〒541-0054 大阪市中央区南本町4丁目3-16-1002

資本金:1500万円

社員数:41名

株式会社:I-QUON株式会社 / アイクオン株式会社

事業内容:企業・団体等におけるメンタルヘルス、安全衛生管理、労務管理などに関するコンサルティングの実施/  メンタルヘルス、安全衛生管理、労務管理などに関する研修の実施/産業医、精神科担当産業医等の受託/精神科医、臨床心理士、精神保健福祉士等によるカウンセリング、認知行動療法の実施/休業中の勤労者に対する復職支援の実施

所在地:〒569-0071大阪府高槻市城北町2丁目9-34 1F・2F

資本金:2100万円

社員数:4名

健康経営を支援する会員制度