【シリーズ:健康×マーケティング ピッチコンペティション2023】IKIGAI WORKS部門優勝! 実践を通して学生の実力を引き出す〔西南学院大学〕

「健康×マーケティング ピッチコンペティション2023」(社会的健康戦略研究所主催)のIKIGAI WORKS部門で見事優勝した西南学院大学の三井ゼミのチーム。商学部経営学科の准教授である三井雄一先生は、この大会の発起人の1人として、学生たちの成長を支援しています。三井ゼミの学生たちがこのコンペを勝ち抜いた強さはどこにあるのか、ゼミの活動は学生たちのキャリア形成にどのように寄与しているのか、じっくりとお話をうかがいました。

〔西南学院大学〕

三井雄一(商学部 経営学科 准教授)

〔IKIGAI WORKS〕

熊倉 利和(健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表取締役)

須子 善彦(マイプロジェクト代表取締役/IKIGAI WORKS取締役)

1.ピッチコンペを学生成長の糧に

熊倉:「健康×マーケティング ピッチコンペティション2023」IKIGAI WORKS部門にご参加くださったこと、ありがとうございました。そして、見事優勝! 三井ゼミのチームは、本当に素晴らしい発表をしてくれました。

三井さん:ありがとうございます。

熊倉:西南学院大学さんは、何年生からゼミが始まるのですか? 今回、参加してくれた学生たちは2年生でしたが、ゼミで長く学んできたかのような洞察力と積極性があり、他をダントツで引き離すほどのプレゼンテーションでした。

三井さん:西南学院大学の商学部は2年生からゼミが始まります。他学部は3年生からが多いのですが、商学部だけは2年生から4年生まで行うため、3年間かかわっていくことになります。

私のゼミでは、2年生でまず、このピッチコンペに参加します。ここで行う健康マーケティングが最初の関門です。学生たちはわけのわからないままコンペに参加し、「ワーワー」いいながら取り組み始めます。

熊倉:ということは、ピッチコンペでご一緒した学生たちは、ゼミを始めたばかりだったのですね。そうとは思えないほどの安定感でした。めちゃくちゃ優秀な学生たちですね。

三井さん:お褒めいただき、嬉しいです。実は、私は「健康×マーケティング ピッチコンペティション」の発起人の1人でもあります。このピッチコンペは2023年が4回目の開催で、私のゼミでも、2年生が毎年参加してきました。そのため、参加学生たちは、先輩の資料を見たり、直接相談したりしながら進めることができます。そういう意味では、毎年参加している大学のほうが、多少は有利なところがあるのかもしれません。

私たちのほうこそ、IKIGAI WORKSさんの部門に参加しことで、都ホテルさんと大手の食品会社さんにインタビューするという素晴らしい経験ができました。

このご縁で、食品会社さんが大学で講義をしてくれたんですよ。そのとき、インタビューに対応してくださった社員さんの周りに彼女たちが喜び勇んで集まり、「優勝できました!」「ありがとうございました!」と報告しながら、楽しそうにおしゃべりをしている様子を見て、とても嬉しくなりました。

須子:それは素晴らしい光景ですね。ピッチコンペを通して、学生と企業さんに素敵な絆ができた証しです。私たちも嬉しいです。

2.実践が学生の挑戦力を磨く

三井さん:今回、私たちは、IKIGAI WORKSさんに優勝というすごい賞をいただきました。具体的にはどのあたりを評価していただけたのでしょうか。

熊倉:一言でいえば、全部です。須子とはよく、「就活に対する学生の価値観は、ホワイト企業とかかわると、ビフォー・アフターがわかるほど、明確に変化する。そのアップデートするさまを可視化できたら、おもしろいよね」と話してきました。三井ゼミの学生たちは、そのことを見事な形で表現してくれ、心から嬉しかったです。

須子:本当に最高でしたね。私たちは、すべてのチームに企業インタビューの候補リストを提供しました。ところが、三井ゼミの学生たちはそれを使わず、自分たちでインタビューしたい企業を選び出し、アポイントも取って、インタビューを行った。その行動力と積極性も素晴らしいものでした。

しかも、課題にただ乗っかるだけではなく、一歩引いた俯瞰した視点を持って新たな就活の仕組みを提案してくれた。正直、「すごい!」という言葉以外、見当たりません。

三井さん:メンバーの1人に、以前からホテルへの就職を希望している学生がいます。とにかくホテルの方に話を聞きたいと、いくつかアポイントを取る中で受け入れてくださったのが都ホテルさんでした。

