健康経営にお金は掛からない!アップコン株式会社流の健康経営

1.社員の健康こそ安定経営の近道 そのお手伝いを会社でしよう

― 株式会社アップコンが手がける事業と、御社においての健康経営の重要性を教えて頂けますか?

松藤 展和さん(以下、松藤さん):アップコン株式会社は地震や地盤沈下によって傾きや段差が生じた建物のコンクリート床を、特殊なウレタン樹脂を使用してコンクリートの床下から押し上げ修正するで地盤から持ち上げて直すという施工をやっている会社です。
現場作業が肝の事業なので、急な体調不良等でお休みが出てしまうとメンバーが足りずにチームが崩れてしまいます。最悪、施工ができなくなってしまうこともあるので、そのような点から「健康」の重要さをひしひしと感じています。また、会社の理念としても「健康第一」「安全第一」「家庭第一」の3つを掲げており、そのどれもが重要であると考えています。

― 特に健康経営に力を入れ始めたきっかけは何でしたか?

松藤さん:2016年の2月から「健活倶楽部(けんかつくらぶ)」という組織を発足しました。前年の2015年に病欠日数が94.5日と、前年に比べ約3倍にまで増えてしまいました。先ほども言いましたように、病欠が増えればそれだけ経営にも影響が出てきますので、もともとあったレクリエーション部を会社公認の健康活動組織に改めました。

― 会社公認の組織になったことで、なにが変わったのでしょうか?

松藤さん:会社からイベントに対して補助金を出すようにしました。もともと自主的にレクリエーションを行っていたクラブだったので、それまで費用は参加者負担でした。そして、なるべく業務時間内に活動するようにして参加率を高めました。健活倶楽部はプロジェクトとして発足しているため予算化されたことで、参加者が一部負担でレクリエーションに参加できるようになりました。
こうしてみんなで活動を行うようにしたら、あきらかに結果が変わりはじめました。病欠日数が、活動をはじめた2016年には約半分、2017年には全社で12.75日まで減少しました。数字としての結果もそうですが、活動によって社員一人ひとりに「健康」への自覚が芽生えたことが一番大きかったですね。

― 約8分の1にまで減少したのですね。健活倶楽部を会社公認にしようと思ったタイミングはいつでしたか?

松藤さん:その頃、レクリエーション部の活動はやる人とやらない人が二極化して、「ジリ貧になっているな」と感じていました。活動を続けるべきか悩んでいたところ、当事者達は「続けていきたい」ということだったので、息抜きをしながら体調管理を行えるような活動をしようと働きかけました。
ちょうどその頃病欠が増えている時期でしたので、全社的に健康活動へ取り組める組織を作りたいという思いもありました。

― 健康経営に対する強い思いがあったのですね。では、「健康経営優良法人」の認定を取ろうと思ったきっかけはありましたか?

松藤さん:この認定は新聞を見て知りました。これより前に「安全衛生優良企業」を認定取得しており、その時の経験があったので、同じく申請してみようかなと思ったのがきっかけです。健康経営優良法人のほうが知名度が高いので、お客様との話題になるので助かっています。世間からのお墨付きを貰えたということで、社員も会社に対して誇りを持って、モチベーションにもなっているようです。

2.禁煙も健康ポイント制度でやる気アップ 健康経営はゲームのように楽しもう

― 注力している活動として「全社員非喫煙宣言」と挙げられていますが、具体的にはどのような活動をしたのですか?

松藤さん:健活倶楽部を始めた2016年から、喫煙者は新入社員として採用していません。全員に非喫煙の宣誓書を書いて入社してもらっています。しかしすでに働いている社員はそうはいきませんから、段階的に禁煙を勧めました。活動をはじめて2年ほど経つのですが、喫煙者は14人→2人に、喫煙率は37%→5%にまで低下しています。

― 喫煙率が5%まで下がったのはすごいですね。段階的に進めたというのは、禁煙補助剤やパッチなど会社からのバックアップをしたのですか?

松藤さん:禁煙グッズの提供はしておらず、「なぜ禁煙をしないといけないのか」という理由を共有しました。まず会社の理念でもある「健康第一」を改めて認識してもらいました。
続いて、半年ごとに喫煙できる時間を減らしていきました。たとえば、現場で作業者が吸えない時間帯は全社員で我慢するように、つぎの半年はお昼休み中も禁止して「周りの人にタバコのニオイを感じさせないようにする」というように進めていきました。
今では24時間、帰宅後も禁煙を奨励しています。帰宅後は難しいのですが、社員のご家族に協力してもらっています。クリスマスに全社員の家族宛にカードを送るのですが、そこに今年タバコに使用した金額でこんな楽しみがありました・・・といった内容を記して、禁煙を勧めるようにお願いしています。これもなかなか評判がよく、お礼に年賀状を送って頂くなど楽しくやり取りさせていただいています。「家庭第一」理念がここに繋がるかなと思っています。

― 全社員さん分おカードを書くんですか!素晴らしいですね!

