データヘルス見本市2019 主催者セミナー:人生100年時代へ向けた予防・健康づくり

2019年11月に東京で開催された「データヘルス・予防サービス見本市2019」では、主催者セミナーとして厚生労働省健康局健康課課長の神ノ田昌博さん、同医政局歯科保健課歯科口腔保健推進室室長の宮原勇治さん、同老健局老人保健課介護保険データ分析室室長の北原加奈子さん、同保険局医療介護連携政策課医療費適正化対策推進室室長の新畑覚也さんがそれぞれプレゼンテーション。さらに後半には、来場者からの事前アンケートを基に「健康無関心層へのアプローチ方法について」と「人生100年時代へ向けた健康づくりにはどんな取り組みが効果的か」の二つのテーマについて、意見を伺いました。以下では、その後半の模様を収録しました。

1.ナッジを活用して健康無関心層を動かす

司会:ここからはご来場の皆様によります事前アンケートの内容を受けまして、二つのテーマに沿ってお話を伺ってまいります。一つ目のテーマは、「健康無関心層へのアプローチ方法について」でございます。それでは神ノ田様から順にお伺いしたいと存じます。

神ノ田昌博さん(厚生労働省 健康局健康課 課長):まず健康無関心層というと、すべての分野に関心を持っていないとか、そういう人生を諦めているようなイメージで捉えられてしまうかもしれません。しかし、健康以外のことに、強い関心をお持ちの方は、たくさんいらっしゃいます。

そういった関心と健康づくりとを上手くつなぎ合わせることで、健康づくりにドライブをかける工夫をどんどんやっていく。それから一つナッジということだと思います。

最近、私の課に異動してきたナッジの専門家といろいろとディスカッションをしているのですが、健康経営もある意味、ナッジだと言うのです。健康経営優良法人が急激に増えていますけれど、経営者の方が急に健康に目覚めたとは到底思えないのです。

健康経営に取り組むことで、企業イメージが変わり、優秀な人材を確保できるし、また将来的に企業価値を高めることができる。まさに経営者の感覚にマッチしたということで、健康づくりにかなり力を入れていただけるようにムーブメントが起きていると思います。

健康に関心のない人には、健康に関心のない人なりの何か大切にしているもの、それに合わせたアプローチの仕方を考えていくのが大事かなと思っています。

あと大きいところでは、自治体の首長さんの役割も重要だと思います。この前、三重県の知事さんが、地方創生のためにそのツールとして健康づくりに取り組むといったプレゼンテーションをしておられました。

健康づくりに取り組むことで、若い人たちが三重県に定着してくれれば、企業も元気になるので頑張る、そういう発想での健康づくりへの取り組みも非常に重要ではないかなと思っています。

2.口腔と全身との関係を健康情報として広めていく

宮原勇治さん(厚生労働省 医政局歯科保健課 歯科口腔保健推進室室長):歯科口腔保健の立場で申し上げたいと思います。そもそも口腔の健康無関心層を、私達は日常の保健活動の中で経験しているところであります。

従来のハイリスクアプローチですとか、ポピュレーションアプローチに加えた一つのアプローチとして、ナッジ等の行動経済学の応用による無関心層へのアプローチというのは、非常に期待されているところであり、歯科口腔保健の分野においても非常に重要なものと考えております。

一般にポピュレーションアプローチは、健康格差の縮小に有効であると言われておりますが、ただ留意しておかなければいけない点があります。リスクの低い層で効果が大きく、リスクの高い層で効果が小さいという状況が生まれてしまえば、返って健康格差の拡大につながりかねない、その点は注意が必要かなと思います。

特に歯科口腔保健につきましては、これまでの文献報告等によれば、例えばある自治体のアンケート調査で、特定健診に対する認知度が90%を超えている一方で、歯周疾患検診に対する認知度が1割にも届かない7%程度であったということにも代表されるように、なかなか口腔の健康づくりの取り組みについての地域住民の認知度や関心度が他の生活習慣病と比べると極めて低い状況にあります。

歯科口腔保健の政策の効果が届いているのは、例えばもともと意識の高い人達、ヘルスリテラシーや口腔の健康づくりに対する関心が比較的高い層ということなので、無関心層に届かない状況が返って明確化してしまう。そこで無関心層に対するアプローチを組み合わせていくことが非常に重要だなと考えております。