あの経験は現在も生きています。後期の課題でも、マーケティング調査で企業さんとやり取りをすることになっているのですが、彼女たちは平気でポンポンと電話をかけるようになりました。「この5件の企業にOKをいただけるかお願いしてみます」と臆することなく電話をかけ、「A社とB社にいただけました!」と報告してくる。これは御社のプロジェクトの成果です。

熊倉:初めての相手に電話をするのは、社会人でも怖いところがある。でも、彼女たちは、こちらが誠意を尽くして依頼することで、応えてくれる大人たちが必ずいることを知っている。そのことを知ってから社会に出ていくのと、知らずに出ていくのでは、パワーが違いますね。

三井さん:それと、ピッチコンペの模様を記事にして御社のホームページに掲載していただけることも、彼女たちにとって大きな出来事です。学生の場合はふつう、自分のフルネームを検索しても、SNSくらいしか出てきません。ところが、ホワイト企業の紹介を行っているプラットホームのサイトに、自分の名前が出てくる。これは学生にとって、かなり嬉しいことのようです。

熊倉:いやぁ、今の話を聞いて、鳥肌が立ちました。それはまさに、私たちがやろうとしていることだからです。私たちは、産学連携プロジェクトの一環として、学生1人ひとりのPRサイトをつくり、マイプロシートやマイモノサシ、そして学生自身が行ったホワイト企業へのインタビュー記事を掲載したいと考えています。一方で、ホワイト企業の独自のサイトもつくります。そのサイトを活用し、お互いに価値観が合致する相手を見つけていくという、新たな就活の形を築いていきたいと、そんな世界観を考えています。目標は、学生とホワイト企業の幸せなマッチングをサポートするプラットホームの構築です。そこには、ゼミの紹介ページも掲載し、産学連携が進むきっかけづくりも行っていきたいと考えています。

三井さん:それはいいですね。ゼミの活動を紹介してくれたら嬉しい先生は大勢いると思います。また、学生と接点を持ちたい企業さんも、かなり多いという感覚があります。一方で、学生たちは自分の価値観を大切に働くことができ、なおかつ親が安心してくれるような会社に就職したい気持ちがある。そうした場を提供するプラットホームとして、御社が間に入るというのは素晴らしい事業だと思います。

3.学生のキャリア形成に寄与する産学連携

熊倉:三井さんは「健康×マーケティング ピッチコンペティション」の発起人の1人とのことでしたが、社会的健康戦略研究所の産学連携プロジェクトに参加されたきっかけは、何だったのですか。

三井さん:もともと、社会的健康戦略研究所の浅野健一郎代表をはじめとする学域部会があります。そこで、神奈川大学経済学部の中見先生を筆頭に、専修大学商学部の大崎先生、大阪経済大学の圓丸先生、和光大学経済経営学部の大野先生、そして私の5人で研究チームをつくっていました。このメンバーで産学連携の大会を行いましょうと話が持ち上がり、私も運営委員として参加することになりました。これがきっかけです。

熊倉:なるほど。そういうことだったのですね。「机上の空論」ではありませんが、教室の中だけでマーケティングを教えるという方法もあるなか、なぜ三井さんは、産学連携のプロジェクトを立ち上げ、そこで学生に実地の体験をさせるのか、お聞きしてもいいですか。

三井さん:はい。同志社大学に髙橋広行先生という、産学連携のプロジェクトに熱心に取り組まれている教授がいます。教員になるとき、私も髙橋教授がされているようなことをしたいと考えました。学生時代から髙橋先生にはよくしていただいていて、先生の方法論やプロジェクトの立ち上げ方を学ぶため、ゼミにも参加させてもらっていました。そこから自分なりに工夫をし、今の体制を築きました。ようやくうまく回り出してきたという感覚です。

熊倉:学生のうちから、学問としてマーケティングを学びつつ、コンペなどに参加して実地も経験する。これを学生のときにできるとは、最高ですね。

三井さん:実地を経験することで学生の社会的スキルは磨かれます。そのことが就職活動や社会に出てから、学生たちの役に必ず立つと信じています。

4.三井ゼミのピッチコンペ優勝秘話

熊倉:今回のピッチコンペは、満場一致で三井ゼミが優勝でしたが、学生はかなり大変だったはずです。私たちが求めた内容は、かなりハードルが高かったにもかかわらず、取り組むスパンが短かった。それゆえに、参加してもらった5つのチームで差が出てしまいました。実際、他のチームではモチベーションが下がってしまった学生、消化不良で終わってしまった学生もいました。