松藤さん:本当に手が痛くなりますよ(笑)でも社員やご家族のためにと思って書いています。

― では2つ目に挙げていただいた「健康ポイント(社内では健活ポイント)」について詳しく教えていただけますか?

松藤さん:今でこそ「健活ポイント」ですが、もともと「階段ポイント」という名前でした。6階にオフィスがある弊社の社員が一斉にエレベーターを使うと、下の階にいる他社の社員さんが使えなくなってしまうので、階段を使うように喚起したのがはじまりです。毎日の階段の利用頻度によって最大1万円ほどを付与される制度にしたのですが、結局やる人は限られていました。
これではダメだと思い「健活ポイント」と称して、いろいろな健康活動に対してポイントを付与するようにしました。たとえば社内フットサルやバスケットへの参加および見学、会社最寄り駅からの歩き通勤、もちろん階段の上り下りもそうですし、弊社がスポンサーをしているJリーグの試合を観に行ってもポイントがもらえます。

― スポーツイベントへの見学でもポイントがもらえるのはいいですね。

松藤さん:大切なのは「参加」してもらうことだと思っています。プレイを義務にしてしまうとスポーツが苦手な人にとっては一気にハードルが上がってしまうので。また、スポーツ以外のイベントとして塗り絵教室やヨガもやって、みんなが楽しめるように工夫しています。
また、毎月1回「投票」をしています。健活メンバーから「どんな健康活動をしましたか?」というメールに自分で取り組んだ健康活動を返信をすると健活メンバーがまとめて、投票形式でどの活動が良かったかというのを集います。投票で、票を集めた人はたくさんポイントが貰えるような仕組みです。これは、エントリーするだけでもポイントが加算されます。

― 本当に松藤さんは「アイデアマン」ですよね。

松藤さん:いやー本当にゲーム形式にするのが楽しいんですよ。仕事はゲームのように楽しんでいます(笑)もちろん、締めるとこは締めて取り組んでいます。
そして今年も新しい施策を試みました。近くのスポーツセンターで2時間かけて体力測定をやりました。数名ずつ交代して行って、30分間走や握力測定、柔軟性などいろいろなテストをしました。学生時代のようで楽しかったですね。また、記録として残るので、今後その数値を落とさないように啓発していこうと思います。そういう意識が健康に繋がるのかなと。ただ、30分間走はキツイので時間は減らそうと思っていますが(笑)

― ホワイト500の企業であっても、健康診断の実施に力を入れているのは聞いたことがありましたが、さすがに体力測定は聞いたことがなかったです。

松藤さん:健康診断といえば、創業以来弊社の受診率は100%です。健康診断は受けなければいけないものだと思っています。ですので、絶対に受けるようにと社員には言っています。

― スポーツイベントの頻度はどれくらいでやっているのですか?

松藤さん:頻度は決まっていないのですが、弊社は特にフットサルを取り組むようにしていますね。今年に関して言えば、全員絶対に複数回はやるようにスケジュールを組んでいます。
また、昨年は選抜メンバーを組んで平日の午前中、つまり業務時間中に月に2回練習していました。しかもプロのコーチを雇って本気でやっていました。今ではだいぶ上手くなったようです(笑)
というのもこの裏には、「就業時間を削っても生産性を向上させる」という狙いがありました。結果、彼らは売上を落とすことなく、逆に売上を伸ばして生産性が向上しました。今まで彼らは売上を気にして有給休暇をあまり取らなかったのですが、実際に稼働日が減っても売上を上げる経験ができたので自信にもなったと思います。有給休暇の一層の取得にも取り組んでいきたいと思っていまして、最終的には計画有給休暇(あらかじめ有給休暇を取る日を決めて絶対に休む)を毎年1日1日伸ばしていこうと思っています。

― そんなところまで計算されていらっしゃるのですね。今、ものすごく感動しています。

松藤さん:我々は中小企業なので、コスト面にはすごく敏感なのですが、実は今日話したことはほとんどお金がかかっていないのです。

― そうですよね。お話を聞きながら本当に感心していました。

松藤さん:お金が実際にかかる点は2つだけで、健活ポイントの商品代や寄付代と、フットサルなどのイベントの半額分です。フットサルのイベントなどは実際にやる人に半額負担してもらっています。というのもやらない人からすると会社からお金が全額出ると、不公平に感じてしまうのです。こういう工夫で特に問題なく続けられているのかなと思いますね。

― 差し支えなければ健康活動の予算をお聞きしてもよろしいですか?