ただし、無関心層はもともと自律的に有用な健康情報の収集を行っていないということが指摘されております。口腔保健に関する認識、あるいは関心度が他の生活習慣病などに比べて低い状況の中で、歯科疾患予防についてのリテラシーをどうやって引き上げていくのか、考えていかなくてはいけないと思っています。

リテラシーを一定以上に上げていかなければ、健康づくりのための意思決定や保健行動の着手という点では、セルフ・エフィカシー(自己効力感)の向上にもなかなか結びつかないと思います。

口腔と全身との関係が一つの情報として蓄積されていくことは、口腔の健康の重要性や必要性の理解を引き上げる上で一助になります。歯科口腔保健単独ではなく、さまざまなパッケージの中で、健康関係部局と連携しながら、あるいは自治体と連携しながら進めていくことが必要だと思います。

3:「通いの場」に専門職の方の知見を活かす

北原加奈子さん(厚生労働省 老健局老人保健課 介護保険データ分析室室長):私の方からは介護に関してという観点になりますけれども、地域づくりといったことを非常に重視をしております。

保険者がお金を集めて、給付を配ってということで終わりにするのではなくて、町ごとに健康づくり、介護予防に取り組んでいく環境を作っていくことが非常に重要であると考えております。それが地域蘇生にもつながって行くであろうと期待しています。

やはり地域の特性がありますので、例えば世田谷区では男性がなかなか「通いの場」に出てこないということで、特に男性にターゲットを置いた取り組みを行っていだだいています。地域の実情に応じて、個々のニーズに合った地域だからこそ出来る取り組みがあるのではないか、と感じております。

また介護予防に関して、今厚生労働省で検討会が動いています。その中でも「通いの場」になかなか出てこない方に、どう社会参加をしていただくか、非常に重要な課題と捉えられております。

そのアプローチの一つの方策としては、専門職の方にも一緒に参加をしていただく、専門職の方に「通いの場」に入っていただくということもそうですし、また専門職の方の持つ知見を活かしてアウトリーチをしていただくことも方策になるのではないか、こういったことも議論がなされているところでございます。

いずれにしても全国でさまざまな状況がある中で、一つのやり方がベストということではなくて、皆で意見交換をしながらそれぞれに地域に会った形をつくっていくことが選択肢になると考えています。

4.個人の特性を把握しながらアプローチしていく

新畑覚也さん(厚生労働省 保険局医療介護連携政策課 医療費適正化対策推進室室長):無関心層へのアプローチは、非常に難しい課題だとは思っていますが、例えば「通いの場」との連携のような、従来の保健指導だけではなく他のパッケージを用意しながら、健康の押し売りということではなくて、他の取り組みの中に健康予防、健康づくりというところを溶け込ましていく。

また、健康づくりも非常に価値のあるところですので、「通いの場」への参加率が低いというところも専門職の人に参加してもらいながら、「通いの場」に集まる人を増やしていく。そういった取り組みが循環して、良い方向に行けばいいのかなと思っています。

また、ナッジも無関心層へのアプローチの一つとして行われていますが、無関心層の中にもいろいろな特性の方がいらっしゃるということで、そうした特性を把握していきながら、取り組みを進めていくことが大事と思います。

特性を踏まえる上で、やはりまず使えるというところはデータ、特定健診の範囲で言いますと情報としては標準化されていて、レセプトデータ等と合わせますと非常に有意義なデータが集まっています。

そういったデータを活用していきながら、個人の特性を踏まえて取り組みを進めていただくところがデータヘルス計画としても大事ではないかと思っております。

5.働き盛りの年代をターゲットとしたコラボヘルスが大事

司会:続いてのテーマに移らせていただきます。二つ目のテーマは「人生100年時代へ向けた健康づくりにはどんな取り組みが効果的か」というテーマでお話を伺いたいと思います。それでは新畑様よりお伺いをいたします。

新畑さん:保健局の担当している範囲で申しますと、特定健診が中心になってまいります。こちらは40~74歳までの比較的幅広い年代、また働き盛りの年代をターゲットとしていますので、保険者と企業との取り組み、いわゆるコラボヘルスが大事になってくるのではないでしょうか。