三井さん:私もゼミではさまざまなスパンで課題に取り組んでもらっていますが、今回のように、夏休みなど長期休暇を挟むプロジェクトは、モチベーションの維持が相当にしんどいところがあります。長期休暇中は、学生のほうにもさまざまな予定があり、どうしても、課題に臨む熱量に差が出てきてしまいます。

熊倉:そうなのです。夏休みに入ってから本格的に稼働させたことが、反省点でした。1チーム5人で取り組んでいたとしても、オリエンテーションには1人しか参加していないチームもあった。そうすると、1人で頑張らなければならない。そんな状況になってしまったチームが実際にありました。

須子:インタビューという外に向けたアクションをする前段階で、学生間のチームビルディングがしっかりできているチームと、そうでないチームで違いが出てしまったかなと私は感じたのですが、実際のところはどうなのでしょうか。

三井さん:そこは先生のスタンスにもよると思いますが、私の場合、ピッチコンペそのものをチームビルディングに活用しているところがあります。

他の大学は、マーケティングや経営学の知識をしっかりインプットして、その知識をコンペなどでアウトプットするという方法をとられているところが多いと思います。

私の場合、テキストマイニングという市場調査のツールだけを最初にパーンと教え込んだら、「これを使って、とりあえずピッチコンペに出てみろ」と一本槍で向かわせる感じです。学生たちはテキストマイニングしか知らない状態でコンペに臨むので、テーマによっては苦戦してしまうこともあります。

熊倉:そんなことをいいながら、聞くところによれば、去年も優勝されたとのことですね。

三井さん:はい。私のゼミは1学年で約15人いて、コンペでは1チーム5人で編成しています。前回は2チーム参加して、2チームとも優勝をいただき、今回は3チーム参加して3チームとも優勝でした。

熊倉:それはすごい!

三井さん:今回に関しては、前回が2チームとも優勝したので、学生たちに「1位をとるしかないぞ」と発破をかけてスタートを切ったことも、よかったのかもしれません(笑)。

須子:「この一本槍で行け」と、1つだけ武器を渡したら、あとは学生たちに試行錯誤ささせていくことが、チームビルディング成功の秘訣ともいえそうですね。

三井さん:そうともいえるかもしれません(笑)。あとは、課題のおもしろさが、学生たちを刺激した部分も大きかったと考えます。御社の課題の中ではとくに、社員さんの人生グラフをつくっているときが、学生たちはいちばん楽しそうでした。自分たちは生きている年数が短いので、グラフをつくったときに変動があまり生じない。ですが、自分たちより長く生き、社会で活躍している方の人生グラフは密度が濃く、上下の変動も大きくなる。つくりがいがあって興味深かったのでしょう。

須子:通常、企業インタビューというと、会社概要を聞きにいくようなところがあって、話すほうも定型文になりやすく、両者にとってあまり楽しいことではなくなりがちです。しかし、私たちが課題としたインタビューは、社員の方々の働きがいや仕事のおもしろさ、そして「なぜ、この仕事をしているのか」「子どものころや学生のころは何をやっていたのか」までを尋ねていく。お互い、素になって向き合うことで、短時間でも濃い関係性を構築できるのだと思います。だからこそ、学生たちは、親身に対応してくださる大人の言葉に感銘を受け、仕事に対する価値観をアップデートしていくのでしょう。

熊倉:最初はインタビューという打席に立つことを怖がっていた学生たちが、成功体験を1つ1つ積み上げていきながら自信を築いていく。その姿にはいつもながら感動させられます。本日は、有意義なお話をたくさんお聞きできました。ありがとうございました。

【取材後記】

ピッチコンペでは三井ゼミの学生の発表に心底驚かされましたが、あの学生たちの素晴らしさは、三井先生が西南学院大学で行っている教育の深さと、学生たちの成長を促す熱意にあると実感しました。また、学生たちが企業とかかわりながら学びを深める機会を提供する産学連携の取り組みは、理論と実践を結びつける素晴らしい教育手法と改めて感じています。その過程で得られる成功体験は、学生たちの自信と成長に大きく寄与し、キャリア形成に大きく役立ちます。このような取り組みが、他の教育機関にも広がり、日本全体の教育水準の向上につながっていくことを期待してやみません。

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