松藤さん:社員旅行を含まなければ大体30万円くらいです。社員数で割ると一人1万円くらい。ほとんど負担はないですね。

― 素晴らしいですね。本当にお金をかけずに上手く活動している印象を受けました。また、ここまで社員が主体性を持って活動できるのだというのがわかりました。

松藤さん:会社ごとに具体的にやることは変わってくると思いますが、特に中小企業さんにはうちのやり方を参考にしていただければと思っています。「お金をかけなくても健康経営はできる」というのをぜひ実感してほしいと思っています。

3.社内外の変化は人事面に 健康経営で内定率も定着率も大きくアップ!

― 社内外でなにか様子の変化はありましたか?

松藤さん:会社へのシャトルバス内では席に座らないようにしたり、作業写真を見返した際に「姿勢に気をつけよう」と注意し合ったりと、社員の自主性が目立つようになりました。そしてなにより変わったのは採用面です。

― ぜひ詳しく聞かせてください。

松藤さん:現在の弊社の採用状況ですが、2018年6月現在で2019年の新卒採用は全員決まっています。それだけ内定率があがったということですね。
その証拠に、今年の新入社員7名のうち5名が「健康経営」が入社の決め手だったそうです。いくつかある内定先から選ぶ時に、ご両親に相談すると「ここがいいんじゃないか」と言われるようで。会社の知名度ではなく、経営のやり方で選ばれているなと感じています。

― 社内での健康活動への取り組みをきちんと外部にも伝えられているということですかね?

松藤さん:そうだと思います。応募人数が明らかに変わった!ということはないのですが、会社説明会に来てくださる学生さんのほとんどが面接まで希望してくれています。それだけ弊社に入りたいと思ってくれているのかなと。

― 社員の定着率はいかがですか?

松藤さん:この3年間の新入社員で離職したのは1名だけです。その社員も働きたいと言ってくれていたのですが、家庭の事情で離職せざるを得ませんでした。定着率は良いほうだと思っています。
また、弊社は定年制度がないんですよ。「健康で働けるならいつまでもいてください」と。はじめからそういうスタンスです。

― これまた世の先をいった施策ですね。本当に素晴らしいです。

松藤さん:ありがとうございます。

― 身体の健康だけでなく、メンタルヘルスの感心も高まったと事前にお聞きしましたが、具体的にはどういったことでしょうか?

松藤さん:いつまでも健康でいるためには、身体的な健康と精神面での健康が必要ですよね。ですので、世間でメンタルチェックが義務づけられる前から自主的に行っていました。
具体的な取り組みの例としては、適性診断テストを全社員に年一回実施しています。普通は新入社員だけやるのですが、ウチは全員です。毎年同じテストをすることで傾向が把握できるんですね。離職しやすい状態や心の状態が把握できるようになりました。これはかなり役立っています。

― なるほど!同じテストをやることでデータが取れるのですね。いろいろと勉強になります。

4.健康マスター検定の講師資格を取得 外部を巻き込んで健康活動を展開したい

― 最後に、今後の健康経営に対しての展望はございますか?

松藤さん:会社の理念「健康第一」「安全第一」「家庭第一」と健康経営が、どうやって結びつくのか考え続けなければならないと思っています。今年始めた体力測定も来年以降つづけて、役立てられるようにしたいですね。
そして、今後は外部を巻き込んで健康経営の輪を広げていきたいですね。他社さんはもちろん、市町村や都道府県の規模でコラボできるようになると面白いかなと思っています。

― 自社だけでなく、他社さんを巻き込むことまで視野に入っているのですね。

松藤さん:できればいいなと思っています。そういう動きがあれば、いつでもサポートしたいなと思っています。

― ぜひ、健康経営のトップランナーとして他社さんにお手本を見せていただければと思います。

松藤さん:国の施策に対してお手伝いできれば嬉しいなと思っています。そのため…といった訳ではありませんが、社内で先駆けて「健康マスター検定」という資格の講師レベルを取得しました。今後は社員にも教えて、どんどんチャレンジしていってほしいと思います。

― それが実現すれば強力なボトムアップも期待できますね。本日は本当にタメになる話ばかりで勉強になりました。ありがとうございました。

<企業データ>

会社名:アップコン株式会社
事業内容:土木工事業 及び 建築工事業
・コンクリート床スラブ沈下修正工法「アップコン工法」による施工・施工管理
所在地:〒213-0012神奈川県川崎市高津区坂戸3-2-1 KSP東棟611
資本金:43,000,000円
従業員数:41人(正社員41名)

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