その中で、企業と保険者が取り組む場として、検診に従来通りご尽力いただくとともに、そういったハイリスクアプローチだけではなく、ポピュレーションアプローチも進め、格差を広げる懸念等も十分に考えた上で、底上げをしていくことが大事なのではないかと思っています。

6.住み慣れた地域で最後まで自分らしく暮らせる環境づくり

北原さん:長寿になったことは非常に喜ばしいことでありますが、他方ではやはり歳を重ねるのに従って、医療や介護のニーズが増えてまいります。

そのような中で、例え重度の要介護状態になったとしても、住み慣れた地域で最後まで自分らしく暮らせる。こういったことを目指して、住まい、医療、介護予防、そして生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を目指しております。

この中でも特に自治体が介護保険の保険者となっていきます。住民から依存されるというだけではなく、住民が主体となって活動を行うことを実際に応援していく、こういった形で誰もが主役となって取り組んでいくといったことが必要になると思います。

ここもまた地域づくりというところにつながってきますが、自治体という単位の中で、皆さんがどのように関わり、より良い地域包括ケアシステムを作っていけるか、非常に重要になってくると感じております。

7.歯科口腔の健康づくりの取り組みが重要に

宮原さん:厚生労働省の健康寿命延伸プランでは、2040年という数字が出てきています。この2040年頃には、高齢者人口がピークを迎え、現役世代が急激に減少します。

こうした中で高齢者を含めた多くの人々が、この社会で一定の役割を持って多様な就労や社会参加が可能となる、そういった環境整備を進めることが必要になってきます。前提としては、疾病予防や重症化予防、健康づくりの取り組み強化が重要であり、その結果、健康寿命の延伸にもつながっていくということだと思います。

私どもは歯科口腔保健の担当でございますので、口腔の健康づくりはどうかというところで見たときに、口腔機能や食生活等のQOLの観点だけではなく、口腔と全身との健康の観点からも、ますます歯科口腔保健の健康づくりの取り組みが重要になってきます。

もう一つは2019年6月に閣議決定されました骨太の方針や成長戦略等において、対策の重要性が示されています。そこで高齢者一人一人に対して心身の課題に対応したキメ細かな保険事業を行うため、運動、栄養、社会参加の推進だけでなく、口腔の観点からも市町村における保健事業や介護事業の一体的な取り組みが求められています。

歯科は単なる歯科だけではなく、関係部局や関係職種との連携が非常に重要になっていますので、今後も今まで以上に、関係部局、関係職種、それから自治体やさまざまな職能の医療関係団体等と連携して、一体的なパッケージの中で進めていかないといけないなと考えております。

8.働き盛りの健康づくりに地域の保健人材を活用して知恵を絞る

神ノ田さん:私はこの7月まで労働衛生課長として職域保険を担当しておりました。今は健康課長ということで地域保険を担当しております。

地域保健では、市町村や都道府県の保健所等が、人が生まれてから亡くなるまで生涯にわたって健康支援するのが建前になっています。しかし実際には、学校に入学したら学校保健、働き出したら事業所任せ、あるいは保険者任せといったことで、地域保健としての取り組みが十分できていなかったのではないかと思っています。

今後は高齢者雇用がどんどん進んだときに、域保健が退職後だけを対象にしていたら、80歳になってそれでは健康づくりを始めましようでは、これ何なの、という話になります。

これからは働き盛り層が健康づくりの非常に重要なターゲットになりますので、地域保健と職域保険がしっかりと連携をして、働き盛り層の支援を強化していかなければいけないという問題意識を持っております。

地域保健は範囲が広いのでアプローチとして難しい面がある反面、事業所単位で行うと非常に効果を上げることができる面もあります。例えば東京都足立区が推進しているベジ・ファーストメニューのような取り組みも、一つの事業所単位で行うとすれば社食のメニューをガラッと変えれば良いのです。

あるいは出入りの弁当屋さん、それ全部スマートミールに変えてしまうとか、そういうようないろいろな工夫で非常に大きな効果を上げることができるのではないかと思います。

地域保健の分野には、保健師さんや栄養士さんなど保健人材がたくさんおいでですので、みんなで知恵を絞って働き盛り層にターゲットを当てたような、取り組みをしていくことが、人生100年時代に向けた健康づくりにつながっていくのではないかと考えております。