【企業の地域貢献】ショッピングモールを起点に地域を活性化。あつみ編集舎と渥美フーズの挑戦 

人口減が進む中、長年愛されてきたショッピングモールの建物をリノベーション。農業、食、遊びをテーマに地域を活性化する取り組みをしているあつみ編集舎さんの壮大なプロジェクトについてお聞きします。

〔株式会社あつみ編集舎〕

渡会一仁(代表取締役)

青山由尚(取締役 編集長)

鈴木さやか

〔インタビュアー〕

川北眞紀子(南山大学 経営学部 教授)

澤端智良(茨城キリスト教大学 経営学部 准教授) 

熊倉利和(健康経営の広場 編集長) 

1.農業と食と遊びをテーマに地域を再生

川北:今回は企業の地域貢献というテーマでお話を伺いたいと思います。まずはあつみ編集舎さんがどういう会社で、どのように地域と関わっていこうとしているのかについて教えていただけますか。

青山:はい。私たちあつみ編集舎は、渥美フーズの関連企業。渥美フーズは、古くからこの渥美地区に拠点を置き、スーパーマーケットを始めとした事業を展開しています。

その渥美フーズが掲げているのがエコサークルやガーデンシティ構想。簡単に言えば、農業と食と遊びをテーマに人と企業を繋ぎ、活気ある持続可能な社会にしていこうというもの。その拠点となるのが、あつみ編集舎です。

熊倉:あつみ編集舎という社名にある“編集”の意味や想いは何ですか?

青山:渥美半島は温暖な気候に恵まれ、ここ田原市は、農作物の産出額で全国1、2位を誇ります。また、三方を海に囲まれていて、漁業も盛ん。これらを活かしながら町の魅力を再編集していくという意味です。

川北:なぜ再編集する必要があるのですか?

青山:田原市の中でも特にこの旧渥美地区は今後、急激に人口が減少。やがて商業も回らなくなっていくことが予想されています。今のうちから何か手を打たないといけません。そこで、シンボル的な存在として地域に愛されてきた建物(旧ショッピングセンター)をリノベーション。来年(2025年)、『コミュニケーションモール レイ』に生まれ変わります。ここを渥美地区の中枢として人が交流できる場所となり、地域全体を盛り上げていこうということです。

2.旅する人と地元の人が交流し、関係人口を増やす

澤端:『レイ』にはどのような施設が入る予定ですか?

青山:スーパーのほかに今、計画しているのは、クラフトビール醸造所(ブリュワリー)、ベーカリー、フードコート兼イベントスペースなどです。ブリュワリーは、愛知県内で2番目の規模になります。ビール作りでは地元で採れた大麦を使いたいので「ビール用の大麦を一緒につくろう」と生産者に声をかけたい。パンでも同じようなことができるでしょう。

ここを訪れる人を対象とした農業体験や生産者との交流会などを開きたいですし、名産である花や観葉植物などを展示したり、各種イベントを開催し、渥美の魅力を発信していきたい。外から来ていただく方のためのゲストハウスも作ります。

鈴木:ゲストハウスは、半個室キャビンタイプを多くすることで価格帯も抑えながら、コミュニケーションをとりやすくし、みんなでワイワイ楽しめるスタイルにしたいと考えています。

例えば、宿泊客の皆さんがブリュワリーでビールを飲んだり、地元の人たちとワイワイ楽しく過ごす中で「ウチの畑に来てみる?」「明日ヨット乗る?」といった出会いや交流が生まれる場所にしていきたいと考えています。そうやって関係人口を増やしていけば、仮に人口自体は変わらなくても活気が出て豊かなエリアとなるのではないでしょうか。

3.「ここで暮らすことが幸せだ」と思えることを無限にやっていく

北川:今回の『レイ』を中心としたプロジェクトには、どんな人たちに集まってもらいたいとお考えですか?

青山:ここの住人に限らず、渥美の資産を活用しながら何かしたい、起業したいといった想いを持った若い世代に中核を担ってほしいですし、常に子育て世代を意識しています。すると「それじゃ我々の居場所がないじゃないか」と高齢者の方に怒られることがありますが、「大丈夫、若者が集まれば町自体に活気が出て楽しくなる。サポートしてあげてよ」と話しています。

鈴木:まさにその通りで、私自身、渥美半島の魅力に惹かれ、東京からここに移住してきました。私のように渥美に関わりたい若者は実はたくさんいます。でも、地元の皆さんが「こんな田舎に関わりたい若者なんているわけない」と扉を閉ざしてしまっている部分がある。ですからこちらから扉を開きさえすれば、必ず若い世代も来てくれます。

北川:鈴木さんから見て、ここの魅力はなんですか?

鈴木:渥美半島の土地としてのポテンシャルはとても高いんです。自然が豊かなのは言うまでもありませんが、田舎といっても豊橋までは新幹線が通ってますし、そこから電車やバスで来ることができ、交通の便もいい。こんな場所はなかなかないのですが、地元の人が逆に気づかないんです。今回のゲストハウスのお話をいただいた時、私は東大の大学院で学んでいました。でも、この数年で起こる渥美の変化を体感できるのは今しかないと大学院を辞めて移住してきました。

熊倉:それはすごいですね。地元企業の皆さんは今回のプロジェクトについて何かおっしゃっていますか?

青山:はい。地元企業の共通の悩みが、新卒採用をしたいが他の地域の企業に取られてしまうこと。この問題を解決するためにも、渥美を魅力的な場所にし、盛り上げていく必要があります。みんな想いは一緒。ですから、フェリー会社や観光農園、土木、水道・電気といった地元企業から「こんなことやろうとしているんだって? ぜひ協力させて」と電話がかかってきて、「えっ、誰に聞いたの?」という感じでこちらのほうが驚いてしまうほどです。

例えば、地元の高校が定員割れでバスケット部が廃部となり、三年生が最後の夏の大会に出場できなくなってしまいました。その話を聞いて地元企業が一致団結。ハーフサイズのバスケットコートを設置し、3on3のバスケット大会を開きました。

鈴木:『アウトドアフェス』をした時の盛り上がりもすごかったですよね。終わった後、「来年もやろう!」「実行委員会を作ろう」と皆さんが口々に私に言ってきてくれました。それで今年も10月5、6日に開催することが決まっています。

澤端:イベントの効果は集客もありますが、イベントに出た企業同志が知り合いになれるということもありますね。

青山:おっしゃる通りです。『レイ』のオープン前のイベントは、むしろそこを狙っています。人を集めることよりも、人と人、企業と企業の繋がりを作ることのほうが優先順位は上。来年の『レイ』オープンに向けて仲間づくりをし、参加してくれる人の活動を後押しできる仕掛けを作っていきたい。「魅力のたくさん詰まった町だ」「ここで暮らすことが幸せだ」と思えることを無限にやっていきたいと考えています。

【取材後記】

人口減や少子高齢化は、日本中どこでも切実な課題。その中で、あつみ編集舎さんと渥美フーズさんは、古くから地元の人たちから愛されてきたショッピングセンターの跡地に新たな施設を作り、エリアを活性化しようとしています。その勇気ある挑戦は、お話を聞いているだけでこちらもワクワクと胸が躍ります。青山さんや鈴木さんの想いに賛同した地元の人たちも協力を惜しまず、一つ一つ形になってきています。来年の『コミュニケーションモール レイ』のオープンが待ちきれません。必ずや企業の地域活性化活動のモデルケースの一つとなることでしょう。

<企業データ>

会社名:株式会社あつみ編集舎

事業内容:渥美地域のまちづくり事業/レイにおけるプロジェクトの企画・運営事業/レイ運営・管理事業/情報発信事業

所在地:〒441-3617 愛知県田原市福江町中羽根79番地1

資本金:300万円

社員数:3名

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